第251話・不思議な人、変わった人とも言う
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私は、生まれてからずっと奴隷だった。
親の顔は覚えていないし、どこで生まれたのかすら、知らない。
獣人だからと後ろ指を差され、他の奴隷たちに比べても、その待遇は良くはなかった。
しかし今までの人生、そう悪いことばかりではなかった。
前に買われたある貴族の屋敷では、私は下働きとして働いた。
その主人はとても優しく、ただの下働きであった私に、教育を施してくれた。
彼にはいつか、市民にしてやるとも言われた。
当時幼かった私は、その言葉に希望を感じたものだ。
・・・が、その希望はすぐに潰える事になる。
その貴族はある日、病で床に伏してしまい、まもなく、あっという間に死去した。
使用人として働いてきた者達は、一様にヒマを出された。
獣人である私は、再び奴隷として売られる運びとなる。
あの人が施してくれた『教育』というものは、ここで私には両刃の武器となった。
商会で奴隷の扱いに対して口を出し、商売のやる方法にも口を出した。
それが、悪かったらしい。
以来私は長い間、素行の悪い奴隷として、売れ残りとなってしまった・・・
◇◇◇
「なんてことをするんだダリアさんは!!」
ドスン!
「いたーーーーーーーーーーー!!!」
私の前には、3人の奇妙な集団が居る。
どうやら彼らは、『慈愛の大公様』の一行のよう。
若々しい青年が1人と、少女が2人。
うち1人が、見た目からして使用人のようだ。
「ほらダリアさん、謝って!」
「し、しかしカイト殿様、この方の耳がフサフサなのがイケないのだと・・・」
「謝って!!!」
「す、すみません、昨夜は少々追い掛け回しすぎたかもしれませぬ・・・」
「・・・。」
メイドの様な格好をした少女が、私に謝罪してくる。
彼女はどうも、人間ではないよう。
匂いや気配察知が優れている私たち、狼族の能力をもってしても、彼女が何族なのかは窺い知れない。
しかし、一つだけ分かる。
この少女もまた、昔の私のように貴族のような出で立ちのこの青年を、慕っているようだ。
彼女もあるいは奴隷として、この人に買われてきたのだろうか?
いや、首に枷が無いから、また違う理由だろうか・・?
どちらにせよ、2人が私なんかに心を割く必要は無い。
「私は、気にしてません・・・」
「そうか、そう言ってもらえると助かるよ!」
昨日、メイドの少女が話して聞かせてくれた。
彼はどうやら、ベアル領の大公様のよう。
彼の服装を見ても、それは間違いなさそうだ。
しかしなぜ、奴隷である私にここまで低姿勢なのか?
前述の私の優しき主人も、気高に振舞っていたというのに。
この人たちは、分からないことが多すぎる・・・。
「じゃあ、朝ご飯を食べたら出発しようか。」
「ワーイ、お腹ペコペコ!!」
「カイト殿様、殴られたお詫びに私は大盛りで!!」
食事にするという彼の言葉に呼応し、2人は思い思いの言葉を述べる。
な、なんと悠々自適な。
特に使用人の少女。
話などから、この青年が恐れ多き『大公様』だという事は分かった。
その『大公様』に、まるで敬意を払う素振りが見えない。
そういえば昨日の夜も、彼女は『大公様はドあほう』だと言っていたような・・・
いや、考えるのはよそう。
今までだって考えて、良い結果なんか一度も無かったではないか。
「はい君も。」
「・・・?」
差し出される、暖かな料理。
大公様が、直接に手渡しをしようとしているようだ。
これは、どういうことだろうか?
「ああ、どこからこんなモノを出したかって? 俺のアイテム・ボックスってのが便利でさ、中に入れたモノが時間を気にせずに入れておけるんだ。 この料理も、出来立てと一緒なんだよ?」
「!??」
教育を受けていた時、聞いたことがある。
モノを無限にしまうことが出来るという、大魔法が存在すると。
それは今まで、勇者しか成し得ない伝説の魔法と教えられたが・・・
いや、気になるのはそれではない。
「これを私に、くれるの・・・・?」
「当たり前だよ、朝食だよ??」
私は、彼らに助けてもらっただけの、ただの奴隷。
いわばお荷物でしかない。
昨日はつい、お腹が空きすぎていて、出されたモノを食べてしまった。
しかし本来、それは決してしてはいけない事。
私のような奴隷と彼のような貴族が、一緒に肩を並べるなど、あってはならない事なのだ。
どうしてそんな事を・・・!
