第271話・放たれる『恐怖』の群れ
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「分からないなー。」
調査結果を前に、首を傾げるカイト。
魔の森で続く、魔物によるナゾの連続した襲撃事件。
その調査も今日で2日目なのだが、その原因はまったく、つかむ事が出来なかった。
眠そうに、横で欠伸をかみ殺すノゾミたち。
「カイト殿様、こやつらは如何いたしますか?」
「かみ応えの無い人たちだったねー。」
彼女たちが視線を向ける先。
そこには山積みにされた、数人の魔族の姿があった。
胸部に光る魔石や頭に生える羊角など、ヒカリに似通った身体的特徴が目を引く。
他にも使い魔なのか、子供ぐらいの体格の魔物数体も一緒だった。
「建設団を襲ったのも、このヒト達かな?」
「それは分かりませんが・・・。 我々に牙をむこうとは、愚かな者たちです。」
すぐに対処したので、かすり傷含め、こちらに被害は出ていない。
森に入って早々に襲撃してきたので自衛のため、返り討ちにした次第だ。
あくまで、自衛だけが目的なので、気絶させているだけです。
彼らが目を覚ましたときに暴れる事の無いよう、一人ひとり捕縛していく。
その際、ダリアさんが呟くように、ポツリと一言。
「・・・うまそうですね。」
たらーりと、涎をたらし目をギラギラさせるダリアさん。
こんな顔を、前にも見たことがある。
あれはそう、『蒼き炎竜亭』で料理を注文したときなどに見られる、特有のモノだ。
・・・おい。
「ダリアさん、食べちゃダメだからね?」
「し、失敬な! 私はグルメです、このような下級魔族など食すに値しません!!」
俺からそっぽを向き、怒ってますアピールをする彼女。
『うまそう』とか言っていたのは、一体だれだろうか?
彼女のこの態度は、いつもの事なのでスルー。
さて、彼らはどうしようか?
聞きたいことが彼らには山ほどあるのだが、気になることは、まだある。
「お兄ちゃん、胸がザワザワする。」
「森中に魔物が潜んでいるらしいね。」
しかも、凄い殺気を放って。
魔の森は前よりずっと、おどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。
こんな中で彼らに建設をさせてしまって、建設団の人たちには、今さらながら本当に申し訳なく思う。
これに関してヒカリも、何かを感じているようだ。
そして気になるのは、もう一つ。
「ノゾミ。 例えば包囲した獲物を、肉食動物がむざむざ逃がすような事を、すると思う?」
「えー、しないと思うけど?」
そう、しないよな。
先ほど探索した結果を踏まえると、森は魔物たちに完全に包囲されているような状況になっている。
しかし建設団の人たちは、多少なり傷害はあったものの、滞りなく森からの撤退はできているのだ。
アリアとの意見交換でも不思議に思っていたのだが、その疑問は確信に変わった。
やはり、おかしい。
「この状況、ダリアさんはどう思う?」
「そうですね・・・『双方の勢力にとって、危機的事態の前触れである』と言ったら、どうしますか?」
こちらへ鋭い眼光を向けてくる彼女。
その姿はとても、思いつきのジョークを言っているようには見えなかった。
この場所から俺のベアル領までは、歩いても1日とかからない距離にある。
もし何かあれば、街にいるアリアたちが危ない!
「ダリアさん、もう少しだけ俺に力を貸してくれない? 何が起きているのか、俺の目でもっと詳しく知りたい!」
俺の言葉に、首を縦に振るダリアさん。
状況は、芳しくない。
いや、まだ打つ手は幾らでもあるはずだ。
倒した魔族を縛り上げ、更なる調査をするため、カイトたちは森の奥深くへと進んでいった。
◇◇◇
「私は、エルフの砦より参りました、ブレザールと申します。 陛下の命によりゴブリン兵数百体を引き連れ、ただ今参上いたしました。」
牛のような頭部を持つ魔族が、魔王へ臣下の礼をとる。
目を細め、それを見下ろす魔王。
「よくぞ参ったブレザールよ。 貴様は氷結の魔将の下に集い、戦線に加われ。」
「ありがたき幸せ!」
さがって行く魔族を横目に、魔王は視線を前方へと戻す。
魔王城のテラスから望むその眼下には、闇色に染まる軍勢が集っていた。
整然と並ぶその光景は、見る者を圧倒し、その戦意を喪失させるだろう。
皆、魔王の命により魔族領の各地からここに集結し、軍備を固めた魔王軍の一員である。
「魔王陛下、全軍出立の準備、完了しました。」
「ご苦労。」
魔王の背後に集う、六魔将・・現在は五魔将となってしまった魔王軍の司令官の5人。
そして全軍を総括する、総参謀長が1人。
彼らが魔王軍の、今回の侵攻作戦を直接指揮する者たちだ。
「『風翔の』。 貴様はワイバーン隊を引き連れ、人間の領に条約破棄ならびに宣戦を布告せよ。 一両日以内に、これを完了させるのだ。」
「ははっ! 仰せのままに。」
魔王の命令とともに、後方へと下がる魔将の1人。
総参謀長を前にして、後ろに整然と並ぶ他、5人の魔将。
飛び去っていくワイバーンの群れをテラスから望む。
はるか遠くには、人間と領土を分かつ山脈が広がっており、その頂には白い雪を冠しているのが見て取れる。
それらを高所より見通した後、声の大きさを拡張させる魔法を行使する彼。
「すべての魔族の諸君、こうして集ってくれたこと、まことに感謝に絶えない。 我々魔族は古来より世界に対し、その力を以って恐怖をもたらし、世界の蹂躙を目指してきた。」
野太い声から、次々つむがれる高圧的なセリフの数々。
だが、と魔王は話を続ける。
「私は無駄な血が流されることは望まない。 そのため、彼らとは休戦協定を結び、願わくば彼らとの共存を考えた。 そうして世界は、遊休のときを迎えるに至ったのだ。」
これは、彼の本心ではない。
魔族の中に少数ながら存在する、穏健派の意見をねじ伏せるために、あえてピエロを演じているのだ。
すべては大作戦を前に、方々の心を一つとするために。
「しかし人間どもは、我々に対し宣戦布告とも取れる愚行を繰り返し行い、あまつさえ我が魔族領近くにおいて、不穏な動きを見せているのだ。 我々は自衛権を行使し、彼らとの間に結んだ『不可侵条約』の破棄を、この場で宣言する! 今こそ彼らに、正義の鉄槌を振り下ろすときが来たのだ!!」
『おおーーーーーー!!』と鬨の声をあげる魔族たち。
黒い軍勢が、波のように動く。
それらを聞いた後、総参謀が魔王の横へと進み出る。
「者ども、時は来た! 全軍、人間どもの領地に向け、進撃を開始せよ!!」
彼の指令とともに、後ろの魔将が飛び上がり、全軍の前方へと進み出た。
それを尻目に、城の中へと引っ込む2人。
「総参謀、我々の出立の準備も整えるのだ。 私も戦地に立つ。」
「ははっっ!!」
闇色の軍勢は、森を黒く染め、人間たちの住む領地へと進撃を開始した・・・。
魔王の言った『人間側の不穏な動き』
カイトたちの鉄道建設のことです。
最後の一押しとして、引き合いに出された模様です。
直接関連があるかは、不明ですが。




