第225話・グレーツクの件
遅ばせながら『冬の女王物語』という童話作品(?)が完結しました。
なろうの『冬の童話祭り2017』提出用作品となっております。 よろしければどうぞ。
ちなみに、『童話』らしくありません・・。
「・・・という訳で、石神様っていうヒトから『魔石の鉱脈』を造ってもらうことになったんだ。 だから空いた土地、無い?」
「だ、大体の事情は、飲み込めましたわ・・・そうですか、そのような事があったのですね・・。」
数時間に及ぶ彼の説明で、アリアは彼のこれまでの経緯などを大方、飲み込むことが出来た。
そのイワガミサマとやらのせいで、彼はルルアムと入れ替わってしまい、その謝罪(?)の意をこめて、どうやらベアルでも魔石を掘る事ができるようにしてくれるらしい。
これは一体、どういうことなのか?
そのイワガミサマとは、一体何者??
・・未だ理解に苦しむ節はあるが、突っ込んでも話が長引くだけ。
ここはカイト様のように『考えない』のが、最善の策である。
「『魔石』をこの地でも掘れるとなれば、考えなくてはなりませんね。」
「そうそう、たくさん掘れる様になるから、これから機関車の燃料を気にする必要は無いんだよ。」
あごに手を当て、考える素振りを見せる彼女に、満面の笑みを浮かべるカイト。
彼女が考えるといったのは、何も魔石を掘り出す場所の話ではない。
何度も言うが、この世界で『魔石』というモノは、驚くほど高価な代物だ。
砂粒のようなカケラでも、銀貨一枚程度の値段になる。(おおよそ、一万円)
それを大量に掘れるようになるとなると、産出量を調整しなくてはいけない。
調整もせずにガポガポ掘っては、魔石が値崩れを起こしてしまう。
魔石は、多くのエネルギーを内包する、この世の極意たる宝石だ。
それが安くなるとなれば、多くの商人が輸出のために、こぞって魔石を買う事につながり、この領地の経済は、今とは比較にならないほど潤うに違いない。
だが版図拡大を目指す近隣諸国が、ここベアルに目をつけ、コレを手に入れようと画策する事につながるであろう。
魔石を買うのではなく、『侵略』して。
そうなれば、きっと世界規模の大戦につながる。
そういった事をしそうな国は、残念ながら存在するのだ。
この領地の問題としてだけで、この一件は片付けて良いのか?
魔石採掘は、領主直轄でコレを行うのか?
それらを含めて、アリアは『考える』と言ったのだ。
能天気な領主様は、そんな事は当然考えていない。
鉄道の燃料確保のメドがついて、万々歳といったところか?
「場所のほうに関しましては、追って候補地をリストアップしておきますわ。 数日かかってしまうかもしれませんが・・・・」
「それで、かまわないよ?」
イロイロ言ったが、『魔石』が掘れる様になるというのは、アリアとしても素直に嬉しい。
なるべく遠くない場所に。
それでいて、あまり目に付かない場所に。
これが採掘場所の、条件となるだろう。
こうして、アリアの睡眠時間は、削れていくのだ。
そのうち倒れてしまわないか、心配である。
「では私は部屋に戻りますが・・・他にご用件はございませんか?」
「いや、今のところはそれだけ。 お休みアリア。」
「おやすみなさいませ。」
持ってきた書類その他を持って退室していく彼女を、手をヒラヒラさせて見送るカイト。
ここで早速に寝るかと思われたが、彼はベッドではなく、そのまま机へと向かった。
なにやら引き出しの中から、折りたたまれた紙切れを取り出す。
そうして机の上に広げたのは、グレーツクの地図だ。
ここでは鉄鉱石を掘るので、『魔石採掘』の候補地を吟味しているわけではない。
ここに敷く、鉄鉱石運搬用の鉄道のルートを考えるのだ。
グレーツクは切り立った崖にある街なので、船が出る港の近くはともかくとして、どうにも鉄道を敷けそうな土地は見当たらない。
このままでは、坑道のすみずみにレールを敷くなど、どだい無理な話だ。
・・・そこで、考えた。
地上がダメなら、空に鉄道を通せばいいのではなかろうか?と。
もちろん『銀河鉄道○99』のように、空間軌道を敷くわけではない。
グレーツク全体に木などで作った橋を、縦横無尽に走らせ、その上にレールを敷くのだ。
つまりは、『高架』である。
「うん、これならいけそうだな。」
地図に赤いペンで、多く線を書き足していくカイト。
この一つ一つが、グレーツクの鉄道予定ルートとなる。
『高架』であれば、要望のあった地形が険しい場所でも、問題なく鉄道を敷く事ができる。
今書き足しているのは、その分だ。
何となくアリアとの話の最中に思いついたので、書いてみたのだが、事のほか上手くいきそうだ。
ふっとした時、思いつくとかあるでしょ??
ちなみに、彼女との会話内での関連性は、全く無い。
アリアに知れたら、殴られる事、確実だ。
「資材は、ボルタの森から持ってくるかな? それとも・・ここらも、おっさん達と話し合わないとな。」
ルート上には、民家が点在している。
立ち退きは不要だろうが、騒音などの問題を、話し合わなければならないだろう。
それについては、また後日という事で。
「ん?」
ここで彼は自らの手が、強く引っ張られているような感覚を覚えた。
ドアや窓が開いた気配は無い。
こんな夜更けに、一体、誰だろうか?
視線をそちらへ向けると、左手にヒカリが、巻きつくようにくっついていた。
すぅすぅ・・と、彼女の寝息が聞こえてくる。
どうやら寝ぼけて、ベッドからここまで移動したようだ。
いい加減、俺も寝るか・・・
カイトはヒカリを起こさないよう、注意しながら寝る準備を進めるのだった・・・・
話がなかなか、進まない・・・




