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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第10章・鉄道の前に
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第234話・伯爵様との談話

これからも、頑張っていきます。

感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい!

「なるほどね、それで門に誰も居なかったわけか・・・」


「・・・・・面目ありません。」


苦笑を浮かべる伯爵に、顔を真っ赤にさせながら謝罪を繰り返す、別の領からやって来た大公様。

説明の必要も無い、彼はカイトだ。


「どうぞ。」


「あ、ありがとうございます。」


カイトやラウゲットさんたちに順にお茶を出していく、この屋敷のメイドさん。

数年前に俺が生まれて初めて見た、メイドさんと同じ人である。

お礼を言いつつ、茶をたしなむ彼。

羞恥しゅうちが解けて行くように、お茶の味は優しかった。

先ほど、ここへ来る途中に忘れ物に気がつき、引き連れていた3人共々、途中立ち寄った『蒼き炎竜亭』まで戻る事となった俺たち。


・・・だがそれに気がつく少し前、彼はこの屋敷の呼び鈴を幾度か鳴らしていた。

チリンチリンと。

はからずもその際、おのれの忘れ物に気がついた。

これが無ければ、ここまで来た意味がなくなるというぐらい、重要なものを。

大急ぎで忘れ物を、取りに戻った彼ら。

こうして門に出てみれば、誰も居ないという構図が出来上がることになってしまったのだ。

貴族のお屋敷でピンポンダッシュするとは、もはや、さすがとしか言いようがない。

これから彼に『頼みごと』をするというのに。


「はっはっは、気にする事はないよ。 いや・・する必要はございません、大公殿下。」


「・・・・。」


われんばかりの笑顔から一転、真剣な表情をこちらへ向けてくる、シェラリータ伯爵様。

なんだか、とっても気恥ずかしい。

ピンポンダッシュの件もそうだけが、知った人に俺の身分を言われると、こんなにも恥ずかしいものなのかと、考えてしまう。

今すぐにでも、穴があったら入りたい。


「あの、俺なんて貴族じゃないですからホント・・・成り行きでなぜか、こうなってしまっただけですから・・・」


カイトの自分への態度に、目を丸くさせるラウゲット伯爵。

場を考えると、あまり相応ふさわしい言葉ではなかった。

謙虚をモットーにする彼にしてみれば、そう不思議な事ではないのだが・・・・

まあ良く言えば・・・日本人らしい行動だった。


「ははは、君らしいな・・・ガジェットの奴も、この場に居ればよかったのに。」


「・・・ギルドマスターですか、もうこの街に居ないんですか??」


乾いた笑みを浮かべ、愚痴をもらした伯爵様に、疑問を口にするカイト。

ガジェット・サグロン。

俺がこの街でギルド登録した際に優しくしてくれた、この街のギルドの長だった人だ。

出来れば今回、こうして来たのだから挨拶ぐらいして行こうと考えていたのだが・・・


「諸用で王都へいっているんだ、今は代理のギルドマスターが取り仕切っている。  彼が帰るのは多分、来年になるんじゃないかな?」


「そうなんですか・・・」


挨拶をしておきたかったところだが、不在ならば仕方が無い。

どうせシェラリータには幾度か訪れようと考えているから、挨拶はまたの機会にしよう。

ふと、顔を上げるカイト。

ここで彼は、ラウゲットさんの注意が、後ろへ引き付けられている事に気がついた。

いるのはもちろん、あの3人。

そういえば、彼への紹介がまだだった。


「紹介します、向かって右からダリアさんにヒカリ、そして妹のノゾミです。」


コレを聞いてヒカリとダリアさんは目を丸くさせたが・・興味をなくしたのか、すぐに視線を前へと戻した。

カイトの『妹』と言うワードに、強く反応を示したようだ。

興味をなくした理由は・・・察してほしい。

この紹介に、驚愕するラウゲットさん。

彼の視線は、ノゾミに強く注がれていた。


「そういえば大公様がバルアの監督官になって、かの地には新たに伯爵が任命されたと聞きましたが・・まさか?」


ノゾミは立場上、俺と同じ『領主』のトレードマークである白い礼服を着用している。

元々トビウサギという体毛が白い種族の彼女には、この白服は大変に好評であり、最近は日常的に着用しているのを見かける。

俺は動きにくいので、普段は着ない。

まあ、今は関係ないか。


「ええっと、王様からある日突然に『任命書』が届きまして・・・・」


「・・・。」


鼻のあたまをかきながら、事の経緯を簡単に説明するカイト。

ラウゲットさんからのコメントは、ついぞ無くなった。

カイトのチートっぷりは、どこであろうともいかんなく発揮されている。

たぶん神様の加護は、関係ないと思われる。


「ははは、君には驚かされてばかりだな。 付き人もたった2人とはね。」


「ははは、そうですよね。」


傍目には領主2人に、付き人が2人。

これは少ないどころの話ではない。

正確に言うとヒカリは『従者』ではないので、彼の言う付き人はダリアさん、ただ1人と言う事になる。

それをわざわざ、言うつもりは無いが。

っと・・・話が脱線してしまった。

脇に置いたカバンから、諸々の資料などを引っ張り出して、目の前の机に並べるカイト。


「ラウゲットさん、こちらが鉄道の概要をまとめたものになります。 どうぞお納め下さい。」


「これが君がずっと言っていた『鉄道』か・・・」


お茶を口に含みながら、差し出された書類の束を手に取るラウゲットさん。

こうして見ると当然ながら、彼からは『領主の威厳』みたいなものを感じる。

俺も、あれがあるべき姿なのだろうか?

