第252話・いただきます
これからも、頑張っていきます。
感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい!
「こっちの地盤は問題ないな。 そっちは地盤は固いけど、坂が急だからダメと・・・」
「カイト殿様。」
あっちはダメ、こっちはいい、カイトの鉄道の地盤調査は、大詰めを迎えていた。
今のペースならば、夕方にはベアルの屋敷に帰りつけるだろう。
概ね、計画ルート通りに、鉄道は敷設できそうである。
「カイト殿様・・・」
時間は、まだ昼前。
背中にはヒカリと昨日拾った女性を背負っており、そこそこ重さがある。
その影響で、昨日よりも動きが若干、鈍ってしまう。
「カイト殿様ぁ・・・」
「うるさいなー、気が散るから黙っててよ。」
先ほどから、後ろをついてくるメイドさんがうるさい。
声を掛けられると、今やっている作業に集中できなくなってしまう。
日ごろ『私は最強』と言いふらしているのだから、今こそ、その最強っぷりを発揮して頂きたいところだ。
「カイト殿様、お待ち下さい、私はもう・・・」
「もう! だらしないなー、朝食はちゃんと食べたでしょ!?」
昨夜に行われた、ダリアさんとの朝食を掛けた勝負。
彼女に少し、お灸を据えるため、このような事を提案させていただいた。
勝負は俺が勝ったものの、結局は示談となり、彼女の飯抜きはナシになった。
まあ、引き換えに夜寝ずの番はしてもらったけどね。
自分から言ったわけだし、朝まではピンピンしていた様に見えたが。
「カイト殿様ぁ・・私は今までの疲れと、頭痛で今にも死にそう・・・」
「・・・あー分かったよ、少し休憩しよう。」
とうとうダリアさんが泣き出したので、調査を中断して休憩をとる事に。
これで今日の休憩2回目。
頭痛は俺が彼女を殴ったことに起因するものだろう。
彼女の自業自得なので、同情の余地はない。
それにしてもダリアさんは、根性がなさ過ぎる!!
「カイト殿様が、規格外すぎるんですよ・・・」
「心、読まないでくれるかな?」
背中の2人を近くの石に座らせ、カイトも一服する。
ダリアさんは全身を背後の大木にあずけ、俺を恨めしそうに睨みつけてくる。
出会った頃は怖かったが、今は慣れて、むしろ愛らしくしか見えない。
言動を慎んでくれればの話だが。
「もう少し歩けば、ベアルに着くから。 それまでの辛抱だよ。」
「・・・それは私の心を折るための、嫌味ですか?」
どうして、そこまで睨む?
ここは先がやっと見通せて、喜ぶところであろうに。
と思っていたら、さらに失礼なことをダリアさんは大声で言ってきた。
「ヒカリ様方も、このバケモノに何か言ってくださいませ。」
「誰がバケモノかー!!」
地球から来た俺からすれば、人間の姿をとっているドラゴンのあなたの方が、ずっとバケモノです。
失礼にも程がある。
あとヒトを指差すな!
「お兄ちゃん、それより私お腹すいた。」
「え、もうそんな時間?」
ヒカリがお腹の辺りをさすりながら、俺に食欲を訴えてきた。
朝から調査を開始して、早数時間。
持ってきた時計を見れば、12時を優に回っていた。
集中している間に、いつの間にか時間が過ぎてしまったようだ。
なるほど、ダリアさんの『休憩』は妥当だったというわけか。
時間が経つのって早いね。
「じゃあ昼食にしようか。 もう少しでベアルに着くから、パーッと行こう!」
アイテム・ボックス一掃パーティー。
中に入っている料理を、ここで食べてしまおう。
料理は基本的に出来ないので、食材はそのままだけど。
念のために多くもらっていた『蒼き炎竜亭』の料理を出していき、皆の前に並べていく。
いつもは平等によそうのだが、今日ぐらい好きなものを取る形にしよう。
ダリアさんは、なるべく自粛してね。
無くなっちゃうから。
「ん、どうしたのダリアさん・・・・・?」
「・・・・。」
いつもなら『食事』と聞いたら飢えたハイエナのようになるダリアさんは、どうしてか料理から視線を外し、背後の森に注視している。
心、ここにあらずといった雰囲気だ。
「カイト殿様、あちらの方角から、大変においしそうな匂いがするのですが・・少々食べに行ってもよろしいですか?」
「あっち? なんか居る??」
「ええ・・・・」
ダリアさんが、注視する方向。
軽く探索魔法を張ってみるが、特に何も居そうにない。
なんだろう、ダリアさんは野生動物の狩りに行きたいのだろうか?
「料理は食わないの?」
「申し訳ございません、今はいいです。」
好物の料理を前にしたダリアさんが、そこまで言うとは。
これは、よっぽど美味いモノに違いない!
