第235話・あいさつ回り
これからも、頑張っていきます。
感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい!
ある晴れた日の昼下がり。
教会の鐘と共に、魔石採掘を行っている工夫たちは一斉に昼休みに入る。
これから各々(おのおの)、宿や定職屋などで昼食を摂ることになる。
そんな1日の間で最も、街が騒がしくなる時間帯。
シェラリータのメインストリートでは、異彩を放つ4人組が街を練り歩いていた。
「お兄ちゃん、どこに向かっているの??」
「せっかくここまで来たから、いくつか寄りたいところがあるんだ。 時間は掛けないつもり。」
領主様邸での所用が済んだカイトは、せっかくここまで来たのだからと、再び道草をくいはじめる。
今度こそは失くしたりしないよう、書状はカバンごとアイテム・ボックスの中だ。
これでノビノビ、行動ができる。
彼は今までに、街でお世話になった人たちに、あいさつ回りをするらしい。
卒業した高校生ヤンキーがする教諭への『あいさつ回り』とは違うので、ご安心下さい。
「私が覚えているのと、だいぶ街の様子が変わったねカイト。」
「ああ、びっくりだよ。」
目的地に転移を使わずに徒歩で向かっているのは、街を観察するため。
カイトが昔に事件を起こしたおかげで街の様子は、彼らが知っているものとは大きく変わっていた。
それをこの目に焼き付たいと思ったのだ。
結果はご覧の通り。
建物は大きく変わっていないのものの、出している看板などから、知っている店はかなり少なくなっているように見受けられる。
今向かってる場所も、もしかしたら無くなっているかも知れない。
「カイト殿様、目的地はまだ遠いのですか?」
「・・・転移は使わないよ?」
道の周りからは、好奇にも似た視線が、こちらへ注がれているのが分かる。
貴族が2人に、使用人2人のメンバーが徒歩移動なんかしていたら、そうなりますよね・・・
見世物みたいなのが嫌なのか、先ほどからこうしてダリアさんが俺へ『魔法を使え』と提案してくる。
さっきも説明したとおり、俺が徒歩移動をわざわざ選択しているのには理由があるのだ。
ここでそれを曲げるつもりは、毛頭ない。
そんなあからさまに、肩を落とされても困る。
ノゾミたちが嫌がったら考えるが、2人は特段、気にしていない様子だ。
「そうだ、服を買いにいくか? いい店を知ってるよ。」
3人のご機嫌取りのためカイトは、そんな提案をした。
この際、あいさつ回りの順序を、少しイジる事にしよう。
女性は総じて、服飾に興味があるのだとアリアに教えられた。
今の位置からだといささか、遠回りにはなるが、それも致し方なかろう。
それで気を引いておき、後の行動をスムーズにしようと言うわけだ。
カイト、わりと打算的である。
「私、今のこの服でいいよ?」
「新しい服なんていらな~い。」
「服飾ですか・・それよりも私としましては、この街の『すいーつ』を食べあさりたい気分なのですが。」
「あ、そ。」
カイトの打算は、1秒で破裂した。
そうでしたね、この3人はそういうモノからは、かなり縁遠い方々でしたっけ・・
彼女たちには服飾より、うまい物を食わせた方が、ずっと機嫌が良くなる。
かといってまた、何かを食いにいくのは俺の胃的に敬遠したいところだ。
期待に応えられなくて、ごめんね。
そうとなれば、『マッチョさん』(仮名)への挨拶は、また後でいいだろう。
「じゃあ予定通りにいくよ? そう時間もかからないし。」
興味がないのか、カイトの提案にけだるそうにうなづく3人。
表情はビミョーだが、否定されるよりはマシだろう。
カイトに連れられるまま、一行は街の中心へと突き進んで行く・・・
◇◇◇
「カイト、そのうち良い事あるよ。」
「うぅ・・・」
先ほどから街を練り歩く、珍妙な一行のうちの男が、見るからに沈んだ表情を浮かべていた。
周りの女性組3人が、それを慰める。
「カイト殿様、大丈夫ですか? 運が悪いのも、あなた様の取り柄ですよ??」
「・・・。」
いや、違った。
メンバー中、ただ1人の使用人は省く。
運が悪いのが取り柄とか、俺は一体何なのだと聞きたい。
俺たちがまず、最初に向かったのは、この街のギルドだった。
知っているギルドの人などに、ご挨拶を・・と思ったのだ。
ギルドマスターが居ないのは、仕方ない。
そう思って敷居をまたいだら・・・
「まさか職員が、ほとんど全員代わっているなんてな・・・」
端的にいうと、知っている顔ぶれは、ほとんど居なかった。
代理のギルドマスター(副ギルドマスターと言うらしい)も知らない人。
ギルド職員も、そのほとんどが知らない顔ぶれであった。
何人か見覚えのある人も見かけはしたが、なんだか寂しい思いをさせられた。
受付嬢のレンさんに、一言お礼を言いたかったな・・・・
しかし『転勤』してしまったのでは、仕方がない。
元気にやっている事を、切に願います。
「カイト殿様、用事は済みましたか? 先ほど香ばしい香りを漂わせる、興味湧かせられる料理屋が・・・」
「待って、まだ一件済んだだけだから。」
俺が感慨にふける時間すら、与えてはくれないらしい。
むむ・・・そんなに食っていたらじきに、太るぞ!?
いや、ドラゴンは太ったりはしないのか・・・?
どちらにせよ、彼女には『食う』と『蹂躙』以外にももっと、興味をお持ちいただきたい。
(※使用人を除く)
「お兄ちゃん、次はどこに行くの?」
「なに、遠くはないさ。 そこの角を曲がった突き当たりが目的の店。」
俺が向かっているのは、とてもお世話になった人のもとだ。
彼にはとてもお世話になったので、これだけは外せない。
ギルドで聞いたので、所在確認もバッチリだ。
カイトの視線の先。
そこには石造りのこぢんまりとした小さな建物があった。
盾と剣と杖が交差する大きな看板が、存在感を放つ。
それはこの街では名の知れた、武器屋。
その中からは、コーンコーンと、金属を叩くような音が鳴り響いていた・・・・・
シェラリータ編が、予定より長くなってしまいました・・




