第270話・不穏な魔の森
パソコンが動きを停止してしまった事により、投稿が遅れてしまったことを、この場を借りてお詫び申し上げます。
今後も、似たようなことが発生するかもしれません・・・
ベアルから王都へ、鉄道の延伸工事が始まって半月。
カイトたちは、ある問題に直面していた。
「大公殿下、お忙しい中、大変恐縮でございます。 北方の森にて、襲撃事件が発生しました。」
「え、またぁ!??」
騎士さんの報告に、思わず悪態をついてしまうカイト。
何が起こったのか、その概要を問いただす。
「はっ、報告によりますとマジックタイプのゴブリン3体が現れ、工事従事者の数名が軽症を負っています。 我々の手で魔物は、撃退いたしました。」
事態は収拾したものの、ケガ人が出ているのか。
軽症・・・
ここは大きな怪我でなくて良かったと、喜ぶべきだろうか?
「そっか・・・後で詳しい報告書をお願い。 重傷を負った人は、治療院で治療を受けさせて。」
「ははっ、仰せのままに!」
報告に来た騎士さんが去ると同時に、大きくため息をつくカイト。
これで一体、工事中のこういった事件は何度目だろうか?
鉄道建設団の人たちが、ベアルから工事現場を魔の森に移して以降、このようなことが3日も続けて起こっているのだ。
現在はゴーレム兵を量産し、対処をしているのだが・・・。
今一度、対策を練るべきだろうか?
考えにふけるカイトの元に、多くの書類を抱えたアリアが、やって来る。
「カイト様、先日の襲撃事件に関する被害報告などの取り纏めが終わりました。 あの、何か・・・・?」
「いや、また魔物の襲撃があったみたいで・・・。」
カイトからの報告に、顔色を悪くさせるアリア。
彼女もたぶん、俺と同じことを感じたのだろう。
暗い表情を浮かべながら、手近な机に、持っていた書類を置く彼女。
「これで3日連続・・・いくら魔の森でも、あまりにも不自然です。 カイト様、原因などが判明するまで、工事の中断を提案したいのですが。」
「うん、俺も同じことを考えていたんだ。 任せられるかな?」
「ただちに、手配します。」
命より大切なものはない。
今のところ、誰かが命を落とすような事件には発展していないが、いつそうなるとも限らないだろう。
念には念を入れるべきだ。
原因の調査を、行わなければならない。
ダリアさんを誘うか。
「アリアは、原因の目星はついているかい?」
前にダリアさんたちと地盤調査をしたとき、もちろん魔物などの襲撃は予想していた。
その上での、冒険者の手配やゴーレム兵の配備である。
しかし、現実に無視できないほどの被害が出ている。
しかも出没しているのが、もっぱら強力な魔物ばかりなのは、あまりにも不自然に映った。
その辺りの事情は、生粋のこの世界の住民のアリアの意見が、俺にとって大変に重要になる。
「魔物災害は、ひとつの原因として考えられます。」
「アレか・・・。」
俺がこの世界にやってきた頃に遭遇した、ゴブリンキング由来の魔物災害。
あれが、この領地近くで起きているというのだろうか??
しかしと、話を付け加える彼女。
「魔物災害は、ひとたび起きればもっと、顕著な被害が出るものです。 いくらカイト様のゴーレム兵がいても、負傷者だけで済むことは無いでしょう。」
魔物災害にしては被害が小さすぎるし、通常時にしては被害がありすぎる、という事か。
だとしたら、ますます原因が分からない。
やはり現地調査するしかない、という事だろうか?
