第259話・一連の報告
これからも、頑張っていきます。
ご感想などがございましたら、どんどんお寄せ下さい!
「・・・・痛いよアリア・・。」
「お兄ちゃん、よしよし。」
カイトです。
グレーツクから帰った途端、嫁から拳骨が飛んできました。
なんとなく避けてはならない気がして、彼女の鉄拳は、俺の顔の真ん中に衝突しました。
正直、けっこう痛いです。
ヒカリが、俺をなぐさめて足を撫でてくる。
頬まで、手が届かないようだ。
心がホッコリするけど、頬の痛みは晴れない。
赤くはれた頬を押さえ、アリアに抗議に似た眼差しを送る。
「今日のところは、これで勘弁して差し上げますわ。 二度はございませんので、肝に銘じてくださいませ。」
「・・・何の話さ?」
少なくとも今日、俺は後ろめたいことは何もしていない。
グレーツクには行ったが、それは彼女は知らないはず。
というか、やっぱり怒られるような事は、何もないけど。
「カイト様、後でこちらをお読み下さい。」
「えう・・・・何コレ?」
俺が治癒魔法を行使しようとすると、間髪居れずにアリアが、一冊の本を差し出してきた。
えーと『亜人全図鑑』?
亜人って、グレーツクのおっさんとか、獣人さんとかの事だよね?
なんだか、とっても分厚いな。
1000ページ以上はありそう。
これを、全部読めってか??
「カイト様におかれましては、もう少し見聞をお広め下さい。 でなくては、領主は務まりません。」
「ふ~ん?」
俺に拒否権は、ないらしい。
この領地には、多くの人種の方が住んでいるからな。
俺は未だこの世界で、知らないことの方が多い。
頑張って、読みましょう。
そのまえに、頬の治療をさせてもらう。
「亜人といえばさ、メルシェードは? まさか追い出してないよね??」
「ご安心下さい、彼女ならば今ごろ、クレアの元で精進いたしていることでしょう。 教養もあるようですし、良き使用人となってくれそうですわ。」
「それは良かった。」
俺が拾ってきたフサフサ耳の獣人女性は、はれて屋敷の一員となったらしい。
善良な人だったようだし、俺としては彼女の願いがかなって良かったという他ない。
クレアさんの下で指導、という事は彼女は、メイドになるのだろうか?
「フフフ・・・」
「・・・何?」
アリアが、俺に向かって黒い笑みを浮かべる。
なんか知らんが、怖いよ。
「何でもございません、それよりバルアはどうでしたか?」
「石神様なら、地図にあるとおりの場所に送り届けたよ。 半月ぐらいかかるってさ。」
ホッと安堵のため息をもらす彼女。
鉄道の燃料確保に関する、重要なことであるからな。
重くのしかかっていた肩の荷が、下りた感じなのだろう。
「それはご足労を、お掛け致しました。」
「いやいや。」
先ほど拳骨をとばしてきたのとは、まるで別人だ。
いつもこうなら、可愛いのに。
いや・・・それじゃアリアじゃないか。
「ヒカリ、カイト様はどうでしたか??」
「アリア!??」
しまった、まだヒカリには口止めしていません!
アリアにしてやられた。
ヒカリ、どうか余計なことは言わないで頂戴!!
「うーんとね、地図を逆さまに見ていて、もう少しで20キロ離れたところに案内するところだったって・・・」
「・・・・カイト様。」
ヒカリ、それ言っちゃアカン!!
