第247話・襲われた商隊
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先ほどから、足が痛い。
歩き疲れているのではない。
後ろの方が、俺の足をけってくるのだ。
ゲシゲシと。
「・・・ダリアさん、いい加減やめてくれない?」
「なぜ宿に泊まらなかったのですか? 泊まると仰ったではないですか・・!!」
「それについては、謝っているじゃないか。」
鉄道の地盤調査2日目の夜。
予定とは違い、カイト達の姿は魔の森の中にあった。
辺りに魔力灯などはなく、暗闇と静寂が、森の中を包んでいく。
頼りは周辺を照らし出している、メラメラと燃える焚き火だけ。
ダリアさんが怒っているのは、まさにその点である。
今日は宿に泊まると言ったのに、現状は森で野宿だ。
生理的にイヤなのではなく、明日の食事が不安なのだ。
食い物の恨みは、恐ろしい。
「せっかく明日も、美味な食事にありつけると思っておりましたのに。」
「気になるんだよ、魔族が出るっていうのが。 もしかしたらヒカリの素性が分かるかもしれないわけだし。」
「?」
自分の話題となったことが不思議なのか、ヒカリが小首をかしげる。
彼女は4年前に、森で記憶をなくした状態で拾ったのが、そもそもの出会いである。
すぐに彼女が魔族であるということは判明したのだが、彼女が何者なのか、どうして1人だったのか、今でも分からないことが多い。
もし近くに魔族が居るのであれば、もしかしたら何か、有益な情報を聞くことが出来るのではと思った次第だ。
むろん、アブなくなったら逃げるが。
会う人全員が口をそろえて、『魔族は危険だ』というのが、何とも気にはなるし。
「は~、ダリアさんも俺の足をける暇があったら、テントを張るの手伝ってよ。」
「そんなもの、魔法でやってしまえば良いではないですか。」
ダメなんだよ。
魔の森だと、どうにも魔法の制御が利かなくて、テントを張るつもりが家が建ったりするんだよ。
きっとこれは、魔素が濃いせいに違いない。
1泊しかしないのに家を建てても、勿体無いし、往来の邪魔である。
アイテムボックスにテントが入っていなかったら、どうなっていた事やら。
「さあさあ、早く食事にありつきたいなら、手伝った、手伝った!!」
「まったく、このような面倒なことをせずとも家の一軒ぐらい・・・」
ブツクサ言いつつも、ダリアさんもテント張りを手伝いはじめた。
ダリアさんが打つと、釘が地面に埋まってしまうので、彼女にはテント本体を持ってもらう。
そうそう、その調子。
勢いあまって、テントを破らないでね。
2人ですると効率がだんぜんよく、テントはあっという間に完成した。
早速、3人で焚き火を囲み、この日の夕食をとり始める事に。
炎竜亭で作ってもらった料理を、アイテムの中から出して、それを並べていく。
待ちに待った食事だと言うのにただ1人、ダリアさんの顔が浮かない。
「少ないですね・・・」
「あのねぇ・・・。」
あなたが昼に、宿の食材を食いつぶしてしまったんでしょうが。
持たされた量が少ないと言うより、あなたが食べてしまったんですよ。
まったく、ここで彼女に愚痴られては、たまったモノではない。
明日も、朝は早いのだ。
「しょうがないな・・・食材を調達してくるから、少し待ってて。」
「え、お兄ちゃんドコ行くの?」
「すぐ帰ってくるよ。 ヒカリはここで待ってて」
ダリアさんを黙らせるため、俺は久しぶりに狩りに出る事に。
近くにソニック・シギーくらい居るであろう。
辺りは真っ暗なので、探索魔法で獲物を探す。
「・・・・ん!?」
「獲物が見つかりましたか?」
「いや、ダリアさんもあっちを見てくれないか。」
「?」
カイトが指差す方向に、注視するダリアさん。
その方向には、数台の馬車が居るようだった。
この辺りは交易ルートから外れているはずだが、気になるのはそこではない。
馬車の周りを囲むようにして、大きな生き物が居るようなのだ。
この5年間、今まで見たことがない生物だ。
「オークが馬車を襲っているようですね。 あれはマズいので、他の獲物にしてもらえますか??」
淡々と説明するダリアさん。
なんか思いっきりスルーしようとしている。
フ・・・さすがはダリアさんだな。
オークという生物は分からないが、現況では良い奴でない事は、間違いなかろう。
「そうか間違いないか、ならダリアさんも来て! 襲われているなら、助けなきゃ!! ヒカリはここで留守番していてくれ!」
言うが早いか、カイトは馬車が居ると思われる方向へ駆け出した。
周りの魔素が濃く、転移は使えない。
ここから現場までは遠いようなので、急がなければならない。
ため息を漏らし、ダリアさんもカイトに付いて森の中へと駆け出していく。
「待ってお兄ちゃん、私も・・・!!」
それに倣うようにして、ヒカリも森の中へと駆け出して行く。
後には、野宿の準備だけが残される形となった・・・
◇◇◇
「このバケモノめ、死ねえええええ!!!」
ガキン!
