第249話・私は、何かしたでしょうか?
これからも、頑張っていきます。
感想などがありましたら、どんどんお寄せください!
また、私は生き残ってしまうのだろうか?
一体、これで何度目だろう。
暗い中、仲間達の悲鳴と魔物の咆哮だけが、辺りに響くのが聞こえる。
凄惨な光景が、目の前にありありと映し出されるようだ。
毛布越しだったといえ、かなり強く馬車に打ち付けられたらしく、動かそうとすると体が悲鳴を上げる。
当たり所が悪かったのか、意識が朦朧としていく。
薄れ行く意識の中、最後に言われた一言が、頭に反芻される。
『私たちの分も、自由に生きて!!!』
・・・私が生きて、それでどうなると言うのか。
私のような獣人は差別される対象で、人間達と同じに扱われることなどない。
生きても、辛いだけ。
この耳が無ければ、尻尾が無ければと、今まで何度思ったことか。
ただ獣人と言うだけで、奴隷と言う身分。
神様、私たちは何か、過去に過ちを犯したのでしょうか??
答えられることの無い疑問を最後に、彼女は意識を闇の中へと落としていった・・・・
◇◇◇
「お、良かった! 気がついたね!?」
「!!?」
目を開けて最初に飛び込んできた、白服の同年齢ぐらいの男性。
あまりに急なことに、彼女は大きく後ずさりをする。
困惑と共に、鋭い視線を彼らへと向ける。
どうやらカイトたちは、この女性に警戒をされているようだ。
まあ、そうなりますよね・・・。
傷は治癒魔法で治したから、別にいいけどさ。
「ふう・・・」
「カイト殿様、早く夕食を! 私は腹が空きすぎて死んでしまいそうです!!」
「待てよダリアさん、お客さんが先!!」
「ううぅ・・・・」
カイトに『待て』の指示を出され、焚き火の後ろに引っ込むダリアさん。
あなたは俺に、ため息をつく暇すら与えてはくれないのか。
夕食前にこんな事になってしまい、腹がすいているのは分かるが、まずは衰弱したこの生き残りの女性に何かを食わせなくては。
やっと生存者を見つけたのだから、せめてこの1人でも、丁重に保護したい。
先ほど捕ってきたソニック・シギーを鍋で煮込んで作ったスープを、女性の前に差し出す。
今回の事件で助けられたのは、結局灰色の髪の毛と耳を持つ、獣人の彼女1人だけ。
彼女は見たところ、あちこちがやせ細っており、奴隷であったことを考えても、少なくともここ最近は、マトモに食べていないとも考えられる。
だからこその、『スープ』だ。
いきなり消化の悪いモノを出したら、体調を崩してしまう恐れがあるからな。
地球知識だけど、基本的に異世界でも大きな違いはあるまい。
だがしかし、彼女はなかなか警戒を解いてはくれない。
お腹は空いているはずだと思うんだけど・・・・
うーん、毒でも入っていると思っているのだろうか?
バクバクガツガツ!
・・横から件のスープをかきこむ音が。
ひょっとしなくても、ひょっとしているだろう。
少しぐらい、ガマンしてほしかった。
「こら、ダリアさんまだだったら!!」
「もう我慢なりません! 私は食います!!」
ダリアさんの目が、ギラギラしている。
コワいよ。
それではまるで、獲物を狙う野生の狼だよ。
無垢な少女の見た目とは、あまりにもミスマッチだ。
が、ダリアさんの食うのを見て安心したのか、お客さんがスープを口に運び始めた。
図らずもダリアさんのコレが、毒見役としての効果を発揮したらしい。
うーん、結果オーライ?
「さ、俺たちも夕飯だ。 いただきます!」
「「いただきます!!」」
だいぶ遅い夕食になってしまった。
先ほどの事もあって探索魔法での警戒は怠らないが、今のところは特に、変わった様子は無い。
まあさっきから何人か、こちらを伺っている人たちがいらっしゃるようだけど、特にあちらからは接触が無いので、無視をする。
多分ちょっとした、通りすがりだろう。
「お兄ちゃん、この料理何?」
「うまいだろ、お好み焼きっていうんだ。」
地球名だけどね。
本当の料理名は、知らない。
彼女の評判は上場のようなので、良かった。
ちなみに俺は、ソースがたっぷりかかっているのが、好みだ。
この世界に、ウスターソースなんか無いけど。
「カイト殿様、このような事があったのです。 明日はこの森で休息いたしませんか?」
「ダメだよ、ベアルまではあとちょっとだろう? 屋敷に着いたら幾らでも休んでいいから。」
こんな森で、2日も野宿とかちょっとイヤだ。
どうせ残る距離はだいぶ少なくなっているのだから、ちょっとガマンしてほしい。
大袈裟に落ち込んでも、こればかりは譲れません。
何よりこの女性を、早くどうにかせねばならないのだ。
なるべく早く、ベアルへ赴いて、然るべき対処をせねばならないだろう。
そのためにも、明日休むなど言語道断なのだ。
彼女は火傷しないためか、少量ずつスススッとスープをかきこんでいる。
早速、聞きたいことから質問させてもらうか。
「ねぇ君、名前はなんていうの? 差し支えなければ、教えてもらえないかな??」
「・・・・・。」
スープを食す手を止め、その女性は顔をうつむかせた。
名前を言いたくないのだろうか?
もしくは名前に関して、何かしらのトラウマがあるとか・・・
だとすると、悪いことを聞いてしまったかもしれない。
「ご、ごめん、他意はないんだ。 純粋に君の名前が知りたくて・・・言いたくないなら言わなくていいんだ。」
「・・・・・。」
一言もしゃべることなく、再び彼女は食事の手を動かし始めた。
・・・さ、俺も食う・・。
「ど!? お、俺の分の食事が・・・!!!」
話し込んでいるうちに、いつの間にやらカイトの前に並べられていた夕食が、カラッポになっていた。
まさか、野生動物にやられた!??
いや、その判断は性急に過ぎるだろう。
きっと犯人は、メンバーの中に居る!!
一番、疑わしいのは・・・
「ダリアさん、俺の分まで食ったろ!?」
「食べましたが、何か?」
ダリアさん、まさかのあっさり自白。
隠すとか言う考えは、毛頭ないらしい。
いや、何をちゃっかり他人の分まで食べてるんだよコンチクショー!!
『蒼き炎竜亭』の料理は、好きなので、カイトの怒りはひとしおだ。
食い物の恨みは、恐ろしい。
カイトからは、怒りの焔が湧き上がる。
「ダリアさん、そういえば少し前に『遊ぶ』約束をしていたよね? 明日の朝ごはんをかけて、勝負しない?」
「ほほう、これまた酔狂な・・・望むところです。」
そう言って、薄笑いを浮かべるダリアさん。
『酔狂』などとは言っているが、彼女はノリノリである。
俺も彼女に一言、謝らせるため、全力でいかせてもらう。
人気のない森で、助かった。
双方すっと立ち上がると、その姿を森の中へと消していく。
ヒカリと獣人の女性は、それを黙って見送ることしか、出来なかった・・・・
事後の森の後片付けは、きちんと行われました。
自然破壊、ダメ絶対。




