第228話・ご挨拶へ
これからも、頑張っていきます。
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屋敷へ帰って来た、カイトたち一行。
陽はようやく、西へ傾きだしたと言うところか?
ダリアさんは、仲間の使用人たちの下へ。
ヒカリは俺に付いて、一緒に私室へ。
それぞれ向かった。
そうしてひと通り着替えなどが終ったころ、俺の私室の扉がノックされた。
最近、ノックの仕方で誰が来たのかが分かるようになった。
今のはきっと・・・
「カイト様、お帰りになるのが早すぎですわ!!?」
「ご、ごめんなさい!???」
嫁のアリアが、部屋の中へと怒りの形相で入ってきた。
条件反射で、謝罪をするカイト。
今日彼がやった事は、『早く帰宅したこと。』
それは怒られてとうぜ・・・・
待て。
なぜ早く帰ってきて、怒られるのだ?
「アリア、どうして怒るの? 俺はなるべくグレーツクでの用事を早めに終らせて、必死で帰って来たんだけど・・・」
誉めてほしいとまでは言わないが、少なくとも怒られるような事は、何もしていないというのが、本音だ。
ヒカリも目を大きく見開き、頭の上に疑問符を浮かべている。
『なんでお兄ちゃんが怒られているの?』って感じだ。
そうだよな、俺は怒られる様な事はしていないよな!?
「カイト様、それがいけないのです! 『用事を早めに終わらせた』という事は、それだけお仕事に、穴が出来た可能性が高いという事につながるのです。 お分かりですね!?」
「は、はい!!」
アリアに気圧され、相槌を打つカイト。
なるほど、怒られている理由が判明した。
『仕事を早く終らせた』ということは、『仕事を雑に仕上げた』という結果を生みかねない。
それがアリアならまだしも、カイトだ。
そのあたり彼にはまだ、『信用』が乏しい。
「大丈夫だよアリア。 今日の予定はね・・なんでもない!」
今日早く帰って来た内容を話そうと、うっかり、口を滑らせるところだった。
アリアにだけは、俺が『グレーツク国王』だという事を、知られたくない。
・・いや、知られてはならない!
なぜなら、いっそ死ぬ方が楽なほど、怒られるから。
見捨てられる恐れすらある。
それだけは、どうしても避けたいのだ。
つい数年前までは、『アリアに見捨てられないかな』とか言っていたのに・・・
最近になり、彼の心構えも変わったようだ。
「うう゛ん! ともかく、用事は完璧に仕上げてきた。 問題は起きません!」
「・・・・本当ですか? それならば良いのですが・・・・」
一度大きく咳払いをして、急いだが仕事に穴は無いと、アピールするカイト。
ここまで自信に満ち溢れた彼の姿を見るのは、初めてのことだ。
・・・不安要素は残ったままだが、一応、彼を信じる事とした。
「実はカイト様、まだシェラリータへ出立するための準備が、整っていない状態でございまして・・・」
一転してカイトに対し、申し訳なさそうな表情を送るアリア。
カイトがグレーツクへ出立したのが、ほんの三時間ほど前。
それから書類整理などの準備をしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。
まあ、まさかカイト様がここまで早く、帰ってくると思っていなかったのも一端にあるが・・
先ほど取り乱して、思わず怒ってしまったのも、この辺りが関係している。
「準備って何が、必要なの??」
「そうですわね・・・まず手ぶらで参るわけにはいきませんので、伯爵様へのご挨拶の品、あちらでの手続き上必要になるであろう書類、それに鉄道のデモ資料、これらはすぐに手配が可能ですね。」
「他には?」
「シェラリータへの道は険しく、片道を行くだけでも、多大な困難を伴います。 そのための馬車と、野営も必要になってくるのでその準備と、それから・・・・」
「ちょっと待ってアリア!! 俺はシェラリータに行った事があるから、旅の支度はいらないよ。」
「・・・へ?」
指折り必要なものを上げていくアリアに、制止をするカイト。
グレーツクへ行った時のように、彼にはシェラリータまで転移を使う事ができる。
旅の支度というのは、必要ないのだ。
アリアは俺が『シェラリータに行った事がある』というのを、知らないんだったな。
特に話した事もないし。
「旅の支度以外に、必要なものは?」
「・・・・あ、そうですね・・先ほど申し上げた品や書類の他には、特には・・・」
アリアの説明に、満面の笑みを浮かべるカイト。
これでシェラリータに行く準備は、整った事に・・・
待てよ、そういえば準備はまだ、終っていないんだっけか??
