第265話・一歩前進へ
これからも、楽しんで書いていこうと思います。
感想などがありましたら、遠慮なくお寄せください。
バルアの西側に広がる、ビルバス山脈。
そのふもとに広がる、広大な緑の森。
この一角に、魔石の鉱脈が広がっている。
それもこれも、石神様の尽力のおかげだ。
『遅いぞバカ者めが!! いつまでワシを待たせるつもりだ!??』
「ごごご、ごめんなさい! 今、お迎えに上がりましたです!!」
目をギラリと赤く輝かせ、大きな怒声を張り上げる仏像に対し、平身低頭の姿勢で臨むカイト。
件の仏像・・もとい石神様が大変ご立腹なのには、理由がある。
『鉱脈が出来たので、迎えに来い』という連絡が彼から来たのは、2日以上前。
理由はさておき、こんな何もない場所に2日も置き去りにされたら、そりゃ怒りますよね。
『こう言ってはビミョーだが、ワシは魔法の類は使えないのだ。 置いていかれたら、この姿では移動もできんのだぞ。 分かっておるか!!』
「すみません、ご不便をおかけしました。」
お詫びと言っては何ですが・・・と石神様へ、大きなバスケットに入ったフルーツの詰め合わせを差し出すカイト。
先ほど王都の商店で購入したものだ。
本来は地球で言う、仏壇のような場所へお供えするためのモノらしいが、だいたい似たようなものだろう。
これで許してとまでは言わないが、少しでも機嫌を直してほしい。
『ふむ、少しはバカな貴様でも分かってきたようだな。 そこはほめてやろう。』
目から漏れていた赤い光が収束し、嬉しそうにカタカタと揺れる仏像。
思ったより、効果覿面で助かった。
「あの、ところで・・・魔石の鉱脈はどうでしょうか?」
『それならば、ここら一帯の全部がそうだ。 少し大地の龍脈をイジってな、貴様達が「魔の森」と呼んでいる場所の流れをせき止めて、こちらへ流れるようにした。 心配せんでも、空気中の魔素が濃くならないように、調整はしてある。』
「???」
石神様の説明に、首を傾げるカイト。
初めて聞く単語が多くて、内容がほとんど頭に入ってこなかった。
頭上に疑問符を浮かべるカイトに、石神様は呆れ調に、大きくため息をつく。
3歳の子供でも分かる内容で、話したつもりなのに・・・。
『・・・・つまり、この先は半永久的に、この地で魔石を掘れると言う事だ。』
「そうなんですか、ありがとうございます!!」
メンテナンスフリーは、実に助かる。
掘ってもすぐに無くなってしまっては、どうしようもない。
列車の燃料となる魔石は、永続的に採掘できなければ、意味が無いのだ。
お気遣い、ありがとうございます。
「あのぅ・・、話は済みましたか?」
「な・・・まさか今まで、隠れてたの!??」
木陰から、ひょっこりと姿を現すダリアさん。
先ほど石神様が怒っていた時、身の危険を感じて、隠れたようだ。
なんだかな~~。
自分だけじゃなく、ヒカリも避難させていたのは、評価をするけどさ。
ふう・・・と一度ため息をついて、石神様に向き直る。
「では早速、神社へお送りしますね。」
『ああ、そうしろ。 今度ワシを怒らせたら、そこの女と共に呪うからな?』
ビクッと体を震わせるダリアさん。
ダリアさんと入れ替わりは、さすがに勘弁して下さい。
苦笑混じりに、カイトはふと、石神様に疑問を口にする。
「そういえば石神様は、魔法が使えないんですよね? あの『呪い』は、魔法とは違うんですか?」
『そんな事、ワシが知るか。 ただ・・・』
「ただ?」
『ずっと大昔に我が洞窟を訪れた、赤髪の女に「自衛手段にでも使え」と教えられたのだ。 まだ生きているのならば、礼を言いたいところである。』
あの事件は、その女性のせいで、起こった様なものらしい。
恐らくは、グレーツクの住民だろうか。
まったく、余計なことをしてくれたと思う。
厳重に抗議したいところであるが、ソレがあったのは恐らく、何百年も前の事だろう。
今の俺には、手の出しようは無い。
仏像を手に、カイト達はグレーツクへと転移していった。
◇◇◇
「ではギルドの誘致は、成功したのですね!?」
「これが、渡された資料だよ。」
つい先ほど、ベアルの屋敷へと帰って来たカイトたち一行。
帰宅早々にクレアさんにしょっ引かれて行った、ダリアさんはさておき。
挨拶もそこそこに、カイトは自室にて結果報告をアリアに行っていた。
口頭で伝えるより、渡された書類を交えて説明した方が良いと、判断したのだ。
渡した書類に、目を通す彼女。
「・・・これによりますと、ボルタにもギルドを造るとなっているようですが?」
「そうなんだよ、話がトントン拍子に進んでね・・・。」
「それは、また・・・」
ペラペラと書類をめくっていき、中の確認を行っていくアリア。
ほぼ二つ返事で受けてしまったのだが、彼女の目にはどう、映っているだろうか?
