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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第11章 鉄道の延伸計画
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第261話・ギルド総督会

これからも、楽しんで書いていきます。

誤字や脱字などがありましたら、お寄せいただければ幸いです。

日暮れ時のアーバン法国の王都、アルレーナ。

王宮の近くにあるレンガ造りの大きな建物内の一室に、ベアルの領主様の姿があった。


「お、俺が・・いや僕がベアルの領主です。 ではまず、手元の資料をご覧ください!」


誰も居ない豪奢な部屋の中で、大きな声を出して独り言を言い続ける彼。

緊張しているようで、体中からは汗が噴出ふきだしている。

時折どもりつつも、途中でめるような事はない。

見えない誰かに、話しているわけではない。


「ベアルは街としても大きく、狩猟地などになる魔の森が、とても近くにあります。 資材の売却などにおいても・・・・えーと・・・・」


冒険者ギルド誘致のために、ギルド総督会の建物へとやって来たカイト。

彼らにも準備が必要で、今はこの部屋で待たされている感じだ。

そこで待たされている間、時間があったので、総督会でのリハーサルをしていたのだ。

急な話で文言を組み立ててくる時間がなく、十分な用意もないまま、ここまで来てしまった。

これ一つで街の運命が変わるのだと考えると、双肩そうけんにかかるその重圧はかなり大きい。


「どうしよう、このままじゃマズい・・・。」


頑張って話を続けようとするが、どうしても途中で止まってしまう。

屋敷でアリアと、発表内容のすり合わせを行いたかったが、今さらどうにもならない。

何度リハーサルをしようとも、これでは意味がないぞ。


「仕方がない、まずは文言を考えよう。 草案だけでも、何とかなる。」


俺に残された時間は、あまりにも少ない。

こんな時のために、いつもポケットには、ペンとメモ帳をしのばせてあるのだ。

思いつく限りに伝えたいことをまとめて、せめて本番で慌てないようにしなくては。

まず第一に伝えねばならないことは、ベアルという街の土地の特性と・・・


コンコン!

非情にノックされる、外へとつながる大きな木製の扉。

乾いたその音は、張り詰めていた室内の空気を一瞬にして、霧散させた。


「・・・・・・はい?」


「たいへん失礼いたします、大公殿下。 恐れながら総督会の準備が、整ってございます。」


礼をしながら、先ほどのメイドさんが室内へ入ってくる。

天は文言を考える時間も、与えてはくれないらしい。

はっはっは、参ったな、このチクショー!


「分かった・・・、すぐ行くよ。 準備があるから、少し外で待っていてくれるかい?」


「かしこまりました。」


戸が閉められ、再び1人になるカイト。

俺も男だ、こうなったら、腹を決めよう。

配布資料を配って、後はアドリブで切りぬけるのだ。

方法は、それしかない。


先ほど複製した資料を抱えて、メイドさんの案内に従って建物内を進んでいく。

すべては、志しを果たすため。

総督会の人たちに、目いっぱいベアルを宣伝するのだ。

むぅ・・・そういえば、どうやってこの資料を、皆さんに配布しようか、考えてなかったな。


「大公殿下、もしやご体調が優れませんか?」


「いいや、何でもない。」


「失礼いたしました。」


もくもくと、仕事に徹するメイドさん。

どうにか、成るようになるだろう。

カイトに出来るのは移動の間、覚悟を決めることだけだった・・・・



◇◇◇




まず第一に言えることは、リハーサルとかメモとか、本当に意味が無かったということ。

次に、アリアにも来てほしかったということ。

今はほとんど、気持ちに余裕が無いので、考えられるのはそれだけだ。


「どうもありがとう・・・。」


「・・・。」


メイドさんに下げられた椅子へ腰を下ろすカイト。

かいとへの返事なく、彼女は頭を下げたまま、退室していった。

メイドさんが居られるのは、ここまでのようだ。


俺が案内されたのは、裁判所の被告人席みたいな、離れ小島の席。

相対するギルドの人たち(おそらく)は、裁判官のように横にズラリと並んで座っている。

今にも、イロイロ白状してしまいそうな、物々しい雰囲気で巻かれた室内。

なにこの、厳粛な感じ?

