第227話・秘めたる思い
これからも、頑張っていきます。
感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい!
「なんだ小僧か? そいつらは誰だ。」
転移でグレーツクの、鉄道研究所へとやって来たカイトたち一行。
メンバーはお馴染み、カイト、ヒカリ、ダリアさんトリオ。
それにベアルから連れて来た、『鉄道建設団』の皆様をひき連れている。
あの後、メンバーが少々増えた事もあり、現在は総勢40名弱。
「この人たちは、グレーツクの鉄道建設をするための、助っ人です。 よろしくお願いいたします。」
「は~~ん、大丈夫かね?」
「ひよっこばっかじゃねぇか?? 任せて大丈夫かよ、小僧!??」
カイトの紹介に、品定めするように建設団の人たちを見やるおっさんズ。
その鋭い眼光に、数歩後ろへと下がる、建設団の皆様。
元々、鉄道はおっさん達が自分たちで工事をする気、マンマンだったよう。
だがおっさん達に、ポイント設備など、レールを敷く技術は無い。
性格的に難しいかもしれないが、手を取り合って頑張ってほしいところだ。
懐から出すように、大きな紙の筒を空間魔法でとり出す彼。
「予定ルートは、この地図にあるとおりです。 住民の皆さんで話し合って、ルートは適宜イジッてください。」
「なんだこりゃ雑だな、ガキの落書きか?? ルルアムだったらもっと、正確に書くぞ。」
カイトが出したのは近辺の地図とソレに書かれた鉄道予定ルート。
それを見て、顔をしかめながら一言、その感想を述べるおっさん。
相変わらずの、辛口コメントだ。
シレッと比較対象にルルアムが引き出される辺り、彼女ともだいぶ、打ち解けてきたようで嬉しい。
「それじゃあ皆さん、先ほど案内した建物が当分の宿舎となります。 基本的にグレーツクの皆さんは良いヒトたちなので、何か困った事がありましたら、いつでも相談して下さい。」
カイトの言葉に呼応し、頭をうなずかせる建設団の皆さん。
この時ばかりは、おっさん達の辛口は炸裂しなかった。
彼らなりに一応、空気を読んでくれたようだ。
さて後は・・
「あ、あのぅ・・・」
「ん、君は・・・?」
建設団のメンバーの一人、小柄な少女が、カイトに声をかけてきた。
この子の事は、知っている。
たしか王都からいた、奴隷の一人だったはずだ。
今は女性にもかかわらず、その細腕で鉄道建設を頑張ってくれている。
ようは頑張り屋さんだ。
みんなと一緒だなんて、よっぽど仲間が好きなんだろうな・・・
「何か、用かな?」
中腰になって、少女の目の高さをあわせるカイト。
顔は赤く、何かを伝えようとしているものの、どもってしまっている。
それを建設団の人たちは、優しい表情で見つめる。
言いにくい事を、伝えようとしているのか?
一体、なんだろう・・・??
「カイト殿様、この娘の体温が、非常に高くなっております。 そこから察するに・・・」
「あ、あー~~、そういうことか!」
少女の意図がつかめずに困っていたカイトに、耳打ちするダリアさん。
そのおかげでようやくカイトも、事態を理解する事ができた。
少女の言いたいこと。
きっとそれは、『体調不良』だ。
間違いない。
先ほど説明したように、彼女は元、奴隷だ。
ルルアムのように、立場を気にしてしまい、どうとも伝えにくいのだろう。
だが、『カゼ』は万病の元とも言うように、体調不良を放っておいたら、もっと大変な事になる。
しかし体調不良というモノは、自分以外にはなかなか教えてくれなければ、伝わりにくいものだ。
知らせに来てくれて、本当によかった。
「大丈夫、君は奴隷じゃない。 今日は宿舎で、ゆっくり休むといいよ。」
「は、はい・・・・」
カイトが少女の手に頭を乗せ、優しく話しかける。
その際、赤かった顔が、さらに紅潮する。
手から伝わってくる少女の体温は、かなり温かい。
ダリアさんの見立てどおり、彼女は『カゼ』をひいているようだ。
そもそも鉄道の建設開始は、もう少し先になるので、それまでゆっくり休むと良い。
「いらっしゃいませカイト様、飲み物をお持ちしました。 皆さんの分もありますので、よろしければどうぞ。」
「お、ありがとうルルアム。」
ここでただ一人の正規研究員のルルアムが、いつものごとくお茶を入れて持ってきてくれた。
人数分と言うと、建設団の分も含めて優に、50人分はあるだろう。
今まで姿を見せなかったのは、そのせいか。
こちらも相変わらずと言うか・・・もっと腰を高くしても良いように思う。
ルルアムから、お茶の入ったカップを受け取るカイトたち。
彼女を、おっさん達も手伝う。
見ていて、なんだか微笑ましい光景だ。
「うん、おいしい。 ルルアムの入れるお茶はうまいね。」
「たしかに、このお茶は美味でございますね。 ルルアム様、後で教えてくださいませ。」
ほぼ無表情で、直立不動のままお茶をたしなむダリアさん。
『後で教えろ』というのは、俺たちのためでは無く、きっと自分が屋敷で楽しむためであろう。
実に、彼女らしい。
それでも彼女の舌をうならせるとは、さすがはルルアムのお茶だ。
貴族時代に、培ったのだろうか?
「さて・・すいません、それじゃ俺はこれで、帰ります。」
「ああ、もう来なくていいぞ?」
「大公様、何から何まで、本当にありがとうございます。」
おっさん、鉄建の皆さん、俺への切り返しが三者三様なのが、また面白い。
ダリアさんは『お茶の入れ方を教えろ』と言っていたので、このまま残るかと思われたが、予想に反して彼女も俺たちと一緒に、帰るらしい。
口には出さないが、クレアさんの指導が、堪えているらしい。
本当に、なにをされたのだろうか??
疑問を胸に、カイトたちは再び転移で、ベアルへと帰っていった・・・・
◇◇◇
私が抱える、王子様へのこの、熱い思い。
最初は、なんだか分からなかった。
ときどき締め付けられる胸が、怖いと感じる事もあった。
・・・だが、それを仲間のおばさんが、教えてくれた。
それが何と言うものなのか。
自分に、一体どういう影響を及ぼすモノなのか・・
『恋』
私は彼のためになら、どこまででも頑張れる。
今日は勇気を振り絞り、この思いを彼にどうにか、打ち明けようとした。
・・だが、それを赤とっくりに、邪魔されてしまった。
あんなお茶を出すしか能が無い、八方美人の女なんかに、私は負けない。
こんな私に彼は、今日も優しくしてくれた。
『奴隷ではない』と言われ、頭をなでてもらった。
だから私は、これからも彼に振り向いてもらえる女性になれるよう、頑張る。
私の名は、フォウ。
大公様は、誰にも渡さない・・・・!!
鉄道建設描写は、少々、駆け足気味となります。
・・・たぶん。




