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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第12章 延伸そして進展
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第274話・魔王軍と対峙してみた

これからも、楽しんで書いていこうと考えています。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せください!

人間の住まう土地へ、大挙として押し寄せてきた、総勢15万の魔王軍。

順調に魔の森を突き進んでいたが先ほど、その快進撃は突如、止まった。

面白くなさそうに、後方で戦場を見渡す魔王は顔をしかめ、ドスの利いた声で、近くの魔族に近況を聞いた。


「先ほどの攻撃、人間か?」


「はっ、恐らく人間どもは魔の森に、伏兵を展開していたようです。 障壁魔法の規模を見ましても、最低でも上級の魔術師が10万は居るものかと。」


魔王の質問に、腰を低くして受け答える、総参謀役の魔族。

彼らは魔王軍の後方、軍全体を見渡せる出城に、居を構えていた。

魔王軍の前線は遥か彼方にあり、視界がかすんでよくは見えない。


「魔王様、ゴミがいくら集まろうと、所詮は塵芥ちりあくたに過ぎません。 このまま一気にひねりつぶしてご覧に入れます。」


「貴様の目は、節穴か?」


視界の前方に立ち上る、天高くそびえる巨大な緑色の障壁魔法。

我ら魔族でも、あれだけのものを作るのには、少なくとも10万の軍勢は必要だろう。

まして人間ごときが10万では、結果は目に見えている。

しかも森に居る人間の気配は、ほとんど感じられないのだ。

そこで魔王の脳裏をかすめる、一つの疑惑。

参謀をそこへ思い至ったようで、ハッとした表情を作る。


「まさか、『要のドラゴン』が人間勢に力を貸していると!??」


目を細め、フッと鼻で笑う魔王。

『要のドラゴン』は世界の管理を神に代行して行う、生物の地竜とは一線を画す存在。

障壁魔法が張られる一瞬前、魔王軍に向けて放たれた、巨大な火炎。

あの攻撃力、あるいは伝説の『破壊竜』かもしれない。

あくまで、根拠のない勝手な憶測だが。

戦慄を覚える参謀をよそに、魔王の前にはもう1人の魔将が飛来し、彼の前へひざまずいいた。


「お呼びになりましたか、魔王陛下。」


「『風翔の』、貴様の目にはこの戦線、どう映る?」


臣下の礼をとりながら魔王の御前へ転移してきた、竜人の女。

念話で呼び寄せた魔将の1人である彼女に、この戦場を見せる。

彼女は、気配察知に優れており、特にこういった場合には、重宝する魔王きっての部下だ。

そんな彼女だったが、戦場を一瞥いちべつすると、金縛りにあったように硬直する。


「も、申し訳ございません魔王陛下。 何も・・何も見えません。」


顔を真っ青にさせ、ゆっくりと魔王へ視線を戻す彼女。

苦笑いを浮かべる魔王に対し、隣に控えていた総参謀の魔族は、顔を真っ赤にさせていきどおった。


「貴様、魔将の肩書きを与えられながら『見えません』とはどういう事だ!?」


怒号のような参謀の言葉をかき消すように、魔王の大きな笑い声が辺りに木霊する。

さすがは気配察知に優れた、『風翔の』魔将。

魔王が聞きたかった事を、隠すことなく的確に報告してのけた。

それで、十分だった。


「もうよい、戦線に戻れ。 貴様は引き続き、人間どもの動向調査の任務を厳とせよ。」


「仰せのままに・・。」


翼を広げ、戦場の方へと飛翔していく『風翔の』魔将。

それを尻目に、魔王は目の前の参謀に、指示を飛ばす。


「総参謀よ、あの忌々(いまいま)しい障壁を崩すのだ。 無制限のにえの使用を許可する。」


「ははっっ!!」


恭しく一礼し、後方へと下がる参謀。

もう一度、視線を前方に向ければ、膠着状態こうちゃくじょうたいに陥っている、前線の様子が見える。

快進撃を続けていた魔王軍の正面から、巨大な火球を見舞った彼ら。

大きな被害こそまぬがれたものの、魔王軍全体に動揺が走った。

相手が何者であれ、早く叩き潰さねば、こちらの士気にも関わる。


「こしゃくな人間どもめ、一筋縄で行かぬところ、実に腹が立つ。」


はははっと、笑みをこぼす魔王。

しかしその目は、まったく笑っていない。

鋭く尖ったその眼光は、遥か彼方に立ち上る、障壁魔法へと注がれていた・・・。




◇◇◇




「えーと、サンドイッチ500個と水100リットル? これをメイドさんに渡してくれば良いの?」


「そう! ベアルは遠いけど、できるかい?」


「お兄ちゃんのために、頑張る!」


