第258話・この思い
これからも、頑張っていきます。
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べアルで、カイトに『お目付け役』をあてがわれる話になっていたころ。
石神様に鉱脈造成の任を置いてカイトは、グレーツクへと来ていた。
いつもの研究所と違い、彼が居るのはグレーツクの中でも鉄が多く産出する鉱脈の付近だ。
「順調だな。」
「お兄ちゃん、お家帰らないの?」
いたるところから、コーンコーンと木槌を叩く音が聞こえてくる。
グレーツクで行われている運搬鉄道の建設は大詰めを迎え、渓谷の内側を木で組まれた巨大な高架橋が、縦横無尽に巡っていた。あ
まだ完成していない支線が大多数なのだが、まずは主だった線の工事に注力しているらしい。
今はその出来上がった橋に、レールを敷設中なのだ。
思ったより、工事に長い期間を要しなかったのは、幸いである。
「なんだ小僧、また俺たちの仕事の邪魔をしに来たのか?」
「失敬な! 手伝いに来たんですよ!!」
ドワーフのおっさんのあんまりな言い草に、つい大声を出すカイト。
俺に悪態をついてきたおっさんの表情を見るに、本心から行っていないことは分かる。
本人は軽いジョークのつもりなのだろうが、やるならば人気のいないところでやって欲しい。
おれのイメージが、目減りする。
「木材は、勝手に使わせてもらいますよ。 まだ済んでいない工区は、どこなのかだけ教えてください。」
鉄道建設に携われる人数は、限られている。
なるべく早急に取り組まなければならない、バルアまでの鉄道建設がこの後にひかえているのだ。
そのためにも、グレーツクの鉄道工事は、早く済まさねばならない。
というわけで工事の戦力として、俺も働いているのだ。
アリアには、当然秘密です。
「高架橋の工事は、もういらん。 後は俺たちでやるつもりだ。」
「そ、そうですか?」
ここグレーツクに鉄道を通すために作っている、木で組まれた大きな高架橋。
平地がほとんどなく、険しい地形に沿って巡らせている為、この工事は難航した。
そこで能力バカなカイトが、この工事を魔法で代行したのだ。
・・・が、目の前のおっさんは、ひどく不満げだ。
「テメーのせいで工事は早く済みそうだが、俺たちが技術を学ぶ機会が少なくなったんだよ。 これ以上の邪魔はするな!」
「す、すみません。 以後気をつけます・・・。」
『よかれ』と思ってやってきた代行措置だったが、現場的にはありがた迷惑だったらしい。
鉄道建設団の人たちは、この工事を終らせたら撤収させる旨は伝えてあるので、おっさんたちも、彼らから学びたい事がたくさんあるのだろう。
工事中に技術力が上がるということもあるし。
・・・そうすると、俺は工事を急ぐあまり、トンだ愚行をしていた事になる。
「でもあっちの鉄道は、王様の命令だしな・・・」
「なんか知らんが、そこで突っ立たれたら工事の邪魔だ。 さっさとどけ!」
言われるがまま体を横に動かし、おっさんが運ぶ縄の束を見つめる。
この縄で、高架橋の木材同士を縛るのだ。
今はただの縄だが、縛った後に魔法付加して強化させれば、かなり永くもつだろう。
その魔法工事については、建設団の数人に任せている。
俺は、何をすれば良いだろうか?
「せっかく来たんですから、俺も何か手伝いますよ。 材料でも運びますか?」
「いらねーって言っているだろうが、ヒマなら屁でもこいて寝てろ!」
なんともヒドイ言い草!
皆さん聞きましたか、彼の暴言!!
くそぅ、こんど覚えていろよ!?
「ヒカリ、しょうがない。 俺たちは足手まといらしいから、ベアルに・・・」
ここまで言って、異変に気がついた。
背後にいたはずの、彼女の姿が見えないのだ!
まさか迷子、行方不明、誘拐・・・!?
イロイロありえない妄想を膨らませ、辺りを探索するカイト。
カコココココココココ!!!
