閑話・ラブラブカップルをくっつけよう! その4
これからも、楽しんで書いていこうと思っています。
作品に対する感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せください。
励みになります!
ある晴れた日の昼下がり。
焼け付くような暑さにもかかわらず、街の各所では人だかりが出来ていた。
そんななか、定時出勤を目標にギルドへ歩を進めていたレンさんが、そのウチの一つの人だかりの前で、足を止める。
「う~ん、」えっと・・・」
何度となく背伸びをしてみるものの、前の人が障害となって、ここからでは人だかりの中心は見えなかった。
せっかく面白そうなモノを発見したというのに、これでは何も分からない。
仕方がない、誰かに聞いてみよう!
私から見て、右隣のお兄さんなんか、背が高くて丁度よさそうだ。
「あの~・・何かあったんですか~~?」
「ギルドマスターのお姉さんか。 この貼り紙だよ。 あんたも知っているだろう?」
彼が指を差すと、そそくさとバージンロードのように、一本の道のようなものが出来た。
おかげで、建物に貼られていた貼り紙まで、近づくことまで可能に。
背が高い人って、頼りになりますねぇ。
「えーと・・・なんですか、これは~~?」
商会の壁に貼り出されていたのは、カイトさ・・領主様からの、お触書のようでした。
内容は『領内の法律改定について。 女性の雇用促進を求む!』
んん?
・・・これは・・えーと・・・・・どういう事?
ん~、分かりません。
彼の考えは、元々不明な点が多かったですが、これも前例に漏れずです。
こんなもの、私は初めて見ます。
「どうやら既婚女性も、フツーに働いて良いって事らしい。 まったくここの領主様は、変わったことばかりを、やりやがる。」
「そうですねー。 でも良いことですよー。」
ナルホド、ようやく合点がいきました。
ようは皆、平等にと言うことですか。
前例が無いわけではありませんが、このようなお触れは人の少ない、主に農村地帯で多く用いられている手段。
半ば、働くのは強制なのが実状です。
ベアルのように大きな街でのコレは、珍しいのではないでしょうか?
特に働くのは、強制では無さそうですし・・・
面白い人ですねー、ホント。
「ギルドの前にも人だかりができていたけど・・・ホントに見たこと無いのか?」
「おかしいですね~、私の記憶違いでしょうか~~??」
確かにコレだけ街中に貼り出されていて、人が多く集まるギルドに配布されていないのは、おかしいな話だ。
そういえば先日、領主様の使いの方と名乗る方が訪れたと、副ギルドマスターが言っていたような・・・
『掲示物があるから、どこか目立つ場所を・・・』とか右往左往していた様な・・・
・・・・・・・・・ソレですかね?
んー、こればっかりは自分の目で確かめないと、分かりません。
早くギルドで、見てみましょう。
あ、考えてみれば、ちょうど良かったですね!
「すみません。 私そういえば、出勤途中でした~。」
「え、こんな時間に!?」
「寝坊してしまって。」
「ああ・・・。」
本人的には急ぎ足で。
客観的にはゆっくりとした足取りで、レンさんはギルドの方へと向かっていった。
なお、この後に冒険者ギルドから、副ギルドマスターの悲痛な叫び声のような怒鳴り声のような、大きな声が上がったのは、また別の話である・・・
◇◇◇
「下準備は、これで整ったな。」
「ええ、これまで大変お疲れ様でございました。」
『ふぅ』と一息つくカイトに対し、労いの言葉を掛けるアリア。
彼らがやり遂げたと言うのは、ベアル領の法律改定である。
あの鈍器の読破と書き換えには、丸1ヶ月以上の月日を要した。
他にも何かと仕事があり、実際に読んだのは時間にして、およそ短い。
これだけの作業を、わずかな期間で消化できたのは、何と言ってもアリアの存在が大きい。
彼女がいなかったら、マジで読破だけで100年を要していた事だろう。
「領内への周知は、進んでいるかい?」
「触れを出したのは3日前ですが、街の各所に触書を貼り出しております。 概ね順調ではあるかと。」
よしよし。
別に住民達へは、今は『なんか変わったらしい』ぐらいの認知で、それで構わない。
このまま周知が進めば、じきに活用され始めることだろう。
あくまで目的は、別にあるのだから。
