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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第11章 鉄道の延伸計画
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第257話・仕えたい理由(ワケ)

これからも、がんばっていくつもりです。

ご感想や誤字、脱字などがあれば、お教えいただければ幸いです。

べアルの中央付近に、領主様の住まう屋敷が存在している、

ここでは多くの使用人などの人たちが、日夜仕事にいそしんでいる。

ちなみに当の領主様はというと、大抵は屋敷を不在にしている。


今日もその例に漏れず、屋敷に残された者は、今日と言う日を過ごしていた。



「メルシェードさん、まずはこれをあなたに・・・・決して失くさぬよう、お気をつけ下さい。」


「これ・・は・・・・?」


大きく膨らんだ封筒を、向かい側に座る彼女の前へ差し出すアリア。

この中には、彼女のこの領内における、身分を証明する証書などが入っている。

彼女がこの街で暮らすに当たって、どうしても必要となるものばかりだ。


「この中には、あなたの身分を証明する品々が入っています。 中のモノに不備は無いはずですが、もし何かあれば言ってくだされば対処いたします。」


「・・・ありがとう、ございます。」


相当に嬉しいのだろう。

渡された封筒を抱き寄せる、彼女。


「中を、開けて見てもいいでしょうか・・・?」


「ええ、それはあなたの品です。 もし内容が知りたいのであれば、私が読み上げて差し上げましょうか?」


「いえ、私は字が読めます。」


首を横に振り、封を開けて中身の確認を行う彼女。

こういっては失礼ですが、正直、驚きです。

獣人の奴隷と聞いていたので、識字は困難であろうと考えていたのですが、その心配は無いようす。

彼女はどこかで、教育を受けたことがあるのかもしれない・・・

いや、気にするべきことは、そこではない。

少し間を空けて、彼女と今後の話をする。


「さて本題に入りましょう。 あなたは、この街でどのように暮らして生きたいですか?」


ビクッと肩を震わせ、視線をこちらへと向けるメルシェード。

事務的な事は、今のでひと通り終了しました。

ここからは、この屋敷に直接係ちょくせつかかわる話です。


「私は、その・・・・」


「あなたが『屋敷で働きたい』という旨は、大公様から聞き及んでいます。 そうではなく、あなたがどのように生きていきたいと考えているのか、という事を聞いているのです。」


まずはこの獣人の、思惑が知りたい。

彼女には一定の教養があるようですし、この街で職を見つけることは、容易でしょう。

その上でなぜ、屋敷で働きたいと言ったのか。

胸に秘めた真意を、彼女から聞きだしたい。


「大公様は、お優しい方です。 私はもう、大事な方を失いたくありません。」


「・・・・それは、どういう事でしょうか?」


『助けてくれた方に尽力したい』というならば、この行動は分かります。

ですが彼女の言うことは、それとは少し違うよう。

ますます、彼女が何を考えているのかが、分からなくなります。

すると彼女は、自分の身の上話をし始めました。


「私は昔、ある領地の領主様に買われたことがありました。 その貴族様はとても優しい方で、私のような獣人の奴隷を、1人の人間として扱って下さいました。 今は良き思い出です。」


「『良い思い出』ですか・・・そのワリには顔色が優れませんが、何かあったのですか?」


昔どこかの領に、カイト様のような方がいたのでしょう。

獣人の奴隷として迫害されてきた彼女にとっては、それは己が道を照らす、暖かな光となったはず。

しかし彼女の浮かべる表情は、どこか淋しげです。

ズケズケと、他人の過去に踏み込むのは私の望むところではありません。

でもそれが『ベアル領主邸で働きたい』という感情に直結する事柄ならば、私はそれを聞き出す使命があります。

よこしまな感情を持った者を、領主邸に置くことは出来ません。


「突然のことでした。 その貴族様は、急に倒れられてまもなく、息を引き取ってしまわれました。」


「急病ですか・・・・」


アリアの口から出た言葉に、かぶりを振るメルシェード。

彼女はさらに顔色を暗くし、話を続ける。


「公式には『原因不明の病』とされましたが、その方の遺骸からはかすかに、第三者の魔力の気配がしました。」


「!!?」


彼女が言う、『遺骸に残された魔力』

人が死んだ場合、通常は命の源である魔力は、全く無くなるはずです。

しかし、ある例外があるのです。

例えば『何者かに手によって、呪い殺された』などという場合に・・・。

一般的に、獣人は人間よりも気配の察知などに優れていると聞きます。

おかげで、事態の異常に気がついたのでしょう。


「私がそれを指摘すると、『そんなわけない、元奴隷の分際で、出鱈目でたらめを言うな』と副使様が・・・それが祟ったのでしょう。 私は再び奴隷市場に売られる事になりました。」


「・・・・。」


副使とは、領主に仕える補佐役の事。

話の流れを考えると、その副使が怪しいです。

かなり昔の話のようなので、今さらどうしようもありませんが・・・。

彼女がいたというのは、一体どこの領地だったのでしょうか?


