第245話・往く強行軍
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「ダリアさん遅いよ!」
「ま、待って下さいカイト殿様・・・この調子では私はいずれ、死んでしまいます。」
『だらしないなー』と、仁王立ちの姿勢で、彼女が来るのを待つカイト。
彼の背には疲れて、眠りこけるヒカリが背負われている。
バルアから調査に出て、早数時間。
国の正規軍も真っ青の強行軍のお陰で、すでに彼らは王都まで来ていた。
距離にしておよそ、全行程の5分の1あるかないか。
しかしダリアさんをへばらせるとは、さすがはカイトである。
「はあ、はあ、ぜいぜい・・・・」
「ダリアさん、どうどう。」
地面に四つん這いになる彼女に、労いをこめて背中をさすってやる。
こうして見ると、彼女の可愛らしい一面が見えてくる。
これで普段『蹂躙』とか言わなければ、素直にいいヒトなんだけど。
「呼吸は落ち着いたかい?」
「ま、まだ進むのですか・・・?」
カイトの発言に、呆れとも絶望とも取れる口調で、これからの事を聞くダリアさん。
これだ少しは、進むスピードを緩めてくれるとありがたいのだが・・・・
ダリアさんに対し、カイトは首を縦に振った。
現実は、非情である。
「何を言っているんだよダリアさん、まだまだこれからじゃないか! 今日はせめてゴレアには行きたいんだよ!!」
本日、目指す農業都市ゴレア。
王都とシェラリータの間に居を構える、中規模の都市である。
ちなみにここの領主様からの『鉄道建設に関する許可証』は、既に手元にある。
今日はこの街で、宿を取る予定なのだ。
ちなみにゴレアは、今移動した距離の2倍ほど先にある。
神はダリアさんを、見離したようだ。
「カイト殿様、私はもうダメです、後生です。 一思いに殺して下さい。」
「いや、何言ってんの?」
疲れてへたるだけで、なぜそんな話にワープする?
これでは窮地に陥り『お前達の足手まといになるぐらいなら・・』と自らの死を選ぶ、勇者パーティーのやられキャラである。
彼の貧相な想像力の上では、今の彼女はそう映った。
ダリアさんはプライドの塊なので、このような事を言っているのだろう。
まったく、しょうがないヒトだ。
「ほらダリアさん、回復魔法を掛けたよ。 これで疲れは取れたでしょ??」
「・・・。」
無言で立ち上がり、手などを回して体に疲労が無いのを確かめていく彼女。
先ほどの泥のような動きはいずこ、彼女の動きはとても軽やかだ。
・・・なんでそんな、絶望的な顔をする?
疲労がとれて、嬉しくないのか??
「・・・・ヒカリ様が羨ましいです・・。」
「ん、なんか言った?」
「いいえ。」
ヒカリは今、俺の背中で寝ている。
(見た目)小さいので、疲れもひとしおなのだろう。
寝る子は育つとも言うし、わざわざ起こすつもりは無い。
対してダリアさんは、地上最強の存在だとか言っていたし、このままでもきっと問題ない。
彼女は痛がり方なども含め、いつもおおげさなのだ。
ため息混じりに、ダリアさんは頼りなげな足取りで、先を歩くカイトに付いて行く。
それを確認すると、カイトは再び探索魔法の応用で、鉄道建設の地盤調査を再開した。
「・・・カイト殿様、先ほどから疑問に思っていたのですが、本当に『調査』とやらは出来ているのでしょうか?」
「もちろん。 探索魔法で地盤調査して、魔導地図にマッピングしてるの。」
魔導地図とは、カイトが作った地図。
見た目はただの地図だが、魔法と連動させることで自動的に書き込みが成されるスグレ物。
今回のような『調査』では、特に重宝される。
だが、ダリアさんとしては、そんなことはどうでもいい。
「ほらダリアさん、ペース落ちてるよ! 早くしないと置いていっちゃうよ!?」
「はあ、はああ、はあ・・・ま、待って・・・!」
これら調査を、彼は走りながら行っていた。
彼は常人を逸したチートスキルのおかげで、こんな足場の悪い森の中で背中にヒカリを背負っても、特に問題なく動くことが出来るのだ。
ちなみに彼らの『走る』という行為は、常識外れに速い。
たぶん平均、時速40キロで走る鉄道を、軽く抜かせるのではなかろうか?
