第237話・カイト、勇者の剣を手に入れる?
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「コレが魔剣かぁ~~」
天に剣をかざすカイト
見た目は、数年前となんら変わらない俺専用の剣。
・・・見た目は。
「・・・・カイト殿様、安易に振り回すとその剣は、この世のありとあらゆる物を切ってしまう恐れがあるのですが。」
「あ、ごめん・・。」
不安げな表情を浮かべるダリアさんたちに配慮して、剣をボックス内へとしまうカイト。
昔、俺がこの街の武器屋で作ってもらったこの剣。
魔力が神様のせいでことさら強い俺が、日常的に持っていたせいで魔力を剣が吸収。
供給過多になり、今やダリアさん並の魔力を保有する『魔剣』となってしまったようだ。
たかが剣が、ドラゴン並みの魔力を有するなど、尋常な事ではない事は、異世界人の俺でも分かる。
おかげでこの剣は『手に持つことすら』危険な代物になってしまったとは、製作者のおっちゃんの弁。
どーすんだよ、コレ・・・・
「ダリアさん、この剣使う? よく切れる包丁の代わりになら、なりそうじゃない??」
「いえ・・・自信を失くしてしまいそうなので、いりません。」
武器として使えないなら、違う用途を。
カイトは魔剣を、包丁代わりに使う提案をした。
『魔剣』と言うだけあって切れ味は良いみたいだし、うってつけだと思ったのだが・・・
ダリアさん、表情が暗いぞ。
体調でも悪いのだろうか?
しょうがない、この剣は使い道もなさそうだし、とりあえずしまって置こう。
捨てたり譲ったりするのは、何だかもったいないし。
「お兄ちゃん、まだどこかに行くの? ちょっと疲れてきちゃった。」
「あ~ゴメン、もうあらかた挨拶は済んだんだ。 後はゆっくり休もうか。」
ヒカリたちが、疲れを訴えだした。
さっきから歩き通しだからな・・
今日の用事は、シェラリータの知り合いへの、ご挨拶。
武器屋にギルド、『水の精霊亭』とラウゲットさんにそれから・・・・
うん、大方の挨拶は済んでいるようだな。
何人か街から、居なくなっていたのは非常に残念としか言いようが無い。
ギルドも、前に来た時より小規模になっていたように見受けられた。
ソレらは間違いなく、俺のせいであろう。
それを考えると、非常に気持ちが落ち込んでしまう。
「あれカイト、こっちは門の方角じゃないよ?」
「いや、こっちで良いんだ。」
一行の先頭を仕切るカイトが、あらぬ方向へと向かうのを指摘するノゾミ。
屋敷へ帰るならば、確かに門を出なければいけないのだが、今日はそういうわけではないので、この方向で間違いは無い。
「カイト殿様、ベアルへ帰らないのですか?」
「いや、今日は宿に泊まる事にしたんだ。 屋敷に帰るのは、また明日にしよう。」
今の時刻は、おおよそ午後4時くらい。
別にこのままベアルまで転移で帰っても、一向に差し支えない時間だ。
だが今日は、久しぶりにこの街に泊まる事に決めたのである。
『蒼き炎竜亭』に。
数時間前に宿へ、忘れ物を取りに行ったときのこと。
宿へ駆け込むと、事態を知っていた宿の女将さんは、すぐにカイトにこれを返してくれた。
エリカさんは買い物の途中だったようで、出かけていて留守だった。
特に資料が足りないなどと言う事も無く、二重の意味で安堵のため息を漏らしていた彼。
そこに間髪入れずに、女将さんが俺へ話を持ち掛けてきた。
『エリカの奴、あんな元気なのを見るのは久しぶりだよ。 この頃は疲れていたのか、めっぽう元気をなくしていてね。 あんたが来て、あの子の元気が戻ったようなんだ。 なあ、良かったら今日はウチで泊まって行ってくれないかい? お代は結構だよ』
『・・・。』
ね?
状況的に言えないでしょ??
