第262話・片隅で
これからも、楽しみながら書いていこうと思います。
感想などがありましたら、お寄せください。
日が落ち、徐々に暗がりを見せる世界。
王都アルレーナでは、魔力灯が灯り、街は昼のように明るい。
特に王宮へと続く通り沿いでは、多くの店が夜でも軒を連ね、活気に満ち溢れている。
その通りの一角にある大きな建物に、ベアルの大公様の姿があった。
「ふああぁぁあ・・・・。」
用意されたベッドの上で、泥のようになっているのが、その大公様だ。
寝間着に着替えずに横たわっている辺り、彼の訴える『疲れ』が顕著に現れている。
彼の本名、カイト・スズキ。
イロイロあって今の身分に登り詰め、またイロイロあって現在、王都にいる。
説明すると長くなるので、内容は省く。
今日も今日とて、日が暮れるまで、領主としての責務に、身をさらしていたのだ。
ご苦労様です。
「もう・・、つかれた・・・・」
アドリブと、『手元の資料をご覧ください』を謳い文句に、どうにかギルドの総督会を切り抜けることが出来た。
どうしてそれで切り抜けられたのか、記憶は定かではない。
上手くいったのかも、不明。
「審議には数日かかるか・・・。 上手くいっているといいけど・・・」
あと数日間、このような心理状況が続くのだろうか?
いつ呼ばれるのか分からない以上、街に出て気分転換をする時間など、俺には無い。
アリアたちが長い期間を掛けて作った資料が、効果を成さないとは思わない。
・・・が、それを宣伝したのは、俺。
結果を聞くのが、とても怖い。
「せめて、癒しがほしい・・・」
くそぅ・・・。
もっとゆっくり、ベアルを出れば良かった。
今回は急な話で、いつも連れているヒカリたちが、一緒ではない。
せめてダリアさんでもいれば、気分転換ぐらいにはなったのだが。
・・・今、呼んだらマズイよね?
よしておこう。
癒しは、諦めるほか無い。
「・・・仕方が無い、仕事でもするか。」
こんな暗い気持ちでは、とても寝付くことなど出来ない。
先日に行った地盤調査結果を纏めて、ルートを地図に起こす作業でもしよう。
よっこらせと、スローな動きでベッドから起き上がる。
すると見計らったように、戸をノックする音が響いた。
・・・・タイミングよし。
「はい、なんでしょう?」
「失礼いたします殿下、お食事の用意が整いましてございます。」
入ってきたのは、ここに来てからお馴染みのメイドさん。
もう、そんな時間なのか。
昼食事もそうだったのだが食事をするのは俺1人で、屋敷で使用人たちとも一緒に楽しく食べていることを考えると、どうにも寂しい。
「ごめん、今は胸がいっぱいなんだ。」
「失礼いたしました。 では御用がありましたら、なんなりとお申し付け下さい。」
彼女が部屋を出て行くと、再び静かになる。
せっかく用意してくれたのに、ごめんなさい。
どうにもイケないな・・・
「さあ~、地図作り、地図作り!」
くさっていても、どうにもなりはしない。
仕事をして、気を紛らわせよう。
元となる地図をアイテムボックスから出して、調査結果を記した地図と合わせる。
ここから、ルートの細かい修正を入れていくのだ。
「・・・・。」
耳が痛くなるほど、静かとは、この事を言うのだろうか?
ここは王都のど真ん中に位置しているというのに、この部屋には物音一つ、聞こえては来ない。
ベアルだと部屋には、多くの音が束となって、聞こえてくる。
街の喧騒。
ヒカリやダリアさん達が、何かをする音。
などなど・・・
こうも静かだと、逆に仕事がはかどらないぞ。
慣れってフシギ。
「やめやめ、もう寝よう!!」
地図をしまって、ベッドへ寝転がる。
アイテムボックスにしまった寝間着に着替えれば、寝る準備は万端だ。
今日はゆっくり、ベッドで温まろう。
そうして居れば、じきに睡魔に襲われてくるだろう。
オヤスミ。
コンコン!
「・・・。」
またも戸をノックする音が・・・
屋敷でも、そうなのだ。
彼らは簡単には、寝かせてくれないらしい。
気だるそうに起き上がり、そのままの格好で返事をするカイト。
「失礼いたします、大公様にお客様が見えております。 お通しますか?」
「お客?」
こんな場所で、客が?