世界陸上で100メートル9秒台をたたき出す、とある陸上選手よりずっと早い。
それが何時間も続けば、そりゃ彼女もバテて当然だろう。
カイト様、私は今にも、心臓が止まりそうです。
「待って下さいカイト殿様、ペースをもう少し・・速すぎです・・!」
彼女の必死の制止の言葉は彼の耳には届くことなく、ペースはそのままで、彼らはあっという間に森の中へと消えてゆくのだった・・
◇◇◇
夕刻。
西日で空が赤く染まる中、3人連れの珍妙な一行がゴレアの門をくぐった。
パーティー中、唯一の青年は門をくぐると開口一番、背中におぶっているメイド姿の女性に、言葉をかけた。
「ダリアさん、ゴレアだよ。 今日はこれでおしまいだよ?」
「・・そう・・・ですか。 今日は休ませていただいて、よろしいですか?」
いつもならすぐに『メシ!』と言うであろう彼女は、疲れから『就寝』を懇願した。
あれから何度も倒れてはカイトの魔法で回復。
それを繰り返した。
5回目ぐらいから記憶が無いのだが、今の状況から見て気絶したようだ。
我ながら、よく死ななかったなと思う。
・・・いや、いっその事、死んだ方が楽だったかもしれない。
「なかなか2人をおぶっての調査は難しいね。 まあ、今日中に済んだから良かったけど。」
「・・・はあ、宿に着いたら、私は休ませていただきますよ。」
未だに元気なカイトを横目に、フラフラしながらダリアさんは、睨むような視線を彼に送る。
彼は本当に、人間なのだろうか。
今は自分の『スキル透過』の能力が、信じられなくなっている。
「んむ・・ここドコ?」
「あ、起きた??」
熟睡していたヒカリも目を覚まし、カイトの背中からストッと降りる。
こちらはずっと休んでいたようなモノなので、体調は万全のようだ。
ゴレアに彼女を連れてくるのは初めてなので、キョロキョロと辺りを見回している。
「今しがた、今日の目的地に着いたんだ。 今日は宿に行って、ゆっくり休もうか。」
「本当!? やった!!」
元気いっぱいの笑顔を、振りまくヒカリ。
子供は風の子、元気な子。
『寝る子は育つ』
うむうむ、いい兆候である。
ヒカリの実年齢はわからないが、見た目的に10歳前後なので、それで良いという考えだ。
ちなみに、同じくらいの年齢に見えるダリアさんは、この適応外である。
幼体のようだけど、100歳ぐらいは軽く超えてそうだし。
「実は俺も来るのは、ここは初めてのようなものなんだ。 せっかくだから街巡りでもして、今日の宿を探そうか?」
「うん、いいよ。」
「ま、まだ歩くのですか!??」
いつもだったら、このテの話には飛びついてくるダリアさんが、うんざりと言った雰囲気を醸し出す。
そんなに、歩くのはイヤかい?
「いや、前に泊まった安い宿でもいいけど・・・」
「そこにいたしましょう!!」
今までのスローな動きから打って変わり、転移のような速さで俺の肩をわしづかんで来る彼女。
なんだ、元気じゃないか。
森の景色は単調で、特に盗賊が襲ってくるとかいうイベントも無かったからな。
彼女には身体的な疲労ではなく、精神疲労が溜まっていたのだろう。
この場合、休めば治る。
宿に着いたら、思う存分『蹂躙』でも楽しんでおいてほしい。
夢の中で。
メイドに急かされるまま、カイト達は今日泊まる宿へと向かっていった。
ちなみにこれは余談なのだが、カイト達はこの後、この街の領主邸に招かれる事となった。
『大公様が安宿に一泊』は、どうも世間的に許されないようである。
◇◇◇
その頃、シェラリータ近くの森を一路、ベアルの方角へ向かう商隊の姿があった。
「急げ、早くこの禍々(まがまが)しい魔の森を突っ切るんだ!!」
「「「「おう!!」」」」
商隊の頭に呼応して、雄たけびを上げる馬車の御者たち。
全部で5台の馬車が、森の道なき道を連なるようにして往く。
一番前の馬車に、食料や諸々の書類などが保管されており、特に厳重にされているように伺える。
ときおり馬車はガタンと大きく揺れ、呼応するように荷台からは人間の叫び声にも似た悲鳴があがる。
「静かにしねえか、ゴミ共! 魔物どもに気づかれたらどうする!??」
「「「・・・・。」」」
一人の御者が切羽詰った様子で、中に居る者たちに文句を言う。
これら馬車に乗せているのは、いや、積んでいるのは奴隷だ。
手狭な馬車の中に、1台当たり10人ほどの割合で、詰め込まれている。
きちんと管理されていないのか、馬車の中からは悪臭が漂い、舌打ちをして御者は顔をしかめながら、上げた布を下げる。
「こんな奴隷、一体誰が買うって言うんだ?」
積んでいるのは、どれもB級品の奴隷。
素行が悪いなどの原因で売れ残った、いわば粗悪品だ。
今回は安く買い叩かれた奴隷達の、その護送をしている最中なのだ。
「ボルタって都市の商店が、労働力として購入したって話さ。 詳しい話は俺も知らない。」
「ったく、とんだ貧乏くじ引いたもんだぜ!!」
投げやりな感じで、馬車の御者台に寝転がる商人の一人。
それを苦笑しながら、御者を勤めている商人は馬車の手綱を引き続ける。
商隊は盗賊などに狙われやすいため、通常は冒険者ギルドを通して、ハンターによる護衛を雇う事になっている。
ただでさえ今通っているのは『魔の森』という場所で、魔族領も近く、魔物が多く出没するこの世界屈指の危険地帯だ。
だが、なるべく輸送コストを下げるため、今回はハンターの護衛は雇っていない。
だから商隊は、事のほか急いでいるのだ。
そして護送しているのは、ことさら『素行の悪い奴隷達』である。
寝転がる男に、御者役は釘を刺す。
「奴隷達をよく、見張っておけよ? 逃げられたりしたら、大損害だからな。」
「大丈夫さ、逃げたって奴らには枷がある。 ここに隷属契約書だってな。」
先頭の馬車を指差した後、手で輪っかを作って、それを首に当てる男。
奴隷に必ずある、枷と契約書。
彼らに命令すれば、どんなことだってやる。
これさえあれば、奴隷達はその命を握られているのと同然なのだ。
どこへ逃げようと、無駄。
それは奴隷商にとっては、周知の事実であった。
「それもそうか。」と、隣の承認は興味をなくしたように、再び御者に徹する。
そのまま奴隷商隊はビルバス山脈の山間を縫うようにして、べアルの方角へと進んでいくのだった・・・
やっと、ここまで来れました・・・
もちろん『ボルタの商店』とは、言わずもがな・・・です。




