第234話・伯爵様との談話
これからも、頑張っていきます。
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「なるほどね、それで門に誰も居なかったわけか・・・」
「・・・・・面目ありません。」
苦笑を浮かべる伯爵に、顔を真っ赤にさせながら謝罪を繰り返す、別の領からやって来た大公様。
説明の必要も無い、彼はカイトだ。
「どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
カイトやラウゲットさんたちに順にお茶を出していく、この屋敷のメイドさん。
数年前に俺が生まれて初めて見た、メイドさんと同じ人である。
お礼を言いつつ、茶をたしなむ彼。
羞恥が解けて行くように、お茶の味は優しかった。
先ほど、ここへ来る途中に忘れ物に気がつき、引き連れていた3人共々、途中立ち寄った『蒼き炎竜亭』まで戻る事となった俺たち。
・・・だがそれに気がつく少し前、彼はこの屋敷の呼び鈴を幾度か鳴らしていた。
チリンチリンと。
はからずもその際、己の忘れ物に気がついた。
これが無ければ、ここまで来た意味がなくなるというぐらい、重要なものを。
大急ぎで忘れ物を、取りに戻った彼ら。
こうして門に出てみれば、誰も居ないという構図が出来上がることになってしまったのだ。
貴族のお屋敷でピンポンダッシュするとは、もはや、さすがとしか言いようがない。
これから彼に『頼みごと』をするというのに。
「はっはっは、気にする事はないよ。 いや・・する必要はございません、大公殿下。」
「・・・・。」
われんばかりの笑顔から一転、真剣な表情をこちらへ向けてくる、シェラリータ伯爵様。
なんだか、とっても気恥ずかしい。
ピンポンダッシュの件もそうだけが、知った人に俺の身分を言われると、こんなにも恥ずかしいものなのかと、考えてしまう。
今すぐにでも、穴があったら入りたい。
「あの、俺なんて貴族じゃないですからホント・・・成り行きでなぜか、こうなってしまっただけですから・・・」
カイトの自分への態度に、目を丸くさせるラウゲット伯爵。
場を考えると、あまり相応しい言葉ではなかった。
謙虚をモットーにする彼にしてみれば、そう不思議な事ではないのだが・・・・
まあ良く言えば・・・日本人らしい行動だった。
「ははは、君らしいな・・・ガジェットの奴も、この場に居ればよかったのに。」
「・・・ギルドマスターですか、もうこの街に居ないんですか??」
乾いた笑みを浮かべ、愚痴をもらした伯爵様に、疑問を口にするカイト。
ガジェット・サグロン。
俺がこの街でギルド登録した際に優しくしてくれた、この街のギルドの長だった人だ。
出来れば今回、こうして来たのだから挨拶ぐらいして行こうと考えていたのだが・・・
「諸用で王都へいっているんだ、今は代理のギルドマスターが取り仕切っている。 彼が帰るのは多分、来年になるんじゃないかな?」
「そうなんですか・・・」
挨拶をしておきたかったところだが、不在ならば仕方が無い。
どうせシェラリータには幾度か訪れようと考えているから、挨拶はまたの機会にしよう。
ふと、顔を上げるカイト。
ここで彼は、ラウゲットさんの注意が、後ろへ引き付けられている事に気がついた。
いるのはもちろん、あの3人。
そういえば、彼への紹介がまだだった。
「紹介します、向かって右からダリアさんにヒカリ、そして妹のノゾミです。」
コレを聞いてヒカリとダリアさんは目を丸くさせたが・・興味をなくしたのか、すぐに視線を前へと戻した。
カイトの『妹』と言うワードに、強く反応を示したようだ。
興味をなくした理由は・・・察してほしい。
この紹介に、驚愕するラウゲットさん。
彼の視線は、ノゾミに強く注がれていた。
「そういえば大公様がバルアの監督官になって、かの地には新たに伯爵が任命されたと聞きましたが・・まさか?」
ノゾミは立場上、俺と同じ『領主』のトレードマークである白い礼服を着用している。
元々トビウサギという体毛が白い種族の彼女には、この白服は大変に好評であり、最近は日常的に着用しているのを見かける。
俺は動きにくいので、普段は着ない。
まあ、今は関係ないか。
「ええっと、王様からある日突然に『任命書』が届きまして・・・・」
「・・・。」
鼻のあたまをかきながら、事の経緯を簡単に説明するカイト。
ラウゲットさんからのコメントは、ついぞ無くなった。
カイトのチートっぷりは、どこであろうともいかんなく発揮されている。
たぶん神様の加護は、関係ないと思われる。
「ははは、君には驚かされてばかりだな。 付き人もたった2人とはね。」
「ははは、そうですよね。」
傍目には領主2人に、付き人が2人。
これは少ないどころの話ではない。
正確に言うとヒカリは『従者』ではないので、彼の言う付き人はダリアさん、ただ1人と言う事になる。
それをわざわざ、言うつもりは無いが。
っと・・・話が脱線してしまった。
脇に置いたカバンから、諸々の資料などを引っ張り出して、目の前の机に並べるカイト。
「ラウゲットさん、こちらが鉄道の概要をまとめたものになります。 どうぞお納め下さい。」
「これが君がずっと言っていた『鉄道』か・・・」
お茶を口に含みながら、差し出された書類の束を手に取るラウゲットさん。
こうして見ると当然ながら、彼からは『領主の威厳』みたいなものを感じる。
俺も、あれがあるべき姿なのだろうか?
