第246話・命の危険
これからも、頑張っていきます。
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「え、ガジェットさん、まだ帰っていないんですか!??」
「申し訳ございません大公様、ギルドマスターは王都に出張されておりまして、不在なのです。」
鉄道の地盤調査2日目。
ゴレアを脱兎のごとく出立したカイト達一行は、昼前にはシェラリータに到着していた。
少々用があったので、カイトは冒険者ギルドへ直行した。
ついでに今度こそ、懐かしきギルマスのガジェットさんにご挨拶をと思ったのだが・・・・
残念ながら、ギルドマスターは、またも不在であった。
ギルドの受付嬢さんが、申し訳なさそうに頭を下げる。
気にしないでほしいと、手を横に振るカイト。
「・・・お兄ちゃん、シェラリータ着いた? 疲れたよ・・・」
「はは、そうだね。 今日は休もうか。」
ぬ~っと、首の横からヒカリが顔を出してくる。
表情は、どことなく暗い。
まずカイトの強行軍に、開始たったの数分でヒカリが脱落。
例のごとく背中におぶって行動した。
そうして昨日、死にそうだったダリアさんはというと・・・
「あの大公様、あちらの方は大丈夫でしょうか? もしよろしければお部屋を準備するよう、取り計らせていただきますが・・・」
「あー・・・。」
ゴレアからここまで、昨日と同じように彼に付いて来たダリアさん。
過酷だった。
やっている事は昨日と大差ないが、それが彼女には堪えたのだ。
彼女は、ヒモノのようにギルド内の椅子に、その身を横たえている。
「大丈夫です、いつも大袈裟なんですよ彼女は。」
はははと、笑みを浮かべて彼女を指差すカイト。
ダリアさんは頑丈なので、ちょっとした疲れなど、どうと言うことは無かろう。
後で回復魔法を施せば、すぐに復活する。
今は放っておいても、問題は無いだろう。
「大公様が良いと仰るなら、良いのですが・・・」
「はい、ご迷惑おかけします。」
ダリアさんには後で、寝る場所の躾をしておくとしよう。
もはやドラゴンメイドさんは、犬猫同様の扱いであった。
カイトはここで、話題を切り替えた。
「それよりも掲示板に『緊急!』と書かれた依頼を何枚か見つけましたけど、何かあったんですか?」
「ああ、最近この近辺でよく、魔族が目撃されているようでして、商隊などの護衛依頼が来ているんですよ。 一応ギルドからも『調査依頼』を出させていただいています。」
「そうなんですか。」
・・・魔族か。
ヒカリ以外に見たことが無いのだけど、どういうヒト達なのだろうか?
このような依頼が出されるって事は、きっと人に害なす存在なのだろうけど・・・
ご近所さん同士、仲良くすればいいのに。
そうそう、ギルドにきた本来の目的を、忘れるところであった。
「そうだ、俺も依頼を出してもいいですか? 実を言うと鉄道の建設現場に護衛が入用で・・・」
「ご依頼ですか? 今、書類をご準備しますので少々・・・」
「いいえ、日時がはっきりしたらまた来ますんで、いつかその時に!」
鉄道の建設中に、野生の魔物や野生の盗賊、野生のゲリラに襲われては、たまったモノではない。
そのための『護衛依頼』だ。
べアルにもギルドがあれば、もっと手軽なのだがな。
特に急ぎではないから、良いけども。
とりあえず俺でも依頼が出せるとわかって、ホッとした。
「それじゃあ、お邪魔しました。 またよろしくお願いいたします。」
「お立ち寄り下さり、ありがとうございました。」
ギルドの入り口へと向かうカイトに向かい、深く礼をするギルドの受付嬢。
未だヒラメのようにギルドの椅子にへばりつくダリアさんを脇に抱え、カイトはギルドを後にした。
◇◇◇
「で、ウチに来たってわけかい。」
「そ。」
時はまだ昼過ぎ。
シェラリータで働く多くのものが、再び仕事を開始する時間帯。
カイト達一行は、『蒼き炎竜亭』で一休みしていた。
メンバーがお疲れ気味なので、今日はここに泊まる事にしたのだ。
この時間、宿にエリカさんが居るとは、予想外だったが。
「今日は買い物は良いのか?」
「モノが値上がりしてね、母さんが知り合いの商会に行って、買い物をしているんだよ。」
近辺で魔族が目撃された関係で、往来の馬車の数が減り、モノが入ってきにくくなっているのだと言う。
それが、モノの値上がりにつながっているようだ。
なるべく安く仕入れるため、女将さんは遠くの市場へ言っているのだという。
『魔族の目撃』というのは思ったより、大事のようだ。
・・・だと言うのに。
「(バクバクムシャムシャ、ゴリゴリバリバリ・・・!!)」
「ダリアさん、食いすぎ。」
先ほどからダリアさんが、一切食事の手を緩めていない。
むしろさっきより、ペースが速くなっている気すらする!
