第224話・夜の情報交換
正月3ヶ日を遊び倒しすぎて、眠気が・・・
大丈夫です。
今、回復魔法を自分に掛けたので、たぶん、きっと、疲労は無くなっています。
これからも、よろしくお願いいたします。
「次にこちらの資料に、ひと通り目を通して下さい。」
「サインね。 了解。」
ドサドサッと机の上に山と積まれた多くの紙の書類。
それらには、事細かに街のイロイロな要望などが書かれている。
例えば今見えている、書類の一枚。
『飢饉に備えた、街の備蓄倉庫建設計画案』と書かれている。
その名が示すとおり、この街に倉庫を作る計画がもちあがっているようだ。
これら全ての案件は一度、アリアの手で精査されており、それを踏まえたうえで、俺のところへこうして来るようになっている。
つまるところ俺がすべき事は、最後の仕上げ、『サイン』だけである。
・・と考えるのが、いつも通り平常運転のカイトの証拠だ。
もちろん、彼のしている仕事は、そんなに軽いものではない。
「・・・カイト様、私を信用して頂けるのは大変嬉しいのですが、サインをする前に一度、書類に目を通していただけませんと。 あなたはこの領地のトップなのですよ? そう軽々しくされては・・・・」
「ごめんなさい。」
アリアの無限説教が始まる前に、謝罪して穏便に済ませるカイト。
ここで時間をかけているヒマはない。
なるべく話を短く済ませ、せめて1時間は寝ないと、過労で倒れてしまう!
手元の書類に、目を通すカイト。
アリアたちは彼にも分かりやすいよう、色分けなど、創意工夫して書類を作っているので、彼でも十分に、内容を理解する事ができた。
「ねえアリア、倉庫を建てるのが街の外って書いてあるようだけど?」
「ああ、それは火災などの延焼防止のためですわ。 災害用の備蓄倉庫が火災で焼けては、何にもなりませんから。」
なるほど。
せっかく溜め込んでも、焼失してしまっては、どうにもならないからな。
だがこの計画書では、作る倉庫は、街から離れた森の一箇所に大きめなのが3つ固まって配置されている。
もし延焼などを防ぐなら、もっと良い方法が無かろうか?
「この備蓄倉庫だけどさ、一個づつ場所を変えて、置く事はできないの?」
カイトの質問に、バツが悪そうな表情をうかべて見せるアリア。
「それも考えはしたのですが・・・なにぶん現在は人材不足でありまして、警備につかせる者の確保が・・・」
なるほど。
見張りの人間が居ないので、やむなく一箇所に集約したのか。
それならそうと、相談してくれれば、良かったのに。
「それなら俺が魔法で、ゴーレム兵でも作っておくよ。 警備は彼らに任せよう?」
カイトの発言に、ジッと彼の顔を覗きこむアリア。
俺はまた何か、知らずに地雷でも踏んだだろうか?
こういう時は、怒られる前に謝るのが得策だ。
皆さんもそういった場面に陥った場合には、実践してみて欲しい。
「あの、えっと・・・・ごめんなさい。」
「はい? なぜ私に謝るのですか?? まさかカイト様、また私が知らない場所で、何かをしたのでは・・・・」
「え゛・・・・し、してないしてない! するもんですか!!??」
カイト、ここに来てまさかの誤爆。
アリアの纏う黒いオーラが、彼を押しつぶさんとする。
作者の懸念事項は、見事に的中だ。
こういうことになるので、理由も無しに謝罪をしてはいけない。
このように、いらぬ誤解を生む結果となるので。
とはいえ。
アリアも疑惑の目を彼に向けたといっても、特に心配はしていなかった。
何かあれば、今はベッドで寝ているヒカリが、何も言わないはずがない。
なぜ謝ったのかは不明だが、大したことではないだろうと判断したのだ。
だがせっかく仕事モードだったモノが、今ので一気にさめてしまった。
2日寝ていないこともあり、彼女の体を『疲労から来る睡魔』が襲う。
このまま、書類審査を続ける事は、著しく難しいものになってしまった。
今日は、ここまでか・・・
「ふ~~~・・・・カイト様、今日はこれぐらいに致すとしましょう。あらかた重要な案件については、終了したので。」
「え、そう!?」
なんですか、その割れんばかりの笑顔は。
ちょっぴり彼に、殺意を抱くアリア。
さっき真剣な彼に感心し、かっこいい顔を見たくて顔を覗きこんだのは、ナシだ。
まったくこの人は・・・!!!
