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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第10章・鉄道の前に
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第238話・ふたたび宿にて

これらも、頑張っていきます。

感想などがありましたら、どんどんお寄せください!

「はっはっは、そりゃ災難だったねカイト。」


「笑い事じゃねーよ。」


『蒼き炎竜亭』で夕食をとるカイトの前には、お約束なのかエリカさんが居る。

前に見たとき同様、満面の笑顔をふりまいて。

彼女が笑っているのは、先ほど俺が街のど真ん中で、『クマさん』こと服屋のおっさんに、目いっぱい抱きしめられて窒息した事。

当事者としては、笑い事ではない。

もう少しで俺は、死ぬところだったのだ。


「あんたは好かれる体質なのかね~~、さすがはカイトだよ。」


「おっさんのアレは半分、殺人技だったけどな。」


彼のアレは冗談ではすまない。

今も後遺症で、肩や腕がバキバキいって痛いのだ。

『服屋』にもかかわらず持つ、彼の筋肉の意味が、今なお分からない。


「それに、あんたが貴族様とは。 世の中、何があるか分からないね、ホント。」


「ああ。」


一時は『一生涯にわたる逃亡生活』をも覚悟したのに、結果はこの通り。

世の中、一寸先は闇の中である。

もちろん指名手配よりは、責任はあるが今はずっとマシだ。


「まさか今日、ウチに泊まってくれるとは思わなかったよ。 部屋はタマタマ空いていたから良かったけど、どういう風の吹き回しだい?」


「・・・・事情が変わってな。」


宿を離れる際、エリカさんには『今日は帰る』と伝えていたので、この反応である。

ちょいちょい事情があり、今日はシェラリータに泊まることにしたのだ。

もちろん、ノゾミたちも一緒。

部屋はもったいないので一室にしたのだけど・・・問題ないよね?


「お兄ちゃん、このお肉、おいしいよ?」

「カイト殿様、もし体調が優れないのであれば、私が代わりにしょくしましょうか??」


ダリアさんが、目をギラギラさせて、俺の前に置かれているソニック・シギーの肉に熱い視線を送る。

とっさに、自分の分の料理の皿を取り上げるカイト。

食うよ!

食うに決まっている。

ただ一人っ子のさが、好きなモノを最後にとっているだけだ。

まったく、油断もスキもあったものではない。

とられぬよう、肉を口にほうばると、ダリアさんは無表情に戻った。


「ふむ、ふはい。(うん、うまい。)」


この宿の醍醐味だいごみの一つ。、

ここの出す料理は、格別にうまい。

誰が他人ひとになぞ、やるものか。

一連のやり取りを、ニコニコと笑顔で眺めるエリカさん。


「賑やかなモンだね~~、最近ここに泊まるのは短期の、労働者だけだったから、見ていてこっちも楽しいよ。」


「むぐむぐ・・・そりゃ良かった。」


こっちは、そのために宿に泊まったのだ。

彼女が満足なら、目的は達せられた事になる。

何かと楽しい事は多かったので、こちらとしても泊まってよかった。

これでアリアに怒られなければ、良いんだけど・・・

そんなことを考えていると、エリカさんがカイトの背後に、その視線を移した。


「こちらは皆、アンタの連れだろう? 私に負けず劣らず、キレイなのばかりじゃないか。 その上、聞いた話によるとこの国の王女様と結婚したとか?」


「・・・・。」


なぜ、それを知っていると聞き掛けて、ヤメタ。

前にアリアに『俺は大陸では有名人』と聞いた。

当然、俺の話ぐらい、駄々漏れなのであろう。

もはや俺に、プライバシーなど無いも同然だ。

アリアに閉め出された話も、次の日は街で、うわさが流れていたし。

ましてここは、ベアルからほど近い場所であるし。

俺はなるべく静かに暮らしたいのに・・心境的にフクザツだ。

自然、彼女から目をそらすカイト。


「・・・ふ~ん・・カイト、ちょっと良いかい?」


「何?」


ずっと目の前の席で、俺に相対していたエリカさんが、何かを思い立ったように立ち上がった。

笑顔のままで。

話なら、今の体勢でも良かったはずだが・・

何か、言いにくい事でもあるのだろうか?

