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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第10章・鉄道の前に
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閑話・鉄道の一日 その6

これで閑話、一応の終了となります。

次話以後、本編の戻ります。



ポ゛ーーーーーーー!!!

シュッシュッシュッシュ、ゴトンゴトンゴトンゴトン!!!


「ブレン駅、通過!」

「ブレン駅、通過ヨシ!」


構内に交換列車はなく、列車は合図を送る鉄道員を横目に、快速で通過する。

時は草木も眠る真夜中。

通常なら最終列車が双方の駅に着いているような時間帯だ。


「とんだ事になってしまいましたな。」


「そうですね、でも大事にならずに何よりでした。」


「まったくですな。」


ははは、とザイルに笑みを向ける副機関士。

笑ってはいるが、彼も自分も朝の始発列車から、働き通しである。

溜まった疲労は、並々ならぬモノがあった。


本来今の時間は、彼らは今日の業務を終えているはずであった。

しかし先ほど、ブレン駅付近で野生動物との衝突事故が発生。

大きな事故ではなかったため、すぐに鉄道は復旧したものの、鉄道のダイヤは大きく乱れた。

今はその、『回復運転』の真っ最中である。

そのために、彼らも駆り出されたのだ。

緊急事態とあっては、仕方がない。

しかしながら、列車が出せる速度には限界があるので、ダイヤは未だに乱れたままの状態だ。


「後ろが重いので、思うように速度が出せません。 少しでも減らせれば、もっと速度を出せるのですが・・・」


「列車の本数が減っているのですから・・致し方ありません。」


大きくため息をつく副機関士に、ザイルが苦笑を返す。

先述の通り、事故が起こったことで列車が一時的に運休し、鉄道は所定の時刻から大きく逸脱いつだつしてしまっている。

それは結果的に列車の本数の削減にもつながった。

働く者の負担を考えると、現状、あまり遅い時間まで列車の運行は出来ない。

しかし荷物の輸送には、その一つ一つに計画がある。

輸送の混乱を避ける意味でも、なるべく、それを崩すわけにはいかなかった。

そこで今は『増結』という形をとっているのだ。

こうすれば運行数は少なく、より多くの物資の輸送が可能だ。

しかしそれは、より一層の列車の遅延を招いていた。


輸送するモノが多くなれば、おのずと速度は落ちてしまうのだ。

しかし焦りは禁物。

事故など起こさないよう、より一層警戒をしながら、運転につとめる彼ら。

ブレン駅を通過して幾ばくかすると、森を抜け、長い列車はベアルの南側に広がる住宅街を抜ける。

3年以上前に大公様が1人で造成されたという噂の、『にゅーたうん』というモノだ。

今でも拡張が続けられ、今や世帯数は数千にものぼる。

その拡張工事は、真夜中の今でさえも突貫で行われており、明るい光が鉄道のレールを照らし出す。

民が暮らす場所は既に暗くなってしまっているが、列車の向かう先はまばゆく光る町明かりが見えてきた。

あそこに、ベアルの中心街があり、ベアルの駅が存在する。


ポッ!


踏み切りの注意喚起のため、列車は短い汽笛を鳴らす。

今は、多くの者が寝静まる真夜中なので、発す音も最小限。

小さな汽笛を鳴らし、列車はゆっくりと町明かりの中を突き進んでいく・・・



◇◇◇




ブシュウウウウウウウウウウ!


