閑話・ラブラブカップルをくっつけよう! その3
これからも、楽しんで書いていこうと思います。
感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せください!
「カイト様、こちらが法律等の書き換えのために必要な、諸々の書類となります。」
アリアが、今回のためにピックアップしてくれた数枚の紙を、机の上に並べていく。
俺たちはこれから、ある事柄に関する、この領地の法律の書き換えを行う。
書類は、そのために用意してもらったモノだ。
自分の領内の何か一つを変えるだけでも、これだけの手間を掛けねばならないとは。
領主って、面倒な仕事です。
「・・・・ありあとう。」
しかも今、右頬が痛くて、声が思うように出せない俺。
『ありがとう』の一言まで出せないとは、滑稽だよな。
いつもならケガをすれば、治癒魔法でスグに治してしまう。
だが、今回のコレは、そういうわけにはいかないのだ。
「カイト様は、しばらく反省して下さい。 まったく他人の心を読むなど・・・!!」
「はんへいしてまふ・・・・・」(反省してます)
領内の法律変更。
そんな事に踏み切ることにしたキッカケは、この屋敷で働く2人の使用人の存在だ。
元々は互いに王宮の別の場所で働いていたのだが、紆余曲折あって今は俺の屋敷で働いている。
彼らはどうやら、お互いに好感を持っているし、出来れば一緒に所帯を持ちたいとも考えているようだった。
・・・・が、それに待ったを掛けているのが、他でもない俺だった。
2人は、こんな俺なんかを慕ってくれているらしい。
ザッと言えば俺に仕えるため、お互いに感情を押し殺しているよう。
結婚をすれば、メイドのセリアさんは法律上、この屋敷を去らなければならなくなる。
もちろん俺は、そんな事は望んではいない。
そこで法律を変えれば、すべては丸く収まると、考えたのだが・・・・
「話は、そこまで簡単なものではないのです。 法律の変更は、一つの通過点にすぎません。」
「・・・・うん、分かってる。」
『メイドは、独身女性のみが成る事ができる』という、この世界の原則。
それ自体は、俺が領内だけで曲げることに限れば、今すぐにでも可能だ。
だが、屋敷にはメイドさんが幾人も働いている。
それはつまり、彼女たちも結婚願望を押し殺し、メイドに従事している可能性をはらんでいるのだ。
今のセリアさんのように。
それに配慮しなければ、法律変更が出来ても、彼らを結ばせることは出来ない。
ウッカリしていた。
「あの2人だけ特別扱いなどという事は、何としても避けねばなりません。 その上でどのように法律を変更しましょうか?」
「弱ったなァ・・・」
物事を少し、甘く考えすぎていた。
あちらを立てれば、こちらが立たず。
こちらを立てれば、あちらが立たず。
こんな問題が立ちはだかるとは、思っても見なかった。
皆が幸せにって、こんなに難しいとは・・・。
「・・・・・ねぇアリアは、あの2人の婚姻には、反対かい?」
こうも問題が積み重なると、根本的な部分すら疑問が浮上してくる。
アリアが力を貸してくれなければ、この計画は成立しない。
俺一人では、出来ることはあまりにも限られているのだから。
「まさか! 私はいつでも、カイト様の味方でございます。」
「そっか・・・ヘンな事を聞いてゴメン。」
ひとまず、安心した。
これで概ねの方針は決まった。
何としてでも、どうにかはしよう。
だがそのために、一体どうしたら良いものかと、首をひねり続けるカイト。
すると重い口を開くように、アリアが言葉を紡ぎ始めた。
「実は・・・こういった際に用いられる、鉄板の方法が無くはありません。」
「おお何、方法があるの!?」
是非聞かせてほしい。
常套手段があると言うなら、それにあやかりたい!
今はワラにもすがる思いなのだ。
「セリアに、暇を出すのです。 それが唯一の方法です。」
アリアの口から出てきたのは、とっても非情な言葉だった。
期待していただけに、その返答に大きく落胆の意を表するカイト。
ここで言う『暇』とは、休職ではなく、解雇のことである。
だから、それじゃーダメなんだったら。
「話を最後までお聞き下さい。 現在この屋敷で働いている使用人の多くは、王宮から『出向』という形で雇われています。」
それは前に聞いた。
つまり派遣という形になっているんだっけか?
身分は『王宮使用人』のままだと、聞いたことがある。
「婚姻する以上は、セリアはどうしても王宮からは去らねばなりません。 これは、我々にはどうすることも出来ません。」
ようは、俺がどう動こうが、どうにもならないと?
