第239話・アリアの話
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「カイト様、この際ご挨拶は抜きにして、早速お話をいたしましょう。」
「えっと・・・ただいまアリア?」
カイトです。
シェラリータから帰って、おおよそ5秒。
屋敷の中へ入ると光の速さで、妻が鬼気迫る勢いに迫ってきました。
まだ、互いの挨拶すら済んではいません。
「結局こうなるのですね、おかえりなさいませカイト様。 お疲れのところ大変恐縮ではございますが、お時間をいただけますか?」
「うそー・・」
あまりの展開の早さに、ほとんど彼女の話に付いていけない。
最近、こんな事が多くないか??
後ろの3人も、急な事態に目を丸くしています。
正直、アリアのこの態度は、恐怖でしかありません。
彼女が取り乱すと、必ず不吉なことが起こるのです。
せめて『話』は、着替えをしてからではダメでしょうか?
そんな俺の胸中を察したのか、アリアは続けざまに口を開いた。
「本来の予定では昨日のうちに、カイト様がご帰宅されて後、今日の朝からこの件は話すつもりでしたが、『なぜか』カイト様たちが今日の昼に帰って来たので、このような形をとらせていただきました。 何か不都合でもございましたか?」
「トンデモナイヨ。」
問題なんかあるもんか。
俺は領主、このさい着替えなんか後でいい。
するべき事はたくさんあるのだ!
はーっははは。
・・アリアは、俺の全ての行動を把握しているのでは無かろうか?
なんか怖い。
シェラリータが懐かしくて、つい、長居をして宿に宿泊したのが、祟ったよう。
もし彼女に知れれば、今度こそは殺されるかもな・・・
「まずは資料を交えて、じっくりとご説明差し上げます。 準備は整っておりますので、私の部屋のほうでお話いたしますわ。」
「へ~~、アリアの部屋か。」
彼女とこの領地に来て早、4年以上の月日が過ぎている。
それだというのに、未だアリアの部屋に訪れたことはなかった。
だって前に用事があって入ろうとしたら、『カイト様は絶対、入室禁止です!』と言われたのだもの。
以来、話があるときは基本的に、俺の部屋で行うようになったのは、周知の事実だ。
でも人の部屋って、純粋に興味があるんだよね。
「それではカイト様、こちらへどうぞ。」
「はいよ。」
『アリアの部屋の興味』という感情を前に、カイトから疲れや恐怖などは吹き飛んだ。
珍しいこともあるものである。
もちろんこのチャンスを逃す手はない。
いやだってさ、身内のプライベートって、何かと気になったりしない??
この領地の領主様は、いつもこの調子である。
これで領内の政治はうまく回っているのだから、世の中不思議なものだ。
大きな不安をよそに、彼らは『領内の』話をするようだ・・・・
◇◇◇
アリアの部屋に入ると、まず目に飛び込んできたのは大きな机と椅子が二脚。
それだけだった。
部屋の中には、ベッドや衣装棚すらない。
殺風景と言うか、何か恐ろしいものを見たようが気がした。
「ここが・・アリアの部屋かい?」
「そうでございますが、何か?」
質問に、質問で返されてしまった。
『どうしてそんな、当たり前のことを聞いてくるの?』といった感じだ。
もっとこう、女性のプライベートって言うものを期待していたのだが、こうして見ると何ちゃーない。
はっきり言って、俺の部屋より何もない。
う~む、個人差なのだろうか?
気にするのは、よした方が良さそうだ。
そもそも今日は、そのために部屋を訪れたわけではない。
「それで、俺が不在の間に何かあったのかい?」
ここ最近よくあるパターンを懸念し、話を切り出す。
その彼に、アリアは静かに首を横に振ってみせた。
「いいえ、話と言うのはカイト様が出立される以前のことでございます。 覚えておられませんか?」
「う~ん・・・」
そう言われてみると、何かあったような・・・・
順繰りに、思い出してみよう。
ギルド誘致、魔石採掘、鉄道延伸、鉄道建設団の今後などなど・・・
うわっぷ。
アレもコレも、いろいろな事がありすぎて、正直なところ頭の整理がついていかない。
アリアの言う事とは、このうちのどれの事だろうか?
頭に疑問符をあげるカイトに、アリアはため息をついた。
「・・・バルアの観光リゾート計画を、覚えておられますか?」
「あ、あれね!」
覚えているも何も、それは俺が主導で始まった話である。
覚えていないわけがない。
鉄道建設がとどのつまりを見せたことで、一時頓挫していたこの計画。
王都経由で、バルアへの鉄道建設の目処が立ったので、詳しい話をしたいとの事だ。
それならそうと、早く言ってほしい。
「早速なのですが、カイト様はどのようにバルアを売り込むおつもりなのですか?」
「はい・・・?」
真剣な表情で、カイトを見据えるアリア。
彼女には、すでに事業計画は説明済みのはずだ。
バルアの美しい海を売り込んで、人を集めて、『ハワイ化』するのである。
この世界には『旅行を楽しむ』という習慣がないので、ワリと受ける気はした。
移動手段も快適なものが出来るので、そう破綻した計画でも無いように見える。
・・・が、この計画には重大な穴が存在した。
もちろん、彼の計画には大抵、『穴』はつきものだが、今回のコレは、特に大きいほうだった。
「前にもご説明したとおり、旅は楽しむものではありません。 それは鉄道ができたからと言ってすぐに、意識が変わるものでもありません。 その上で、どうバルアに『観光客』なる者を、呼ぶおつもりなのですか?」
「あ゛!!」
そうなのだ。
旅を楽しまない。
それと言うことはつまり、当然『旅行会社』なんてものも無い。
客を集めようにも、宣伝する方法が無ければ、どうともしようが無いのだ。
その方法を、一体どうするのか?
それをアリアは聞いたのだ。
ちなみに当のカイトは、今気が付いたので、策などもっていようはずも無い。
「・・・アリア、後でゆっくり考えていいかい?」
「・・・・。」
策が無いので、彼はお持ち帰りすることとした。
今この場で答えを焦っても、いい結果は生まない。
それは暗に、『何も策はない』とアリアに伝えてるものだった。
こんな調子で、本当にバルアは立て直せるのだろうか?
相談したアリアは見えない先行きに、薄ら寒さすら感じるのだった・・・
問題は、いつでも山積みです。
大抵、カイトが増やすことが原因で。(笑)