お金の心配は無いが、絵面的に一心不乱に使用人が食事に手を伸ばすと言うのもどうかと・・・
そんなに急がなくとも、誰もあなたの料理はとりません。
「ぐ・・むぅ・・・・げほげほ!!」
「ほらもー、やっぱりそうなるんだから。」
食いすぎて、喉につっかえたようだ。
背中をさすり、彼女の呼吸の安定を図る。
これではまるで俺が、ダリアさんのお母さんみたいだ。
正直こんな子供、欲しくない。
しばらくもすると、ぶはーっと彼女は深呼吸して、再び食事に手を伸ばす。
何が彼女を、ここまでさせるのだろうか。
「ダリアさん、まだ食べるのかい?」
「むぐぐ・・当然でございます! 今日はあと少しで魔力切れで死ぬところでしたからね、きっちり消費した分だけは、取り返させて頂きます!!」
刹那、リスのように、彼女の頬が大きく膨らんでいく。
表情は真剣そのものだ。
生物の生命力というモノが、彼女からほとばしって見える気がした。
なんか、見ててコワい。
「エリカさんゴメンな、モノが無いってのにこんなで・・・」
「気にしはしないよ。 食材は残っても、そう保存は利かないからね。 その代わりたっぷり、ボラせてもらうよ~~。」
「はは、お手柔らかに。」
こっちもコワい。
なんだか本当に、すべてを絞りつくされてしまいそうだ。
有り金全部巻き上げられぬよう、気をつけなくては。
アイテムボックス内の財布の紐を、キュッと締めるカイト。
対するエリカさんは、カイトから視線を外して、横のヒカリたちのほうを向く。
「ダリアさんにヒカリと言ったかい? どうだいカイトは。 馬鹿だろ~~!」
「ヒドくない!??」
何でこの人は、そんな事を笑顔で言うのだ。
あと聞き方!
俺は馬鹿なこと、前提なのか!?
「お兄ちゃんが好きだから、別に良い。」
「私もですね。 おかげで面白きことが多いので、異存はございません。」
「ヒドくないか!?」
ヒカリにダリアよ、おまえもか!
どうして皆で寄ってたかって、俺を馬鹿にするのだ。
スネるぞ!?
「ですがカイト殿様、それに私を巻き込まないでくださいませ。 このままでは見届ける前にこちらの身が、参ってしまいそうです。」
「・・・・。」
目に涙を浮かべ、懇願をしてくるダリアさん。
頬はリスのように膨らみ、彼女が可愛く見えてしまう。
なんだか抗議する気が、一挙に失せた。
・・・それにしても大袈裟なヒトだ。
ドラゴンさんが参ってしまうような事を、人間である俺が出来るとでも?
ちょっとの疲れでコレでは、こっちが参ってしまう。
苦笑を浮かべながら、カイトは今後の予定を話して聞かせた。
「今日はこの宿で休むから安心して。 その代わり明日はベアルまで一気に行くよ?」
「そ、そんな・・・・」
ダリアさんの背後に、『ガーン』という大きなテロップが浮かんで見える。
明日までに調査を終らせるつもりなのだから、当然だろう。
今日ゆっくり休めるのだから、それで良いではないか。
言わせてもらうが、倒れた君を背負ったり、回復魔法を掛けている俺の方がずっと、疲れているんだからな!??