・・・・彼女基準では。
なんやかんや言って、ダリアさんはドラゴンだ。
俺と出会う前は料理なんか知らなかったらしいから、食事は恐らく、その辺の動物の生食であったろうと考えられる。
彼女は無性に、それが食いたくなったのだろう。
俺には分からない感覚だが、たまには自然素材のまま、食したいのかな?
「別にいいけど、あまり時間はかけないでね? あとお残しも駄目。」
万物には感謝せよ。
好き嫌いはいけません。
何の動物を食うかは知らないが、食い散らかすのだけは許しません。
狩ったら全部、残さず食べること!
あと食事前の『いただきます』も、忘れずにね。
「承知しました!!」
先ほど訴えていた『疲れ』はどこへやら。
カイトの命令を残さず聞いた後、ダリアさんは脱兎のごとく森の中へと駆け出して行った。
よっぽど嬉しいんだね。
当分食べられないだろうから、思うずんぶん、味わってくるといいよ。
「さ、俺たちも食べようか。」
「いただきまーす!」
「い・・、イタダキマス?」
カイトたちはそれぞれ思い思いに、森の中での最後の食事を開始した・・・
◇◇◇
「分からぬ・・・」
魔の森の中で、魔王様の命令で探索を続ける魔族たちは、首をひねり続けていた。
部下と共に茂みに隠れながら、監視しているのは4人組の一団。
見たところ人間は白服の青年1人で、他に獣人、魔族、気配隠蔽の魔法でも使っているのか正体不明が1人ずつ。
このメンバー構成も分からないが、何より分からないのは、人間の青年だ。
見たところ一番ヒョロくて弱そうに見えるのだが、気配的には一番の実力が垣間見える。
昨日の夜に行っていた、隣に居る従者のような少女との戦いは、あまりに苛烈であった。
見ているだけだというのに、こちらは命の危険を感じたぐらいだ。
今思い出すだけでも、身震いが止まらない。
人間風情がどこに、そのような力を有しているのか、さっぱり分からない。
「このままの監視活動は、危険なのでは?」
「ふむ・・・エルガンティア様の救出を、急いだほうが良いやも知れぬな。」
あのような正体不明の一団に、エル様が身を置くのは危険である。
スキを突いて、彼女を救い出し、この事を魔王様にご報告差し上げねば。
森を抜けられては厄介なので、そのまえに機会をつかまねばならないだろう。
「よし、お前達はあの一団の前に先回りせよ。 前方に注意を向けさせて、そのスキに私がエルガンティア様の救出を・・・」
「食うのが面倒なので、あまり散らばらないでくださいますか?」
「は・・・?」
突如した聞き覚えのない女性の声に、魔族たちは驚きの声と共に後ろを振り返った。
そこに居たのは、先ほどまで一団の中にいた、正体不明の従者の女。
魔族数人を前にしているというのに、その顔からは、まったく恐怖は感じられない。
「な、なぜだ!? なぜ我々の居場所が分かった!??」
すぐに臨戦態勢に入る魔族たち。
おかしい。
能力過多とは思ったが念のため、我々は最高の気配隠蔽を行使していたはず。
そこいらの者に、それも人間ごときに、この魔法が見破れるはずはない。
「フフフ・・・知る必要はないでしょう? あなた達はもうすぐ、死ぬのですから。」
「ちっっ! 所在を知られたからには生かしてはおけぬ!! 貴様こそ死ね!!」
女魔族の声に呼応し、部下達が一斉に魔法攻撃を開始する。
こやつは、正体が不明であり、その魔力などは未知数だ。
一人として、手加減はしない。
所詮は人間、これでヤツは、チリも残さず死ぬことだろう。
笑うのは、こちらだ。
フハハハハハハ!!!!