「土地と建物を、どうにかしないといけないんだ。 大丈夫かい?」
「それは問題ございません。 お疲れ様でございました、カイト様。」
アリアの感謝の言葉に、首を横に振るカイト。
これは、俺の力ではない。
謙遜とかではなく、これはアリアたちが頑張ってくれた賜物なのだ。
俺のしたことは、最後のプレゼンだけである。
魔石に関しては、報告レスでいいだろう。
彼女には別に、言わなければならないことがある。
「それともう一つ、アリアに報告があるんだ。」
「まだ、何かあるのですか?」
一転して、不安げな表情を浮かべるアリア。
日ごろがあるので、悪い方向に考えたのだろう。
気にせず、アイテムボックスに入れた紙の一枚を、彼女に見せつける。
「・・・・『来たれバルアへ、南国のリゾートへ!!』これは・・・・?」
「これを、世界中のギルドのボードに貼ってもらうんだ。 既に話はつけてある!!」
貼り出されていた、依頼の紙をヒントにさせてもらった。
ギルドは世界中、どこにでもあるので宣伝効果は抜群。
これも『依頼』という形で、手続きさせてもらった。
おかげで半永久的に、この宣伝ポスターが、あらゆるギルドの掲示板に、貼り出されることになるのだ。
これぞまさに、逆転の発想!
依頼料は、冒険者を雇うなどの依頼でないので、銀貨3枚で済んだ。(※日本円で3万円ぐらい)
低コストで、効果絶大が期待できるのである!!
・・たぶん。
少なくとも、悪い結果になるようなことは無いだろう。
「そうですか・・・頑張って下さいませ。」
「うん。」
何を頑張るのかは分からないが、これで第一歩は踏み出すことができた。
依頼をした紙は、そこそこ多量に複製してある。
これをこの街においても、駅などの人が多く集まる場所に貼り出していただきたい考えだ。
それについては、街の人たちと追々・・・
「そういえばアリア、王都に行く前に俺に、何を伝えようとしていたの?」
途端に凍りつく、辺りの空気。
俺は何か、マズイ事でも言っただろうか?
「実は、メルシェードの雇用の件なのです。」
「使用人として、ダリアさんみたく働くんでしょ?」
自分から買って出たのだ。
前例に倣い、きっとそうに違いないと、判断を下していたカイト。
だがアリアは、それを否定するように首を横に振った。
「私は、彼女をあなたの秘書役にと、考えています。」
「・・・・・ひしょ?」
秘書とは、彼なりの解釈で説明すると、どっかの大きな会社の社長に付き従う、有能な女性である。
つまり。
『君、アレを。』(カイト)
『はい、どうぞ。』(メル)
主の要望にあわせ、サッパリ目のうまいジュースを瞬時に差し出す彼女。
気が利くではないか。
たったこれだけで、会話が成立する。
さらに。
『君、次の予定はどうなっている?』(カイト)
『はい領主様、次は王様との謁見の予定になっています。』(メル)
『気が利かないな、私は疲れている。 予定はずらせないのか?』(カイト)
『仰せのままに尽力いたします、領主様。』(メル)
こちらの要望には、何でも応える。
そんな存在。
それが『秘書』!!
・・・突込みどころが満載だが、カイトの認識は、そんなものだった。
ダメだ、秘書は人間をダメにします!!
もともと、イロイロな事がダメではあるけど。
「アリア、皆が一生懸命やってくれているおかげで、今の俺があるんだ。 俺にとっては、皆が秘書だよ。」
徹底回避のため、良い感じのセリフを吐くカイト。
しかし、言葉の意味は全くもって分からなかった。
は?と首を傾げてみせるアリア。
「何を仰っているのですか、カイト様? 秘書はあなたの政務の補佐役です。 他の領主に関しましても、1人は配置しているのです。 事後承諾となってしまいますが、どうかご理解下さい。」
「うそー・・・。」
どこで、墓穴を掘ってしまったのだろうか。
キラリと光る、アリアの瞳の奥。
これはつまるところ、俺への監視役が付けられるという認識でよいだろう。
監視役。
今まで隠していたことや、秘密裏に動いていたことが、これを機に崩壊するかもしれない。
大きなところでは、グレーツクなどとか。
しかし、どう考えても最良の回避術は、ナシのツブテだ。
「彼女も領主の秘書官たるスキル習得のため、粉骨砕身、努力に身を削っております。 彼女のためにも、どうかご理解下さい。」
「・・・そ。」
彼女が俺に、懇願をしてきた光景が、目の前にちらつく。
自分の都合でそれを取り消すなど、ありえない。
そんなヤツがいたら、俺はそいつを殴るだろう。
今はこの状況を甘んじて、受け入れるほかに無さそうだ。
しっかし俺に『秘書』・・・ねぇ~~。
カイトの『秘書』は、あくまで妄想です。
妄想の中にあるような業務は、存在しませんのでご注意下さい。




