第254話・妻を迎えに・・・
これからも、頑張っていきます。
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グレーツクの一角に現れた青い光と共に、白服の青年が転移してきた。
彼はここの領主であり、国王。
彼はベアルという土地を本拠にしているため、この土地にはこうして定期的に、転移を使って訪れているのだ。
こういう場合、普通であれば何人かの従者を連れているものだが、彼の傍らには誰も居ない。
「はあ・・・気が重いな~~。」
大きくため息をつき、重い足を引きづる。
先日、魔石関連でグレーツクへとやって来たカイト。
しかしその時はタイミング悪く、街を上げた祭りの真っ最中であり、祭りが終わるまでと、街を離れることを余儀なくされた。
その際、諸都合で連れて来ていた妻であるアリアの事を、失念してしまっていたのだ。
ざっと説明をすると、愛妻を1人で、グレーツクに置き去りにしてしまったのである。
ベアルからグレーツクまでの行程を考えると、彼女が既に発ってしまっている確率は、まずない。
屋敷に帰ってようやく、この事に気がつき、彼女を迎えに来たというわけだ。
恐らくアリアが居るであろう鉄道研究所に、今は向かっているのだが・・・
「怒ってるよな、きっと。」
置き去りにした期間、おおよそ3日半。
この街はいい人ばかりだし、そもそもルルアムと一緒だったはずなので、安全面は心配ない。
あの時に置いて行ったのだって、良い感じにいっている2人の邪魔をしたくないからだった。
だが置き去りにしてしまったのは、紛れもない事実。
せめて声を掛けてから行くべきだったと思うが、今さら後の祭りであろう。
「お、小僧じゃねぇか。 こんなところで何やっているんだ??」
「あ・・皆さん・・。」
声を掛けてきたのは、グレーツクに住むドワーフさん一行。
鉄道研究所で働いてくれている人たちだ。
顔が赤いところを見ると、酒で飲んできたのだろうか?
うらやましい・・・
「こんにちは、良い天気ですね。」
「なんだその、定型的なつまらん挨拶は。 もっと気の利いた挨拶は出来ねえのか??」
『ははは』と乾いた笑みを漏らすカイト。
おっさん達は、相変わらずのようだ。
今はそんな心境ではないので、勘弁してほしい。
はあ・・・とため息をついて、肩の力を抜く。
「おう、何しなびたモヤシみたいになっているんだ、小僧?」
「とうとう領民に見放されたか?」
「ははは・・・もしかしたら、そうなるのかもしれません・・・」
まだ確定ではないが、きっと彼女はスゴイ剣幕だろう。
現状で彼女に見放されれば、ベアルやグレーツクはどうなる事やら。
想像に難くはない気がした。
俺なんかに、責任が取れるか心配。
「・・・何かあったのか?」
「俺の奥様がちょっと・・・そうだ! アリアを知りませんか!? おたくの研究所に居るはずなんですけど!!」
空けた期間は3日間。
その間に一度くらい、彼らは研究所に足を踏み入れたはず!
今、アリアがどうしているのかを知っているかもしれない。
「『ありあ』ってのは、地震の時にお前の横に居た別嬪さんの事か?」
「ああ、そういえばこの数日間、ルルアムと一緒に赤毛の女が居たっけな。」
ええ、間違いありません。
その人がアリアです。
彼女がどのようにしていたか、お聞かせ願いたい。
そして、心の準備をしておきたい。
「あー、どうしていたっけな?」
「んーーーーーー。」
「「「・・・・・・・・・。」」」
「あ、そういえば・・・」
酒が回っているせいか、思い出すのに時間がかかった。
自分で聞いておいてなんだが、聞くのが怖くなってきた。
事件化していない事を、望みます。
「小僧。」
「はい!」
何を言われても関係ない。
どんな結果が待っていようと、俺は妻を迎えに行くのだ!!