少し真剣な表情をつくり、耳を傾け来ると思われる話を待つ。


ドゴーーーーーーーン!!


「ぐほほおぉぉーーーーーーー!??」


エリカさんから来たのは話ではなく、鉄拳だった。

彼の左頬に、彼女の渾身こんしんのグーパンチが叩き込まれる。

なんら対策を講じていなかったカイトは、その勢いで椅子いすから転げ落ちてしまう。

今、何が起きた!?

左手で頬を押さえながら、彼女に抗議の構えを見せるカイト。

・・が、最初に抗議の声をあげたのは、今まで静観の構えを見せてきたヒカリであった。


「ちょっと、なんでお兄ちゃんをぶったの!? お兄ちゃんはまだ、悪い事は何もしてないでしょ!??」


ヒカリが誰かに対して怒りをあらわにするなど、初めてかもしれない。

俺を慕ってくれているのかな。

でも何気に発せられた『まだ、悪い事をしていない』と言うワードが、心に突き刺さったよ。

俺って、彼女の中ではそういう立ち位置なのね・・・

ダリアさんとノゾミについては、今のところ動きは無いようだ。

まさか予想していたのか・・・?


「おー、いて・・・・」


「ごめんよカイト、ちょっと永年の積もり積もったうっぷんを、晴らさせてもらったんだ。」


「・・・あー、そうかい。」


エリカさんに差し出された右手を取り、ゆっくりと立ち上がるカイト。

なぜ俺でうっぷんを晴らしたのかと、特に聞く気は起こらなかった。

この数年間で、彼女にもイロイロあったのだろう。

これも女将おかみさんとの談合の一環であると考えれば、何でもない。

痛みは一過性のものだし、俺にはこの街を逃げた負い目もある。

だが結構、思い切り殴られたようで、左頬は少し赤くはれていた。

ジクジクと、電気が走るように頬に痛みが走る。

性格的に彼女の辞書には、手加減という言葉は無いのかもしれない。

これぐらいなら治癒魔法で、どうにでもなるんだけどさ。


「娘がごめんよカイトさん、おわびにコレも食べて下さい。 お代はいらないよ。」


「お、うまそう!!」


起こされた俺の前に、大皿でやきそば(っぽいモノ)が女将さんの手によって運ばれてきた。

とってもおいしそうだ、これなら殴られた甲斐があったというもの。

痛いのは、なるべく避けたいけどね。

ダリアさんたちの食う量を考慮してか、量はとても多い。

早速、小皿に取り分けて、コレをほうばる。


「かー、うめぇー!」


口いっぱいに広がる甘辛いソース(っぽい)と、シャキシャキした食感の野菜。

それにモチモチのっぽい

やきそばは大好きだったので、こうして食べられると嬉しい。

屋敷ではアリアに合わせ、何かと高級感漂う料理ばかりで、おいしいのだけれど口が寂しくなりがちなのだ。

こういうとき、市井しせいの料理は偉大なり。


「ーってダリアさん、それ、とりすぎでしょ!?」


「(バク、ゴクン。)何か?」


現在、このやきそばを食うのは、カイトを含めて4人。

日本の温室育ちのカイトと違い、他の3人は飢えた狼のように、次々と食事に手を伸ばしていった。

つーかみんな、ペース早すぎ!

もっと味わって食えよ!?

彼女たちのスピードの速さに、カイトは舌を巻く。


「あ、ああ~~!!」


そうこうしている内に、彼の分はほぼ、無くなってしまった。

こういうとき、一人っ子というモノは総じて、無力だ。

カイト、惨敗である。


「ぬぬ~~! 女将さん、今のと同じのおかわり!!」


「あいよ。」


彼の追加注文を、苦笑しながら受け付ける女将さん。

こうして懐かしいシェラリータの夜は、更けていった・・・




「なんだか今日は、俺たちお邪魔虫か?」


「料理がうまいから、我慢しとこうぜ・・・」


そのうら。

『蒼き炎竜亭』を訪れた他の客達は、肩身の狭い思いをしながら料理を楽しんでいたと言うのは、また別の話である。




給仕は例により、女将さんが代行しました。

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