「後で伝え聞いた話によると、その領地の新たな領主となった副使様もすぐ、領内で事故に遭い、亡くなったそうです。 最終的には王家の直轄管理地ちょっかつかんりちとなったと聞き及んでいます。」


「ま、待ってください! その領地をというのはもしや・・・!!」


突然亡くなった領主。

そして治安悪化で荒廃し、最終的に王家の直轄管理地となったその領地。

この数年で、そのような事態に陥った領地など、一つしかありません。

彼女が昔、居たと言う領地は・・・・


「あのときの私には力がなく、事件が起きた後では、成すすべが無かったのです。 大公様は、あの方のように優しく、慈悲深い方です。 昔のあの領主様の代わりというわけではないですが、私は彼をこの命を掛けても、守りたいのです。」


「つまり、あなたはカイト様の守衛役を買って出たいと・・・・?」


首を縦に振る彼女。

過去のトラウマから、彼の護衛をしたいと思ったのでしょう。

カイト様は魔族だからなど、種族による差別は一切しない方ですからね。

彼女の中で、前の主人と重なる部分があったのでしょう。

・・・が、未だ釈然としない部分があります。


「これまで迫害されてきた人間の、それも初対面の人間のために尽くすと・・・・?」


私の言葉に「う・・・。」と言葉をつまらせる彼女。

初対面で命をかしてまで尽くすなどという人間を、私は信じられません。

もし同じような『何か』があれば、手のひらを返す危険がはらんでいるわけですから。

その点で言うと王宮から連れて来た者たちは、あくまで王宮から『出向』という形になっているので、安心できます。

さて、彼女はこの質問に、どう答えてくるでしょうか?


「このような事を、大公様の奥様に、おっしゃって良いものか・・・」


頬を赤く染め、顔をうつむかせる彼女。

イヤな予感がします。

聞かずにおいた方が、あるいは幸せかも・・・・

いえいえ、質問をしたのは、私ではないですか。

彼女を知らなければ、話は進みませんよ!


「あなたは彼に、何をされたのですか・・・・?」


疑問をぶつけると、彼女は顔を赤らめながら、手を後ろに回しました。

ここからでは、背後がよく見えていないのですが、彼女が触っているのは多分、自分の尻尾。

ま、まさか・・・!!!


「誰かに触られたのは、アレが初めてでした。 申し訳ございません・・・・」


「そ、そうですか・・。」


前に、聞いたことがあります。

獣人の求愛行動の一つとして、尻尾を触れ合うというモノがあると・・・。

そして特に女性の獣人に関して言えば、相手の男性には忠義を尽くすと・・・。

カイト様、初対面の獣人に、なんて事をされているのですか!!


「あ、あの、大公様は獣人の習性を知らなかったのだと思います!! ですからその、私のような者がこのような事を進言するのは失礼に当たると思うのですが、私が彼に命をかけてもお守りしたいと考えるのは、その・・・・」


「・・・。」


頭痛がします。

彼女が常識人でなければ、教養が無くて、自制心などが無ければ、一体どういう事になっていたか。

彼もいい加減、領主なのですから、教養がほしいです。


「・・・ありがとうございます。 あなたには、とんだ迷惑を掛けてしまったようですね。」


彼女が彼に仕えたいと考える理由が、よく分かりました。

頭で分かっていても、本能として、自制が利かない部分もあるのでしょう。

その上でこのような行動が取れるのですから、彼女は十分、信用に値する人物であると言えます。


「カイト様は、すぐに行方不明になられる、問題児です。 メルシェードさん、あなたはそれを、四六時中監視できますか?」


「この命に掛けても、お守りいたします!」


彼は神出鬼没。

ある日突然いなくなったと思いきや、危険な行為をしてきたという事が、ザラにあります。

ちょうど彼の、お目付け役が欲しかった所ではあります。

常識を兼ね備えた彼女ならば、良きストッパー役となってくれる事でしょう。


でも彼には、後で言って聞かせねばなりませんね。

『今後、獣人には決して触るな』と。




治安悪化して、王家が管理した領地。

第71話をご参照ください。


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