表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第10章・鉄道の前に
256/361

閑話・鉄道の一日 その4

新章まで、しばらくお待ち下さい・・・

ポ゛ーーーーーーーー!!


空高く太陽が昇る頃。

ベアルからやって来た列車が、多くの空荷の貨車を従えて、ブレン駅へと進入してきた。

この駅は、ブレン商会という一商会が材木切り出し及び、運び出しを行うために作られた、この商会の専用駅。

もともとは信号所であった事もあり、多くの列車が、ここで行き違う。


そんな中、今入ってきたこの列車は、ベアルからやって来てここで折り返す、材木を運び出すための専用列車だ。

そのため、つながれた貨車が、空荷となっているのである。

ここで切り出された多くの材木を積み、再びベアルへと戻るのだ。


シュッシュッシュシューーーーーーーーーーーーーーー!!


大きな音を周囲に鳴り響かせ、駅へ停車する列車。

よく見ると編成最後尾には、背を向いたように機関車がつながれているのが確認できる。

これはブレン駅に転車設備がないため、行われている措置だ。

これにより荷の材木を積み終わり次第、すぐの発車が可能となる。

より多くの魔石を消費してしまうため、あまり多用は出来ないが、ベアル=ブレン間の十数キロ程度の短距離ならば、大きな損失とはならない。


駅構内には多くの材木がうず高く積まれており、貨車に積み込むのを待つばかりとなっていた。

列車到着と同時に、同商会から派遣された作業員が、三角錐の形をした木製のクレーンを引っ張り出して、貨車に横付けした。

これで重い材木を貨車へ、積み込むんでいくのである。

ちなみに人間程度の魔法では、この重い材木を貨車に載せていくのは、不可能である。

大公様の提案で作られたというコレは、現場で重宝されているようだ。


「・・・ホオ、時間通りでしたね。」


「遅れれば、他の皆さんに迷惑がかかってしまいますからね。」


片手に時計を持った駅員が、降りてきた機関士のザイルに声をかけた。

今のこの鉄道は、単線である。

この列車以外にも多くの列車が行き交う以上、一つの列車の遅延は、他の列車の運行に多大な影響を及ぼす。

大公様の先導もあり、秒単位で、列車の運行は決められていた。

これは、無事故にも一役買っている。


「荷揚げにはまだ、しばらく掛かるでしょう。 どうです、駅で一休みされては?」


「助かります。」


時は昼。

朝からここまで、休みなく働いてきたので、ザイルはじめ乗務員は、少なからず疲労が溜まっていた。

この駅では入れ換えや転車などをする必要はないので、長い停車時間を利用して、彼らは休憩を取らせてもらう事となった。


「やっと一服できますね、ザイルさん。」


「ゆっくり、英気を養う事にしましょう。」


『休憩』に、車掌は事のほか反応を示す。

彼も朝から神経をすり減らしっぱなしだったので、ここでの休憩は貴重なのだ。

人間、疲れた時が最も注意力が散慢しやすい。

かくいうザイルも、駅で昼食をとるつもりだ。


「それでは私は昼食を買ってきます。 何かご注文があればついでに買ってきますよ?」


このブレン駅の近くには、小さな商店がある。

ブレン商会の駐在員や駅員向けに、商いをしており、日常的に山で資材採集などを行ってそれを街などへ卸す事で、利用する人間が少ないにもかかわらず、業績は好調であった。

ちなみに店頭で売っているのは食料や石鹸せっけんなど、主に日用消耗品がその大半を占めている。


「それなら私も付いて行きますよ。 あの商店で眠り薬を注文したいので。」

「それなら私も。 妻に疲れがとれる軟膏なんこうでも買っていってやるとしましょう。」

「ははは、結局みんなで行く事になってしまいましたね。」


それぞれの思惑を話していったら、結局、全員が商店へ向かう事となった。

駅の隣に居を構える商店は、開店から日も浅いため、建物自体がまだピカピカの状態だ。

そこへ財布を片手に、半ば駆け足気味に駆け込む3人。

時間がないので、急いで買い物を済ませていく。


「ありがとーございます。」


『お疲れ様です』と返して、購入した食料を受け取るザイル。

まったく飾らない女店員が、ロボットのように淡々とした口調で、接客をする。

顔は可愛いのだから、もう少し表情に変化でもつければ・・・・

いや、これは第三者の自分が口を挟むのは、筋違いであろう。


「おや、ザイル殿はそれだけですか? もっと食べなければ、午後に力が出せませんよ??」


