第236話・武器屋で怒られた
昨日、いい天気だったので海を眺めていたら、『入水しようとする高校生』に間違われ、職質をされてしまいました・・・
そもそも高校生でもないのに。
良く言えば、見た目が若々しい?
「こんにちはー!」
シェラリータでは名の知れた武器屋へと足を踏み入れたカイト。
数年前同様、店内には剣や杖など、多くの武具が所狭しと壁を埋め尽くしていた。
だが肝心の、店主の姿はどこにも居ない。
「あれー? こんにちは、誰か居ないんですかぁ??」
首をかしげながら、再び店の奥へ向かって声を張り上げるカイト。
しかし先ほど同様、返事はない。
留守か?
いや、奥から鉄を打つような音が聞こえてくる。
不在ではないようなので、気付いていないのかもしれない。
「すいません、誰もいな・・・わ!??」
店の奥のほうから、強烈な殺気を感じ取ったカイトはとっさに、体を左へそらした。
刹那、回転する斧が、彼の横を素通る。
ビイイィィィ・・・ンと、深々と壁に突き刺さる斧。
反応がもう少し遅かったら、俺の体は真っ二つに切り裂かれていた事だろう。
アブないところであった・・・・
「バカヤロウ、今は取り込み中だ! 入り口から堂々と入ってくるんじゃねぇ!!」
「え、えええ・・・??」
そして俺はなぜか、怒られてしまった。
入り口から堂々と入って、何がいけなかったのだろうか?
怒りの形相をおくる、この武器屋の店主。
彼こそ懐かしき、武器屋のおっちゃんである!!(名前は知らない)
お留守でなくて、何より・・・
「お久しぶりです、近くを通ったので、ご挨拶に伺いました!」
「・・・・。」
深々と頭を下げるカイトに対し、品定めするをするような視線を向けてくるおっちゃん。
初めて訪れた時も、こんな感じだったな・・・
「あ、あの・・・」
「貴族に知り合いはいねーよ、出口は入ったところだぜ。」
・・・どうやら俺は門前払いらしい。
初めて会ったときも、貴族を毛嫌いしている気があったからな・・・
俺の姿を見て、失望してしまったのかもしれない。
だとすると性格上、彼は俺の話を聞いてくれることはないだろう。
う~~む。
寂しいけど、致し方ないか・・・
「さて、帰ろうか?」
「え、カイト今ので良いの??」
カイトの言葉に、ノゾミとヒカリがそろって驚嘆する。
だが今回の趣旨は、あくまで『あいさつ回り』
今のでも、一応の目的を果たす事はできている。
「ダリアさん、次の場所に向かうよ?」
「う、美しい・・・カイト殿様、見てくださいこの神々しき武器の数々を!! 思わず戦慄が走るようでございます。」
「・・・そう。」
いつの間にやらダリアさんが、店内に飾られた武器に魅せられていた。
あんな恍惚の表情を浮かべる彼女を見るのは、初めてかもしれない。
しかし武器を見て『美しい』とは、さすがはダリアさんだ。
未だ武器慣れしていない日本人のカイトには、一生涯、理解できそうにない感情である。
武器を見て惚れ惚れするとは、彼女は本当に戦闘が好きなんだろうな・・・きっと。
「・・ほう・・・、嬢ちゃん、この武器の良さが分かるか?」
奥へ引っ込み掛けていたおっちゃんが、驚愕の速さでダリアさんの横へ立つ。
心なしか、彼の目も輝いているようにも見える。
おや?