誰だろうと思っていると、間髪いれずに、室内に2人の小さな人影が入ってきた。
「お兄ちゃんヒドイ! また私のこと置いていった!!」
「逃がしはしませんよカイト殿様? 楽しいことをお1人でなさるなど、許しません。」
「うそぉ!??」
俺をビシッと指差し、あらん限りに抗議の声を上げるヒカリ。
そしてフフフフと、恐ろしい限りの笑みを漏らしてくるダリアさん。
彼女の転移で、やって来たのだろう。
ははは・・・マジかい。
「やー、ゴメンなヒカリ。 ちょっと時間に余裕が無くて。」
「むうぅ・・!」
むくれるヒカリ。
不機嫌な彼女は、それはそれで愛くるしい。
今はダリアさんが魔法を掛けてくれているようで、胸の魔石は隠れている。
ありがとう、ダリアさん。
・・・と彼女に感謝しようとしたが、そんなモノは必要ないらしかった。
「ところでカイト殿様、私は腹が減りました。 何かありませんか?」
「・・・何も食べてこなかったのかい?」
空きっ腹を抱え、食事を懇願してくるダリアさん。
彼女にしては珍しく、メシ抜きでここまで来たらしかった。
そう言われると俺も、なんだか腹が減ってきたな・・。
「すみません、食事をお願いできますか? 3人分。」
「かしこまりました、こちらへどうぞ。」
ずっと入り口付近に控えていたメイドさんに、夕食を頼むと、イヤな顔一つせずに、食堂の方へと案内してくれる。
急にお願いしたのに、この対処。
スゴイの一言に尽きる。
俺達のために、ありがとうございます。
食事を取るために、俺達3人は、食堂へと向かうのだった・・。
「ところでカイト殿様、その格好はどうしたのですか?」
「あ・・、イケね。 そのままだった。」
アブなく寝間着のままで、食堂に行くところだったよ。
カイトは体裁を正して、ヒカリたちを引き連れるのだった・・・
◇◇◇
「遅い・・・! 商隊の到着はまだなのか!??」
ちょうど同じ頃。
ベアル領内にある港町ボルタでは1人の男が、憤っていた。
血圧上昇を抑える薬の袋が、床に無造作に散らばる。
「申し訳ございません闇貴族様、かの商隊はシェラリータからの定期通信以降、音信不通でございまして・・・・。」
「ぐぬぬぬ・・・!」
部下からの素っ気無い報告に、さらに怒りを増長させる闇貴族こと、バルカン。
納品予定から、既に10日以上がすぎている。
いくらなんでも、遅すぎる!!
「うるせーな、テメーって奴は。 少しは黙れ。」
「これが悠長に構えていられますか!!?」
珍しく怒鳴り声を上げるバルカンに、闇大帝は肩をすくめる。
いつもは大きく構えているバルカンが、ここまで落ち着きがないのには、理由があった。
遅れている商品というのは、『密輸の奴隷』なのである。
人数は30人そこそこだったろうか?
脱税に未申告、他にも違法な箇所が、数多存在する。
もしバレれば、奴隷を使った『不死の軍団』どころではない。
「つったって、音信不通なんだろう? もしかしたら、そこまで来てんのかも知れねぇわけだし、動かないほうがいいんじゃねーのか?」
「むうぅ・・・・!」
彼の言うことも、一理ある。
ここで変に行動を起こせば、逆に危険なのだ。
シュンと体を小さくする闇貴族。
調子を崩さず、高級茶をたしなむ闇大帝は、『それに』と会話を続ける。
「テメーは『ボルタ商会』の頭だろう? そわそわせずに、ドンと構えてりゃ良いのさ。」
そうだ、ゆくゆくは私は、世界の富を我が手に治めるのだ。
それがこのような事で、どうする?
さすがは、闇大帝。
しがない一領主だった私とは、懐の大きさが違う。
「・・・そうでしたな、申し訳ない。 闇大帝殿。」
「・・・フン!」
悪態をつき、そっぽを向く闇大帝。
長い期間を過ごしてきたことで、2人の間は良き、悪友となっていた。
これからも自己の権益を追い続けることには、変わりはないが。
「確かに来ないモノは仕方がありませんな。 今は出来る事を致しましょう。」
「ああ、そうしろ。 お前はうるさくてかなわん。」
これから、商会の仕事は格段にいそがしくなる。
奴隷に飲ませる薬物の手配、そして教育。
武器や魔石も、入り用になることだろう。
カモフラージュのため、ダミーの商店も設置した方がよいだろう。
そのためにも、早く奴隷が到着してほしいところではある。
「闇貴族様に、ご報告申し上げます!」
「どうした?」
息を切らせ、1人の男が室内へ入ってきた。
念のため、歩哨に立たせていた者だ。
ここまで待たせたのだ。
やっと、商隊が到着したのかもしれない。
途端に上機嫌になる、バルカン。
しかし男の口から出てきたのは、それとは全く異なるモノだった。
「今すぐお逃げ下さい! ベアル領の警備兵団の輩が、血眼になって、ここを探しています!!」
「な、何!??」
「なんだと!??」
報告に、目をむく闇トリオ。
表ざたになるような行動は、今まで慎んできたはずだ。
そう言いつつ、思い当たる節ならば湧くように出てくるのだが・・・
それでも、足をつかまれないようには、してきた。
いや、待てよ。
まさか・・・。
とても嫌な予感がする。
「例の商隊が魔物に襲撃を受け、警備兵団の奴らに調査されたようです!」
「ち、ちい! 最悪だ!!」
予定ルート上の魔の森は、多くの魔物が出没する。
危険なルートなので商人は通らないのだが、事情があり、そういうわけにもいかなかった。
今回は、それが裏目にでてしまったよう。
なんと、運が悪い。
「ええい撤退するぞ! 皆のもの、金品を纏めよ!!」
「それどころではありません! ともかく今は逃げましょう!!」
男数人に抱きかかえられる、バルカン。
闇大帝も、座っている椅子ごと、持ち上げられる。
街では兵士達が『ボルタ商会』を探しており、ここに辿り着くのは、時間の問題だ。
そのまえに、一刻も早くなるべく遠くへ、逃げなければならないのだ。
金は、置いて行くしかない。
それよりも今は、命が大切なのです。
「ま、待て! 金が、金がーーーーーーー!!!?」
「俺の利権は、どうなるんだーーーーーーー!!???」
闇トリオの絶叫を残し、闇夜へと消えていく彼ら。
兵士達が、もぬけの殻になった地下室になだれ込むのは、そのまもなくの事だった・・・・
最近、マナーの悪い鉄道ファンの話を聞きました。
同じ鉄道ファンとして、とても残念に思います。
ルールは守って、皆が気持ちよく、趣味は楽しもうではありませんか。
(誰に対してのコメントか、不明)




