第240話・テツの亡人
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カイト様が先ほど、やっと帰られました。
彼が隣の領地へ書状を賜りにいかれて、丸1日以上が経ちます。
彼は移動に転移が使えるため、どんな長距離の移動でも、一両日中に終らせることが可能なのです。
「奥様、調査結果を纏めたものは、こちらになります。」
「ありがとうございます。 あなた達はひと時の間、休んで下さい。」
あっちで現地調査。
こっちで資料作成。
そちらでその纏め。
多くの者たちが、領内の問題解決のために動いてくれました。
これらは全て、領主様であるカイト様にお話を通して許可を得ることで、やっと『終わり』となります。
それもあって彼には、シェラリータから帰られた後はじっくり休んでいただき、次の日にこれらの話をさせていただこうと考えていました。
「は~~~・・・」
・・・が、彼が帰って来たのは先ほど。
伯爵様との話が長引いたのか、それ以外の理由なのか・・
ため息が出るのも、しかりです。
イヤな予感しかしないので、彼に問い詰める事はしませんでした。
「ここが・・アリアの部屋かい?」
「そうでございますが、何か?」
彼が帰るのが、あまりにも遅いのでやむなく、資料の準備などは私の私室でさせていただきました。
ですが私の部屋には、ちょっと問題が・・・
カイト様の魔絵を、飾っていたのです。
いつものヘラヘラされているお姿のは、追い込み用。
かっこよく凛々しいお姿のは、疲れたときや覇気を出す用。
などなど・・・
ほかにも安眠用にお手製のぬいぐるみがあります。
今ではこれ無しでは、寝付けなくなってしまいました。
カイト様、恐るべし!!
当然彼に、そんなことは知られたくありません。
夫婦とはいえ、断固拒否させていただきます。
彼をここに招くに当たり、部屋の中のモノを運び出していただきました。
使用人たちの間では周知の事実なので、特に抵抗はありません。
この際『彼に』知られなければ良いのです。
悟られぬように、彼との議論に、注意を割きましょう。
完璧な場所でブツは、保管されているはずですから。
「バルアのハワイ化・・じゃなくて観光リゾート化は、また後でいい対策でも考えておくよ。 それで良いかい?」
「ええ、よろしくお願いいたしますわ。」
かねてからのバルアの再興計画は、とりあえずのところ保留のようです。
私は基本的に部外者なので、あまり首は突っ込めません。
ここは彼に任せるのが得策でしょう。
『鉄道』が絡んでいれば、彼はさえていますし。
「じゃあ、これで話は終わりだね?」
「いいえ。」
早く仕事を終らせたいのですね?
でも本来あなた様には、『休む』などという事は出来ないほど仕事があるのですよ?
彼に言っても、無駄でしょうがね。
こうして口頭でご説明して、その上で指示を仰ぐのが、問題解決の上で最も早く、そして効率的なのです。
忘れることもしばしばあるようですが、一応、何かと考えてはいただけるので、良しとしています。
・・・なんだかこれでは、私がここの領主のようですわ。
「もう一つ話がございます、これもバルアにまつわる話なのですが・・お聞きになった上で、カイト様のご指示を仰ぎとうございます。」
「し、指示??」
そう言うとアリアは、バルア周辺の地図を広げて見せた。
ところどころに赤丸で印が付けられているのが、見て取れる。
「何コレ?」
「バルアにおける我々の保有地・・つまりは空き地を記したのが、この地図でございます。」
頭に疑問符を浮かべて、地図を覗き込むカイト。
『皆目、見当もつかないのですね。』
うーん、時間がかかる。
彼に領主として大成していただくため、今まで遠まわしの、このような手法をとっていたのだが・・・
この先は、もったいぶらずに最初から説明を加えた上で話を進めた方が、いいのかもしれない。
「カイト様、こちらはですね・・・」
「あ、魔石採掘!!」
アリアが説明を始めるようとする瞬間、テツの亡人カイトの頭は閃きを見せた。
さすがはカイト。
鉄道の事となると、別人のように頭の回転が良かった。
むろん『カイトなりに』という言葉が前につくが。
アリアも、驚きを隠せない。
「この丸印の場所は我々の保有地であり、かつ近くに住んでいる者も居ないので、魔石の採掘が始まっても影響はございません。 無論、あまり魔力量が高くなってしまうと困ってしまいますが・・・」
「ありがとうアリア、これで鉄道の燃料問題、一挙解決だ!!」
「そ、そうなのですか? 喜んでいただけて何よりでございます。」
魔石が無くては、鉄道は動かない。
それはベアルから王都まで鉄道を敷いたら、より懸念される事態であった。
魔石は希少な上、モノが高価なのだ。
それが簡単に手に入るようになれば、あとの問題は、何とでもなるものばかり。
一番心配していたことであっただけに、喜びもひとしおである。
が、アリアの表情は、なぜか浮かないモノだった。
「カイト様、ついては魔石採掘に関連して、お話があるのですが。」
「ん、何??」
一転して真剣な眼差しで、彼を見据えるアリア。
それにあわせ、彼も佇まいを正す。
彼女のコレは、最も重要なことを話す前兆だ。
「知っての通り、魔石は希少鉱物でございます。 これが多く産出するようになれば、この地に戦乱が起こるでしょう。 お聞きしますが、カイト様はこれで産業を興すおつもりではないのですね??」
「ああ、違う。」
魔石は希少鉱物。
それをそのまま産業として輸出などすれば、奪い合うようになるだろう。
『発展』ではなく、きっと『奪取』という形で。
それだけは何としても、避けねばならない。
あくまで魔石は、鉄道の燃料として使うのだ。
彼のこの返答に満足したのか、何度か頭を縦に振ると、話を続けた。
「分かりました、ならば話を続けさせていただきます。 調査したところバルアの西側、つまり山脈側に住んでいる者はおりません。 またカイト様ご要望の『交通の便』に関してましても、先ほど申し上げましたとおり鉄道を通せば、運び出しは容易と存じますが、いかがでしょうか?」
バルアの地図の、丸印の一つ一つを指でなぞっていく彼女。
スゴイ。
内容の半分ぐらいしかアタマに入ってこなかったが、とても現実的な提案をされているのは、理解できた。
だんだん鉄道の延伸計画も、形を帯びてきたようだ。
あとでグレーツクへ行って、早速あのカミサマに魔石を頼もう!!
彼はまだ、気づいていない。
自らが抱えた『爆弾』の大きさと『懸念される事態』の詳細を。
カイトの『領主教育』がこの先、急がれる事となるだろう・・・
魔絵とは、念写にちかい製造方法で作られる、現代でいうところの写真のようなモノです。
専用の魔力を練りこんだ紙に、記憶を頼りに写したいモノをイメージして投影させます。
弱点もあります。
イメージが肝となるので、実物と若干、相違が発生しやすいのです。
カイトの魔絵も総合的に見ると、ビミョーに実物より目が細くなるなどして凛々しくなり、カッコ良くなってます。
あまり、あからさまではないですが。




