第267話・グレーツクで開業
これからも、楽しんで書いていこうと思います。
感想などがありましたら、どんどんお寄せください!
「おそいぞ小僧!」
「すみません、仕事が多くて!!」
ここはグレーツク。
ベアルにボルタと奔走したカイトは、何とか時間を作り、ここへやって来た。
たとえどんなに忙しくても、来ないという選択はなかった。
今日はこの地にとって、記念すべき日なのだから。
「いつもと雰囲気が違うけど、これから何が始まるの? まるで『鉄道』が開通した時みたい。」
「そうだよ。 よく分かったね。」
ポンと、ヒカリの頭に手をのせるカイト。
そう、今から執り行われるのは、鉄道の開通式典なのである。
グレーツクで掘り出されている鉄鉱石の運搬用にと、ずっと建設工事を行っていた鉄道。
路線環境による全線に渡っての、前例のない高架工事。
そのせいで、開通にこぎつけるまでいに、とても時間がかかった。
「ベアルのとは違って乗れる鉄道ではないけど、これで住民の負担が大きく減るんだよ。」
「ふーん?」
おっさん達にとって、念願の鉄道開業。
これで鉄鉱石を掘ったあとの運び出しなどの負担が、大きく軽減される事だろう。
式典が催され、住民達がそろって、この開通を祝う。
「ベアルの時より、ずいぶんとささやかなモノですね。」
「開通するのは業務用の列車だからね。 住民全員が集まっているのだから、十分に賑やかだよ。」
「そうですか・・・・?」
ダリアさんが、『そんなものか』と大人しく引き下がる。
連れて来ているのは、以上の2人と・・・。
「スピーーーー・・・。」
横で気持ちよさそうに眠る、バルア領主のノゾミ。
朝と夜以外、滅多に姿を現さない彼女。
どうやら毎日、バルアの森で草木と触れ合うなどして、彼女なりに楽しんでいるようだが、詳しいことは知らない。
「ノゾミお姉ちゃん、気持ちよさそうだね。」
「・・・・ああ。」
たいてい彼女は、俺が誘う前に出かけてしまうのだが、今日はタイミングが良かった。
でも、動かないと眠っちゃうんだね。
王宮でもそうだった。
ノゾミは、ダリアさん以上に脳筋なのかもしれない。
別に、構わないけど。
「失礼いたします。 カイト様、本日はご列席いただき、光栄の至りです。 どうかごゆるりと、お過ごし下さい。」
「やぁ、お疲れ様。」
鉄道研究所職員のルルアムが、横から顔を出して、俺達へ挨拶をしていく。
彼女にも任されている業務があるようで、すぐに会場の先へと紛れていった。
今回の俺の出席は、オマケみたいなものなので、他の住民に混ざって式典を見守る。
中心にいるのは、言わずと知れず石神様。
崇拝されてますね。
なんだか少しだけ、羨ましいかな。
「そんな事よりカイト殿様、美味なるものは何処にあるのですか? 今回は、それがメインなのですよ??」
しんみりしていたのに、このヒトは・・・!
「そこに酒瓶が転がってるでしょ? 好きなだけ飲んでいいってさ。」
「そんなモノ、いりません!! 他はないのですか!??」
詐欺だ、何だのと喚くダリアさん。
自分から付いて来たいと言ったくせに、人聞きの悪い・・・。
そもそも、今回のコレは鉄道の開業式典であって、会食とかではないのだ。
いつの間に、彼女の中で、文言がすり替わったのやら。
らしいと言えば、らしいけど。
「おらー、かかってこい! 全員、返り討ちにしてやるぜー!!」
「次は俺だ、ぶっ潰してやる!」
「俺も行くぜー!!」
賑やかだなー。
おっさんズと鉄道建設団の皆様方が、肩を並べて談笑する光景が、なんとも微笑ましい。
彼らが行っているのは、所謂お酒の飲み比べ。
ドワーフはめっぽうアルコールに強いらしく、中でもステージ上で仁王立ちしているヒトは、ズバ抜けて強いらしい。
さっきも大きな酒樽をそのまま、ガブ飲みしていたな。
よく倒れないなと、感心する。
ちなみに俺が飲んでいるのは、ただのグレーツクの湧き水でございます。
「ぐはっははは! 人間風情が、ドワーフをナメんじゃねえ!!」
「ゲフ・・・・・・・・」
「次は俺だ! 仇は討つ!!」
式典とは名ばかりの、酒盛りのような状態がしばし続き、皆の顔が真っ赤に染まった頃。
参列している街の住民の半数が、死屍累々(ししるいるい)のごとく、ぶっ倒れた頃。
やっと準備が整ったようで、式典は本題に入った。
司会(?)はヘベレケになったおっさんズに代わり、ルルアムが努める。
「皆様、大変お待たせいたしました。 これより鉄道の出発式を執り行います。 ではカイト様に、一言お願いしましょう。」
「「「おー!!!」」」
「って、俺!!????」
能天気なおっさんズと共に、式典が始まる。
イケイケゴーゴー状態で、半ば無理やり壇上へと担ぎ上げられる。
こういった式典で、領主(国王)である俺が話す文言というものは、決まっている。
と言っても、そこは基本的に短気なドワーフさんの式典。
長ったらしい挨拶をすると、酒瓶が飛んでくることになる。
「皆さんが力を合わせた事で、今日と言う日を迎えられました。 本当に、ありがとうございました!」
「「「おーーーーー!!!」」」
以上、挨拶終わり。
壇上から、元いた場所へと下がる。
楽です。
アリアが聞いたら、きっと呆れるだろうな。
俺のザッとした挨拶も終わり、小さな機関車の汽笛が、グレーツクの渓谷に響き渡る。
運転要員まで酒を飲んでしまったので、運転しているのは、ルルアムだ。
ゴオオオオオオ!!
っと大きな音を響かせ、その巨体を、驀進させる列車。
と言っても、今日はただの開通式。
機関車は約10メートルほど進んだところで、停止した。
業務運転の開始は、明日からなのだ。
住民全員が式に来てしまい、鉱石の採掘業務が止まってしまったのが、主たる原因である。
何とも、彼ららしいです。
(商取引にやって来た、多くの商人達は、とんだとばっちりである。)
最後の打ち上げと言うべきか、式典の熱は、さらにヒートアップする。
こちらまでつられて、楽しい気分になる。
「スピーーーーー。」
ノゾミ、さすがです。
この喧騒の中で、安眠できるとは。
起こしたいが、それはヤボというものだろう。
このまま、寝かせておいてあげよう。
「カイト殿様、ベアルから念話が届きましたが。」
「え・・・・いま?」
ダリアさんは、俺と違って魔法が得意だ。
このように遠くへ来たときは、通信担当にしている。
念話は、コツをつかむのが難しいのだ。
「誰が、なんて言ってきている?」
「『どこに行ったのですか、早く帰ってきてください!』だそうです。」
「!!」
淡々とした口調で、念話の内容を伝えてくる彼女。
相手が誰なのか聞かなくても、分かった。
しまった、そういえばここに来るのに、言付けを忘れていたよ。
弁解のしようもない。
帰った方が、身のためだな。
「分かった、すぐに帰ろう。 ダリアさんも今回は、俺の魔法で転移して!」
「かしこまりました。」
妻に腰の低いベアル領主様は、連れてきた3人と共に転移でベアルへと、帰って行った。
グレーツクの式典は、そのまま日付が変わるまで続いたと言う・・・。
引越し作業に入るため、次回の更新は4月以降となります。
お楽しみの中、大変恐縮ではございますが、何とぞご了承ください。