書いたメモ書きを片手に、脱兎のごとく森の中へと消えていくヒカリ。

魔王軍を相手にして、何の用意もせずに来たので、ダリアさん含め、お腹ペコペコであった。

少しは手持ちがあるにはあるのだが、長期戦には心もとない。

片手間に燃料補給が出来る、サンドイッチは必須食品だった。

カイト達はここで、魔王軍の進撃を必死で阻んでいるため、ベアルへ行く事はできない。


そこで索敵の要員として残していたヒカリを、お使いにやるという苦肉に策に出たわけだ。

彼女は強いので、道中もひとまずは安心である。

さて・・・ヒカリをお使いに出した今、総勢3人が、この防衛線セキュリティラインの精鋭メンバーとなる。


「どうよダリアさん、もう一日ぐらい経ったでしょ!?」


「今ちょうど、3時間といったところですかね。」


柳に風とばかりに、素でカイトの質問に答えるダリアさん。

対するカイトは、苦しそうに顔をゆがめた。


くそ・・・どうして一日が経つのは、こうも長いんだ!?

いつもは矢のように過ぎ去るくせに、こういう時に限って、時間は経つのが遅くなる。

これはきっと、駄女神様の差し金だろう。

間違いない。

そうしている間にも、疲労は溜まっていく。


ずん、ズズン!!

パゴオオオオオオオンンンン!!!!!!!

バンバンバンバンバンン!!!


絶え間なく続く、魔王軍からの執拗な攻撃。

障壁魔法にブチ当たるたび、大きな音を響かせながら弾けるのを繰り返す。

今は何とか、俺の障壁とダリアさんの魔力供給でっているが、長くはもたない。

俺はもとより、ダリアさんからも疲れがにじみ出てきているのだ。

魔力切れでも起こせば、この場の全員が戦死間違いなしである。


「ダリアさん、ひとまず休んで。 このままじゃ共倒れだから!」


「はい・・・、では少し休みませていただきます。」


ダリアさんが第一線から離れ、ヒカリたちの居る場所へ退さがる。

やはり疲れていたようで、地面へと仰向けに倒れる彼女。

彼女に今は、どんなに感謝しても仕切れないだろう。

やばい、バリバリのフラグ要素を言っちゃった・・・・

ダリアさんが抜けたことで、一気に俺の負担が増える。


「くそっ・・・!」


半透明のグリーンに染まるカーテンの向こう側。

遠くにいた魔王軍は、さっきよりずっと近くまで来てまで来ているのがうっすらと見える。

障壁魔法が崩れれば、一気にここまでなだれ込んでくる事、必然だ。

こわい、めちゃめちゃ怖い。


「ノゾミ、敵は近づいてきていないよね!?」


「た、たぶん・・。」


顔を青くさせ、しきりに辺りを見渡すノゾミ。

この状況下で、側面から攻撃などされたらひとたまりも無い。

索敵は、非常に重要である。


でももし、襲ってこられたら、何も打つ手がないな。

俺は障壁を展開することで、手一杯だ。

戦闘要員のダリアさんも、衰弱した今の状態では、トイレットペーパーのように、あっという間に突破されてしまいそうである。

あぁ・・ピンチや。

そう思っていたら木陰で泥のようにぐったりとしていたダリアさんが、途端にカッと目を見開き、こちらへモノスゴイ形相を向けてきた。


「むむ! カイト殿様、いま聞き捨てなら無い事を、お考えになりましたね!?」


悪いが、今はいつものように漫才に付き合っている余裕はない。

もう本当にピンチなのだから。

カイトは無視を決め、前方の魔王軍へと意識を集中させた。

口惜しそうに歯軋りさせ、こちらを睨んでくる彼女。

後で謝るから、気が散って仕方がないのでこちらへ、石を投げないでください。


「ねえ、ダリアさんはドラゴンだよね?」


カイトの当たり前の質問に、ダリアさんの放っていた禍々しいオーラが、闇のように黒くなる。

後ろを振り向く余裕がないので分からないが、たぶん凄く怒っているのだろう。


「そうですが、何か?」


彼女の小石を投げるスピードが、いささか速くなった気がする。

痛いからヤメてったら!


「俺たちは現に今、こうして意思疎通が図れている。 そうだろう?」


「・・・何を始める気ですか?」


いい質問だ。

俺はね、戦争中も外交は必須だと思うんですよ。

外交のイロハも分かっていない俺が言うのもアレだが、外交が無ければ、戦争は始まりも終わりもしないと思う。

・・・で、今回の相手は魔王。

それだけの話。

そして交渉には、当事者同士ではなく第三国を通して、という手段がよく用いられているのを見た。

そ・こ・で。


「ダリアさんに頼みがあるんだ、魔王に交渉してくれな・・・」


「耳を貸そうともしないでしょうね。」


言い切る前に、ダメ出しされてしまった。

俺の考えた案って、いつもこうである。

そういう星の下に、生まれついたのだろうか?

