第248話・発見!
作者がニガテなはずの、ちょいスプラッタ描写ありです。
苦手な方は、ご注意下さい。
「なんだ、これは・・・!!」
辺りに広がる光景を前にして、憤慨やるたかないと言った面持ちで、カイトは驚きの声を上げる。
5台の馬車が壊され、残骸が散らばっている。
それに寄り添うようにして、多くの血濡れの人間の死体が、転がっていた。
文字通り、辺り一面は血の海である。
「く・・!」
血の匂いが、鼻をつく。
暗闇のせいでよく見えないのだが死んだ人間は、その多くに枷がはめられているように見える。
奴隷さんたちか・・俺の領地に向かっていたのだろうか?
死のにおいに周囲がまかれる中、視界の中には3体の動く何かが見えた。
これが先ほど垣間見た、生き物のようだ。
『オーク』と言ったっけ?
何かに気をとられているようで、まだこちらの存在には気がついていないようだ。
「ほほう、オークは人間の奴隷商の隊列を狙ったようですね、何とも彼等らしい。」
感心仕切りと言った風に、声を上げるダリアさん。
俺はオークを知らないが、彼女は知っているようだ。
この状況で彼女に、聞きたい事は一つ。
「ダリアさん、オークって話は通じるかい?」
「そうですね・・・頭が悪いので、明日には忘れるかと。」
ありがとうダリアさん。
どうやら、話は通じないらしい。
だとしたら今後のためにも、こいつらは倒しておいた方がよさそうだ。
「ダリアさん、お腹すいているんでしょ? 焼いてあげるから食べたら?」
「イヤですね、オークの肉はくさくて、食べられません。 私はグルメなんです。」
「あ、そ。」
食べる気はないが、倒す気はあるようで、彼女が戦闘モードになる。
重力操作して一気にカタをつけようかと思ったけど、やめた。
これだけ凄惨なことをしたのだ。
彼らにも、同じ位の苦しみを味わっていただくとする。
「ヒカリ、お前はここに居ろ。 まったく留守を頼んでおいたのに・・・!」
「ごめんなさい・・・」
うつむき加減に、謝ってくるヒカリ。
付いて来てしまったモノはしょうがない。
せめて彼女に危害が及ばないよう、気がけなくては。
「ダリアさん、俺は結界を張る! 思う存分やっておしまい!!」
「承知しました!!」
カイトの掛け声と共に、ダリアさんはオークの中へと飛び込んでいった。
なんだか彼の一人称が、ビミョーにおかしかった。
◇◇◇
ダリアさんの『思う存分』。
あれはスゴイの一言に尽きた。
もうね、オークをおもちゃにしていたよ。
見ていたこっちが、申し訳ない気持ちになったね。
あれが世紀末の光景なのだろうかと、思ってしまったよ。
任せてごめんなさい、せめて成仏してオークさん。
南無阿弥陀仏・・・
と言うわけで、彼女の蹂躙シーンは割愛。
「カイト殿様、何もそこまでせずとも・・・・」
「何を言っているんだよ、死んだら皆同じ。 供養しないと。」
「くよう?」
オーク含め、ご遺体は丁重に葬らせていただいた。
死ねば平等に、供養をしてやらねばならない。
この世界で仏が居るかは不明だが、これは気分の問題なのだ。
居ると思えばいる。
ダリアさんが怪訝な表情を浮かべているけど、それは気にしない。
供養がてら、悪いとは思ったが奴隷さんたちの『隷属契約書』も燃やして灰にさせてもらった。
死んだあとまで、奴隷である必要なんかない。
同様に遺体に着けられた枷も、壊して外させてもらった。
だが、カイトの心は少しも晴れない・・・・
「もう少し早く到着していれば、誰かは救えたろうにな・・・」
はあぁ・・・と深いため息をつくカイト。
結局、見渡す限り生きている者は誰も居なかった。
駆けつけるのがもう少し早ければ、誰かは救えたかもしれないが・・・
残念だ。
「後悔など、あなたには似合いませんよ。」
「・・・ありがとうダリアさん。」
彼女は、俺を慰めてくれるようだ。
ダリアさんも一丁前に、人を気遣うと言う事ができるようになってきたらしい。
そうだな、後悔なんかしても始まらない。
「あなたにはいつも通りバカで居てもらわなければ、この先お傍に居ても楽しくありません。」
「台無しだよ!!」
なんだよバカで居ろって!?
現状の俺を馬鹿にするのは良いとして、この先の長い人生あなたの為にバカになど、なりたくありません!!