「ダリアさんどうしたんだい? もう食べないのかい??」
「ちょっと食欲が・・・」
先ほどまでの勢いはドコへやら。
ダリアさんは持っていたスプーンや料理の盛られた皿を置き、食べるのを中断する。
彼女の顔色は、急速に悪くなっていくのが見て取れた。
食いすぎで、腹でも壊したのだろう。
困ったヒトだ。
「ダリアさん、俺に掴まって。 部屋で休むと良いよ。」
「はい・・・」
ダリアさんは、売られていく子牛のように、カイトに連れられて行く。
その背中は、言い知れない感情に満たされているようにも見えた。
・・・気のせいかもしれないが。
◇◇◇
ちょうど同じ頃。
シェラリータとベアルの中間付近の森では、奴隷護送の隊列が、その足を止めていた。
どうやら悪路の中、速度を出しすぎたせいで馬車の車輪が傷み、一部が壊れてしまったようだ。
商人たちは、そろってその応急修理に回っており、他の馬車は放って置かれている。
そのうち、1台の馬車の中では、奴隷達による密会が行われていた。
「いい皆、この商隊がベアルに着いたら、きっと彼らは宿に泊まるわ。 その間私たちの乗ったこの馬車は、ベアルの『駅』に留め置かれる。 このスキに逃げるのよ!」
話を取り仕切っているのは、一人の女性の奴隷。
彼女を囲うように、馬車の中の奴隷が座り、話に耳を傾ける。
「危険だわ。 それよりも、ここは連れて行かれる商店で働く他に、私たちには生きる道は・・」
「何を言っているの! そんな事をすればどうなるか、分かったモノじゃないわ!!」
今回の奴隷取引は、明らかにおかしいのだ。
商人たちの話によると、粗悪品の奴隷ばかり買い集めている商店に、我々は売られていくらしい。
労働力などではない、何か、奴隷を使っての人体実験などに、供出されるかもしれなかった。
そんな事、まっぴらゴメンだ。
奴隷という最低の身分に身をやつしているとは言え、私たちだって一丁前に生き物なのだ!!
「でももし、バレたり捕まったら・・・」
「大丈夫よ、向かうのはベアルの領主邸。 ここで領主様に頼み込めば、奴隷解放されると聞いたことがあるわ。」
『慈愛の大公様』の話は、大陸全土で有名な話となっている。
それは、奴隷達の間でも同じ事。
このままでは私たちは、おかしな商店に売られてしまう。
それならば、一縷の望みに掛けた方が、ずっとマシだ。
「ここでバレず、目立たずに領主邸に忍び込む計画なんだけど・・・メル、アンタ何かない?」
女性はメルと呼ばれた小柄な女に問いかける。
目や髪が灰色のその女性は、パッと顔を上げて、その女性のほうを向く。
その際、驚いたからか髪の間から、ピョコンと犬のような2つの耳が立ち上がった。
この世界で忌み嫌われる、獣人。
彼女はそんな種族の、1人であった。
「メル、あんたは頭がいいわ。 私の計画では、きっと穴があるの。 あなたにはそれを洗い出して、この計画を完璧なモノにしてほしいのよ。」
「!!!」
彼女の言葉に反し、首を大きく横に振るメル。
メルには、大きなトラウマがあった。
昔そうしてアドバイスして、何人の者がリンチに掛けられ、目の前で死んだことか。
それを思い出し、ワナワナと肩を震わせる彼女。
もう脱走計画は、まっぴらゴメンである。
「メル・・。 良いわ、とりあえずこの計画はとって置く。 気が変わったら、知恵を貸して頂戴。」
「・・・。」
メルは全く返事を返すことなく、馬車の床へと視線を向けた。
『慈愛の大公様』と言っても、所詮は貴族。
逃亡してきた我々を、助けてくれるとは到底思えなかった。
奴隷取引は国も認めている、レッキとしたビジネスなのだから。
たとえ逃げても、すぐに送り返されるのが関の山だろう。
彼女の提示した計画は、そもそも実現困難なのだ。
・・・とは、とても彼女らには言えなかった。
結局、自分には何も出来ない存在なのだ。
「ごめんなさい・・。」
誰に対してでもない謝罪の言葉を口にして、彼女は馬車の隅のほうへと移動する。
もうまもなくすれば、ベアルに着くであろう。
その前にどうしたら、脱走計画を止めなければならない。
この方法を考えることぐらいしか、彼女に出来ることはなかった。
その商隊の存在をかぎつけ、忍び寄る影があった。
森の茂みに溶け込むような、その緑色の巨大な体躯。
商隊に近づくにつれ、徐々に鼻息を荒くしていく。
まだこの存在には奴隷商たち含め、誰一人として気がついてはいなかった・・・・・
ダリアさん、死なないといいですが。
それについても、追々・・・