商人が突き立てた剣は、魔物の硬い表皮によって弾かれてしまう。
この剣では、まったく歯が立たない。
後方へ跳び、剣を持ち替えて今一度、体勢を整える。
バキメキメキ・・・!
「ぐああ・・・・・・!!!」
その間にも、また1人の仲間の商人が魔物に頭を握りつぶされ、死ぬ。
魔物は複数おり、少しでも気を抜けば、ああして背後などから不意を突かれる。
可哀そうだとは思わない。
気配りを怠るから、ああなるのだ。
「クソッ! なんて運が悪いんだ!!」
相対しているのは、オークと言うブタに似た二足歩行の魔物だ。
一般的に性欲や食欲などの欲望に忠実な、頭の悪く筋力に特化した魔物で知られる。
オークの数は3体。
周りの仲間は全て死に、生きているのはわずかな人数の『商品』だけ。
このままではオークどもに取り囲まれ、自分の身が危うくなる。
「ちっ! おい奴隷、こっちに来い。 お前らも囮になるんだよ!!」
この商隊の積荷、それは『奴隷』である。
王都から注文で、ボルタと言う街の商会に納品する途中であった。
だが男の奴隷は先ほど盾にして、魔物の手によって皆殺しにされた。
残りは女の奴隷だけであり、とんだ大損をこいてしまった。
しかし命には代えられない。
オークは性欲に忠実な魔物。
癪にさわるが、やつらもそれが目当てらしいので、この際くれてやるとしよう。
「聞こえなかったのか、このアマ! こっちに来るんだよ!!」
「いや! あんなバケモノの相手をするくらいなら、死んだ方がマシよ!!」
「死ぬなら俺が逃げるのが済んでから、思う存分死ね!!」
倒された馬車の中に居た、女奴隷を無理やり引っ張り出し、オークの居る方へと押し出す。
だが女は、魔物の振りかざした棍棒に当てられ、そのまま木に叩きつけられた。
ピクリとも動かないところを見ると、死んだようだ。
オークたちの赤い目が、暗闇の中に妖しく光る。
「ブモオオオオオオオオオ!!!!」
「ち、ちくしょう!? なんでダメなんだよ!!」
オークは一般的に力が強く、そして警戒心が強い魔物で知られる。
商人が押し出した女は、彼らにとって十分に警戒するに値した。
そして、先ほどから向かってくるこの男は間違いなく敵であり、邪魔な存在でしかない。
「わあああああああ!!!」
奴隷を置いて、商人の男はこの場から離れようと、全力で森の奥のほうを目指して駆け出す。
だが男の逃亡劇は、そこで終了した。
どすん!!
「ぎゃ・・・・あ!!!!」
飛んで来た棍棒に体を押しつぶされ、断末摩を上げる間もなく、彼は絶命した。
不敵な笑みを浮かべ、3体のオークたちは倒れた馬車へと近づく。
このままではあの魔物に犯され、最後には中の女奴隷たちは殺されてしまうであろう。
「メル、あんたはこの毛布の中に隠れていなさい! あなただけでも生き残るのよ!!」
1人の女奴隷の言葉に、首を大きく振るメルと呼ばれた獣人奴隷。
『自分だけ生き残る』というのが、イヤなのであろう。
だが今は、彼女を説得している時間はない。
「あなたはまだ若いわ! 事後にあなたは『慈愛の大公様』の下に向かうのよ!! 私たちの分も、自由に生きて!!!」
「・・・!!!!」
言うが早いか、メルを積荷の毛布で包み、彼女はそれを場所の奥へ蹴飛ばした。
毛布はゴロゴロと転がり、倒れた馬車の隅へ落ちた。
それを見計らうようにして馬車の入り口から、オークの大きな手が入れられ、奴隷達は成す術なく、これに捕まった。
「「「きゃあああああああああああ!!!!」」」
「ブフフフフフ!!」
魔の森には、数多の女性達の悲鳴、それとオークの下卑た野太い笑い声だけが、響いた・・・
オークは、肉弾戦に特化した魔王軍の兵士です。
ゴブリンと並んで主兵力であり、『バカ』と軍内で揶揄されている存在です。
中には、少しは頭の回るのも居るようですが。