街が夜の静寂に包まれていく中、ベアル駅には列車のブレーキ音が鳴り響いた。

入れ換えが済んだ列車は、暴走をしないよう、しっかりとブレーキを掛けておく。

これにてこの日の、この列車の運行は終了となる。


「やっと今日が終りましたな。」


「お疲れ様でした。」


機関車の車輪に歯止めをしながら、笑みを浮かべあうザイルと副機関士。

そこへ車掌も加わり、今日の業務、最後の仕上げを行う。

火を落とした事を3人で確認すると、ザイルは機関車のボイラーの下を開いた。

中から出てきたのは、魔石だ。

正確には魔素を出しつくし、魔石ガラとなった物。

それらが、ガラガラとレールの下に空いた空間に、落ちていく。

魔石以外にも、炭となった木片が一緒にパラパラと落ちる。

これは明日、工場こうばの者たちが回収して炭と魔石をより分け、機関車の上部につけられた媒体庫に乗せられてゆくのだ。

高温にさらされたにもかかわらず、思いのほか魔石はキレイに形を成していた。


それが済むと、再び機関車のボイラーは閉じられていった。


「さて、もう一頑張りです!」


「「はい!」」


機関車後ろに据えつけられている石炭庫に乾かした材木と、魔石を載せていくのが、この日最後の仕事。

これをしなければ、明日、この列車が動かせない。

そこそこ重労働なので、3人で力を合わせなければ到底、終らない。

今日は駅員達の数人も手伝ってくれたおかげで、いつもより仕事は早く終った。

最後に歯止めをもう一度確認し、今日の全ての業務は終了である。


「それではザイル殿、私はこれで失礼いたします。」

「今日は、ありがとうございました。」


「ええ、お疲れ様です。」


副機関士、車掌の両名はこのまま帰宅となる。

次の日、いや、今日は彼らは公休なのだ。

(※公休・・休息日のこと)

挨拶を交わすと、2人は荷物を取りに乗務区へと向かっていった。


「さて僕は、明日の準備かな?」


一方ザイルは、今日は泊まり勤務なので、家に帰ることはできない。

この後の自分の業務は、体を休めること。

明日も朝が早いので、休める時に休むのが、得策なのだ。


ザイルも乗務区に置いてある自分の荷物をとりに、駅本屋へと向かっていった。



◇◇◇



今回出来た鉄道には、合計4箇所の駅などの『施設』がある。

それら全てに『泊まり勤務用』の設備が整っており、日夜数人が泊り込んで、次の日の業務に備えている。

ベアル駅もその一つだ。

駅の事務所と併設して、内部には寝室と浴室が用意されていた。


「ふう・・・」


湯気が立ち込める中、ザイルがふろ桶に溜まった湯で、今日一日の疲れを流す。

この世界で、フロというものはあまり一般的ではない。

せいぜい貴族や大商人などが、楽しむような娯楽に近い。

これというのも、大公様がこれだけは譲れないと、作らせたものらしいが・・・

仕事の後の湯浴みと言うのは、実に良い。

溜まった疲れが、ほどけていくようだ。


しかし入るのは、自分だけではない。

駅員や乗務区の人など、後がつかえているので、あまりゆっくり湯船につかることは出来ないのだ。

ザッと湯船から上がると、彼は急いだ様子で寝間着を着用し、浴室を出る。


「上がりました。」


「これはご丁寧にどうも。 今日はお疲れ様でした。」


「お疲れ様です。」


駅長に挨拶を済ませると、次にザイルは2階の乗務区へと足を運ぶ。

トントントンと、リズミカルな足音が階段に響く。

ノックをして、木戸を開けると、中には未だに仕事をしている区長の姿があった。

ザイル同様、彼も寝間着姿だ。


「なんだザイル君か、今日は世話を掛けたね。」


「区長、まだ寝ていなかったんですか?」


驚いた様子のザイルに、やわらかな微笑ほほえみを浮かべてみせる区長。

手元には紙の束が置かれており、それに目を通しているようだ。


「今日の経過報告をまとめているんだ。 駅馬車組合と領主様用にね。 フロには入ったのかい?」


「おかげさまで、今日の疲れが解けました。」


「それは良かった。 明日も朝早いのだから、今日は寝たまえ。」


「ありがとうございます、区長も早めに切り上げて下さいね。」


「ああ。」


ニッコリと笑みを浮かべ、再び書類に目を落とす。

彼には彼の仕事がある。

今日は特に『事故』があったのだから、列車の運行管理の責任を負う区長が、報告書をまとめるのは必然の事だ。

自分には、体を気遣うこと位しか出来ない。


「おやすみなさい。」


「ああ、おやすみ。」


キイ、となるべく音を立てないように木戸を閉め、退室するザイル。

彼はそのまま階段を下りることなく、向かい側にある部屋へと入っていった。

ここが『泊まり勤務』の者たちが夜、寝泊りする部屋である。

中にはベッドが備え付けてあり、既に寝る支度は整っているようだった。


ベッドはふかふかだ。

駅員の人たちが、昼間に干してくれたのであろう。

明日の事もあるので、今日は休む事にする。


「おやすみなさい。」


掛け布団を深くかぶり、ザイルは意識を夢の中へと落としていった。


彼は明日も『安全運行』のため、鉄道をひた走らせる・・・・



本文中に出てきたダイヤとは、列車の時刻表のようなモノの事です。

地球もそうであるように、この世界でもこれに倣って、鉄道の運行がなされています。

乱れると列車の行き違いなど、多くのことが変更になってしまい、現場はてんてこ舞いとなるのです。

そのためこの世界でも、現場には必ず魔術師による『スジ屋』が常駐しています。

(ダイヤを作る人の事です。 尺の都合上、割愛しました。)

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