肩を落とすカイトに、ダリアさんは話を続ける。


「カイト殿様ならば、如何様いかようにも取り成せると思いますが?」


「俺が!??」


当事者同士で、会合しろってか。

最短距離ではあると思う。

けれど俺なんかが魔族の王様に会って、果たして無事ですむのだろうか?

心配をよそに、石投げを止めたダリアさんは、涼しげな顔で返してくる。


「ご心配には及びません。 破廉恥はれんちなゴミオークと違い、あの魔王は言葉が通じます。」


やけに自信たっぷりなダリアさん。

アリアたちを始め、皆が一様に怖がっていた魔王。

その関係で俺も恐れを成していたのだが、話が分かるのならあるいは・・・

今はワラにもすがる思いです。


「魔王は、どこに居る!?」


「それならば、あの出城の上に居るのが、恐らくは。」


ダリアさんの指差す方向へと視線を向けると、魔王や出城どころではない、土煙と障壁でかすんだ森しか見えなかった。

魔法を使っても、視界は思わしくない。

何かの本で『ドラゴンは目がいい』と書いてあったし、彼女の瞳には、俺と違った景色が映っているのだろう。

羨ましい。

だからといってダリアさんには、なりたくないけど。


「ダリアさんは、魔王の居場所が分かる。 転移できるんだね?」


「ホゥ、カイト殿様は魔王を消すつもりですか?」


そうそう、話し合って軍隊にご退場を願いに行くのです。

これならば、俺一人でもイケるかもしれない、いや、きっと俺でもヤレる!!

被害が及ばぬよう、障壁は張ったままで、ノゾミは心配なので、木の陰に隠れてもらう。

俺に何かあったら、逃げてくれ。(フラグ)


深呼吸して、気分を落ち着ける。

目的地は牙城である。

はーっはーっはーっ、全身がまるで、波を打つように振動してやが・・・


「着きましたよ、カイト殿様。」


「え・・・?」


右を向けば、不変の立ち位置のダリアさん。

それはいい。

上を向けば、森の木ではなく、青く澄み切った広い空。

それもいい。

下には土ではなく、黒い軍勢。

ハテ?

そして後ろを向けば、ヒカリと身体的特徴のよく似た、いかつい強面のおじさま。

だれ君?


『着いた』って、どういうことかなダリアさんよ?

落ち着け、俺。

この人が魔王とは限らない、ただの一兵士かもしれないでは無いか!!

ホラ、見るからに強そうだし?


「な、何者だ貴様!? 人間無勢が魔王陛下の御前に姿を現すとは、どういうことだ!??」


「・・・。」


怒声を張り上げる、おじさまの横に居る地位の高そうなヒト。

現実逃避はよそう。

ダリアさんは、即座に魔王の目の前へと、転移してくれたらしい。

仕事、速いなァ。

あっはっはっはっは。

っておい!!


「だ、ダリアさん早いよ! まだ心の準備が出来てないっての!!」


「何を弱腰な、魔王を倒すと仰ったのはカイト殿様ではないですか! 魔王は魔族のなかでもダントツで強いですからね、私も腕がなります!!」


戦意を新たに、目をぎらつかせる彼女。

でもね言ってない、俺は戦うなんて言ってないよダリアさん。

しかしこちらの意向とは関係なく、俺達の間には、張り詰めた空気が流れた。


いやいやいやいやいや、無理無理無理無理無理!!


「待ってください、冷静に話し合いましょう!」


俺、平和主義。

両手を頭上に上げて、魔王へ降参アピールをするカイト。 

銀行強盗が入ったときに、犯人が強要するアレだ。

魔法バッチコイの異世界で通用するかは不明だが、何もしないよりは遥かにマシである。

おかげか臨戦態勢は解けないまでも、一触即発な感じはいささか減った気がする。


「人間の分際で、崇高なる魔王陛下に話だと? 話すまでもない、貴様らはここで死ね!!」


「あわわわ、タンマ!!」


魔王の隣に居た魔族が、顔を真っ赤にさせて大きな黒いボールを、こちらへ投げてきた。

当たったら、まじヤバそうなヤツが。

カイトは咄嗟に反応して、これを消して見せた。


「ふう、あぶなかった。」


「「「・・・・。」」」


冷や汗を拭うカイトを、唖然とした表情で見るダリアさんと、黒ボールを放った魔族。

対して魔王らしき方は、微動だにせず、興味ありげにカイトへ視線を送った。

カイトは恐怖心を押し殺し、毅然とした態度で臨む。


「あ、あの冷静に話し合いませんか?」


魔王は一言もしゃべることなく、その鋭い眼光をカイトへ送るのだった・・・



ダリアさんは、別に目視で魔王の位置を特定したわけではありません。

前に会ったことがあるので、気配を辿っただけです。

ずーっと前に、イリスさんが指名手配のカイトを転移で追ったように。

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