第242話・2人の深い、わだかまり
これからも、頑張っていきます。
感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい!
青白い光と共に、4人がグレーツクの地に姿を現す。
転移の光が収束するとすぐ、彼らはすぐに街のある方向へと、歩を進めていく。
白服姿の貴族はいわずと知れず、チートを爆発させるカイト大公様。
傍に控えるメイドは翼持ちの飛べない地竜、ダリアさん。
さらに横の女の子は、現在カイトの魔法で偽装中の魔族、ヒカリ。
そしてもう1人・・・・
「・・・どうしたの、アリア?」
「な、何でもありませんわ! 早速、参りましょう!!」
「?」
着いた時から一様に挙動不審なのは、元王女のアリア。
紆余曲折あって、今はカイトの妻などをやっている人物だ。
彼女はこの4人パーティーで、唯一の常識人でもある。
そんな、いつもは冷静さを欠いたことのない彼女が挙動不審なのには、理由があった。
「カイト様、本当にルルアムは大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だったら。 会いたいと言ったのは、君だろう?」
「それは、そうなのですが・・・」
グレーツクへ来た彼らの目的。
その一つが『アリアにルルアムと会わせる』という事である。
彼女たちには深い因縁のようなものがあり、以来、マトモに会っていないのが現状。
それを今日、瓦解させる。
間違えても、それ以外を瓦解させてはなりません。
「ルルアムもすっかり改心してね、今は毎日一生懸命、油まみれになって働いていると聞くよ。」
「・・・。」
『それが信じられないのです!』と、彼にもの申したい衝動に駆られる。
私が知るルルアムは、気高い淑女。
貴族のあらゆる特権をふりかざし、全てを思いのままにしようとしていた。
それを一番近くで見ていたのが、他でもない自分である。
その彼女が『汗水たらして働いている』など、いくら聞いても、どうにも信じがたかった。
もし彼女が、貴族でなくなった事を恨みに持っており、自分を責めてきたら、どうしたら良いか。
先ほどは自分から『さあ、参りましょう』などと言ったが、彼女と自分が会って良いものかと、どうしても考えてしまうのだ。
「・・・カイト様、まずは魔石の件を片付けませんか? 今回のこれは私事ですし、ルルアム様のご都合にも合わせませんと・・・」
「それに関しては、問題ないったら。 魔石の件だってすぐ済むから、後でも良いし。」
「し、しかし・・・むぅ・・・。」
ルルアム様とのアポは、既に取っている様子。
だとすれば私のジレンマで、事が停滞することは、私の望むところではありません。
しかしそれでも、私の不安は到底ぬぐえるものではありません。
「アリア、最初は俺も傍に付いているよ。 大丈夫だから。」
「お手間を取らせてしまい、申し訳ございません。」
今の自分では、どうしても彼女に対して及び腰になってしまう。
彼が傍に居るのは、それだけで精神的に安心できます。
ここは彼の厚意に、甘えさせていただきましょう。
そう言っている間に、カイト様が立ち止まりました。
あるのは、大きな古びた木造の倉庫が一つ。
ここになにか用事があるのでしょうか?
コンコンコン!
「おーい、ルルアムか誰か居ないー?」
「!??」
え・・・
カイト様、今なんと言われました!?
「お待ち下さいカイト様! ここは倉庫でございましょう? ルルアム様がいらっしゃるわけがございません!!」
「『倉庫』って・・・ここは鉄道研究所だよ? 確かに見た目はボロっちく見えるかもしれないけど、ルルアムだって、ここで住み込みして働いているんだけど・・・」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、アリアに説明するカイト。
その施設の存在は、彼から聞かされたことがある。
・・が、信じられない。
てっきり御殿のような場所に連れて行かれると思っていたアリアは、唖然としてしまった。
ルルアムは、いつもここに居ると言うことなのだろうか??
何より『住み込みで働いている』と言うことはつまり・・・・
まさか。
「カイト様、僭越ながらルルアム様は、グレーツクの王ではないのですか?」
「ルルアムがグレーツクの王? どうして??」
「・・・・。」
今までの疑惑崩壊。
ルルアムはまず間違いなく、この国の王ではないらしい。
彼の浮かべる屈託のない顔が、雄弁にそれを物語る。
だとしたら、この国のトップは一体、誰だというのか?
カイト様のお立場は??