「セリアさん達は? 今は忙しいかな??」
「先ほどクレアに託しておきました。 まもなく来るでしょう。」
「オッケー。」
俺一人で、彼らと相対するのは不安でしかないので、彼らへ話をする時にはアリアにも同席していただく。
いつか、彼女の手を煩わせないように、出来るようになる時が来ると良いな。
・・危険だからダメか。
彼女と物議を交換している間に、セリアさん達が2人揃ってやって来た。
指名での呼び出しは初めてなので、彼らの表情は非常に硬い。
・・・緊張しているのか。
「2人とも楽にして。 少し込み入った話になると思うから。」
「いいえ大公様、私どもはこのままで結構です!」
「どうかお気になさらず、何なりともお申し付けくださいませ!」
ピシッと背筋を伸ばして、直立不動の体勢をとる彼ら。
押し問答するだけ、時間の無駄か。
このまま、話を始めよう。
「じゃあ始めるけど、単刀直入に聞きたい。 2人はお互いを、どう思っている? 俺の存在とか関係なく、本当に思っている事を、話してもらいたい。」
俺の質問に、顔を見合わせる2人。
彼等の浮かべる表情からは、『言って良いモノか?』といった感情が、顕著に現れていた。
俺には大なり小なり、言いにくい内容なのだろう、かなり動揺をしているっぽい。
アリアは少しも口を挟まず、今は静観の構えである。
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは、ゼルダさんであった。
「大公様、私は彼女を、同じ大公様の下で働く同僚として・・。」
「ストップ。 俺が聞きたいのは、ゼルダさんたちが押し殺している感情のほう。 第三者が口を挟むことじゃないと思うけど、それを胸の中に仕舞ったままにするのだけは、ヤメてほしい。」
彼らの顔色が、急激に変わる。
後ろを振り向くと、アリアも首を縦に振った。
単刀直入すぎかと思ったが、このまま続けて良いらしい。
では、用意してきた文言を、オリジナルそのままで。
「俺はさ、目が届くところ皆に幸せになってもらいたいと思っているんだ。 アリアも、住民も、もちろん君たち使用人も。」
「「・・・。」」
俺のセリフに、顔をうつむかせる彼ら。
そうして、観念したように少しずつ話し始めた。
お互いに、ライクというよりラブな感情を抱いていること。
他の人たちに悟られぬよう、気持ちを押し殺していたことなど・・・。
一通り話し終えると、彼らはそろって、俺へキレイな礼とともに謝罪を述べた。
「申し訳ございません旦那様、ご法度ごとの恋愛をした以上、私はこの屋敷で働き続けることは出来ません。 どうか・・」
「待ってくださいセリアさん! 大公様、この一件は元をただせば、私の浅はかな行動が発端です。 私はどんな罰でも受ける覚悟があります、どうか彼女は・・・!!」
自分は良いから、どうか相手だけはと、お互いをかばい合う彼ら。
微笑ましい光景・・・などと言っている場合ではないな。
ちっとも話が進まない。
「あー2人とも、この件で俺は、誰かを処罰しようとか考えてないから。」
「では・・・?」
俺の言葉に、頭に疑問符を浮かべるゼルダさんたち。
ここからが、本題である。
「ずけずけと悪いとは思うんだけど、2人は結婚したいんだよね? そこだけ、ハッキリさせてほしい。」
俺の質問に対し、何も言って返さない彼ら。
これは肯定ととって、いいだろう。
よしよし。
「俺はともかく、王宮のことを考えるとね・・・、ゼルダさんは問題ないんだけど、セリアさんが・・・。」
「・・・・はい、存じ上げております。」
まあ、その辺りの事情は、承知していて当然か。
だから今まで、隠していたのだろうし。
聞きたいことは聞けたので、もう出し渋りはせずに、アリアに頼んでいた書類を出してもらう。
それを一度、中身の確認を行ったうえで、彼らに提示する。
興味ありげに、それに目を通す彼ら。
その表情は、みるみるうちに変わっていくのが見て取れた。
不得手分野なので、俺は口を挟まない。
代わりに補足説明とばかりに、アリアが口を開いた。
「それは、あなたがたの婚姻に関して、非常に重要となるモノです。 よく、目を通しておいてください。」
「「!!」」
アリアの説明が終わると同時に、2人がカイトの方へ視線を送る。
勝手に話を進めていたので、怒ったか?
