第269話・フラグの予感
作者の時間の都合上、今後は不定期更新となります。
1週間以上はあけないよう心がけますので、今後ともよろしくお願いいたします。
「カイト様は、お顔が広うございますね。」
「そうでもないさ。」
帰途につくギルドマスターたちを見送る、領主夫妻。
それを尻目に彼女らは、街の喧騒の中へと消えていった。
いやはや、今日はビックラこいてしまったよ。
このほどベアルへ赴任してきたギルドマスターは、あろうことかシェラリータの冒険者ギルドで受付嬢をしていたレンさんだったのだ。
俺がシェラリータを離れている間、彼女は各地のギルドを転々としていたらしい。
その間に彼女は出世をしたらしく、今回のギルドマスター任命にまで至ったとの事だ。
知っている人なら、安心できる。
相方(?)のビールというエルフ青年も芯が強そうだし、何とも心強い。
「お部屋は用意できましたのに、泊まっていただかなくて良かったのですか?」
「宿は取っているって言うし、無理強いは出来ないだろう?」
こういった重鎮の方には、到着初日の夜には領主邸に泊まるのが、慣例とはアリアの弁だ。
俺がゴレアでそうであったように。
でも俺は、無理強いはしたくない。
さて・・・彼女らへの挨拶は、これで済んだわけだが。
「アリア、他に用事はある?」
「今度は、どちらへ向かわれるのですか?」
半ば呆れ調に、ため息をつくアリア。
ここへは、グレーツクの鉄道開業式典の最中に呼び出された。
グレーツクで働いていた鉄道建設団の人たちを、こちらへ呼び戻さなければならないのだ。
「鉄道の建設を始めるんだ。 ある工事で別の場所に居る建設団の人たちを、呼び戻さないといけない。」
「左様でございましたか。」
グレーツクの事は、伏せる。
少なくとも、ウソは入っていない。
アリアは詮索することなく、これを了承してくれた。
「夕飯までには帰ってくるから。 行ってきます。」
「行ってらっしゃいませ。」
ここまで快く送り出されると、何となく気分がいい。
早速、転移でグレーツクへ向かおうとすると、俺の服の裾が、不意に引っ張られる。
大体、このタイミングで引っ張ってくる人物は限られている。
背後へと視線を向けると、居たのはヒカリとノゾミ、それとダリアさんのお馴染みトリオ。
ほらね、やっぱり。
『置いてくな』って事だろうか。
「カイト様は、慕われておりますわね~~。」
「そうかい?」
アリアは関心仕切りといった風で、俺へ笑顔を向けてくる。
うーん傍目には、そう見えると?
でも、ダリアさんはどうだろうか?
その目的は俺を観察という目が、強いのではなかろうかと思うが。
それもまた『慕う』という言葉の範疇である事を、カイトは知らない。
苦笑を浮かべつつ、彼女らと共にカイトは転移をするカイトたち一行。
いつもどおり、そこはもうグレーツクだ。
「うわっっ・・・!」
到着と同時に、絶句するカイト。
開業式典を行っていた鉄鉱石の積み下ろし場には、多くのヒトたちが死屍累々(ししるいるい)のごとく、床に転がっていた。
連れて行こうとしていた建設団の人たちも、同様である。
なんだ、この惨劇は!??
と、思いたくなるような状況である。
「あっっカイト様、いらしていたのですか?」
「やあ。 楽しめた?」
相変わらず、こちらへの礼を絶やさないルルアムちゃん。
床で爆睡中の彼ら、一人ひとりに毛布を掛けていく彼女。
風邪をひかない様にとの、心遣いによるものだろう。
優しいなー。
たぶんこの人たち、酔いつぶれているのだろう。
「みんな寝ちゃってるね、だいぶ飲んだ?」
「そうですね~、私が止めるヒマもなく・・・至らず何とも、申し訳ありません。」
苦笑いを浮かべるルルアム、これまでも、だいぶ苦労をしていそうだな。
これでは、建設団の人たちを連れて行くのは難しいだろう。
どうしよう、時間を鑑みれば本来は帰ったほうが良い。
だがしかし、この惨劇をルルアム一人に押し付けるとか、人間的に終わってる。
原因の一端は俺にあるのだし、責任もって事にあたることにする。
「ダリアさん、この辺りを暖かくできる? 帰りの転移は、俺がやるから。」
「それぐらいならば。」
ダリアさんの手が光り、その光が徐々に大きくなったかと思うと、弾けるように消えていった。
同時に、体感気温が上がったのが素肌を通して感じられる。
これで、病気の心配はひとまず無くなるだろう。
