第268話・冒険者ギルドが来た
投稿が遅れてしまい、申し訳ございません。
引越し後のカゼという、ゴーカ二本立てで、完全にグロッキーしておりましたです。
体調管理には、よく気を付けねばいけませんね、皆さんもお気をつけください。
「どこに行っていたのかは、聞きません。 先ほどベアルに赴任してきたギルドマスターが挨拶に参ったので、カイト様も顔を出して下さい。」
「え、もう来たの!??」
グレーツクでの鉄道開業式典の真っ最中、アリアに呼び出されたカイトは、急いでベアルへと戻ってきた。
その用件は、言われたとおりである。
「待って、まだギルドの建物は建設中だったはずじゃ?」
つい3日ほど前、街の魔術師が建設を開始した冒険者ギルド。
まだ建設費の残りの支払いどころか、完成の連絡すら入っては居ない。
アリアもそれを、首を縦に振ることで肯定をする。
「期日はわずか2日後。 到着が早いのは、一定の礼儀としてはかなっています。 既に応接室に通しておりますので、よろしくお願いいたします。」
「マジか・・・。」
遅く来るより早く来るほうがよいという考え方は、こちらでも同じらしい。(※京都を除く)
クレアさんの先導で、広い廊下を進んでいくカイトたち。
ベアルに赴任する、ギルドマスターか。
正直、とても緊張する。
心の準備の時間が欲しかった。
ガジェットさんのように、人当たりのいい人だといいな。
横を並んで歩いていたアリアだったが、体裁のためか部屋に入る前には、俺の後ろへと回った。
憂鬱な気分で戸を開けると、部屋の中に2人の男女がこちらへ礼をして、立っていた。
見たところ、机の上に置かれた紅茶に、手をつけた様子は無い。
俺が来るまでずっと、こうしていたのだろうか?
「ようこそ、我がベアル領へよくぞ参られました。 長旅でお疲れでしょう、どうぞお掛けになってください。」
カイトの定型的な挨拶を皮切りに、両者は向かい合うように、机を挟む。
相対するのは、警ら中の兵士のような格好をした男女が2人。
キリッとした表情で、こちらへ視線を送るつり目の美男子。
そして、とても容姿端麗な、キレイな女性。
え・・・・!?
少しの間、硬直したカイトは、驚きの声を上げた。
「レンさん!!? どうしてここに!??」
「カイト様、この者達を知っているのですか?」
こちらへ、いかにも眠たげな表情を送ってくる、残念系美女さん。
彼女は俺が異世界転生(?)した時、シェラリータでギルドの受付嬢をしていた人だ。
あちらも俺を覚えており、ポワンとした口調で、なぜ俺がここにいるのか、聞いてくる。
転勤とやらで、どこかに行っていたようだが、まさかベアルで会えるとは!
世界って狭い。
先ほどとは打って変わり、和やかなムードになる室内。
だが何かを勘違いしたのか、アリアの周辺だけ、凍てつくような絶対零度の空気になる。
しまった、ヤキモチを焼いていらっしゃる!
これは、誤解を解かねば!!
「アリア、紹介するよ。 俺がシェラリータで冒険者をやっていた時にお世話になった受付のレンさん。」
「あ、ああ・・・そうでしたか! 遠路はるばる、ようこそおいで下さいました。」
「こちらこそお招きいただき、恐縮です~。」
彼女のゆるさは、相変わらずのよう。
改めて過去の、あの時の礼を伝える。
次に、レンさんの横にいる青年へと、視線を向けてみる。
終始、レンさんへ刺さるような視線を浴びせかけている青年。
よく見ると、フツーの人間とは異なる部分がいくつか見受けられる。
色白の肌や、異様に尖った耳。
もしや彼は、ウワサに聞くエルフというヤツだろうか?
