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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第10章・鉄道の前に
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閑話・鉄道の一日 その1

閑話後、新章となります。

予定より、2倍以上長くなってしまいました・・・


鉄道の皆様に、スポットライトを当ててみました。

まだ夜も明けきらない、ベアルの街。

空には星の明かりが、地上には街の灯りが、それぞれきらいている。

その街の一角、『ベアル駅』の事務所内では、けたたましいベルの音が鳴り響いていた。


ジリリリリリリ・・・リリン!


「う・・・ふあああぁぁぁぁ・・・・・」


寝ぼけ目をすりながら簡易ベッドから起き上がり、大きく伸びをする男性。

彼の名はザイル。

駅馬車ギルドに所属する人間で、つい数ヶ月前まではボルタや王都までの馬車の、御者をしていた。

だがそれも今となっては昔の話。


今はここで、『鉄道』というものの『機関士』というものをしている。

元々、初歩程度の魔法が使えるということから、抜擢ばってきされた。

仕事はもっぱら、ベアルからボルタまで運行される鉄道の、運転責任だ。

『鉄道』というのは、馬車の御者のように、一人で出来るようなものではない。


自分のほかにも多くの役割を果たしている者が、それぞれ責任を持って、職務をまっとうしている。

鉄道と言うものは、朝早くから運行される。

だからこうして、早起きをするのだ。

起き上がると同時に制服などへの着替えも、ここで済ませていく。

金色のボタンが並ぶ、紺色に染め上げられた厚めの制服と、硬い素材で出来たキャップ付の帽子が真新しい。

これが我々が『鉄道員』たる証である。

今日はそんな我々の、一日をお見せしよう。


「区長、おはようございます。」


「おはよう、運転は1列車だったね?」


まず彼が向かったのは、駅に併設された『乗務区』

ここは列車を動かす役目を負う自分や副機関士などが、その職務を開始する際に必ずよらなければならない、事務所である。

挨拶あいさつを交わした後、区長と呼ばれた男性は、ザイルの前に大きな水晶球を置いた。

これは、今の状態で安全に鉄道の運転ができるか、それを魔力のよどみなどを判断材料にして示してくれる代物だ。

これをしなければ、列車の運転にたずさわる事ができない。

彼が手をかざすと、しばらくして青く光った。

これが、『問題ナシ』の際の光り方だ。

ちなみにダメだと、赤く光る。

この間はつい、羽目を外してしまって夜まで酒を飲みまくり、次の日の勤務で・・・

いや、この話はいいか。


「よし、体調は問題ないようだな。 ・・なんだ、ザイル君は今日の夜も泊まり勤務か!??」


「ははは、そうみたいです。」


区長が機関士たちの今日のスケジュールを見て、驚きの声を上げる。

『泊まり勤務』とは、その日の夜遅くまでの列車まで運転し、今日のように駅の事務所で寝泊りして次の日、朝早くの列車を運転するということを意味する。

残業や、夜寝ずに働くと言う事ではない。

それでもなかなか、過酷のように聞こえるかもしれないが、馬車で夜の番をして寝れない事を考えれば、今はずっと楽だ。


「大変だろうが、頑張ってくれ。 すでに副機関士は、車庫で機関車の整備チェックをしているはずだ。」


「分かりました。 急いで向かいます。」


深々と区長に礼をして、『乗務区』を出るザイル。

外には魔力灯の明かり以外は無く、駅の構内はかなりうす暗い。


「おお、寒い!」


ピュウウウ!と、冷たい風がほおを打ちつける。

吐く息も白く、その気温の低さがうかがい知れる。

この辺りは大陸の屋根とも揶揄やゆされる、『ビルバス山脈』から吹き降ろす風があり、夜から朝にかけて、外気温がぐっと下がる。

風邪など引かないよう、よく気をつけねばならない。

多くのレールをまたぎ、構内に止まっている一本の列車へ向かう。

この列車を、今日一日担当するのだ。

機関車の動輪の近くでは、区長の言ったとおり、副機関士が乗務前の点検を行っていた。

コンコンと、木槌をたたく音が、構内に響く。

自分のかなり早くに起きたと言うのに、彼は一体、いつ起きたのだろうか??


「おはようございます、今日は寒いですね。」


「おお、これはザイル殿! おはようございます、もうすぐ点検が終るので、そのあとに制動試験を行いましょう。」


「ありがとうございます。」


副機関士の言う『制動試験』というのは、列車のブレーキなどが正常に作動するか、それを確認する出発前に必ず行うことと定められている、試験の事だ。

いわば、列車の体調を調べると言えばよいか?

鉄道の安全運行上、大切なのだと、教えられている。


「特に列車に不具合は見当たりませんな・・・ザイル殿、さっそく試験をしますか??」


「待ってください、まだ車掌さんが来ておりませんから。」


ひと通り、列車の点検を終えたらしい副機関士の『制動試験』の提案に、待ったをかけるザイル。

それにたじろぎ、困ったようにソワソワし出す彼。

制動試験は、二人だけでは出来ない。

列車には多くの貨車や客車がつながっており、編成中の最前部と最後尾に『車掌車』がつながっている。

これは列車を止める際、両脇の車両から、ブレーキの栓を閉めるためだ。

これにより、安全に列車が止まる仕組みとなっている。

機関車単体ならば、機関士たち二人だけでも、制動試験は可能なのだが。

そうこうしているうちに、遠く明かりのついた乗務区の方からこちらへ走ってくる男性のシルエットが浮かんだ。


「すみません、遅れました!!」


「急がなくていいですよ、まだ出庫予定時刻には時間がありますから。 制動試験を行いますので、お願いします。」


「分かりました、今すぐ!」


ザイルたちに挨拶あいさつをしながら、急いで最後尾の車両へと乗り込む車掌。

早速こちらも機関車に乗り込み、諸々の準備を進める。

まず車輪の、歯止めを取る。

そして次にボイラーへの火入れ。

温度調節。

そして機関車の燃料の、魔石をくべる。

これで、準備は万端だ。

最後尾へと、視線を向けるザイルたち。

すると、青く灯る魔力灯が暗闇に浮かんだ。

車掌からの、『準備完了』の合図だ。


ポッ!


危険を知らせる、短い汽笛を一度鳴らす。

ブレーキの試験をするだけだが、万が一動いてしまわないとも限らない。

そのために鳴らす、警笛だ。

こちらからも青の魔力灯を最後尾に向かって点け、『準備完了』を合図する。

とたん、ブシュウウウウウウウウウウウ!!!!

と、大きな空気の音が、辺りに木霊する。

特に、空気が抜けるような音は聞こえないが、念のため副機関士と車掌が、全部の車両をチェックし、正常にブレーキが作動しているか、確認をする。


「ザイル殿、特にブレーキは問題ないようです。」


「分かりました、ではポイントをとってきますので、少し待っていてください。」


そう言って機関車から降り、列車の前方にあるいくつかのポイントをかえして、軌道を開通させる。

昼は工場に人間がおり、その人たちが反す事になっているのだが、人の居ない朝や夜などは総じて、彼らの仕事となる。

これで、出発準備は完了だ。

大急ぎで、機関車に戻るザイル。


「出発進行!」

「魔石ヨシ!」


ポー!


先ほどより少し、長い汽笛を鳴らす。

カタンカタンと、軽やかな音を響かせながら、ゆっくりと動き出す列車。

これから、列車の一日が始まる・・・・




入れ換えのため、車掌車は編成中に2両つながっています。

ベアル、ボルタでは方向転換しなければなりません。

その際の入れ換えの手間を省くため、このような措置がとられているようです。

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