「旦那様、我々のためにここまで・・・・?」
「いいや、領内の法律の改正を行っていたら、タマタマ小耳に挟んだ話に、ちょっと横槍を入れただけさ。」
俺がやったことは、おせっかいにもホドがある行為だ。
怒られても何も言えないのだが、2人は怒りというより、感動している様子。
アリアは当然の事とばかりに視線を送ってくるが、俺には、何も伝わってこない。
デリカシーというモノを、少しは身につけるべきか?
ともかく、伝えるべき事だけは、ひとまず伝えておこう。
「それは強制じゃない、2人でよく話し合って、決めてほしい。」
これ、何度も言うけど大事。
俺が粉骨砕身がんばったとか、夜もロクに寝ずに頑張ったとか、関係ないのです。
それはそれ、これはこれ。
彼らの沽券や、将来に関わる話を、押し付けるようなマネはしてはいけない。
そこは、履き違えてはならない一線だ。
・・・が、返事は聞くまでも無いようだった。
俺が渡した書類に、一心不乱に目を通す2人。
その表情は、喜びに満ち溢れているように見えた。
うん、ここまで頑張ってよかったな。
彼らの処遇(主にセリアさんの)などに関しては、内容に精通しているアリアに任せる形をとらせていただく。
俺は、蚊帳の外。
椅子の小さなホコリを数える作業でもしてみる。 チマチマチマ・・・。
うん、こうしてよく見ると、小さなミクロのゴミがちらほら・・・
「旦那様、本当に・・本当によろしいのですか?」
「えっ、ホコリは少ないよ?」
途端に、キョトンとした表情を浮かべる、セリアさんたち。
しまった、今はホコリの話ではない。
これではまるで、小姑である。
アリアが、こちらへ呆れたような視線を向けてきた。
咳払いをして、体裁を正す俺。
「いやいや、もちろんだとも。 椅子のホコリを例に、大いなる幸せは、それぞれの幸せから始まるのだから。」
「「ありがとうございます!」」
揃って感謝の礼を尽くすセリアさんたち。
フ、何とか誤魔化せたぜ・・・。
しかし対照的にアリアはこちらへ、ゴミを見るような視線を向けてくる。
罪は、免れないようです。
ごめんなさい。
「大公様のご慈悲、我々は一生涯忘れません! これからはより一層、命をかけて仕えさせて頂きます!」
「旦那様わたし達、精一杯幸せになって、この領に貢献いたします!!」
「う、うん・・・頑張って?」
どうやら彼らの魂に、火が点いたようだ。
見える、2人の瞳の奥に、燃える闘魂が見えるよ。
第三者の俺が言うのもアレだが、幸せになってください。
「そうと決まったら早速、挙式の準備だ! 場所は・・」
「お待ちくださいカイト様、性急に過ぎます! 彼らの挙式の前に、段階を踏まねばなりません。」
「え・・・まだ何かあるの?」
俺の爆走を、馬の騎手のように止めるアリア。
だいぶ今までに、イロイロとやって来た気がしていたのだが、王様へ提出しなければならない書類など、手続きがまだ多く残されているようだ。
丸投げは良くないので、俺も頑張ります。
とりあえず、セリアさんの今後の雇用方式などを話し、イリスさんに話を通すまでで、今日は終了。
結婚の式を挙げられるのはまだ、先っぽいが、しばらく辛抱してください。
今回の一件の副産物として、領内に住む女性の社会進出の促進にもつなげる事が出来たし、めでたし、めでたし!
皆幸せになって、万々歳だね!!
それは、魔族の侵攻が始まる、わずか数日前の出来事である。
彼らはまだ、目前に迫る脅威に、気付いていない・・・・・・・・。
今日は『あこがれ』という帆船のペーパークラフトを作っていたのですが、いつの間にか、かなり時間が過ぎていました。
時間が経つのは、あっという間ですね。