八方塞がり以前の問題だと?
状況、思ったよりずっと最悪だったんじゃん・・・。
さらに落胆を色濃くさせるカイトに、アリアは首を横に振った。
「いいえカイト様、話はここからがキモとなるのです。 セリアが王宮を去っても、あなたはそれを再び雇い入れることは、可能なのです。 これならば王宮使用人と立場は異なるので、他の使用人に対しての示しも、十分につきます。」
「何その、ピ○ゴラスイッチみたいな話!?」
彼女の説明によると、肩書き上は王宮で働いているセリアさんが結婚をすれば、王宮の使用人をやめざる負えないのは、どうともしようが無いとの事。
王宮の長年のしきたりが、大きく関係しているのも一因らしく、これを曲げることは王様といえど難しい。
だが国内にいる領主の多くは自治を認められており、それに倣う必要はない。
現に王宮を去った使用人が、他の領などの貴族の下で働くということも、前例が無くはないようだ。
「ただしそれを行使する場合は、この領地の法律を少々、見直さねばなりません。 現状では既婚女性は、手伝い以上の職をしてはならないことになっておりますので。」
うんうん。
世間様の女性の立場が低いのは、後でどうにかしよう。
これならば使用人達には示しがつくし、少なくともそう、悪い結果にはならないだろう。
だがこの話に、しかしと、続けるアリア。
「これらは手間がかかる上に、彼らの意向によっては徒労に終ってしまうことも考えられます。 今は多くの政務が同時進行で進められているため、あなたの負担は格段に増えます。 それでも、やりますか?」
(分かっちゃいたけど)法律を変えるって言うのは、大変なことらしい。
しかも彼らの選択によっては、何の結果も生まない可能性もある・・・
いや、結果を心配して何になる!?
まずは動くことが、大切なんだよ!!
「バッチコイだぜ!!」
蛇でも鬼でも何でも来やがれ。
そんなもの、最初から分かっていたではないか。
さすがに何も残らないとか言うことは、無いだろう。
たとえ彼らが結婚しなくても、女性の社会進出促進の足がかりぐらいにはなるはずだ!!
「ではまず、こちらにも目を通して下さいませ。」
ドスン!
「え・・・。」
アリアが机に置いたのは、デカくて分厚いごん太の本。
何この鈍器?
これ一発で、俺の頭が軽くカチ割れそうなんですけど。
「当ベアル領の、すべての法律などが記されているモノになります。 まずはすべてのページに、目を通していただきます。」
「ぜ、全部かい?」
声が、震えてしまう。
いや、これはヤバいって。
この鈍器を読破するのには、俺の頭を駆使しても100年はかかる。
法律改定どころではないぞ。
「ですがこれに目を通していただかなければ、法律改定時に矛盾などが生じかねません。 すべての文言を検め、すべての矛盾点洗い出した上で、それを書き換えませんと。 それともヤメますか?」
く・・・今にも心が折れそうだぜ。
100年は掛からないにしても、この鈍器を読破して内容を書き換えるまでに、一体どれだけの時間が掛かるか。
こういう時こそ、神様からもらったチート魔法で・・・!
・・・そんな都合のいい魔法はないッス。
ここはもう、覚悟を決めようではないか。
「やるよ! くそぅ、負けるものか!!」
「僭越ながら、私もご協力させていただきますわ。」
こうして、法律改定のために領主様は、鈍器を読破することになった。
すべては、皆が幸福の街を作るため!
そのためならば、どんな苦労もいとわない。
・・・が、その決意の前に。
「・・・アリア、この第1条の『特権階級者における絶対的身分保証』って何のこと?」
「ああ、これはですね・・。」
第1ページ目の第1項目目から、この状況。
読破以前に、いちいち内容を解読しなければならない。
元々の法律の内容が異世界風なので、それが特に顕著だった。
たとえば『魔王軍侵攻時の特別措置法』とか、もはや意味が分からん。
法律改定の道のりは、果てしなく遠い・・・・
使用人たちの、現在の立場の違いについて、ザッと説明を。
王宮使用人・・・カイトに暇を出されると、王宮に戻ることになる。
給金は、王宮から払われている。
使用人・・・・・カイトに暇を出されたら、フツーに失職。
給金は、カイトが払う。
双方の仕事内容や待遇などは、そう大きな違いはありません。
ダリアさんなどの使用人に対しても、王宮から『手当て』という形で給金のようなものが出ますし。