・・・。

いや俺には100年経っても、無理そうだ。

俺はこのまま、俺のスタンスで行こう。


「ラウゲットさん的には、『鉄道』はどうでしょうか・・・?」


ここで彼から良い返事をもらえなければ、当然この領地に鉄道を敷くことはできなくなる。

文字通り、彼の采配がこれからのすべてに直結するわけだ。

手に汗握るカイト。


「君がほしいのは、コレだろう? 持っていくといいよ、用事は済んだからね。」


「え、良いんですか!??」


両手でカイトに、白い封書を渡してくるラウゲットさん。

封を切ってみると、中には『許可証』と書かれた上質紙が入れられており、その他にも手続き上必要とされる書類が、すべて入れられていた。

彼は俺たちが訪ねてくるまでの間に、用意していてくれたようである。


「ありがとうございます!」


「近頃有名になったらしい君に、どうしても会ってみたくなってね、無礼は承知であんな事をしてしまったんだ。 すまないと思っている。」


俺に対して、謝罪と共に頭を下げてくる。

彼の言うあんな事とは、俺の屋敷宛に『ハズレ』と書かれた文書を送りつけてきた事であろう。

全然気にしていない。

おかげで、懐かしいシェラリータへと来る事ができたのだから。

むしろアレは、感謝をしたいぐらいだ。


「君のおかげで、この街は廃都にならずに済んだ。 君には一生かかっても返しきれない恩があると思っているよ。」


「よして下さいよ、そんな大げさな事。」


本当に、この街ではいろいろあったな・・・・

彼の言う『恩』というのは、俺の不祥事が原因だったりするんだけどね。

それについては、知らぬが花と言うヤツであろう。


「こちらこそ、何から何までお世話になりました。 これで屋敷の敷居がまたげます。」


「ん、大公である君でも頭が上がらない人間が、屋敷に居るのか?」


居ます。

アから始まる名前の髪が赤い、美人だけど下手な鬼より怖い人間が。

これで許可証をいただけなかったら、俺は二度とベアルに帰れないところであった。

大げさという無かれ。

昔、約束をすっぽかして彼女に、屋敷を閉め出されてしまったことがあるのだ。

それは北風が吹き降ろす、寒い夜の出来事であった。

あんな事は、二度とゴメンである。


「それではラウゲットさん、俺はこの辺でおいとまします。 お世話になりました。」


「なんだ、もう帰るのか。 あわただしいな、そんなに屋敷で待ってくれている人は、厳しいのかい??」


苦笑を浮かべつつ、あいまいに返事をするカイト。

これからの事は、直接アリアには関係が無いのだ。

だが『約束』がある。

彼女も今日と明日ぐらいならば、許してくれるであろう。

屋敷の使用人さんが、出口まで案内してくれそうになったが『それは自分の仕事だ』と、

ラウゲットさん自ら、見送りに来てくれた。

ダリアさんたちと共に彼についていき、屋敷の玄関へと降りるカイト。


もう一度、ラウゲットさんによく、礼を言う。

ダリアさんたちも、彼の態度には気を良くしたようで、俺の礼にならう。

ちょっと心配だったので・・・・良かった。

これで、ひとまずこの街でするべき事は終った。

最後にラウゲットさんと、ギュッと固く握手を交わす。

これでやっと、一つの事が終わった気がした。

自然と、顔がほころんでいくのが分かる。


そんな中、当のラウゲットさんは沈痛な面持ちで、俺を見据えていた。

まるで俺に、伝えにくい事を話そうとしているような・・・

一体、何だろうか?


「カイト君、よく聞きなさい。 控えめなのはいい事だが、それは自らの首を絞める両刃もろはの剣にもなるのだ。 これからはよく、気をつけるのだぞ。」


「は、はい、分かりました・・・?」


そう言って彼は、カイトにハグをして、笑顔に戻った。

そこに先ほどの、重々しい雰囲気はみじんもない。


用事も済んだので、別れの挨拶もそこそこに、カイトたちはラウゲット邸を後にする。

彼に言われた、言葉の意味。

カイトはまだ、この言葉を本当の意味で、理解はできなかった・・・・



ベアルの屋敷で、カイトが閉めだされてしまった事について・・・

閉め出されたところで、魔法で入ればいいじゃないかって??

そんな事したらカイトは、アリアに八つ裂きの上でバーベキューにされてしまうのですよ。

結局のところ次の日には、許してもらえましたしね。

くわばら、くわばら・・。


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