閑話・ラブラブカップルをくっつけよう! その1
これからも、楽しんで書いていこうと思います。
感想等がありましたら、遠慮なくお寄せください。
ウチには、多くの使用人が日夜、汗水たらして一生懸命働いてくれている。
彼らの屋敷での仕事は、多岐にわたる。
屋敷の雑用などを一手に引き受けるメイドさん。
不審なことなどがないか、屋敷を見回ってくれる守衛さん。
毎日、うまいご飯を作ってくれるシェフさんなどなど・・・
メイド長のクレアさんを始めとして王宮からやって来た人材が9割を占める中、ダリアさんや先日仲間に加わったメルシェードなど、この屋敷では実にたくさんの人が働いているのだ。
ところでメンバー中、同じく王宮から連れてきた『ある2人』の存在を、皆さんは覚えているだろうか・・・?
「この辺りは、4年前とは見違えるようだね。」
「どれも皆の努力のおかげですわ。」
「そうだね。」
アリアと2人で、俺たちはベアルの街を散歩している。
一時期は、ゴーストタウンと化していた街は、この数年で大きく発展を遂げた。
中でもここは、街の中心近くであり、たくさんの店が軒を連ね、多くのヒトでごった返している。
俺はにぎやかなのが、大好きだ。
「それにしても急に『休め』とは・・・一体どういう事ですの??」
「ま、まあ良いじゃないか!」
アリアは働きすぎだ。
でも彼女に『休日』なぞを与えても、きっと休みはしまい。
そこで、俺が彼女をエスコートして、街へ連れ出す事としたのだ。
もちろん今までに放っておいた詫びも兼ねて、連れ出したというのが、今回の目的である。
ヒカリやダリアさんたちも、今回の主旨を考えて、屋敷においてきた。
考えてみたら、こうして2人きりで外出って、初めてでは無かろうか?
やべ、そう考えるとちょっと、緊張してきた!
落ち着くため、何度か深呼吸を繰り返す。
「と、ところでアリアは、どこか行きたい場所はあるのかい?」
「そうですね・・・では南の住居区に。 現在の工事の進捗状況を確かめたいですわ。」
しかしせっかくの休日だというのに、彼ら夫婦がしているのは専ら、このような街の視察。
アリアに『行きたい場所』を聞いていることも踏まえると、これを『エスコート』とは言えないだろう。
カイトたちは気にした様子はないので、外野が口を挟むことはないかもしれないが・・・。
「団地に行くなら、こっちかな?」
「あ、お待ち下さいカイト様!!」
『うわっ』とうめき声のようなモノを上げ、カイトはアリアに路地裏に連れ込まれた。
急な事だったので体勢を崩し、彼女のほうへ倒れこんでしまう。
「申し訳ございませんカイト様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫。 でも急にどうしたの?」
彼女の柔らかな体の中から身を起こし、指差す方向へ視線を向けてみる。
すると街の喧騒のなかで、2人のカップルらしき人物がこちらへ歩んでくるのが見て取れた。
「あっ、セリアさんとゼルダさん!」
2人ともいつもと違って私服姿なので、最初は気がつかなかった。
奇遇だねとか、挨拶をしなくていいだろうか?
俺の考えを読み取ったのか、アリアが小声でおれをたしなめてくる。
「カイト様は見えないのですか、休日を楽しんでいる、あの2人の姿が!!」
「え、またあの2人は休日がかぶってるの!??」
あの2人の休日が一緒になるのは、これで何回目だろうか?
ここまで来ると、意図的に操作されているのではと考えてしまう。
まあ、それでも別に構いはしないのだけどさ。
今日は2人で街へショッピングにでも来ているのだろうか?
傍目から見ても、実に楽しそうだ。
路地に隠れる俺たちに気づくことなく、彼らは街の喧騒の中へと再び消えていった。
「ふー、行ったか? いつも仲いいなーあの2人。 ねぇアリア?」
「そう、ですね・・・あのカイト様、ちょうど昼時ですし、どこかで食べてから住居区へ向かいませんか?」
アリアからそんな提案が出るなんて、珍しい。
もしかしてあの2人に、対抗心でも燃やしているのか?
