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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第11章 鉄道の延伸計画
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第251話・不思議な人、変わった人とも言う

これからも、頑張っていきます。

感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい!

私は、生まれてからずっと奴隷だった。

親の顔は覚えていないし、どこで生まれたのかすら、知らない。

獣人だからと後ろ指を差され、他の奴隷たちに比べても、その待遇は良くはなかった。

しかし今までの人生、そう悪いことばかりではなかった。


前に買われたある貴族の屋敷では、私は下働きとして働いた。

その主人はとても優しく、ただの下働きであった私に、教育を施してくれた。

彼にはいつか、市民にしてやるとも言われた。

当時幼かった私は、その言葉に希望を感じたものだ。


・・・が、その希望はすぐに潰える事になる。

その貴族はある日、病で床に伏してしまい、まもなく、あっという間に死去した。

使用人として働いてきた者達は、一様にヒマを出された。

獣人である私は、再び奴隷として売られる運びとなる。

あの人が施してくれた『教育』というものは、ここで私には両刃の武器となった。

商会で奴隷の扱いに対して口を出し、商売のやる方法にも口を出した。

それが、悪かったらしい。

以来私は長い間、素行の悪い奴隷として、売れ残りとなってしまった・・・


◇◇◇


「なんてことをするんだダリアさんは!!」


ドスン!


「いたーーーーーーーーーーー!!!」


私の前には、3人の奇妙な集団が居る。

どうやら彼らは、『慈愛の大公様』の一行のよう。

若々しい青年が1人と、少女が2人。

うち1人が、見た目からして使用人のようだ。


「ほらダリアさん、謝って!」


「し、しかしカイト殿様、この方の耳がフサフサなのがイケないのだと・・・」


「謝って!!!」


「す、すみません、昨夜は少々追い掛け回しすぎたかもしれませぬ・・・」


「・・・。」


メイドの様な格好をした少女が、私に謝罪してくる。

彼女はどうも、人間ではないよう。

匂いや気配察知が優れている私たち、狼族の能力をもってしても、彼女が何族なのかはうかがい知れない。

しかし、一つだけ分かる。

この少女もまた、昔の私のように貴族のような出で立ちのこの青年を、慕っているようだ。

彼女もあるいは奴隷として、この人に買われてきたのだろうか?

いや、首に枷が無いから、また違う理由だろうか・・?

どちらにせよ、2人が私なんかに心を割く必要は無い。


「私は、気にしてません・・・」


「そうか、そう言ってもらえると助かるよ!」


昨日、メイドの少女が話して聞かせてくれた。

彼はどうやら、ベアル領の大公様のよう。

彼の服装を見ても、それは間違いなさそうだ。

しかしなぜ、奴隷である私にここまで低姿勢なのか?

前述の私の優しき主人も、気高に振舞っていたというのに。

この人たちは、分からないことが多すぎる・・・。


「じゃあ、朝ご飯を食べたら出発しようか。」


「ワーイ、お腹ペコペコ!!」


「カイト殿様、殴られたお詫びに私は大盛りで!!」


食事にするという彼の言葉に呼応し、2人は思い思いの言葉を述べる。

な、なんと悠々自適な。

特に使用人の少女。

話などから、この青年が恐れ多き『大公様』だという事は分かった。

その『大公様』に、まるで敬意を払う素振りが見えない。

そういえば昨日の夜も、彼女は『大公様はドあほう』だと言っていたような・・・

いや、考えるのはよそう。

今までだって考えて、良い結果なんか一度も無かったではないか。


「はい君も。」


「・・・?」


差し出される、暖かな料理。

大公様が、直接に手渡しをしようとしているようだ。

これは、どういうことだろうか?


「ああ、どこからこんなモノを出したかって? 俺のアイテム・ボックスってのが便利でさ、中に入れたモノが時間を気にせずに入れておけるんだ。 この料理も、出来立てと一緒なんだよ?」


「!??」


教育を受けていた時、聞いたことがある。

モノを無限にしまうことが出来るという、大魔法が存在すると。

それは今まで、勇者しか成し得ない伝説の魔法と教えられたが・・・

いや、気になるのはそれではない。


「これを私に、くれるの・・・・?」


「当たり前だよ、朝食だよ??」


私は、彼らに助けてもらっただけの、ただの奴隷。

いわばお荷物でしかない。

昨日はつい、お腹が空きすぎていて、出されたモノを食べてしまった。

しかし本来、それは決してしてはいけない事。

私のような奴隷と彼のような貴族が、一緒に肩を並べるなど、あってはならない事なのだ。

どうしてそんな事を・・・!