ザイルが昼食にと買ったのは、ベアル産ソギクに山で採集されたアルベリー草をまぶすなどして味付けされたパンが数個と、加工肉が数切れ。

あとは飲み物だけだった。

朝から働きずめな事を考えると、これでは小腹を満たす事ぐらいしかできない。


「私は小食なので、これで十分なのです。 そちらの御用は済みましたか?」


「ええ、街の商店より安価で手に入れる事ができて、助かりました。 彼の眠り薬も無事、済んだようですよ?」


車掌と副機関士の2人の買い物も済んだようで、片手には購入したモノが入った紙袋が握られていた。

彼らは家などから昼食は持ってきているので、それを買う必要はない。

彼らが飲み物のほかに買っているのは、いわゆる『お土産』だけだ。


「それは良かった。 では、なるべく早く昼食を済ませましょう。」


「そうですな。」


いくら休憩をもらったとは言え、鉄道の時間は決まっている。

限られた昼休憩言という時間内で、少しでも午後の業務のために、力をつけておかねばならないのだ。

談笑しつつ、彼らは小走りで駅事務所へと向かって行った・・・




◇◇◇



ブシュウウウウウウ!!


「制動ヨシ!」

「制動ヨシ!!」

ザイルの声にならって、復唱をする副機関士。

復唱をする事で、ヒューマンエラーを未然に防止するのである。

これで列車は、いつでも発車可能な状態となった。


「ふううぅぅう・・・・」


「大丈夫ですか?」


ザイルたちは昼休憩も終わり、持ち場へと戻ったのだが、その際、副機関士の調子がおかしかった。

今も腹を抑えて、苦しそうにしている。

まるで水面に顔を出して呼吸する、金魚のようだ。


「ご心配掛けてすみません。 食べた後の業務というものは、なかなか苦しいものですなぁ。」


はっはっは、と薄笑いを浮かべる彼。

額からは少し、汗がにじみ出ている。

昼食の弁当後の業務が、堪えているようだ。

実はザイルが、先ほど多く食べなかったのは、このあたりが関係していた。

腹いっぱいに食べると、後が思いのほか苦しくなってしまうのである。

まあ、愛妻の弁当を残すことは、彼には出来ないであろう事は、容易に想像がつく。


「この後の安全確認は、僕がやりますよ。 あなたは魔圧調整や温度調整を行ってください。」


「面目ありません。」


「いいえ、困った時はお互い様です。」


駅や踏切などの安全確認は、運転室内をせわしく動き回らなければならない。

反面、調節の仕事は座ったままでも出来る。

本来の調節は、機関車の長たるザイルがするべき事であるが、彼に任せてダメだと言う決まりはない。

こういった際に融通を利かせるのも、列車の安全運行に発揮されている。


「機関士殿、荷の積み込みが完了しました。 まもなくボルタ行きが参りますので、発車までしばらくお待ち下さい。」


「分かりました。 先ほどは休憩室を貸していただき、ありがとうございました。」


運転室から礼を述べるザイルに、ニコニコと笑顔を向けながら、その駅員さんは旗を持って、来る列車へ合図を出しに向かった。

発車までの少しの時間、ザイルは機関車を降り、一両ごとに積まれた材木の止め具の確認を行っていく。

もし走行中に崩れたりすれば、大事故につながるので、入念に慎重に。


ポ゛ーーーーーーーーーーー!!!


ポッ!


作業中、ボルタ行きの列車が彼の横を走り抜けていった。

二回聞こえた汽笛は、一つは自分の機関車のものであろう。

少ない客車に人の姿はなく、後ろにつながれた貨車には多くの物品が積まれていた。


「大公様がせっかく造られたのに、空っぽか・・・」


せっかくつながれている客車に人の姿がないというのは、何とも形容しがたい気持ちにさせられる。

御者をしていた頃は、人が居なければ開きスペースに荷物を載せていた。

だが鉄道の客車は、人を乗せる専用のもの。

郵便物ぐらいは載せるが、現状はそれにとどまる。

どうにか、人に利用される善作は無いかと、考えさせられる。


「おっと、時間が無い!」


ザイルは素早く、それでいて抜かりないよう丁寧に、荷の止め具確認を行っていった・・・



【アルベリー草】

 ・独特のにおいと苦味がある。

 ・高級料理の薬味によく使われる。

 ・生で食すと、腹痛などを引き起こす。

第5話でカイトが見つけた薬草と同じものです。

本来は高級食材なのですが、ここではその辺りに生えているなどの関係で、安価に作ることが可能になっています。

他にも安価の理由があるのですが・・・

それは追々。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