可愛いところもあるじゃないか。
「うん、俺も腹減った。 どこが良いかなー?」
こちらの2人も、思い思いに行動を始めるのだった・・・・
◇◇◇
夕方近く。
屋敷へ戻ってきたカイトたちは、今日の取りまとめにかかった。
街を視察したことによる改善点などを、まとめるのだ。
「申し訳ございませんカイト様、私の我がままで視察が・・・」
「気にする事は無いよ、もともとそういうつもりだったんだから。」
結局あの後は、アリアとは街の散策だけで時間がつぶれてしまった。
それを彼女は、とても気にしているらしい。
だが今日は、元々『アリアに休日を!』という主旨で街へ行ったのである。
だと言うのに、いつの間に彼女の中では『視察』という文言にすり替わっていたのか。
それを指摘したら、さらに彼女が恐縮すること間違いなしなので、黙っておく。
街でセリアさんカップルに遭遇後は、俺たちは服飾店などに行って楽しく過ごせたので、結果オーライである。
2人には今度、お礼を言っておこう。
「でもまさか、街で使用人さんにバッタリとはねー。」
「街の中心はヒトが多く集まりますから。 特に不思議なことは無いでしょう。」
まあ、確かにベアルはそんなに大きな街ではないから、そう言われればそうなんだけどさ。
屋敷でいつも顔を合わせるヒトと、雑多な場所で会うと嬉しい気持ちになるとかいう感じの、あるじゃない?
それにしても、あの2人は本当に仲がいいな。
出会いは、すさまじい感じだったけど。
「そういえばセリアさん達って、この屋敷に住み込みだよね? いつか結婚するなら個室をあてがってあげないとだよね??」
あれだけ好き合っているのだ。
いつかは結婚することだろう。
俺の屋敷に住み込みとはいえ、家族は一緒に居るべきだ。
子供ができた時の対策で、広めの部屋を間仕切りしてあげるのベストかも・・・
「・・・はい? カイト様、何を仰っているのですか? あの2人は婚姻を結ぶ事など出来ませんが??」
「え、それどういう事!!?」
あの2人が結婚を出来ないとは一体、どういう事か!?
衝撃のカミンングアウトに、椅子から勢いよく立ち上がるカイト。
対して彼の勝手な早とちりに、辟易するアリア。
このヒト、いつも思うが無知すぎる。
せっかく屋敷には彼専用の書斎があるというのに、全く活用されて居なさそうだ。
「屋敷護衛のゼルダは心配ございません、彼は届け出れば、自由に所帯を持つことが可能です。」
彼女の口ぶりからして王宮で『セリアに怪我をさせてしまった』と大騒ぎしていた例の騎士さんは、大丈夫らしい。
王宮お抱えの騎士だったのになぜか、俺なんかに付いて来るのを熱望し、今は屋敷の見回りをして頂いている。
とんだ左遷ではなかろうかと、未だに思っている節がある人物だ。(※他の使用人たち含め)
彼は、問題なく結婚ができるという。
「セリアさんは?」
「それより前に・・・そもそもカイト様は、『メイド』というのがどのような存在か、ご存知ないのですか??」
日本人である俺の『メイドさん』知識は2通り。
1つは、屋敷などで働いてくれる、女性の使用人さん。
もう1つは、メイド喫茶などで「お帰りなさいませ、ご主人様」と出迎える、従業員さん。
この世界に、オタがこよなく愛する喫茶があるはずないので、この世界のメイドさんとは、専ら前者に寄るものと考えられる。
この認識で、間違いは無いはずだが。
「いいですか、『メイド』というものは、上流階級のものが雇う、独身女性のみがなる事のできる職業です。 もし仮に、セリアがゼルダと結婚した場合、彼女はメイドの資格を喪失し、この屋敷を去らねばならなくなるのです。」
「何それ!? それって万国共通!??」
カイトの質問に、首を縦に振るアリア。
メイドとはそもそも、独身女性をさす言葉だ。
もともとは花嫁修業のため、貴族の屋敷などに独身女性が一定期間、奉公にでるようになったのが、その始まりとされる。
いつしかそれは職業となり、これを志す女性も珍しくは無くなった。
だが、メイドたる本質は変わっていない。
結婚したら、相手に尽くすのが、この世界において美徳とされているのだ。
「男女共同参画の考えは無いの?」
「何ですの、その男女共同の三角形というのは?」
カイトは頭を抱えた。
なるほど、現況は飲み込めた。
家庭か仕事か、セリアさんは二者択一するしか無いらしい。
まさかメイドがそんなものだったとは、露ぞしらなかった。
「もし彼らが好き合っているとして・・それでも尚、使用人に留まるという事は、それなりの事情があるはずです。 我らが首を突っ込むようなことではないかと。」
「う~~~・・」
アリアの言う事は、正論だ。
第三者である俺が、とやかく言うことでない事は分かる。
だが『へえ、そうなんだ』で片付けられるほど、俺は諦めがよくないのだ。
世間様では、バカとも言う。
「よし、そうしよう。」
「カイト様、何をなさるおつもりで・・・・?」
まずは、今の状況を把握してみることにする事にした。
しばらく、閑話が続きます。