『今日は家に帰る予定なんで、また今度』なんてさ。
次はいつ、この街を訪れるのか、見当もつかないのだし。
急ぎの用事はあるのだが、この話を無視できるほど、俺の神経は図太くない。
アリアには『話が長引いた』とか説明しておけばよいだろう。
今日一日は、エリカさんの話に付き合っても良いかもしれない。
なんやかんやで、彼女にはかなりお世話になっているのだから、そういう頼みは、聞くべきだ。
正直、そうまでイヤでもないし。
・・ニガテではあるが。
「ではもう、お休みになると・・? カイト殿様、、どうせこの街に残ると言うなら、出かけませんと、時間がもったいなくありませんか?」
「・・・・。」
いや、そんな殺気のようなものを、こちらへ向けられても困る。
彼女は基本的に、この街は初めてであるらしい。
探究心がくすぶって、うずうずしている様子。
今日はもう『休む』と言われ、残念な気持ちが裏返って、このような態度になるのだ。
最近になってなのだが、このようなダリアさんの態度が微笑ましく映るようになって来た。
なんだか、(見た目)歳相応で。
別に彼女の希望は『破壊』などではないので、こちらとしても極力かなえてはやりたい。
だが今のメンバーは出自、種族共にバラバラの4人。
ザッと説明すると、マトモに人間が1人も居ないパーティーだ。
ヒカリの言う『疲れた』も、身体的なモノと言うよりは、精神的なモノに起因するモノであろう。
安全のためにも、1人が疲れなどを訴えれば、それに合わせるのが最も良い手段と言える。
気疲れは、回復魔法などで治るようなものではないし。
「ダリアさん、今日は我慢してあげて? 休息は大事だよ??」
カイトの言い分を聞き分けたのか・・
ダリアさんが、急に大人しくなる。
彼女は、こんなに聞き分けが良かったろうか。
数年に及ぶ使用人生活で、彼女の性格も丸くなったのかもしれない。
そんな彼の妄想は、すぐさま弾ける事となった。
「・・・カイト殿様、『遊び』期待いたしておりますよ?」
「ああ、期待・・・頑張るよ。 だから、良いね?」
今さら、コレを覆す術など、存在しないだろう。
要求を呑むことで、カイトはその場しのぎの解決の糸口をつかむ事に成功した。
避けられない事態なのであればと、カイトはこれに便乗する事としたのだ。
火のついた火薬庫に爆弾を、余計に1個放り込んでも、結果は同じだと言う考えだ。
ちなみに彼はその爆弾が、核弾頭である事に、気がついてすらいない。
世界が破滅しない事を、切に願う。
「それじゃ、部屋のカギも預かっている事だし、早速、宿に・・・」
「おおおおおおおおおおおお!!???????」
カイトの提案は、後ろから上がった男の叫び声で、かき消されてしまった。
彼らが居るここは、シェラリータの街の中心地近く。
喧騒は珍しい事ではない。
だがその声はどうも、俺たちに向けられたもののような気がする。
「あ、クマさん!!」
振り向くと、そこには服屋のマッチョさんがいた。
通称、『クマさん』
ギルドに居たレンさんの呼び名を、そのまま使った次第だ。
両手に米俵のようなモノ・・・服飾用なのか大量の糸のロールを担いでいる。
彼も買い物帰りなのだろうか?
あとで挨拶に向かおうとしていたので、正直手間が省けて助かった。
・・・と1秒ほどは、考えておりました。
「カイちゃんじゃないのーーーーーー!!!」
ギュッ、バキバキメキメキ・・・・!!
「ぎゃアアああああああ~~~~~!!!!!」
再会が嬉しいのか、それともそれ以外の感情によるモノなのか・・・
カイトは目いっぱいクマさんに抱きしめられ、その意識を手放した。
残りの3人は、その光景をただ、遠巻きに見つめる事しかできなかった。
ダリアさんにも匹敵する剣・・・・
今後、何も起きなければ良いのですが。