まったくヒトがシミジミしていたって言うのに、まったくこのヒトは!
「あれ、そういえばヒカリは??」
「さて?」
ヒカリが見当たらない。
さっきまで俺の横で、手を合わせていたのに!
どこ行った!??
すぐに周囲に探索魔法を展開するカイト。
森の中全体に、効果が及ぶようにする・・・と。
ヒカリの気配は、すぐ近くの倒れている馬車の中からした。
何か探している風にも見えるが・・・。
とりあえず、ホッとした。
っていうかダリアさん、気がついてたでしょ??
「ダリアさん、気がついているのなら言ってよ・・・。」
「さて?」
吹けていない口笛を口ずさみながら、ダリアさんは明後日の方向を見る。
ばっくれるのだけは、一人前だ。
まったく誰に教わったのやら・・・。
ため息を漏らし、カイトは馬車に顔を突っ込む。
どうやら無事のようで、ホッとした。
「どうしたんだヒカリ、何かあったのか??」
「お兄ちゃん、この毛布、動いてるよ?」
「何!?」
ヒカリが指差す一枚の毛布。
彼女の言うとおり、微かに動いているようにも見える。
先ほどは気がつかなかった。
もしかしたら、生存者かも知れないぞ!!
カイトは希望を胸に、『救助活動』を行うのだった・・・
◇◇◇
「まったく、あのバカ共め・・!!!」
茂みに身を隠した女魔族は、思わず舌打ちする。
少し前に魔王様から『全てを焼き払おうとも、エルを探せ』との命を受けた彼女。
・・・が、まさかそれを鵜呑みにして、すぐに国土を焦土に変える愚行はしない。
それは本当の、最終手段とするのだ。
これまで目立つ行動は極力差し控え、隠れるように探索を行ってきた。
だと言うのに。
「オークどもはどうやら、人間の女の匂いを嗅ぎつけたようにございます。」
「くそっっ!!」
行方不明のエルガンティア様探索のためとは言え、兵力不足をオークなんかで賄ったのが、悪かった。
急に居なくなったと思ったら、いつの間にか人間の商隊を襲っていたのだ。
『目立つような行動は差し控えよ』と、あれほど厳命したのに奴らはもう、忘れたらしい。
「魔将様、このままでは我々の探索が、遅れるばかりでございます。」
「ちっっ・・! 仕方がない。」
部下が、探索の遅れを心配する。
これが知れれば、魔王様がどれほどお怒りになることか。
致し方ない。
オーク含め、我々の存在を知られないためにも商隊には消滅してもらおう。
商人ぶぜいが行方不明になったところで、国は介入しては来まい。
オーク共にも、ここで視界から消えてもらう。
役立たずには、死あるのみだ。
しかし茂みから飛び出そうとした瞬間、ただならぬ気配を察知し、彼女らは再び茂みに身を隠れた。
やって来たのは、妙な出で立ちの男女の2人組みであった。
何だ、アイツらは??
疑心に駆られる彼女らだったが、その表情はすぐ、驚愕のものへと変わった。
「バカな・・・・・!!」
部下含め、女魔族は目の前の光景に思わず、目を見張った。
使用人らしい人間の子供が、たった1人でオークを皆殺しにしてしまったのだ。
早すぎて、魔族たちは誰一人として、何が起きたのかを目に捉えることは出来なかった。
隣の白服の男が張る障壁魔法もそう。
あんな強度のものは、魔王様ですら張れないかもしれない。
いや、何より問題なのは。
「魔将様、あの男の後ろに居るのは・・・!」
「分かっている、しかし何故・・・・?」
白服の男の後ろに居る、黒髪の女の子。
発せられる魔力の波動を考えても、まず間違いない。
あれはエルガンティア様だ。
やっと見つけた!!!
「魔将様、あの人間どもを倒し、早くエルガンティア様を救出いたしましょう!!」
「いや待て、それにしては様子がおかしい。」
最初見たときは、てっきり捕虜にされているものと思った。
だがエル様の幼い言動、そして注意を受けた時のあの態度。
虜囚の身にしては、どうにも腑に落ちない行動が多く見受けられる。
それに彼らの『力』も未知数の現状で、飛び出すのは得策ではない。
ここはしばらく、様子を見てみよう。
「しばらく奴らを監視する。 決して悟られぬようにせよ!」
「「「御意!!」」」
魔族たちは、カイトたちの尾行を開始するのだった・・・・
まだ続きます。