空気が重過ぎて、今にも押しつぶされてしまいそうなんですけど・・・。

発表途中にメモをチラ見するスキすら、無さそうだ。


「全員そろったようなので、開会しよう。 総員起立してくれ。」


裁判席(仮)の真ん中の人の指示に呼応して、ザッと立ち上がる音だけが、室内に木霊する。

もちろん俺もそれに倣って、立ち上がる。

とめどなく流れ落ちる、汗の大きな粒。

ごめんアリア、俺は今にも逃げ出してしまいそうです。


「この世界に幸があらんことを願う。 我がギルド総督会は、その礎となろう。 この世界に祝福を!」


「「「この世界に祝福を!」」」


「・・・・。」


おじさん達の復唱が、ヤバ過ぎ。

なんだかもう、場違い感が半端ない。

話される単語だけで、日本のそれとは大きく異なるのが分かる。

俺、無神論者なんだよな。 (女神とは会ったことがあるけど。)

無事にベアルへ帰れるのかすら、怪しい気がする。

今さらながら、これがこの世界の、標準だと言うのだろうか?

いい加減に勉強しようよ、俺・・・。


「総員、着席してくれ。 自己紹介が遅れたな、私は今回の審議会の議長、ガノー・ブレナガンだ。 よろしく頼む。」


中央にいる人が、今回のトップの立場の人らしい。

前に王都で会った、ギルドで一番偉い人とは、別人のようだ。


「では早速だが、ギルドの審議を始めよう。」


「「「よろしくお願いいたします。」」」


き・・来た!

皆が一様に、俺の方へ視線を向けてくる。

お、落ち着け俺。

まだ呼ばれてはいない。

準備してきた書類と資料一式は、手元にちゃんとある。

あとはこれを生かして、ベアルを宣伝すればいいのだ!!

まずは深呼吸して、心を落ち着けよう。

すーはー、すーはー。


「今回の審議地はベアルか・・・では代表者に話を伺いましょう。」


「は、はい! 申し上げますです!!」


カイト、ここで緊張のあまりフライング。

名が呼ばれ、スッと立ち上がって汗をかきかき、返事をした彼。

本来は『発言を許します』といわれて後、やっとカイトが口を開くことが許されるのだ。

出だしとしては、よろしくないのがお分かりいただけるだろう。

あとカイトよ、緊張しているのは分かるが噛みすぎ。


「あの・・その前に、この資料を配ってもよろしいでしょうか!??」


「配布物があるのですか? 審議しますので、お待ち下さい。」


「は、はい・・・!!」


棒きれのように、ピシッとその場に立ったままの姿勢になるカイト。

総督会の審議員達は、それぞれ意見交換のように、ヒソヒソと小声で話し合う。

彼らが話し合っているのは、『配布物を受け取るのが、公正上、問題がないか』ということ。

このような審議の場で、配布物は厳禁なのだ。

贈賄による審議の公平さを欠くことを、防止するためというのが、その主たる理由。

もちろんカイトは、そんな事はつゆぞ知らない。


「大公殿下、渡されると言う配布物の、まずは見本を議長への提出を願えますか?」


「はい!」


その声に呼応し、外に控えていたメイドさんの1人が、審議の場に入室してくる。

だがカイトは、目の前にある資料を、そのまま『転移』の要領で、議長へと送った。

驚きに包まれる面々。


「よ、よろしくお願いいたします!!」


「「「・・・。」」」


自分がドン引きされている事など、まったく気がついた様子も無く、カイトは緊張の面持ちで、頭を下げた。

彼については、もはや、何も言うまい。

無言で退室していく、仕事を大公様にとられてしまったメイドさん。

突如目の前に現れた資料の束に、薄笑いを浮かべながら、目を通す総督会の議長。


「ふむ・・・中身は特に問題は無さそうだ。 大公殿下、他の資料も、内容は同様ですか?」


「はい゛・・!」


汗をダラダラ流し、声を裏返らせながら返事をするカイト。

『ベアルの発展のため』

そう考えるたび、彼の緊張度数は上がっていった。

考えないと言うのは、とてもムリです。


「配布を許可しましょう。 なかなかに面白きモノを持ってきましたな。」

「ホウ、それは楽しみ。」

「前例の無い審議会とは、面妖な。」


なんか知らんが、審議する人たちの期待度合いが、上がった?

緊張はするけど、これはいい風だ。

ここはもう、流れに乗って思い切って動いた方が、いいかもしれない。

複製した資料を彼らに送り、誘致の準備を整えた。

ゴクンと生唾なまつばを飲み込み、緊張をまぎらわす。


まだ時は昼。

長い審議が、王都の一角で始まった・・・




緊張は続きます。

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