うう、でもやっぱり怖いよぅ・・・。
「早く研究所に行け。」
「はい・・・?」
「耳が遠いのかテメエは!? さっさと研究所に行けって言ってるんだよ!!」
「ご、ごめんなさいーーーー!!???」
突如、おっさん達に怒鳴られたカイトは、脱兎のごとく研究所へと向かう。
どうして怒られたのか。
嫌な予感しかしない・・・・
◇◇◇
「思ったより近かったな・・・」
おっさん達に怒鳴られて以後、全力で研究所へ走ったカイト。
おかげでか知らないが、研究所にはあっという間に着いてしまった。
研究所の建物が、いつにも増して大きく見えるのは気のせいか?
「ガロフさん達のあの反応、そういう事なんだろうな・・・」
この研究所に居るはずのアリアの近況を聞いた途端、彼らに早く行くよう怒鳴られた。
メチャメチャ不吉だ。
恐らくは、アリアの怒りで、この研究所が揺れに揺れまくったのだろう。
彼らは俺に、『早くこの事態を収めろ』と言いたかったに違いない。
ウチの者がご迷惑を、お掛けしました。
・・・・いや、そもそも俺のせいでしたっけ。
「最初にアリアに会ったら、まずは謝るか。」
入った後のシミュレートを、脳内で試みる。
まずは渾身のスライディング土下座。
平伏低頭のままで、謝罪をする。
手足の何本かは、覚悟しておいたほうがよかろう。
地震が治まるまで、治癒魔法を使うのは禁止。
まだアリアに会う心構えが出来ていないのだが・・・
否!!
俺は妻を迎えに来たのだ。
先延ばしにして、どうなる!?
自分に発破を掛けて、重い研究所のドアを開ける。
「お邪魔します、アリアは・・・あ。」
ドアをくぐった瞬間、廊下の先に居るアリアと目が合う。
ハンカチで手を拭いているところをみると、お手洗いに行っていたのかな?
いつもながら、タイミングが良いな。
遠目でよく見えないが、あちらも俺を見て驚いている様子。
とりあえず無事のようで、ホッとした。
「・・・アリア。」
俺が声を掛けた瞬間、彼女は俺から視線を外してそのまま行ってしまう。
俺なんか、居ない風を装っているのが分かる。
「待ってアリア! 置いて行かないで、俺が悪かった!!」
どっかのホームドラマのワンシーンでも使われていそうな台詞を吐いて、アリアの左手をつかむカイト。
振り向いた彼女は、プクッと頬を膨らませて俺を睨んでくる。
これはこれで可愛い顔だが、背後に立ち上る怒りの炎で、そんな考えは瞬時に霧散する。
この状況下で最初に、彼の頭に浮かんだ彼女に掛ける言葉は一つ。
「ごめんなさい!!」
「・・・・何がですか?」
アリアは俺に、冷たい視線を送ってくる。
弁解はしません。
「置いて行って悪かったと思ってます。 申し訳ございませんでした!!」
「私が一体、どういう思いでグレーツクに残されたのか、それをよく考えてくださいませ!!」
「ほ、本当に、ごめんなさい・・・!」
怒鳴るように、アリアが俺を叱責する。
黙って、鉄道の地盤調査に行ってしまったものな。
怒られて、当然のことだろう。
先ほどの大きな声を聞きつけてか、ルルアムが扉を開けて出てくると、俺たちの経過を見守る。
「本当に、本当に心配したんですからね・・・・!」
ダムが決壊するように、アリアの目からボロボロと涙が零れ落ちていく。
特に怒られることは無く、終始心配されていた事を思い知らされた。
「置いて行ってゴメン。 さあ、ウチに帰ろう。」
ベアルには、皆が待っている。
早くベアルに帰ろうか、アリア。
今日は、ウチから遠いような近いような場所で、春一番が吹いたそうです。
でもまた明日から、寒くなるそうです。
皆さんも体調管理には十分、気をつけてくださいね。
私も気をつけます・・・