「ありがとうアリア、俺もちょっと、調査をしてみるよ。」
「失礼いたします。」
一礼して、後方へと去っていくアリア。
それと入れ替わるようにして、ダリアさんが俺の横に並ぶ。
「カイト殿様、呼びましたか?」
アリアと話している間に、念話で呼び寄せたダリアさんだが、仕事中に呼び出されたので不機嫌そうだ。
まあ、そう怒るなよ。
「どうにも気にかかる事があるんだ。 ダリアさんも付いて来てくれない?」
「先日から森で騒ぐ、ゴミ虫どもの件ですか?」
顔色一つ変えずに、淡々と言ってのけるダリアさん。
魔物をゴミ呼ばわりとは、さすがです。
でも今回の目的は、あくまで調査なので、もし魔物が見つかっても追撃などはしないよう、そこのところを彼女にはよく、言い聞かせる。
渋々ながら、これを承諾する彼女。
事件の真相究明のため、カイトたちは転移で魔の森へと向かった。
◇◇◇
時を同じくして。
アーバン法国の王宮は、大騒ぎとなっていた。
「それは真か!??」
「多くの魔物が、魔の森全体を一定の間隔で、散開しているもようです。 魔王城においても、魔族が集結しつつあるとの調査結果が・・・」
もたらされた情報に、頭を抱える国王。
『下がってよい』という宰相の言葉を聞くなり、報告に来た密偵はその姿を消していった。
とたんに静まり返る、玉座の間。
最初に口を開いたのは、衛士のような格好をした男だった。
「国王陛下、発言してもよろしいでしょうか?」
「騎士団長、申してみよ。」
「失礼いたします! この一件、おそらく魔物災害ではありません。 ヤツらの侵攻の前触れでは無いかと。」
騎士団長と呼ばれた衛士の発言に、玉座の間に集っていた国の重鎮たちが、一斉にざわつき始める。
国王も一転して、神妙な面持ちになる。
法国の西側に広がる、広大な魔の森。
ここは魔族たちとの境界線となっており、ほかと比べて多くの魔物が出没することで知られる。
しかし出没するのは、もっぱら野生の魔物ばかり。
組織的に森に散開して、集団で人間側の動向を伺うなどという事を、する事はまずない。
するのは、魔王軍の前衛ぐらいか・・。
「しかし陛下、まだ彼らとは『不可侵条約』が結ばれたままとなっております。 下手に騒ぎたてをすれば、いたずらに国民に不安感情を植えつけることになります。」
「その考えは楽観に過ぎる、奴らは蛮族だぞ!? 国王陛下、出兵のご準備を。 直ちに魔の森への派兵を進言いたします!!」
双方の意見に、静かに耳を傾ける王。
事態は、一刻を争う事になりかねない。
しかし派兵となれば人目につくので、森の異変が、住民たちに嗅ぎ付けられる危険がある。
そうなれば、国中が蜂の巣をつついたような大混乱になってしまう。
今は軍備増強と、いつでも派兵が出来るようにしておく準備が必要だ。
「戦争に備え、戦士国に傭兵の交渉を入れよ。 王宮の魔法使いを至急、集めるのだ!! この事は、絶対に口外してはならぬ。」
「「「ははっっ!!!」」」
国王の指示に従い、室内にいた者たちは、次々に出て行った。
一番最後に、宰相も一礼して出て行く。
玉座の間には、国王と王妃だけが残る形になった。
沈痛な表情を浮かべる、彼ら。
「ゼイド、戦争が始まるのですか?」
横からの王妃の質問に、一言も言葉を発さない王。
たまりかねたように、彼女は声を荒げる。
「あなたは、アリアたちを見捨てるのですか!? ベアル領は・・・!!」
「分かっている・・・・!」
肩を震わせ、それでいて首を横に振る国王のゼイド。
その気迫に、言葉を失うミカナ王妃。
魔の森に近い土地柄、ベアルは魔の森に出兵した際の、前線の重要な補給基地となる。
それにあそこは、王都に並ぶ巨大な都市だ。
住民が難民ともなれば、国中が大混乱ともなろう。
兵が前線に到着するまでは、どうしてもそのような事態は、避けなければならなかった。
「アリアたちを、時間稼ぎの材料に使うのですね・・!」
「・・・。」
憤慨やるたかないといった王妃。
国王は、さらに顔色を悪くさせる。
自分だって、どうにかしたい。
しかし王と言う立場上、そのような『肩入れ』は出来なかった。
「ミカナ、ベアルの大公宅へ至急、便りを出すのだ。 内容は任せる。」
「・・・分かりました、早急に準備します。」
王妃は一礼すると、自分の私室へと戻っていった。
我々は、あまりにも無力だ。
ただの一つの領地すら、守ることが出来ないのだから。
最後に一人、玉座の間に残った国王は、どこを見るでもなくただ、顔色を悪くさせていくのだった・・・・。
当然、カイトたち一行にはヒカリやノゾミも付いていっております。