飲みすぎによる体調変化までは、責任持てません。
こんな場所で全員が寝たら、それこそ無用心だ。
即戦力要員として、俺とダリアさんで夜番のローテーションを組む。
結界などは張れるが、絶対ではない。
ノゾミたちには、体力温存も兼ねて休んでいただく。
ここは平和だから、そんな心配は杞憂なんだけどね。
・・・ヤベ、今のフラグだよ。
◇◇◇
カイトがベアルの屋敷で、お客の接待をしていた頃。
ボルタの西側に広がる森林に、まったく無意味な戦いを繰り広げる、バルカンたちの姿があった。
その言い争っている現場に、2人の女性が笑みをこぼしながら姿を現す。
「誰だとはご挨拶ね、バルカン。 私は美しき女盗賊、ドーラ・エデューサよ!」
「ケシシシシシ!」
「ドーラ、だと・・・・・?」
高らかに自己紹介をする、長身の色彩が青い女性。
そして不気味な笑みを漏らし続ける、子供のような身長の、色彩の白い女。
バルカンは、驚愕に顔をゆがめる。
「この女を知ってんのか、闇貴族よぅ?」
「この女は、ある盗賊団の頭領だ。 どうしてお前がここにいる?」
警戒をするバルカンを、まるであざ笑うかのように笑みを浮かべ続けるドーラ。
「失礼しちゃうわね、ベアルでエセ役人を買って出たのは、どこの誰だったかしら?」
バルカンに対し、笑みをこぼす彼女。
これに半ば呆れ調に、バルカンへと視線を向ける闇大帝。
カイトが領主として赴任してくる、その前のベアルで行われた、ナゾの収税事件。
今でもアリアたちが黒幕を追っているが、その真相は未だ、闇の中だった。
その実行犯がほかでもない、この女盗賊ドーラだった。
手腕は用意周到かつ巧妙だが、手数料などと言って、一体いくら、ふんだくられた事か。
手下はその後、ベアルの警備兵に一網打尽にされたと聞く。
「今さら、何をしにきた? ワシは貴様との縁は、切ったはずだぞ??」
「聞いたわよ、あなたの噂と横のドワーフの話。 おそろいで指名手配されているそうじゃない。」
「ケッ、余計なお世話だ。」
鼻を鳴らしてドーラに悪態をつく、闇大帝。
すると、ずっと横でケシケシ笑い続けていた女が、一歩前へ進み出てきた。
「落ちぶれたアンタ達に、アタイがいい話を持ってきてやったよ。 聞きたいかい?」
「なんだ、お前は?」
「この子はケッシー・レアノールって言ってね。 元、聖国研究団に所属していた研究員の一員さ。」
ドーラの紹介に、目をむくバルカンたち2人。
聖国研究団、それは遥か聖国でにおいて魔法などの研究を行う、諸国で随一といわれる教会組織を財源とした権威のある機関のことだ。
研究成果はマイヤル教の発展にのみ使われ、門外不出とされる。
それは、そこに所属する者たちにも適用され、彼らは生涯を教会などで暮らす事になっている。
だとすると、この女は何なのだろうか?
「フン、あの教会のクソども。 アタイが金になる技術を売り飛ばして、私腹を潤わせて、その責任を捨てただけで追放だって、笑わせんじゃないよ!」
「「「・・・・。」」」
吐き捨てるように、愚痴る彼女。
何となく、ナットクの追放理由だった。
それを補足するように、ドーラが口を開く。
「まあ、紆余曲折あって彼女は国を追われていてさ。 一矢報いたいっ言うんで仲間にしたんだ。 腕は折り紙つきだよ。」
くさっても元、聖国研究団の一員。
なるホド、なんとも心強い。
バルア商会再興に、一役買ってくれそうではある。
ケシシシッと不気味な笑みを漏らしながら、ケッシーは話を続ける。
「あんたら、知ってる? 最近ちまたではやし立てられてる出来事を。 その製造方法を、帝国に売りつけてやるのさ。 どんなバカだって出来るさ。」
「何だ、ソレは?」
バルカンの質問と同時に、一枚の紙を放ってみせるケッシー。
それは、ずっと前にベアルの領主が台頭で作った、チラシであった。
中へ目を通すと、鉄橋や線路の規格、機関車の概要などが、そこそこ詳細に書かれている。
補足するように、彼女は説明を続ける。
「アタイらで、この技術を帝国に売りつける。 その報酬を受けたら、さっさとズラかる。 簡単だろう?」
彼女が何を言っているのか、よく分からないバルカンたちは、そろって目をぱちぱちさせた。
しかし綿密な策があるのか、彼女の瞳の奥には、強い光のようなものが浮き出て見える・・・。
まだまだ、続きます。
諸国編も、追々・・・




