第266話・未来へ向けて
これからも、楽しんで書いていこうと思います。
感想などがありましたら、ドンドンお寄せください。
べアルは、法国有数の超巨大な都市である。
王都やボルタから、多くの物資が集まり、それらを交易品として輸出する商産業に始まり。
街の中心には、マイヤル教の大きな教会(大聖堂とも言う)が立地し、遠くは帝国などからも、巡礼者がやってくる。
郊外ではソギクというパンの材料にもなる穀物の栽培がされており、領地の特産物となっている。
移住希望者や商会組織も多く、特に街の中心地は人気で、余った土地は皆無に等しい。
その街中の一角には、大きな空き家が存在している。
ここは街の商業区にもほど近く、立地条件は非常によい。
まさにベアルの、1等地であった。
当然これまで、購入希望を訴える商会などは、数多くあった。
それにも関わらず、ここを売らずにおいたのには、ある理由があった。
「初の総督会は、どうでしたか?」
「『疲れた』けど・・悪くはなかった。」
「左様でございますか。」
先日、王都で開かれたギルド総督会。
ここにおいてベアル領内の、多くのギルド設置に関する話がされた。
その一つ、ベアルにおく予定の冒険者ギルド建設予定地に、カイトたちは来ていた。
「この建物は、使えませんね。」
「元、民家だからね。」
話によると、前領主時代は住居区が広がっていたようだ。
現在は区画整理がされ、商業区のど真ん中に位置するこの場所。
件の冒険者ギルドの立地には、もってこいの場所だ。
さすがに民家改造のギルドは、使い勝手がよろしくないので、建て直すことになっている。
「ダリアさん、出番だよ。」
「はい?」
民家の解体に、魔法は使えない。
魔法を未だによく分かっていないカイトの大火力で解体をすれば、周りに被害が及ぶ危険があった。
人海戦術による解体は、人間的な限界があるため、時間がかかるもよう。
そこで、便利屋・・・もといドラゴンさんの出番である。
「ダリアさん、あの建物を壊せない? 魔法と派手なの、禁止で。 なるべく建築材も壊さずに出来ると助かる。」
「本性もナシでと? 随分と、ムチャを言いますね。」
無理ではないらしい。
美味なスイーツでつって頼むと、渋々ながら手を動かし始めた。
彼女が建物を解体している間、俺達は建てる予定の施設の設計図を取り出す。
街に住む、そのスジの魔術師などに作ってもらったモノである。
いくつか案があったのだが、一番オーソドックスな案を採用させていただいた。
すなわち、一階に受付や素材の卸し設備を、二階に事務室や執務室などを設置するという間取りだ。
「ウチのメイドが解体してますので、終ったら建設を開始してもらえますか?」
「「「はい。」」」
今回は、廃材の事があるので解体はこちらで。
建設は、そのスジの人たちに頼むことにした。
ベアルの発展などの事を考えた結果、その方がずっと良いとは、アリアの弁だ。
既に彼らには、報酬の頭金は払ってある。
「カイト様、解体はダリア一人で大丈夫でしょうか?」
横から顔をのぞかせ、アリアが心配げな表情を向けてくる。
一方で現在、欲求を前面に押し出して仕事に勤しむダリアさん。
見た目年齢が10歳そこらの彼女が、力仕事をしているのを見ると、そういう心境になるのは理解できる。
あの彼女が、家の解体だけでバテるとは、とてもじゃないが考えられないけどね。
「大丈夫だよ、ダリアさんは『力』が具現化したようなヒトだから。」
「・・・カイト様の血筋は、全員が異能力者なのですか?」
なかば呆れ調に、俺へ視線を向けるアリア。
ダリアさんは俺の、従妹という事になっている。
俺は女神様由来のチート持ち、ダリアさんはドラゴン(秘密)。
事情を知らないアリアが、そう考えるのも、無理はない。
とりあえず『問題ない』ということを改めて伝え、建設の人たちに設計図を渡す。
「カイト殿様、破壊が終りました。」
「オッケー。」
そう時間もかからずに、終了したらしい家の解体。
俺の指定どおり、『静かに』解体してくれたようで、廃材はキレイに折り畳まれていた。
ブツクサ言っていたけど、やれば出来るじゃないか!