・・・。
いや俺には100年経っても、無理そうだ。
俺はこのまま、俺のスタンスで行こう。
「ラウゲットさん的には、『鉄道』はどうでしょうか・・・?」
ここで彼から良い返事をもらえなければ、当然この領地に鉄道を敷くことはできなくなる。
文字通り、彼の采配がこれからのすべてに直結するわけだ。
手に汗握るカイト。
「君がほしいのは、コレだろう? 持っていくといいよ、用事は済んだからね。」
「え、良いんですか!??」
両手でカイトに、白い封書を渡してくるラウゲットさん。
封を切ってみると、中には『許可証』と書かれた上質紙が入れられており、その他にも手続き上必要とされる書類が、すべて入れられていた。
彼は俺たちが訪ねてくるまでの間に、用意していてくれたようである。
「ありがとうございます!」
「近頃有名になったらしい君に、どうしても会ってみたくなってね、無礼は承知であんな事をしてしまったんだ。 すまないと思っている。」
俺に対して、謝罪と共に頭を下げてくる。
彼の言うあんな事とは、俺の屋敷宛に『ハズレ』と書かれた文書を送りつけてきた事であろう。
全然気にしていない。
おかげで、懐かしいシェラリータへと来る事ができたのだから。
むしろアレは、感謝をしたいぐらいだ。
「君のおかげで、この街は廃都にならずに済んだ。 君には一生かかっても返しきれない恩があると思っているよ。」
「よして下さいよ、そんな大げさな事。」
本当に、この街ではいろいろあったな・・・・
彼の言う『恩』というのは、俺の不祥事が原因だったりするんだけどね。
それについては、知らぬが花と言うヤツであろう。
「こちらこそ、何から何までお世話になりました。 これで屋敷の敷居がまたげます。」
「ん、大公である君でも頭が上がらない人間が、屋敷に居るのか?」
居ます。
アから始まる名前の髪が赤い、美人だけど下手な鬼より怖い人間が。
これで許可証をいただけなかったら、俺は二度とベアルに帰れないところであった。
大げさという無かれ。
昔、約束をすっぽかして彼女に、屋敷を閉め出されてしまったことがあるのだ。
それは北風が吹き降ろす、寒い夜の出来事であった。
あんな事は、二度とゴメンである。
「それではラウゲットさん、俺はこの辺でおいとまします。 お世話になりました。」
「なんだ、もう帰るのか。 慌しいな、そんなに屋敷で待ってくれている人は、厳しいのかい??」
苦笑を浮かべつつ、あいまいに返事をするカイト。
これからの事は、直接アリアには関係が無いのだ。
だが『約束』がある。
彼女も今日と明日ぐらいならば、許してくれるであろう。
屋敷の使用人さんが、出口まで案内してくれそうになったが『それは自分の仕事だ』と、
ラウゲットさん自ら、見送りに来てくれた。
ダリアさんたちと共に彼についていき、屋敷の玄関へと降りるカイト。
もう一度、ラウゲットさんによく、礼を言う。
ダリアさんたちも、彼の態度には気を良くしたようで、俺の礼に倣う。
ちょっと心配だったので・・・・良かった。
これで、ひとまずこの街でするべき事は終った。
最後にラウゲットさんと、ギュッと固く握手を交わす。
これでやっと、一つの事が終わった気がした。
自然と、顔がほころんでいくのが分かる。
そんな中、当のラウゲットさんは沈痛な面持ちで、俺を見据えていた。
まるで俺に、伝えにくい事を話そうとしているような・・・
一体、何だろうか?
「カイト君、よく聞きなさい。 控えめなのはいい事だが、それは自らの首を絞める両刃の剣にもなるのだ。 これからはよく、気をつけるのだぞ。」
「は、はい、分かりました・・・?」
そう言って彼は、カイトにハグをして、笑顔に戻った。
そこに先ほどの、重々しい雰囲気はみじんもない。
用事も済んだので、別れの挨拶もそこそこに、カイトたちはラウゲット邸を後にする。
彼に言われた、言葉の意味。
カイトはまだ、この言葉を本当の意味で、理解はできなかった・・・・
ベアルの屋敷で、カイトが閉めだされてしまった事について・・・
閉め出されたところで、魔法で入ればいいじゃないかって??
そんな事したらカイトは、アリアに八つ裂きの上でバーベキューにされてしまうのですよ。
結局のところ次の日には、許してもらえましたしね。
くわばら、くわばら・・。