「カイト様、お休みの前に少々、お話をしても大丈夫でしょうか?」
「お、奇遇だね、実は俺もちょっと・・。 それならアリアからどーぞ。」
「・・・。」
いや、そういう訳にはいかないでしょう。
あなたは領主ですよ?
いくら内縁の者とはいえ、彼を差し置いて私が話など、出来ようはずがございません。
・・・フツウならば。
「ではご好意に甘えて、私からお話いたします。」
「うん、何かあった?」
身を乗り出し、アリアの話に耳を傾ける姿勢をとるカイト。
コレである。
彼に先を促しては、譲り合いのループが始まる。
それではすぐ済むような話も、全く終らなくなってしまう。
ここは乗っかるのが、最善の策なのだ。
どうしてこう、この方は・・・ブツブツ。
「グレーツクのルルアムは、いかがでございましたか?」
「えっと・・・何が?」
アリアの質問の意図が汲み取れなかったカイトは、質問に質問で返した。
彼女の体調の心配でもしているのかな?
それならば魔法で整えておいたので、大丈夫なはずである。
・・・大丈夫・・だよな??
「とりあえずルルアムは元気だったよ? そう、アリアが着せてくれたドレスも、とっても喜んでいたんだ!!」
「・・・あの服を・・ですか!?」
「そう。」
カイトの報告に、驚いたように目を見開かせるアリア。
彼に聞こうとしたのは、まさにその事である。
しかしちょっと、意外だった。
アリアは鎌掛けとして、ルルアムに『機能的で質素なドレス』を送った。
質素とは言っても一着で、そこらの市民の一か月分の給金ぐらいの値はする。
だが前の彼女なら、『なんですか、このダサいボロ布は?』と言うであろう代物。
これを送られて、ルルアムがどういった反応を示すか、それを試すため、アリアは家を出立する際、カイトにコレを着ていってもらったのである。
正直なところ、コメント無しでも、上等だと思っていた。
「ルルアムに君が、『会いたいと言っている』って伝えたら、彼女も機会があるなら会いたいってさ。」
「・・そうですか・・・お忙しい中、お気に掛けて下さって、ありがとうございました。」
前に『いつか会いたい』と伝えはしたが、まさか行って早々に伝えてくれるとは思っていなかった。
だが彼女は自分と違い、忙しい身。
経緯は知らないが、彼女は『グレーツク国王』という要職に就く人物なのだ。(勘違い)
そうそう『機会』が巡ってくるとは考えては居ないが、進展があって嬉しく思う。
今の彼女ならば、心の底から会いたいと思う。
「で? アリアはルルアムの何が知りたいの??」
「・・・いえ、もう結構ですわ。 それよりもカイト様のご用件というのは何でしょうか??」
不思議そうな表情を浮かべつつ、「それなら・・」と話を切り出すカイト。
彼の用件は、『魔石の採掘場所』のことだ。
「実は事情があって・・・魔素が濃くなっても問題が無くて、広くて、交通の便がよさそうな場所を探しているんだけど、無いかな?」
「はい? カイト様・・・一体この街に、何をお造りになるのですか??」
カイトの質問に、思わず質問で返してしまうアリア。
これに彼は、一考する。
方法が不確実な今の状態で、彼女にあの話をしてもいいものか?
長い話になるから、すべてを説明しようとすると寝る時間が遅くなってしまうだろう・・・
それはいけない。
寝不足は、すべての業務をダメにする!!
決定。
という事で彼女への説明は、また明日だ。
今は条件に合う候補地だけ、地図で教えてほしい。
「いや、そのまあ・・大したことじゃないよ。 説明したような条件に合致する、良い場所って無い?」
「カイト様、ごまかしそうとしても、そうはいきません。 何を考えていらっしゃるのかお話になるまで、私はここから動きませんよ?」
「いや、だからその・・・・・」
ジッと腕を組んで彼を見据えるアリア。
冷や汗をダラダラ流して、お茶をにごすカイト。
どう考えても、彼女の質問から、逃れる術はなさそうだ。
カイトの下手なごまかしのせいで、2人の話はより、長引いてしまうそうである。
こうして彼らの睡眠時間は、水泡のように消えて行くのだった・・・
アリア、こうして見ると働きすぎかも。
彼女にこそ、正月休みを!!!
・・・ってそんな余裕、あるはずございません。