彼からもダリアさんのような気配が・・・
「分かりますとも、特にこの剣は鋼鉄ではありませんね? 地竜の息吹を感じますので剣体にはおそらく、彼らの鱗が使われているのでしょう。」
ふんぞり返り、得意満面で解説を行うダリアさん。
それに『うん、うん。』とただ、うなづくおっちゃん。
「ですがそうなると、強度はあっても武器として鍛えるには、いささか難があるような・・・」
「ふむふむ、特別に嬢ちゃんにだけ、教えてやろう。 この剣はな、極秘ルートで仕入れたミスリル鋼を元に、微量の魔石をつなぎにして・・」
「ほう、すると魔力バランスを調整する事で、専用の剣に鍛え上げる事が・・・」
楽しそうだな。
俺には、チンプンカンプンだ。
とても『ここを出よう』という空気ではなくなってしまった。
別に急いでは居ないので、ここで待つのも良いかもしれない。
『職人気質の鍛冶師が、年端の行かないメイドと話に花を咲かせる』(主に武器の話で)という、珍しい光景を目の当たりに出来るわけだし。
・・・2人が何を言っているのかは、全く見当もつかない領域になってるけど。
しばらく掛かりそうなので、その間に俺は、パパッと料理をする事にする。
といってもするのは、簡単な『飴作り』
最近分かったのだ。
魔法でも、手順を踏めば料理を作ることが出来ることに。
この世界に来た時に『ラーメン』が出せなかったのは、そのような経緯があったからであろう。
まずはアイテム・ボックス内で火の魔法を使って、屋敷からもらってきたちょっと粒が粗めの砂糖を溶かす。
同時にボックス内にあった丸太から、小さな木の棒を切り出す。
この棒を、溶けた砂糖の中に刺して、冷凍魔法で温度を冷ませば、即席べっこうあめの完成である。
料理と言うより、科学の実験を応用させてもらった形だ。
完成したソレをアイテム・ボックスから取り出して、ヒカリとノゾミに手渡す。
この世界に『飴』は見た事がないので、一応彼女たちには食べ・・・なめ方を伝授する。
最初こそ訝しんでいたものの、一口なめるなり2人ともスゴイ勢いで、しゃぶりだした。
好評のようで、何よりだ。
そしてこちらも、どうやら話がまとまりかけて・・・
「カイト殿様、話はまとまりました。 剣を出して下さいませ。」
「・・・は、剣??」
ダリアさんの後ろのおっちゃんが、腕を組んで首を縦に振る。
話がまとまって何よりだが、話の真意が見えてこない。
どう話がまとまって、俺に剣を出せと言う話になったというのか。
「その昔カイト殿様が、この方に剣を作らせたと聞き及びました。 それを私も一度拝見したく、存じます。」
「まさか装備を外しては居ないだろう? 早く出しやがれ小僧。」
「・・・。」
話の過程は見えないが、真意は何となく読めた。
剣に魅せられたダリアさんたちの話の中で、前に作ってもらった俺用の剣の話が持ち上がったのだろう。
最近めっきり使う事は無くなったが、アイテム・ボックス内に丁重に保管してある。
まあ、製作者が出せと言っているので特に抵抗する事もなく、それを差し出すカイト。
「ほほう、これがカイト殿様の・・・!!!」
「!!??? ぎゃああああああああああああああああ!!!」
カイトから剣を受け取った瞬間、おっちゃんは悲鳴のようなモノをあげる。
まさか知らないうちに、剣に呪いが掛かっていたとか!?
しまった、よく確かめてから渡すんだった。
床にうずくまり、肩を震わせるおっちゃん。
・・・・そして次に、カイトの顔面には、げんこつが飛んで来た。
ボカッ!!
「いたーーーーーーーーーーーー!!????」
至近距離からおっちゃんの渾身のパンチをくらったカイトは吹っ飛ぶようにして、背中を壁に打ち付けられた。
衝撃で、壁に掛かっていた武器の数々がガラガラと床に転がる。
諸々の体の頑丈さが助けて、彼の体にケガはない。
体に走る痛みは、どちらかと言うと『壁に当たった衝撃』から来るモノである。
だがにカイトの心中には、怒りに似た感情が渦巻いた。
「な、何するんですか!? いきなりゲンコツは無いでしょう!!?」
こっちは言われたとおり、剣を差し出したのだ。
それなのに理由もなしに殴られるとか、理不尽すぎる。
挨拶とか関係なしに、ここは厳重に抗議をさせてもらう。
「バッカヤロウ! てめえ剣に何しやがった!? コイツ、魔剣化しちまってるじゃねーか、コンチクショー!!」
「え、、負けん・・・?」
何ソレ、勝気な名前だな。
それとも『マ犬』?
もしかして、ノゾミの応用で姿が犬のように変化する能力が剣に宿ったとか!??
うっわ、何それビミョー・・・
『ご主人様、今日も戦いたいワンワン! ボクは絶対に負けないワン!!』
『はは、くすぐったいよパ○ラッシュ!!(剣) でも戦闘の予定は、今のところは無いんだ』
『そんな事言わずにワン!!』
以上、妄想終わり。
そんな面倒くさい関係、ダリアさんだけで十二分である。
バカイトの微妙な面持ちは、おっちゃんの怒りにさらに火をつけた。
「・・てめえ~~、ここに座れ! 説教してやる!!!」
「えー!??」
俺の剣を片手に持ち、空いたほうの手でズイッと床を指し示すおっちゃん。
ここまで来て、説教だと。
アリアじゃあるまいし・・・
うーむ、だがおっちゃんの表情からは、殺気がほとばしっている。
逃げたら、後々に面倒くさそうだ。
ここはひとまず、言う事を聞くことにしてみた。
話は、長引きそうである・・・
武器屋のおっちゃんが激昂した理由。
それはまた、次回にて。