「フフフ、活きのいい魔族ですね。 とても美味しい。」
「な・・・!!?」
土ぼこりが晴れると、そこには先ほどの従者姿の少女が、無傷で佇んでいた。
彼女は抱きかかえるように、ズタズタに引き裂かれた魔族の遺体を喰らっていた。
よく見ると少女の口からは、赤い血が垂れており、口をモゴモゴと動かしているように見える。
ヤツを取り囲んでいたはずの部下達も、そのほとんどが戦闘不能に陥っている。
この信じがたい光景を前に、怒りより恐怖の感情が、女魔族らの胸中に湧き上がった。
「こやつの魔力、とても美味しいですよ? やはり魔族は味が違いますね。」
「魔力吸収だと・・? 貴様は一体、何者なのだ!?」
『魔力吸収』
高等の魔法生物のみが可能な、食べた相手から魔力をも奪ってしまう能力だ。
しかしそれは、魔族ですら有していない能力であり、まして人間風情が有しているはずはない。
この少女のスキル透視を使っても、依然正体は不明のままだ。
少なくとも、人間や魔族ではないらしい。
ここは危険だ。
エルガンティア様どころではない、魔族全体の脅威が迫っている。
一刻も早くこの事を、魔王様に知らさねばならない。
「私がこのバケモノを始末する! 貴様達は魔王城へ戻り、この事を魔王様に報告せよ!!」
「ぎょ・・御意!!」
「逃がしはしません。」
魔族たちの移動速度よりずっと速く、その少女は部下の魔族たちを打ち倒す。
魔力吸収をした影響か、一挙手一投足に強力な力が加わっているのが分かる。
あっという間に、動けるのは彼女1人だけになってしまった。
そして、部下達を食べきった少女の体に、変化が生じ始めた。
体が巨大化し、トカゲのような形に、体が変化していく。
「き、貴様、いや、あなたは・・・・!!」
「ん? ああ・・魔力量が不安定になったせいで、本性が出てしまいましたか・・・」
思わず、使う言葉が敬語になってしまう。
姿を現したのは、赤いドラゴン。
部下の魔族たちが束になってかかったところで、勝てるはずがない。
いや、魔王軍六魔将を司る自分の力をもってしても・・・・
気配が悟れぬはずだ。
まったく最悪だ、ここは下手に出るほかに、助かる道筋はないだろう。
「ドラゴン殿、お願いしたき儀がございます! 私たちはある使命を帯びておりまする。 どうか今回は見逃してはくれまいか!??」
魔族とドラゴンでは、魔力も体力も格が違う。
勝負ごとでは、とてもこちらに勝ち目はない。
だがこちらには、魔王様直々に下された使命があるのだ。
それを済ませるまで、見逃してほしい。
その後ならば、この命、どうなっても良い。
「料理ごときが、ドラゴンである私に指図すると?」
「ぐ、ぅぅ・・・・!!」
ドラゴンの放つ威圧で、気圧される女魔族。
なんと途轍もない魔力・・・
息をするのすら、苦しい。
体が空気に縫い付けられるように、動かなくなる。
これが恐怖・・・
「そうそう、食事前の感謝の言葉を、まだ述べていませんでしたね・・・・」
「ああ・・・・」
ドラゴンはこちらを見据え、舌なめずりしている。
ダメだ。
自分はもう、助からない。
尾行などせず、一度魔王城に戻り、魔王様にご報告差し上げていれば・・・
このドラゴンの魔力のせいで、魔王様との思念話は途絶している。
万事休すだ。
ドラゴンの大きく開けられた口が、こちらへと迫る。
「『いただきます』」
「ぐああああ・・・・・・!!!!!」
ダリアさんの『食事』は、女魔族の断末摩と共に終了した・・・
◇◇◇
「ぬぅ・・・・・!!」
「ま、魔王陛下いかがされましたか!??」
魔王城の玉座に座る魔王が、突如として苦悶の声を上げた。
彼は両手で頭を抱え、何やらブツブツと独り言を話して、スッと頭を上げる。
その顔色は、非常に良くない。
「魔王様・・・・?」
「『焔天の』が死んだ・・・!」
「ま、まさか・・・!?? ヤツは魔王軍随一の使い手、人間どもに見つかったところで負けるなどということは・・・!!」
この魔王軍には、六魔将という軍師が存在している。
特に今回、エルガンティア様捜索に派遣された『焔天の』と呼ばれた魔将は、この魔将の中でも随一の力を誇る。
しかも彼女が連れて行った部下は、魔王軍きっての選りすぐりの精鋭だ。
たとえ100万の人間軍を相手しても、負けることはないはず。
彼女の軍団が負けるなど、ありえない!
「魔王様、何かの間違いでは・・・?」
広い玉座の間に、この魔族の声だけが響く。
それと共に、魔王が腰掛けている椅子が、砕け散っていった。
彼の放つ魔圧で、室内の柱にも亀裂が走っていく。
「ヒイ・・・!!」
「・・・おのれ・・残りの魔将を集めよ、愚かな人間どもに血の制裁を下す。」
ズシリと重く、低い声が室内に響く。
一瞬、何を言われたか分からなかった部下は、思わず呆けてしまった。
が、すぐにそれは好機の色に染め上げられて行く。
「で、では魔王様、とうとう人間領に侵攻を・・・!!」
「魔王軍の兵士どもにも、通達を出すのだ。 魔族領全土に触れを出せ。」
「御意!!」
その魔族は、脱兎のごとく部屋を後にした。
残された魔王は怒りに肩を震わせる。
おのれ・・おのれ人間め。
エルに飽き足らず、我が配下まで血祭りに上げるとは。
許さぬ、許さぬぞ!!
「流された血は、血であがなってもらおう・・・。」
この屈辱は、決して忘れない。
魔王の鋭い眼光は、正面の人間領の方角へ、注がれるのだった・・・・
カイトは軽~く『探索魔法』を使ったので、この魔族たちに気づきませんでした。
一方のダリアさんは、うまそうだったので目をつけており、ずっと監視していたのです。
逃げないように。
そろそろ疲れもピークに達しており、頃合かなーと・・・考えたらしいです。
※明日の更新は、諸事情により停止させていただきます。
ご迷惑をおかけします。