「言いつけ通りやりましたよ? ですからスイーツを・・・」
「今度、シェフに伝えておくから・・・。」
ダリアさんの目が、ギラギラしている。
怖い、油断したら食われてしまいそうだ。
俺は食ってもウマクナイヨ!!
しきりに急かしてくるダリアさんを余所に、解体時に出た廃材を、アイテムボックスへとしまっていく。
・・・何だか俺、最近ダリアさんに上から目線過ぎやしまいか?
今後の反省としよう。
「すみません、解体が終ったそうなので、建設をお願いしていいですか?」
「5日後までには、すぐに使える状態に仕上げます。」
この会話を合図に、他の人たちは早速、建設工事に手を掛け始めた。
まずは探索魔法による地盤調査から取り掛かり、土台を作るために杭を打つ作業に入るようだ。
モチはモチ屋で。
後は彼らに任せるとしよう。
俺達には、今日中に果たさなければならない事がまだ、たくさん残されている。
「転移するから、アリアとヒカリは俺につかまって! ダリアさん、目的地はボルタの北門の外でお願い。」
「かしこまりました。」
ボルタにおいても、ギルドを作る手はずになっている。
ベアルとの違いは、まず第一に建設する候補地選びから始めないとならない、という事。
工事は当然、その後となるので、時間がかかりそうだ。
なるべく、急がないといけない。
もちろん、王都までの鉄道工事もね。
「転移!」
彼らの姿は、現出した青白い光の中へと、消えていった・・・
◇◇◇
「魔の森で、不穏な動き・・・ですか?」
ここは、ベアルにある教会・・正確には大聖堂の中にある一室。
聖職者であり、この聖堂の最高責任者たる司教を務めるイリスは、聖国の法王様からの報告を受けていた。
『魔族が魔王城に集まり始めている。 戦争が始まるのかもしれない。』
「そんな・・・!」
魔族とは、暫定的ながら停戦協定を結んでいる。
まだ破棄されたとは聞いていない。
だが、あくまで今は停戦。
イリスの頭に、悪夢の光景がよぎる。
「魔族の侵攻が、始まるのですか・・・。」
停戦になる前、イリスがまだ幼かったころ。
魔族と人間達は激しく争い、多くの者が死傷した。
戦場から遠くに位置する聖国は、多くのケガ人や戦火を逃れた難民でごった返し、それはヒドイ有様であったと記憶している。
また、あの惨劇が繰り返されるのだろうか?
『案ずることはない、あくまで現在は集まりつつある、というだけの情報だ。 しかし、警戒するに越した事はないだろう。』
「我々一同も、魔の森への警戒を強化いたします。」
イリスの言葉に、『うむ。』と首を縦に振る法王。
何かあってからでは遅い。
備えあれば、憂いナシだ。
『ときにイリスよ、ベアルの大公殿下はどうしている?』
「はい、良き領主として、民を導いております。 しかし連れている者の中に、魔族がいるのです。」
水晶越しに見える法王の後ろの人間が、イリスの報告と同時に彼に耳打ちをする。
その後、『ふむ。』と一考する彼。
『魔族の子か・・・。 そちらへの監視も怠らぬように。 有事の際には、我々にとってあの方は莫大な戦力となるのだからな。』
「神の御心のままに。」
イリスの不安をヨソに、通信に使っていた光り輝く水晶は、ただの透明の水晶へと戻っていった。
通信の音が漏れぬよう、窓や入り口を難く閉ざした室内は、真っ暗になる。
それは暗に、発展の道を突き進むベアルに立ち込める、暗雲の存在を誇示しているようにも見えた・・・
ちなみにこれらの情報は、王様たちも掴んでいるようです。




