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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第10章・鉄道の前に
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第229話・不吉な予感

これからも、頑張っていきます。

感想あどがありましたら、どんどんお寄せ下さい!

「カイト様、書状は持ちましたね!? お土産の品と資料と、それから・・・・」


「だ、大丈夫だからアリア!! 支度したくは済んでるから!!」


だからそう何度も、荷物をひっくり返さないで欲しい。

窓から暖かな、夜明けを告げる朝陽あさひが差し込む中、カイトたちはシェラリータへ行く準備をしていた。

といっても、準備は昨日のうちには終了しており、今行っているのは出立前の持ち物の『最後の確認』だ。

・・・ちなみにその『最後の確認』とやらを行うこと、これで25回目になる。


「ねえ、もう良いんじゃない? だいぶ確認作業はしたことだし、もう忘れものなんて・・・」


「カイト様! その油断が仇となるのです、持ち物のチェックは何回行おうとも、無駄にはなりません!」


それでもさすがに、25回はやりすぎだと思う。

チェック自体は無駄にならなくても、チェックをする間の時間が無駄になるのではなかろうか?

・・・とこの場では、さすがに言えなかった。

荷物の確認役を自らかって出ている彼女の目は、いつになく真剣だ。


「ハンカチ、チリ紙に水筒とそれから・・・」


アリアが一つ一つ、荷物から物品を取り出して、忘れ物のチェックを行っていく。

なんだか傍から聞くと、俺たちはこれから遠足に行くようだ。

いや、今回のコレは、そんなに楽しいものじゃないんだけどさ。


「そうですわカイト様、これをお持ち下さい!」


「え・・・・何これ?」


何かを思い出したように彼女に差し出された、赤い石。

俺にズイッと、押し付けるように渡してくる。

だがしかし・・・・

何ともおどろおどろしいというか・・・中で液体みたいなのが、うごめいているようにも見える。

見るからにとても不吉な予感がするコレは、一体なんだろうか?


「これは『身代わり石』と申しまして、御身に何かございましたら一度だけ、それを肩代わりすると言われる品でございます。」


「・・・怪しくない??」


俺は一体、これからどこへ良くと言うのだろうか?

これでは戦地へ向かう兵士と、それを見送る奥さんだ。

俺が向かうシェラリータには、話をしにいくだけなので、オーバーキルすぎやしないだろうか??


「そう言ってカイト様は何度と無く、危険な目にあっているのです。 備えあれば、うれいなしでございますわ。」


「・・・ありがとう。」


反論の余地は無い。

この間だって『グレーツクで話しをしてくる』と言って、ルルアムと入れ替わったのだ。

そもそもの話、グレーツクに縁ができたのも、俺がここで領主をやっているのだって・・・

こうして考えてみると、よく今まで生きてこれたなと思う。

カイトは言われるがまま、ポケットの中にこの石をしまいこんだ。

今回はさすがに、使う事はなかろう。


「ところでアリアは・・・本当に行かないの?」


「申し訳ございませんカイト様、日程の調整はしてみたのですが、何日も屋敷を空けることは、出来ませんでした・・・」


今回のシェラリータの領主様への、ご挨拶参あいさつまわり。

ベアルの代表責任者として、カイトが赴くのは必然。

ヒカリが来るのも、お約束なので連れて行くのは当然の事だ。

ダリアさんは、行動をしやすくするために連れて行く、いわば数そろえの従者。

ノゾミは、熱望したので連れて行くことになった。

連れて行く使用人のほうは、一応ダリアさんが居る事もあり、ヒカリにも従者の格好をさせると言う事で、妥協だきょうとなった。


・・だがそれは結果として、そのしわ寄せが全てアリアに来てしまう形となり、彼女はベアルに残る事となった。

要するに彼女はいつものごとく、仕事をしながら屋敷でお留守番である。

こうしてアリアの寝るヒマが、無くなってしまう訳だ。

カイトよ、いつかアリアは過労死するぞよ。


「持ち物はこれで、大丈夫でございますね・・・」


その間にも手を動かし続けていたアリア。

長い長い持ち物チェックであったがやっと、納得してくれたようだ。

今日中に出発できそうで、よかった。

ホッと隠れるように、安堵のため息をつくカイト。

そんな彼に、彼女がズイッと顔を近づけた。

な・・なんだろうか??


「カイト様、くれぐれも伯爵様はくしゃさまにはご無礼の無きように・・・地位はあなた様の方が上ですが、『領主』という立場は同じでございますから。」


彼は権力にはなをかけたりはしない。

それはよく、理解している。

彼女の心配事は、『カイトが友達と話すように、軽口を叩かないか』と言う事だ。

周りの目などもあるので、早急に止めていただきたいのが正直なところだ。

だが・・・・


「心配しなくても大丈夫だよ、俺はなんちゃって貴族。 あっちは本当の貴族。 はわきまえてるさ!」


ドンと、胸を張るカイト。

威厳たっぷりといった感じだ。

しかしながら・・・・


ダメだ、彼がやると不安が何十倍にも拡充される!