「お兄ちゃん、この人震えてるよ?」
「ウソ、どうして!?? ごめん俺、なにか気に障るようなこと言った!?」
湧き上がる気持ちが、抑えられなくなる。
そのような事をされたら、私は・・・・
「どうして、どうして大公様は、私を人並みに扱って下さるんですか!??」
「いや、どうしてって言われてもなぁ・・・」
聞いてはならない事であることは、分かっていた。
奴隷が立場が上の者に質問などすれば、ヒドイ目に合わされるのが一般的。
でも今は、それでも構わない。
この方がどういうつもりで、自分を助け、傍に置いてくれているかの方が、ずっと気になる。
前の主人の姿と重なり、分かっていても、どうしても頭が誤解をしてしまいそうになってしまうのだ。
だが怒るようなことは無く、彼は腕を組んで考えるような素振りを見せる。
「うーん、特に理由は無いな。 君が生きているから、って言うんじゃダメかい?」
「・・・。」
ポリポリと頬をかき、はにかむ彼。
たったそれだけの理由で、奴隷である私を同列に考えてくれたということ?
こんな薄汚い私を??
「カイト殿様、私の分は?」
「分かっているよ、忘れていないったら。 さ、君もこっちに来なよ。 皆で食べよう。」
彼は違う。
彼はいつか見た、あの貴族のようだ。
いや、もしかしたら彼よりずっと・・・。
私ごときが願うなど、おこがましいとは分かっている。
でも彼の下で、働いてみたいと心の底から思った。
奴隷でも、自分の幸せを願うのは、悪いことではないだろう?
「ところで君・・・その耳カワイイね。 尻尾もフサフサ・・。」
カイトは、興味ひかれるように、獣人の彼女の頭上にある犬耳と、灰色の大きな尻尾に熱い視線を注ぐ。
彼も彼女の、ケモ耳などが気になるらしい。
「・・・カイト殿様?」
「お兄ちゃん?」
それをダリアさんたち2人が、睨みを利かせた視線を送り、けん制する。
声色はどこか、ドスが利いている。
ダリアさんのは、たぶん嫉妬から来るモノであろう。
ケモ耳は、彼女自身のものです。
「わ、分かってるよ! 本人の了解も無いのに触らないって!!」
「・・・あの、もしよろしければ、その・・・。」
「え、良いの!!?」
凄まじい速さで、彼は私の耳に飛びつく。
こんな耳、ずっと要らないと思っていた。
これのせいで差別されるなら、いっそ取ってしまおうかと思った時期もあった。
でも今は違う。
取らなくて、本当に良かったと思う。
「ふわー、ふにゃふにゃのフカフカ~~!」
「お兄ちゃん、いいなー。」
「ぐぬぬ、なぜカイト殿様が良くて、この私がダメなのですか・・・!!」
なんだか、くすぐったい。
でも決して、悪い気分ではない。
耳を触られている間、彼女はずっと暖かい気持ちになるのだった・・・
「ひゃうあ!!!???」
「あ、ゴメン。 尻尾はダメだった?」
「い、いいえ・・・。」
まさか尻尾まで触ってくるとは思わずつい、ヘンな声が・・・
彼は人間、獣人のしきたりを知るはずは無い。
それは分かっているのに体が反応して、火照ってしまう。
やはり尻尾はいっそ、とってしまおうか・・・?
どちらにせよ、彼の下で実際に働くかは、じっくり考えよう。
いつもこれでは、とても身が持ちそうに無い・・・・
カイトは知らずに、この獣人の尻尾を触ってしまいました。
これは獣人にとって、求愛行動につながる行為です。
詳しい説明はまた、後にするとして・・
もちろん彼女は、彼がその気でないことは分かっているので、踏み込む事はしないでしょう。
本能的行動に走りそうになるので、今後彼に触らせることはしないでしょうが。