「嬢ちゃん、仕事が早いねー。」
「仕事がはかどるよ!」
小気味よくリズミカルな木槌を叩く音が、鉄道の建設現場に響く。
音の主は、探していたヒカリの発するものだった。
いつの間にやら建設団の輪に加わり、レールを固定する犬釘打ちをやっている。
超高速で。
周りの皆さんの言うとおり、仕事が早いね、君。
「まずい、マズイぞ・・・!!」
ヒカリは仕事中なので、現時点では呼び寄せるなどは不可能。
その間、俺にすることはない。
このままでは、俺はただのヒマ人になってしまう!
ヒカリが働いているのに、領主の俺が傍観というのが、非常にいただけない。
「あの・・大公様、少しお時間をよろしいでしょうか?」
「ん?」
声がした方向へ、顔を向かせるカイト。
そこに居たのは、作業着すがたの一人の少女だった。
「君は確か・・・フォウちゃんだっけ?」
「は、はい・・! 名前を覚えていただいていたとはこのフォウ、感銘の至りです!!」
パッと、花のように顔を輝かせる彼女。
ずっと前に奴隷解放し、そのまま鉄道の建設に携わっている、女の子だ。
きっと、他の皆と離れたくなかったのだろう。
心優しく、とても頑張り屋な子なのだ。
「時間なら大丈夫だけど、どうかしたのかい?」
「はい、実は『れーる』が重くてなかなか、所定の位置に運べず・・・どうにかならないモノかと。」
レールは鉄の塊。
小柄なクセに力持ちのドワーフのおっさんはともかく、アレは大人数人がかりでも、そう簡単に運べるモノではない。
まして彼女は、年端も行かない女の子だ。
「そうか、それなら俺が運ぶよ! いや、それじゃダメなのか・・・君、魔法が使えるんだったね、運び方を教えるよ!!」
「はい! 大公様直々にご教授をうけるとはこのフォウ、死ぬ気で精進いたします!!」
感覚だけで魔法をやっているカイトが、魔法を第三者に教えられるのか。
不安を残し、彼らは現場へと向かった・・・
◇◇◇
フフフうまく、いきました。
今日は突如、私たちが働く現場に、大公様がお姿をあらわしました。
すぐに駆け寄りたい衝動を抑え、私は仕事に徹します。
彼に、一目置かれるために。
それがやっと、実を結んだようです。
『君は確か・・・フォウちゃんだっけ?』
なんと大公様に、名前を覚えていただいていたのです!
私の名前は、ずっと前に使われていた主人につけられた、業務的なモノ。
私を奴隷たらしめる、呪われた名前。
ああ、あの神々しいお声で、まさかこの忌まわしい名前を呼んでいただけるなんて・・・
この名前も、そう捨てたものではないようです。
「大公様、お手間を取らせてしまい、申し訳ございません。」
「いいんだよ、役に立ててこっちも嬉しいさ。」
いつも彼の隣にいる、邪魔な虫も、今日はどういうわけか居ません。
私にとっては、この上ない好機でした。
彼のために猛特訓した魔法も、今では使いこなす事ができるようになっている。
彼に接近し、私が『出来る女』であることを、知らしめるのです。
「大公様の覇業完遂のため、私は命をもささげます。 他の誰にも、負けはしません。」
「そ、そうかい・・? でも命はいらないかな?」
彼のあまい、暖かなミルクのような言葉が、全身に染み渡る。
あなたのご命令とあらば、このフォウ、世界を滅ぼす事にも力をお貸しいたしましょう。
あなたのためなら、魔法の贄にもなります。
私のこの熱い気持ちに気付いてもらえるまで、今しばし待ちます。
永い、人生ですから。
「大公様、今の私は世界一の、幸せ者でございます。」
「そう言ってもらえて、俺も嬉しいよ。」
私はフォウ。
彼の傍により、近づくためにならば、どのような事も、厭いません。
そう、彼を害する者がいれば、私たちの一生に影を落とす者がいれば、地獄までも馳せ参じましょう・・・!
ペースが落ちがち・・・
なかなか上手いように、いきません。