・・・とはさすがに、彼女も言えなかった。

ちなみに、シェラリータ伯爵も元をたどれば、カイトと同じ一冒険者出身である。

ただ一つ、彼に何を言っても無駄であることだけが、よく分かった気がする。


「はあ・・・では、いってらっしゃいませ。 ご無事をお祈りいたしております。」


「ああそれじゃ、いってきます。」

「お姉ちゃん、いってきま~す!」

「アリアちゃん、お土産期待しててね!?」

「では奥様、私も行ってまいります。」


ヒカリ、ノゾミ、ダリアと順繰りに出立の言葉を述べていく。

今回のこのメンバーは、地上最強と言って良い。

妻から手渡された『身代わり石』も、必要となる場面は多分、無かろうと思われる。

『よほど、世界滅亡クラスの事象が起きなければ』


アリアの心配をよそに、カイトたちはシェラリータへと、転移していった・・・





◇◇◇





「エルが、この人間どもにやられただと!!!?????」


地響きのような怒声が、魔王城内に響き渡る。

魔王の座る椅子にはバキバキと亀裂が走り、一部が損壊する。

それは彼の深い怒りを、顕著に物語っていた。


「はい魔王様、こやつらからはエルガンティア様の気配を感じました。 接触はまず、間違いありません。」


激昂げっこうする魔王に、淡々と状況の説明をする女魔族。

その傍らには、ズタズタにされた5人の冒険者達の姿があった。

全員が大なり小なり怪我を負っており、憔悴しょうすいしきっている。

魔王がそれを見やると、確かに彼らからは、エルガンティアの気配が残っているのが垣間見かいまみえた。

だいぶ薄らいでいるので、接触はだいぶ、前のことのようだ。


「・・・貴様ら、正直に申せ。 幼子の風体ふうていをした女魔族と接触したはず。 それをどうした? 言えば殺さずにおいてやろう。」


「魔王様の命令であるぞ。 口を開かぬか!」


一人の剣士の人間の背中を踏みつける女魔族。

その際、バキンという音がする。

彼の背骨が完全に、折られてしまったようだ。


「・・ぐふぇ! ぐ、ああああああああああああああああああ!!!」


「うるさいぞ、小虫! 静かにせぬか!!?」


ぐしゃ!!!

何かが引きちぎれるような音と共に、響いていた苦悶の声が鳴りを潜める。


「ふん、この程度でなんと脆弱ぜいじゃくな。 口を割らぬから、こうなる。」


先ほどからうるさくわめくハエは、始末した。

すこし首を持ち上げただけで千切れるとは、なんとももろすぎる。

まあ残り4人も居るので、尋問に問題は無いだろう。

音で意識を取り戻したらしい4人は、恐怖に顔をゆがめる。


「さあ、死にたくなければ話せ、エルガンティア様をどうした?」


「あ、あの女魔族なら取り逃がしたわよ!! このレルがテキトーに聖剣を振り回して攻撃したおかげで、そのエルとかいう魔族の居場所が分からなくなったのよ! その後のことなんか、私たちは知らないわ!!!」

「て、てめえ、ずるいぞ!??」

「ふん、こんなところで死ぬなんて、まっぴらゴメンよ。 あの時あなたがヤツの魔石を確実に狙えていれば、ああはならなかったわ。」

「ぐぬぬ・・・ヤロウ~~~~!!!」


捕らえられた女魔法使いの話に、レルと呼ばれた男性が、抗議の声を上げる。

その二人のやり取りは、魔王の怒りを頂点まで上げた。


ぼがーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!


大きな爆発音と共に、室内に土ぼこりが舞う。

突風で、女魔族の髪が大きくなびく。

しかし彼女は気にした様子も無く、直立不動で無表情のままだ。

少しして土ぼこりが晴れると、先ほど人間が居た場所には、大きな陥没穴だけが存在していた。

彼らがそこに居たという痕跡等こんせきなどは、カケラ一つとして、残されては居ない。


「魔王様、よろしかったのですか?」


「・・・エルを探せ。」


女魔族の質問に答えることなく、魔王は蚊の鳴くような声で、そう言い放つ。

しかし魔王の居る場所から女魔族のいる場所までは距離があり、彼女に魔王の声は届かない。


「は、今なんと?」


「エルを探せ! 世界中のすべてを焼き払おうとも、見つけ出せ!!」


「お・・仰せのままに・・・!」


大地震のような怒声を張り上げる魔王。

女魔族はそれを聞くと、足早にその場を後にするのだった・・・・・

ちなみに今さらなのですが説明を・・・・


エルガンティアは、ヒカリの本名です。

彼女は記憶を失ったままなので、何ひとつ覚えていませんが。

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