ああ、アリアが死んだ魚のような視線を、こちらに向けて来てるよ・・。
俺はここで死ぬんだろうか・・・。
「他には、ありませんか?」
「うーん、無い。」
グレーツクに関しては、黙秘してくれるよう。
ありがとう。
でも前者の方が、どちらかといえば黙秘してほしい内容だったな。
いまさら、遅いけど。
「ちゃんと最終的に、案内はしたよ。」
「それならば良いのですが?」
笑顔だけど、アリアの顔が笑っていない。
アブない事して、申し訳ないです。
「あまり肝を冷やすようなことは、自重してください。」
「ごめんなさい、以後気をつけます。」
地図の表示方式を変えよう。
方位とか都市名とかを書き込んで、現在位置を分かりやすくする工夫が必要だ。
いつか、そのうちに。
『それから・・・』と、話を付け足す彼女。
「実はカイト様、事後承諾となってしまうのですが・・・」
「ん、何?」
一転、アリアが謝罪をしてくる。
彼女がこんな態度をとるなど、珍しいこともあるものだ。
別にどんなことであっても、俺は気にしない。
アリアに何事も無いなら、俺はどんな事であっても、大きな心で受け止めよう!
・・・と言うセリフを、ドラマかなんかで昔、見た気がする。
うん、クサすぎ。
俺は俺の懐で、受け止められる範囲で受け止めてあげよう。
「実は、カイト様のお傍に・・・」
「申し訳ございません奥様、緊急でお耳に入れたき事柄が・・・!!」
アリアが途中まで言葉を発したところで、後ろから騎士さんが会話に割って入ってきた。
どうしたのだろうか?
「なんですか、今はカイト様とのお話の途中ですよ?」
「申し訳ございません、実は例の件なのですが・・・」
周りに聞こえないための配慮か、アリアに耳打ちをする彼。
みるみる内に、アリアの顔色が変わっていくのが見て取れた。
コレは、あまり良くない兆候だ。
「どうしたんだい、アリア・・・?」
「申し訳ございませんカイト様。 少々、席を外させていただきます!!」
話が済むと、彼女は佇まいを正して後、脱兎のごとく屋敷の奥へと引っ込んだ。
あんなに取り乱す彼女は、とても珍しい。
しかし事情を聞こうにも、騎士さんまで一緒に行ってしまった。
俺は行かなくて大丈夫なのだろうか?
「ねぇお兄ちゃん、汗かいた。 おフロ入りたい。」
「あぁそっか、ゴメンゴメン。 俺の部屋に行こうか。」
俺とヒカリは、帰ってから着替えすらしていない。
特に彼女はグレーツクで働いたので、どっと汗をかいたことだろう。
労働のあとはフロで汗を流し、あらゆる原動力となるメシを食う。
これ基本。
とりあえず今のところは、ゆっくりさせていただく事にした。
◇◇◇
「調べましたところ、奴隷の商隊に関わる届け出は、ありませんでした。」
「やはりですか・・・。」
街の警備兵団の面々を前にして、一考するアリア。
彼らに調べさせていたのは、メルシェードが連れられていたと言う、奴隷の商隊について。
走っていた場所から見て、目的地は間違いなく、ベアル領方面。
我が領を通過する以上、商人は積荷等に応じた『税金』を治めるようになっています。
ようするに私たちが把握していない商取引など、無いはずなのです。
まして積荷は、最近やっと解禁になった奴隷の取引。
ここから考えられる、このナゾの商隊の存在は。
「奥様、これは間違いなく密輸でございます。」
「ええ、発展というモノは光が大きくなると共に、闇を育てるのですね。」
この領地でも、とうとう密輸が・・・
残念です。
ですがこれは、王都などでも同じこと。
住む人間が多くなれば、これは避けられぬ事態と言えます。
問題は、なぜ奴隷を、密輸したのか?
単なる脱税のためなのか、あるいは他の思惑があるのか・・・・
「この商隊の目的地は、何か分かりましたか?」
「大公様からのご報告の場所に、多くの馬車の残骸が見つかりました。 目的地の商会についても、既に特定されております。」
「分かりました、ただちに逮捕して下さい! 決して逃がしたり、殺すことのないように!!」
「「「了解!!」」」
こういった事には、大きな闇が存在している事が多いモノ。
これを期に、一網打尽にしてしまいます。
疑わしきは検挙、これが領内の平和の鉄則です!!
ちなみにですが、こういった検察的な指示はフツウ、カイトなどの領主が行うものです。
今さらですが。