正直、間近では初めてお目にかかる。
上がりそうになるテンションを必死で抑え、淡々と応対するカイト。
雰囲気的に、彼がギルドマスターで間違いはなさそうだ。
当然、こちらは初対面。
レンさんは、付き添いだろうか?(俺にも秘書が出来るし)
「お初にお目にかかります。 カイト=スズキと申します、よろしくお願いいたします。」
「ご丁寧にどうも。 このたびベアルの副ギルドマスターを任命されましたビールという者です。 よろしくお願いいたします。」
双方立ち上がり、かたい握手を交わす。
・・・・アレ、『副』ギルドマスター?
「あなたはギルドマスターではないのですか?」
「私はそこまでの技量持ちではありませんので。 ギルドマスターは・・・」
アリアと俺、ビールさんの視線が、レンさんの方へと注がれる。
まさか・・・ねぇ?
「ああ、すみませんカイトさん、挨拶が遅れました。 このほどベアルのギルドマスターを任命されました、レン=ガエールと申します。 以後、お見知りおきを。」
「え! レンさんがギルマス!!?」
あまりにも出来すぎた話に、驚きを隠せないカイトであった。
彼らの歓談は、もうしばらく続く。
◇◇◇
ボルタから帝国の方向へ向かう、街道から少し外れた森の一角。
そこには今は使われて居ない、猟師の山小屋として機能していた小さな丸太組みの小さな建物が存在しており、その中からは声が漏れ聞こえてくる。
小屋の中に居るのは、元スラッグ連邦の大帝様と、元バルアの腐敗領主様。
紆余曲折あって、お互いに身をやつし、現在に至る。
奴隷の商取引に失敗し、ここまで逃げおおせたまでは良かったが、向かうべき目標などもなく、彼らはただただ、途方にくれていた。
まさに行くも地獄、戻るも地獄だった。
「おい、腹が減ったぞ! 何かねぇのか??」
「そうだな・・おい、腹が減ったぞ! 誰かおらぬか、誰かーーーー!!!」
闇貴族ことバルカンの声は、空しく静かな森の中を響くだけだった。
今、彼らの傍に、たくさん居たはずの部下の姿はない。
食料を探してくるよう命令したのが、半日以上前のこと。
ボルタからここまで、水以外には何も口にしていない。
闇大帝含め、彼らの空腹は最高潮まで達していた。
「まさか奴ら、逃げたんじゃ、あるめぇな?」
「よしましょう、気が滅入ってしまいます。」
もう、ほとほと疲れた。
金などの一切の財産も、逃避行の際に全て、置いてきてしまい、今の自分は文字通り、文無しだ。
なんと落ちぶれたことか・・・。
つい何年か前まで、自分がこのような憂き目に遭うとは、想像もしていなかったというのに。
空腹なぞ、自分には一番縁遠いものだと思っていたというのに。
金も、拠点も、食料すらない。
今まで持っていた志しが、壊れていく音がする。
「闇大帝様、この先、どういたしましょう?」
「ああ!? 逃走中にバカになったのかテメーは!! 俺は連邦を取り戻し、行く行くは世界を統べる王者になるんだ、こんなところで腐ってたまるかよ!!!」
この窮状でも志しを貫こうとする、彼は立派といえるだろう。
だが、それを成すために買った奴隷が、今回の事件の引き金となったのもまた、一つの事実。
コイツさえ・・、コイツさえ居なければ奴隷なぞ買いはしなかったのに。
そう考えると、バルカンの中に、熱くたぎるような感情がふつふつと湧き出た。
「貴様さえ、貴様さえ居なければこんな事にはーーーーーーー!!!」
「うお!? なんだヤルか、このやろう!!????」
没落コンビは、互いに牽制を繰り返しながら、拳闘を繰り広げる。
もうもうと立つ、建物内に積もったホコリ。
その醜い光景を、薄笑いを浮かべながら見やる者たちが居た。
「フフフ、堕ちたわねバルカン。」
「む・・誰だ!?」
争いを中断し、声のした方を向くバルカンたち。
そこには、2人の女性のシルエットが浮かび上がっていた。
いろいろ、この先起きそうです。




