第231話・懐かしきシェラリータ?
これからも、頑張っていきます。
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俺が治めるベアル領の北側に位置する、シェラリータ領。
数年前に俺が日本から転移して来た際に、初めて訪れたこの世界の街だ。
横に居るノゾミとの初めての出会いも、ここであった。
街の地図は、頭の中に入っている。
それに従い、朝食が食える場所を探しに出たわけなのだが・・・
「どこだよ、ここ・・・・」
城門から入ってすぐ分かった事なのだが、シェラリータの光景は、すっかり様変わりしていた。
昔は2~3階建ての低めの建物しかなかった街には、巨大な建物が林立していた。
みたところ住居のようで、そこかしこから生活感が漂う。
日本出身のカイトには、それは『アパート』のように見えた。
ようは辺りの光景がカイトの記憶の中の風景とは、まったく別モノとなっているのだ。
区画整理でもあったのか道も若干、変わっているような・・・・
これも、よく分からない。
簡単に言うと、彼らは『迷子』になっていた。
「カイト、ここ本当にシェラリータなの??」
「・・・のはずなんだけど・・」
ここに来て、ちょっと不安になってきた。
もしかして俺は、転移先を間違えたのではないか・・・
いや、それはないな。
門番の兵士が、『ようこそシェラリータ領へおいでくださいました!!』とか言っていたし。
ここは間違いなく、あのシェラリータだ。
・・・のはずだ!!
「カイト殿様、美味な朝食と言うのは、まだなのですか?」
「・・・少々お待ち下さい。」
ダリアさんが、お腹が減ってピリピリしていらっしゃる。
悩むヒマすら、彼女は与えてはくれないようだ。
ここに『メイドに低姿勢の、どこかの領主様』という構図が出来上がる。
普通に考えられる立場を思うと、謎過ぎる光景だ。
当人達は、とくに何とも思ってはいないのだが。
「もう少し、進んでみようか? ラウゲットさんの邸宅は、街の中心にあったはずだし・・・」
カイトの提案に、無言で付いて来る3人。
なんか、しゃべってよ・・・。
ほとんどアテもなく、街をさまよう一行。
そのうちの2人が、貴族である事もあり、周りからは注目を集めていた。
もともと仕事などで人が居ない時間である事もあり、その人数は少ないのが幸いした。
「お兄ちゃん、この『しぇらりーと』ってどんな縁があるの?」
「お、聞きたいか?」
そうか、ヒカリにはまだ、詳しく話した事が無かったっけな。
道すがら、彼女には俺とシェラリータの話をした。
ここで冒険者になった話、ノゾミと出会った話、俺の失敗などなど・・・
ヒカリは、興味津々(きょうみしんしん)で話を聞く。
ダリアさんのブチまける殺気は、ガン無視する。
そんな事をしているうちに、いつの間にか彼らは、街の中心地へと到着する。
この辺りは、先ほどのように様変わりしているようなことは無く、数年前とほぼ同じ様相を呈していた。
なんだか、とても懐かしい。
店の看板などは、変わっているように見受けられるが、概ね建物などには違いは無かった。
もちろん、食事を出している宿屋なんかも・・・
「げ。」
視界の中に、すごく見覚えのある宿屋が・・・
しまった、ここはアイツの宿屋の近くだった。
ふむ・・・道を間違えてしまったようだな。
「ダリアさん、あっちに『水の精霊亭』っていう宿屋があって、そこの出す朝食はうまいよ?」
「左様ですか、ならば即刻まいりましょう。」
カイトたちは回れ右して、急ぎ足でその場を後にした。
その宿屋の看板には、こう書かれていた。
『蒼き炎竜亭』と・・・
◇◇◇
「ふぃ~~、食った食った!」
腹ごなしを済ませたカイトたちは、精霊亭を後にする。
これから、この街の領主様へ会いに行くのだ。
その前に朝食を済ませる事ができて、よかった。
「屋敷の人間には及びませんでしたが、なかなか美味でございましたね。」
「サラダもあった!」
味にうるさいダリアさんの、お墨付きも頂いた。
連れて来て、本当に良かったと思う。
ノゾミは例によって、サラダ大盛りを頼んで食べた。
実に、満足そうである。
ヒカリは・・・・幸せそうだな、何も言わなくていいか。
俺ももちろん、満足だ。
奇異の目にさらされた事など、気にしない、気にしない♪
「腹ごなしも済んだところで、そろそろ伯爵様に会いに行こうと思うんだけど、良いかい?」
カイトの質問に、一様に頭を縦に振る3人。
まあ、もともとそれで来たわけだし、異存などあるはずも無いか。
よしアリアには悪いが、用事を早目に終らせて、今日はうまい物でも食って休もう!
決定!!
「それじゃあ、ラウゲットさんの邸宅に向かって出ぱぁー・・・・」
「おや? 見た顔だと思っていたらあんた、カイトじゃないかい??」
「・・・・・え゛?」
聞き覚えのある、女性の声。
そして特徴的な、その話し方。
・・・何よりこの街で、俺の名を知っている人間。
嫌な予感がする。
ぎぎぎっと、油を差し忘れたロボットのように首を後ろへ回すカイト。
そこには姉さん・・・もとい『蒼き炎竜亭』の看板娘、エリカさんの姿があった。
纏う快活そうな雰囲気は変わらず健在だが、前より見た目が大人びたような感じがする。
いや、今はそんな事は至極、どうでもいい。
正直な話、避けていた人物に会うとか、どんな不幸だよ神様・・・
思わず直立不動で固まってしまうカイト。
手には、食材を入れた紙袋が抱えられている。
買い物のため、外に出ていたようだ。
なんと間の悪い・・・・
「やっぱりあんた、カイトだろ!? なあそうだろ!??」
「あー・・え、何のこと? 人違いじゃない??」
あさっての方向を向きながら、そそくさとその場を後にするカイト。
正直、面倒くさい。
きっと絡まれて冷やかされて、今まで起こった全部を聞かれるに決まってる。
今日の俺は、カイトではなくて『ベアル領主』なんだよ、うん。
「まあ待ちなって、うまい料理でも出してやるからさ♪」
「ほうそれは興味深い! カイト殿様、是非向かわせていただきましょう!!」
「・・・・。」
ガッツリ、名前を呼ばれてしまった。
宿のエリカさんは、『我、確信を得たり』といった笑顔を振りまいてくる。
俺たちの退路は、この時点で埋められてしまったようだ。
ダリアさん、空気を読んでくれよ・・・・
カイトの切実な願い空しく、彼らは『蒼き炎竜亭』へとUターンするのだった・・・・・
エリカさん、久しぶりの登場・・・
他の方々も、一応、この先登場させる予定です。
(※ちょい出し含む)