アリアの疑惑が別のところで再燃したが、それはひと時の間、彼女の心の奥底に沈むこととなった。
「これはカイト様、ご機嫌麗しゅうございます。」
「!!」
キイ、と木戸が開くと、中からルルアムがひょこっと顔を出した。
また何らかの作業でもしていたのか、彼女の顔には油汚れのようなモノが付着していた。
彼女は相手がカイトだと気づくと、佇まいを正し、彼にキレイな礼をする。
そこからは気品さえ感じられ、彼女の出自が良いことは、火を見るより明らかだった。
「やあルルちゃん、おはよう。 今日は約束を果たしにきたよ。」
「約束・・でございますか? それはどういう・・」
カイトの横に視線を移し、ハッとした表情になるルルアム。
アリア共々、今一番会いたかった相手が、その目の前に居た。
「お姉さま・・・!」
「アリア・・・」
彼女らはしばしの間、時が止まったように、その動きを止めるのだった。
◇◇◇
グレーツクの一角にある『鉄道研究所』
ここは鉄道の製造、研究などが一手に任されている場所だ。
中には社員用などに用意された、そこそこに広い造りの休憩室がある。
ズズッとお茶をすする音だけが、その室内にこだまする。
「ううむ・・ルルアム様、どうしたらこのような味が出るのですか? 前に教えられた方法では、うまくいきませんでしたよ?」
「そうなのですか? 私もそこまで特別な方法で淹れているという訳ではないのですが・・」
「こうなれば、我が魔力でルルアム様の頭を覗き・・・」
「はいダリアさんストップ! 今日はそういう目的で来たわけじゃないから。」
今にも変質者にジョブチェンジしそうになっていたダリアさんを、椅子の方へ押し戻すカイト。
今日の主役は、あなたではありません。
視線を横に戻せば、押し黙ったアリアが居る。
正面を向けば、いつになく表情が硬くなったルルアム。
せっかく話の場を設けたものの、2人はさっきから、ずっとこの調子だ。
ここ数年の間に、彼女たち2人には、実にイロイロな事があった。
それが障害となってお互い、話しづらいんだろうな・・・
「お兄ちゃん、このお菓子おいしいね。」
「そうか、ルルちゃんに礼を言っとけよ?」
「うん、ルルアムお姉ちゃん、ありがとう。」
「いいえ、喜んでいただけて、何よりですわ。」
お茶と一緒にルルアムが作ったのか、クッキーのような菓子も机の上に並べられている。
うん、これも美味しい。
だがこれでは、いつもの日常の一コマだ。
アリアのいる理由が、カケラもない。
ふう・・・・
ズズッとお茶をすすり、彼のお茶の中がカラになる。
それと共に、カイトは『よっこらせ』と掛けていた椅子から、上体を起こした。
「それじゃ、話の邪魔な俺たちはこの辺で。」
「「「「え?」」」」
ん?
気を利かせて退室するのは、イケない事だったろうか?
「か、カイト様まさか、お帰りになるのですか?」
「まさか! 俺は俺で、石神様を連れてくるの。 その間、アリアはゆっくりとすると良いよ。 俺たちが居たんじゃ、話しにくいだろう??」
アリアとルルアムは、従姉妹同士。
日ごろ行動をよく共にしていたらしいし、彼女たちだけの秘密などもあることだろう。
そこに俺やダリアさんが居たんじゃ、邪魔にしかならない。
邪魔者は、さっさと消えるべきなのだ。
・・・と、押し黙った2人を見て、判断させていただいた。
そういうことなら、そう言ってくれれば良いのに。
ポカンとた表情を浮かべる彼女たちをよそに、カイトはヒカリの手を引いて、退室の支度を整える。
そうして視線を、横のドラゴンメイドさんに向けると・・・
「カイト殿様、私は『従者として』弱き奥様方の傍におります。」
「・・・・そっか。」
ニカッとダリアさんに笑顔を向けるカイト。
返すように、ダリアさんもニコッと笑顔を向ける。
それを確認すると、カイトは彼女の右腕を鷲掴み、ずるずると力ずくで出口のほうへと向かった。
「お、お待ち下さいカイト殿様! 私は奥様の警護を、警護をーーー!!」
「いらないから。 ダリアさんも俺と来るの!!」
ドラゴンがウソをつかないでほしい。
どうせ『興味本位』で、居たいだけなのだろう。
彼女の魂胆など、みえみえだ。
「それじゃあ2人とも、ごゆっくり。 フフフフフフフ・・・・・」
「お姉ちゃん、またねー。」
「離してくださいカイト殿様、私は奥様方の警護をーーーー!!」
バタン!
うるさいドラゴンメイドを引きづり、カイトは小姑のように部屋を出て行った。
あとに残された2人の女性は、しばし唖然とし、閉められた扉に視線を送り続けるのだった・・・
次回、脱線します。




