第241話・今後の方針
本編再開です。
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魔石は、多くの魔力が寄り集まり結晶化したモノだ。
その内包するエネルギーは、この世界において錬金術の触媒や、魔法の研究において重宝されている。
しかしその膨大なエネルギーは、人や自然界に害なすことも多い。
過ぎた力は、益ではなく害を与えうる。
ようは、『キケン物』なのだ。
「・・このように魔石は大変危険を伴う物質です。 これを採掘する場所としてバルアは、適材適所でございました。」
「そっか。」
それを掘り出す場所を人為的に造るとなれば、なおさらアブないのは火を見るより明らかだ。
懸念されるのは、魔物災害あたりだろうか?
しかし皮肉にもバルアは総人口が減少したため、この条件に当てはまりやすい優良な土地がとても広かった。
もちろん先の『観光リゾート計画』のため、現場はバルアの市街からは遠く離れた場所に造る予定となっている。
こうして魔石を採掘できる広大な土地を手に入れることは出来たが、それはとても、万歳三唱できるようなことでは無い。
「・・私の報告は、以上になります。 カイト様がよろしければ、このまま話を進めていきますが?」
「うん、お願い。 俺は魔石が掘れるよう、石神様に頼みに行くから。」
「かしこまりました。」
領主様のカイトがする事が、妻のやることと比べてあからさまに易しくないか?
という疑問はさておき。
「カイト様の伯爵様との会談の方は、いかがでしたか? 『許可証』は・・」
「ほら、この通り。」
アリアの質問に呼応して、懐からラウゲットさんに手渡された書状を机の上に上げる。
汚さないよう、許可証はあれから封書の中に入れたままとなっている。
アリアはこれを感慨深そうに手にする。
しかしすぐ、彼女はそのままそれを、机の上に置いた。
「中は改めないのかい?」
彼の質問に対し、かぶりを振ってみせるアリア。
「何度も言っておりますが、私はあなたの妻に過ぎません。 この書状は本来であれば、私は目に触れることすら出来ない代物なのですよ?」
「ふーん。」
『気にしなくて良いのに』と言いたげにアリアに視線を送りつつ、出した書状をひとまず懐へと仕舞うカイト。
彼のこの態度にアリアの胸中には嬉しいやら、注意申し上げたいやら、フクザツな感情がうごめいた。
まあ別に、今に始まったことではないが。
ともかく、総合すると嬉しいことに間違いは無い。
「これで、鉄道の建設準備は整ったのですね?」
「いや、諸事情あって着手には、もう少し時間がかかりそう。」
鉄道の建設には、建設団の人たちの手が必要だ。
だが彼らは現在、グレーツクで鉱石運搬鉄道の建設にかかりきり。
着手は、その後となろう。
・・と彼女に説明すると、墓穴を掘りかねないので伏せる。
「実はまだ、鉄道の地盤調査が済んでいないんだ。 それを済ませない事には、工事は始められないよ。」
「なるほど、そういう事ですか。」
これも工事を進められない一端である事に、間違いは無かった。
鉄道は重い。
まさか地盤の弱い場所に走らせれば、脱線など、重大事故の元となる。
だから事前の地盤調査は、最も重要なことなのだ。
大方のルートの見通しは立てているが、そこに実際に鉄道を敷けるか否かは、別問題となる。
距離もベアルから王都、果てはバルアまでと、とても遠大だ。
調査終了には、そこそこ時間がかかるものと思われる。
鉄道の建設工事は、一体いつになる事やら。
「ではカイト様、今は出来ることから着手いたしましょう。 バルアの造成は既に済んでおりますので、後はその『リゾート』なるものを理想に近しい形に、工事を進めるだけでございます。」
「なるほど、じゃあ観光施設をいっぱい建てなきゃね。」
ホテルに水族館、ボート乗り場に海の家・・・
カジノはいらない。
少なくとも俺の領内では、アレを認めるつもりは無い。
あんなのは、地球のマカオとラスベガスだけで十分だ。
そんなカイトの妄想に、待ったを掛けるアリア。
「カイト様、今は工事を始めてはなりません。 将来的にバルアをどう売り込み、ヒトを集めるか、それが決まらないのでは何をしても、意味がございません。」
「あう・・・」
話がまた、元に戻ってしまった。
少し考えれば、アリアの言い分は最もである。
もし何も決まっていない現状でバルアに観光施設なぞ整えれば、即、不良債権ゆき決定である。
いや、厳密には決定ではないが、そんなリスクを犯せるほど、カイトたちの肝は太くない。
「じゃあ、その件はまた後で・・・」
「よろしくお願いいたします、陰ながら応援させていただきますわ。」
アリアがこんな不毛な話をしたのは、彼に『意識』していただくため。
バルアがいつでも工事が出来ること、そしてどういった方向に街を持ってゆくかを考えててもらうこと。
建設着手は出来ないが、構想を練ることは出来る。
残念ながらアリアには、カイトの考えることは未だ、理解できないことがあまりにも多かったのだ。
これで彼が忘れてしまうような事は、防止できるだろう。
いや、できてもらわなくては困る。
そんなアリアの心配はいざ知らず。
カイトは口を開き続けた。
「他にできる事と言うと、グレーツクから石神様を連れてくることかな?」
「そう・・ですね。 今のところできるで言えば、最優先はそれに尽きます。」
やっと2人の意見が、完全に一致した。
石神様を連れてきて、彼に魔石の鉱脈を造ってもらうのだ。
やることは他にもたくさんあるが、目下最優先とされるのは、コレであろう。
魔石が無ければ、鉄道は動かないのだから。
だとすれば。
カイトのすべき事は、グレーツクへ出立。
・・・の前に使用人の人選だ。
どうしようか?