「お兄ちゃん、この人震えてるよ?」


「ウソ、どうして!?? ごめん俺、なにか気に障るようなこと言った!?」


湧き上がる気持ちが、抑えられなくなる。

そのような事をされたら、私は・・・・


「どうして、どうして大公様は、私を人並みに扱って下さるんですか!??」


「いや、どうしてって言われてもなぁ・・・」


聞いてはならない事であることは、分かっていた。

奴隷が立場が上の者に質問などすれば、ヒドイ目に合わされるのが一般的。

でも今は、それでも構わない。

この方がどういうつもりで、自分を助け、傍に置いてくれているかの方が、ずっと気になる。

前の主人の姿と重なり、分かっていても、どうしても頭が誤解をしてしまいそうになってしまうのだ。

だが怒るようなことは無く、彼は腕を組んで考えるような素振りを見せる。


「うーん、特に理由は無いな。 君が生きているから、って言うんじゃダメかい?」


「・・・。」


ポリポリと頬をかき、はにかむ彼。

たったそれだけの理由で、奴隷である私を同列に考えてくれたということ?

こんな薄汚い私を??


「カイト殿様、私の分は?」


「分かっているよ、忘れていないったら。 さ、君もこっちに来なよ。 皆で食べよう。」


彼は違う。

彼はいつか見た、あの貴族のようだ。

いや、もしかしたら彼よりずっと・・・。

私ごときが願うなど、おこがましいとは分かっている。

でも彼の下で、働いてみたいと心の底から思った。

奴隷でも、自分の幸せを願うのは、悪いことではないだろう?


「ところで君・・・その耳カワイイね。 尻尾もフサフサ・・。」


カイトは、興味ひかれるように、獣人の彼女の頭上にある犬耳と、灰色の大きな尻尾に熱い視線を注ぐ。

彼も彼女の、ケモ耳などが気になるらしい。


「・・・カイト殿様?」

「お兄ちゃん?」


それをダリアさんたち2人が、睨みを利かせた視線を送り、けん制する。

声色こわいろはどこか、ドスが利いている。

ダリアさんのは、たぶん嫉妬から来るモノであろう。

ケモ耳は、彼女自身のものです。


「わ、分かってるよ! 本人の了解も無いのに触らないって!!」


「・・・あの、もしよろしければ、その・・・。」


「え、良いの!!?」


凄まじい速さで、彼は私の耳に飛びつく。

こんな耳、ずっと要らないと思っていた。

これのせいで差別されるなら、いっそ取ってしまおうかと思った時期もあった。

でも今は違う。

取らなくて、本当に良かったと思う。


「ふわー、ふにゃふにゃのフカフカ~~!」


「お兄ちゃん、いいなー。」

「ぐぬぬ、なぜカイト殿様が良くて、この私がダメなのですか・・・!!」


なんだか、くすぐったい。

でも決して、悪い気分ではない。

耳を触られている間、彼女はずっと暖かい気持ちになるのだった・・・


「ひゃうあ!!!???」


「あ、ゴメン。 尻尾はダメだった?」


「い、いいえ・・・。」


まさか尻尾まで触ってくるとは思わずつい、ヘンな声が・・・

彼は人間、獣人のしきたりを知るはずは無い。

それは分かっているのに体が反応して、火照ほてってしまう。

やはり尻尾はいっそ、とってしまおうか・・・?


どちらにせよ、彼の下で実際に働くかは、じっくり考えよう。

いつもこれでは、とても身が持ちそうに無い・・・・



カイトは知らずに、この獣人の尻尾を触ってしまいました。

これは獣人にとって、求愛行動につながる行為です。

詳しい説明はまた、後にするとして・・

もちろん彼女は、彼がその気でないことは分かっているので、踏み込む事はしないでしょう。

本能的行動に走りそうになるので、今後彼に触らせることはしないでしょうが。

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