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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第10章・鉄道の前に
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閑話・鉄道の一日 その2

鉄道は朝が早く、夜が遅い。

彼らの一日を書くと必然的に、朝から晩までの物語となってしまうのです。

うーん、それにしても長くなったな・・・

ブシュウウウウウウ!


ベアル発ボルタ行きの一番列車が、駅本屋に直結するホームへとバックで入ってきた。

線路の配置上、出庫の後に駅のホームへ列車を入れようとすると、どうしてもこうなってしまうのだ。

安全確認のため、車掌が車両外のデッキで黄色い魔力灯をともしながら、前方の確認を行う。

ホームには数名の駅員が居り、傍らには多くの荷物が山積みになっていた。

これから、これら荷物をこの列車に積むのだ。


ピーーー!!


副機関士が、笛を吹いて前方の車掌にブレーキをかける合図を送る。

それと共に、前方の車掌と副機関士が同時に、ブレーキを掛け、列車はゆっくりその足を止める。


これからが、忙しい一日の始まりである。

まずは駅員達と共に、貨車などへ荷を積み込まなければならない。

貨車の側壁の金具を鍵で開け、ガタンと下へおろす。

それと共に、多くの荷物を載せた台車がガラガラと貨車の荷台へと運ばれていき、それらが次々と駅員達の手によっておろされていく。

荷物はかなりの量があるので、それらを全て積むには、そこそこ時間がかかる。


また馬車にも言えることなのだが、あまり荷物をうず高く積んでしまうとバランスが悪くなり、崩れてしまう危険がある。

このあたりが、駅馬車組合の者たちの、腕のみせどころといえる。

車掌や副機関士もそれに加わり、荷物の積み込み作業を手伝う。


だがこれだけあっても、今日は少ないほうであり、作業はものの数分程度で終了した。

ガラガラと空になった台車の音だけが、辺りから聞こえるようになる。

車両の後方から、ガタンと貨車の側壁が閉められていく音が聞こえてきた。

荷物の積み込みは、おおむね完了したようだ。


「ザイル殿、荷物の積み込みは終了しました。」


「お疲れ様です、発車前の汽車の点検作業を行ってきますので、この場をお任せできますか?」


「了解です。」


副機関士をその場に残して、機関車から数メートル下の地面へと飛び降りるザイル。

彼の片手には小さな魔力灯が灯っており、それで編成最前分に当たる機関車から、最後尾につながる車掌車まで、くまなく点検をしていく。

先ほど車庫内でも同じことを行いはしたが、念には念を入れるのだ。

大公様のすすめる『安全第一』は、抜かりなく実践されている。


特にここでは問題などは発見できず、ザイルは足早に機関車へと戻る。

もうすぐ、一番列車の出発の時刻だ。



◇◇◇



「おかえりなさいザイル殿、出発準備は整っております。」


「ありがとうございます。 ・・・その包みは?」


ザイルが機関車に戻ってくると、既に副機関士がボイラーに魔石をくべてくれていたようだ。

これで、いつでも出発が出来る。

だがその彼の手には、まるで隠すように、紫色の包みが握られていた。

自分に見つかったので、彼は気恥ずかしそうにする。

ああそうか、これは・・・


「家内のヤツが、先ほど駅員に渡したようなのですよ。 何ともお恥ずかしい限りで・・・・」


「はは、いいじゃないですか。」


彼は既に結婚しており妻は、この街の一角に居を構えていると聞いたことがある。

仕事のたびに彼に対し、弁当を届けているのだ。

まだ夜も明けきらない、早い時間帯だというのに・・・

こういうのは素直に、うらやましく思う。


「すいませんザイル殿、あなたの御前でこんな色気づいた話を・・・・」


ザイルに対し、申し訳なさそうに謝罪をしてくる彼。

事情あって自分には、伴侶が不在なのだ。

だがそれは、もう過去の話。

この事については、踏ん切りはついている。


「構いませんよ、仲睦なかむつまじくて、何よりです。」


恥ずかしそうにして、鼻のあたまをかく彼。

自然とザイルの緊張による硬くなった表情も、ほどけていく。

だがもちろん、発車のためにボイラー内の温度調節の手は緩めない。

支給された手元の時計を見やれば、出発時刻は目前だ。

機関車の中から顔を出し、ホームを見てみる。

そうすると、駅本屋の方から赤色の魔力灯が灯される。

これは

『改札を閉めた、もう乗る人は居ない』の合図だ。

先ほどから見ていて、誰かが乗車するような光景は見受けられなかったので、客車は空っぽらしい。

鉄道は『魔石』という希少鉱物で動くので、運賃がかなり高いのだ。

もっと多く乗客が乗れば安く出来るかもしれないが、鉄道の普及はまだ、遠そうである。


「それでは今日一日、よろしくお願いいたします。」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」


運転室内にある両脇の席にそれぞれ腰掛けた二人は、魔導機関車の機構ひとつひとつをいじり、すこしづつ調整などをしていく。

ブシュウウウウウウ!!

機関車にたまった多量の圧力を掛けた魔力の一部が、抜けていく音があたりに響く。

これで出発の準備は万端だ。


ザイルは真剣な面持ちで、前方を注視する。

向かって機関車の左側に陣取る副機関士が、再びホームへ身を乗り出す。

ホームでは客車のドアを閉める駅員の姿が見受けられる。

といっても客車はたった1両なので、それ自体はすぐに終る。

駅員は頭上高く、青色に点灯させた。

それに呼応し、車掌がピー!

と、笛を鳴らす。

これはブレーキを緩める合図だ。


「出発進行!」


「魔石ヨシ、圧力良好!!」


ポ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!


一番列車の汽笛が、街中に鳴り響く。

ゴトンゴトンと重々しい音を響かせて、ホームを離れていく列車。

列車は明かりを残しながらまだ暗い闇の中へと、その姿を消していった・・・・・

ザイルさんの過去。

あまり良い話ではないので、今のところ書く予定はありません。

元々、閑話かぎりのゲスト主役てき立ち位置ですし。

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