あまりゾロゾロ連れて行くのは、監視されているようでイヤだし・・・
いや、護衛もメイドも兼任できるヒトがいたっけ。
「ダリアさんが良いな。」
「?」
グレーツク行きの少数精鋭(?)メンバーは、こうして決まった。
荷物をまとめることも無いので、出立の準備などは必要ない。
(そもそもアイテム・ボックス内に冒険者時代の、様々な装備が入ったままになっている)
メイド長のクレアさんに断りを入れて、ダリアさんを連れて行く。
ヒカリは元々、俺の後ろに居たままの状態なので、そのまま連れて行く。
そう、他にも用事があったっけ。
これもついでに、済ませよう。
「アリア、ちょっと良いかい?」
「はい、なんでしょう?」
グレーツク行きの話は、着々と進んでいくのであった・・・
◇◇◇
その頃。
ベアル領の港湾都市ボルタの一角に居を構える『バルア商会』の倉庫内では、笑い声が響いていた。
「ふはっははははは!! そうか、ブツはまもなく到着するのだな!?」
「はい闇貴族様、B級の奴隷どもを乗せた馬車は、先日シェラリータを出立し、一路ボルタへと向かっているようでございます。」
数ヶ月前、王都の奴隷商などに売れ残りの奴隷を格安で売ってくれるよう頼んだバルカンたち。
思えば計画立案から、既に1年以上の歳月が経ってしまっている。
信用が全くないため、なかなか契約は難航したのだ。
その関係で、ここまで予定がズレ込んでしまったのである。
・・・が、事もうまく運べば、わずかな期間などモノの数ではない。
隠れていると言う立場も忘れて、思わず、笑みがこぼれてしまう。
「王都から仕入れるのは、何体であったかのう?」
「は、予定では34体です。 帝国や連邦方面からも今後、続々到着予定となっています。」
「そうか、兵教育の支度も進めておくように。」
「はは!!」
部下からの報告に、満足そうにうなずくバルカン。
この奴隷達を少し教育し、版図拡大(今は領土ナシ)を推し進めるのだ。
高い買い物であったが、奴隷は捨て駒には体のいい存在である。
「おい、奴隷なんかを兵士にして、大丈夫なんだろうな?」
話に横槍を入れてきたのは、元スラッグ連邦大帝陛下。
・・・現、闇大帝様。
ズル賢く、自分の利益を第一に考える、国家元首失格男である。
彼はドラゴンにことさら怒りの焔を燃やしており、いつか一矢報いようと画策していた。
その最終目標が、自分たちの兵士による侵略で、再び自ら大帝として、世に君臨することを夢見ている。
いや、自分こそが世界に認められた、真の王者と、今でも信じて疑っていなかった。
ズル賢さもここまで来ると、いっそ清々しい。
そのため、『奴隷を使った兵士』は、懸念事項であった。
バカ共の、反乱を恐れているのである。
「ご心配には及びません闇大帝様。 ヤツらにはコレを飲ませますゆえ・・」
「・・・・なんじゃこりゃ?」
バルカンが懐から出したのは、一本の透明なビン。
中には、白い粉末が入っているのが見てとれる。
「これは『夢草』!?」
『夢草』
食すと精神に異常をきたし、気が狂うといわれる薬物。
地球で言うところの、麻薬などに近い。
依存性が高く、中毒者は永遠に手放すことが出来なくなる。
彼が手にしているのは、これを乾燥させて粉末状に加工したものだ。
たった数グラムでも、小金貨1枚はくだらない代物である。
これを奴隷に飲ませ、自分たちの言いなりにしようという訳だ。
当然、異世界においても取り締まり対象の、危険薬物の一つ。
「ほほ~う、どっから仕入れたか知らねぇが、やっとヤル気が出てきたじゃねーか?」
「私は金と利権以外、興味はありません。」
ふんぞり返るバルカン。
逆に闇大帝は、地位以外に興味は無い。
2人の関係は、簡潔に言えば『悪友』。
互いの利害の一致で、手を組んでいるに過ぎない。
だから彼らはいつでもお互いを、けん制しあっている。
「言っておくが『お前の物は俺のもの。 俺の物も俺のもの』・・・だぞ?」
「2人で力を合わせ、世界をモノにしましょう。」
今後、奴隷を調教して兵士にする。
そして『不死の軍団』を作り出すのだ。
恐怖を感じず、倒しても一向に減らない、奴隷の気狂い兵士の軍団。
諸国はこれに恐怖し、我々の元にひれ伏していくのだ。
世界の覇権は、次々に塗り替えられることだろう。
2人は今後の見通しに、高笑いをし続けるのだった・・・・
やっと鉄道が近くなったような、遠くなったような・・・
完成までは、また時間がかかります。