「俺も手伝うよ、なるべく早いうちに、出立が出来るようにしようか?」
「それは非常にありがたいのですが・・・カイト様、旅の支度は、やはり必要ですわよ?」
「え゛・・どうして??」
書類の準備、お土産の手配、資料作成。
彼女は必要なのは、コレだけといった。
転移するのだから、旅支度など不必要なはずだ。
「わからない」と言った表情を浮かべる彼に対し、アリアはビシッと人差し指を向けた。
「カイト様、あなた様はアーバン法国における『大公』という立場の人間です! 権威を保つためにも、多くの護衛の者や馬車を連れなければならないのですよ!!?」
きりっとした顔を見せる彼女に、苦々しい顔を向けるカイト。
今まで、彼女はそんな事を一度も言ったことはない。
正直なところ『なぜこの期に及んで?』ってかんじだ。
「お分かりになっていないようなので、説明させていただきますわ。 国王様に対しては、貴族は権威を示す必要は無いのです。 これは、ご理解いただけますか?」
もちろん分かる。
会社の社長にデカイ態度をとる、新入のヒラ社員みたいな事にあたるのだろう。
やっている者も少なくは無いが、それは云わば貴族たちによる『けん制』のようなものらしい。
俺にはそんな事をする、度胸は無い。
ちなみにフツウの貴族は、馬車などはどこかに隠すようなど、王都ではひっそりとした行動をとるようだ。
ちなみに俺は転移をするので、一人として連れてすら居ないぞ!
はっはっは!!
「グレーツクに関しましても海を隔てた向こう側ですし、今さらとやかく申す事はしません。」
それを聞いて、ホッと安堵のため息をもらすカイト。
外国に関しても『挑発行為』となりかねないので、『大名行列』は不要らしい。
それまでどうかと言われたら、どうしようかと思った。
そこに「ですが。」と続けるアリア。
「今回カイト様が向かうのは、国内の別の領主が居る地になります。 彼らにカイト様は、その『権威』を示す必要があるのです! こう申し上げては失礼ですが、これは『常識』です!!」
「えー・・。」
要約すると『仲間内同士は、けん制しあえ』と言う事か?
そんな面倒な上に、いらぬ反発などが出来そうな事、俺は避けたいのだが・・・
仲間内同士、仲良く協力し合うと言う考えは、無いのだろうか??
はあ・・とため息をつくアリア。
「今まで何度も申し上げてきましたが、あなた様は『スズキ公』という法国における上流貴族です。 内外にそのお力を示すのは貴族同士のけん制だけでなく、民にその確固たる権威を指し示すためでも、あるのですよ?」
確固たる権威・・・ねぇ・・・
この数年、俺はイロイロとこの街を引っ掻き回してきた。
それもあってこの街には、そこそこに愛着がある。
前みたいに『アリアがクーデターを起こしてくれないかな?』とは思わなくなったが、自分が貴族とか、何の冗談かと、未だに思っている節がある。
つまり言いたいのは、俺は自分を『本当の貴族』とは思っていない。
政治などに疎い事もあり、いつかすべてを取り上げられるのでは?と考えている。
このどこに、『確固たる権威』があるというのか。
・・・・まして。
「その連れて行く使用人さん達とかの手配が、大変だって言うんでしょ? 俺はそんな負担を、みんなに掛けたくない。」
これは、本心だ。
俺なんかのために、使用人さん達の仕事が増えるとか、マジでやめて欲しい。
彼らには彼らの、日々の業務が存在するのだから。
まして連れて行くとなれば、休日出勤する者もでるであろうし・・・
本当に、それだけはマジ勘弁して。
休日は大事よ。
「で・・・ですが伯爵様に対しての権威が・・・・」
「ラウゲットさんなら心配ない。 知り合いだから。」
ぞろぞろと使用人さん達を引き連れて凱旋するとか、恥ずかしすぎる。
前に会ったときからの、落差が激しすぎるのだ。
俺はそんな事ができるほど、心臓は強くない。
だからアリア、俺を身一つで行かせてはくれまいか?
「・・・分かりました、時間もありませんので仕方ございません。」
はあぁ・・と、先ほどより大きくため息をつくアリア。
牙城は陥落した。
カイト、初勝利である!
けっこう地味だが、勝利に大きさは関係ない。
「ですがカイト様、やはり使用人を5~6名は連れていただきませんと。」
「う~~ん・・・・」
身辺警護とか、イロイロな事情があるのだろう。
これだけは譲れないと、きりっとした顔を向けてくる彼女。
実を言えばあまり人が居ると、イロイロとバレてしまいかねないので、連れて行きたくないというのもあるのだが・・・・
彼女とは今しばしの、交渉が必要のようだ。
次回、彼らはシェラリータに!
・・とは、ならない模様です。
いましばし、お待ち下さい。




