第223話・仕事の時間です
みなさま、あけましておめでとうございます。
今年も本作を、よろしくお願いいたします。
内容も正月らしくしたかったのですが、正直、無理でした。
予定はあるんですが・・・・いつになる事やら。
「カイト様、遅ばせながら、おかえりなさいませ。」
「フフ・・ただいま、皆。」
カイト様が今、帰ってまいりました。
いつもの、彼の姿で。
彼は今までの一ヶ月間、事故とやらでお体が私のお姉・・ルルアムのモノとなっておりました。
私は彼女に、何とも形容しがたい感情を持っています。
中身は間違いなく愛するカイト様なのですが、見た目はその昔、私の命を狙ったルルアム。
私の中には、フクザツな感情がうごめきました。
彼を見るたび、臆してしまう自分という存在が、何とも哀しくなりましたよ。
でもそれも、今日で終わりです。
彼は彼なのです!
傍らに居るヒカリも、彼にニコニコと笑顔を向けています。
彼女も私同様、彼が元の姿に戻って嬉しいようですね。
私も安堵からか、自然と顔がほころんでいきます。
「ははアリア、目から涙が出てるよ?」
「!!」
カイト様が私の顔を、ポケットから出したハンカチで、笑顔を向けながら優しくなでる様に拭きます。
し・・しまった。
うっかりしていました!
私は先ほど、彼が帰ってきたと聞き、急いで玄関へ駆けつけました。
その時、あまりにもそのお姿が懐かしくて彼に抱きついてしまい・・・
ゴニョゴニョ・・・・
先ほどここには、使用人がいたはずですが・・。
・・・今は、いないようですね。
気を利かして、席をはずしてくれたのでしょう。
あはは・・私はなんということを、彼にしてしまったのでしょうか!?
二人だけの時ならまだしも、他人の目もあったと言うのに。
は、恥ずかしい・・・!
「よしアリア、きれいになったぞ! ・・・アリア?」
「す、すみませんカイト様、私少し顔を洗ってきます!!」
「え!?」
羞恥に負けたアリアはそのまま、来た道を走って戻っていった。
鈍感なカイトは、小首をかしげながらそれを見送る。
たぶん彼が、彼女の気持ちに気がつくことはないだろう。
この先も。
「・・・うーん・・ヒカリ、着替えようか?」
「私、おフロ入りたいー!」
カイトたちもアリアの後を追うように、廊下を私室のほうへと進んで行った・・・
◇◇◇
「は~~~、私はなんという意気地なしなのでしょうか?」
洗面台の前で、大きくため息をつくアリア。
カイトからの羞恥プレーに爆沈した彼女は、屋敷内を全力で走って、私室へと駆け込んだ。
室内にある洗面台で顔を洗い、頭を冷やした彼女。
ちなみに彼にされたことは、『顔の涙をぬぐわれた』という事。
よく考えてみれば、彼にされたことはそれだけだ。
別にキスを受けたわけでも、まして(18歳未満お断り)された訳でもない。
あれだけの事があったのだから、自分が彼に対し涙を流しても、そう不自然ではないと思ったのだ。
まして彼とは、夫婦なのだし。
いま、顔が赤いのは部屋が暑いからです!
「こうなればリベンジですわ。」
そうですよ。
私は何も、彼に会うためだけに玄関に向かったのではありません!
彼にはご相談したい事や、お聞きしたい事が山ほどあったのです。
それを今、何一つ聞けていないではないですか!!
時間は有限です。
帰って早々、大変恐縮ではありますが、これだけは譲れません。
私だってこの二日、寝ていないのですから。
これから彼の部屋へ赴き、書類に目を通していただかねばならないのです。
『よしアリア、きれいになったぞ!』
「・・・・。」
彼が先ほど私に言った言葉が、頭で反芻されます。
き、気にしておりませんわ。
彼は涙でぐちゃぐちゃになった顔が、『キレイになった』と言っただけなのですから。
多分そこには、それ以上の意味は含まれておりません。
おっと、早くしなければ、彼が寝てしまう恐れがありますね。
そうなっては大変です。
寝た彼をたたき起こすのは、いくら私でも敬遠します。
今晩のうちに、彼とは話がしたいですからね。
『きれいになったぞ!』
「~~~~~~~~~~~~!!!!!」
だから、気にしてはいないのですってば!!
アリアは頭から湯気を出しながら、必死で準備していた資料諸々を、手にしていった。
しかしその手は、なかなかいう事を聞いてくれず、手元が狂い続けたため、彼女はなかなかカイトの元へ赴く事はできなかった・・・
◇◇◇
「クリーン!!」
カイトの掛け声と共に、彼のベッドが光に包まれる。
これは俺が、昨日寝る時も使っていたモノだ。
・・つまるところ、ルルアムの体を、横たえていたベッドである。
俺ぐらいの齢の男子は、このまま体を横たえ、そのまま匂いを嗅ぐという行為をすると聞いたことがある。
だが俺は、そんな変態ではないし、そもそもそんな勇気も無い。
やったらきっと、ヒカリにチクられ、ノゾミに質問され、アリアに殺される。
使用人さん達にも、あきれられる事だろう。
グレーツクのおっさん達の耳に入れば、一生バカにされる。
そうしてそれがもし、ルルアム本人の耳に入ればどうなるか・・・!!
考えただけで、生きた心地がしない。
おれはそんな、勇者ではないのだ。
「おし、キレイになったな!?」
「?」
カイトのそんな思惑なぞ知る由も無く、ヒカリはバンバンとベッドを何度も叩く彼に対し、首をかしげて見せる。
自爆の危険があるので、彼女への受け答えについては、ノーコメントだ。
他に何か、『キケン』な物品はないだろうか?
念入りに隅々まで、部屋の中を見回すカイト。
・・・いまのところ、特にヤバそうな物は無さそうだな。
「ふ~~~、疲れた・・」
「お兄ちゃん大丈夫? 死なない??」
大丈夫、ただの気疲れだから。
気疲れでは、死にません。
椅子に体を任せる形をとるカイト。
昨日までは体が動かせず、一日中ベッドに寝ていた。
やはり人間、健康が一番だとつくづく思うね。
できればすぐ、アリアと話がしたかったのだが・・・
彼女のあの様子では、多分無理であろう。
急ぎたいのは山々だが、話は明日にするか。
だとすると、俺に現時点で出来る事は、何もない。
俺は何かとアリアに任せきりなので、こうなるとする事は途端になくなってしまう。
これはきっと、神様が今日は早く休めと言っているのだろうか。
いや、あの駄女神様ではなく・・・ね?
「ヒカリ、今日はもう寝る事にするよ。 一緒に寝るか?」
「うん!」
ヒカリの受け答えに呼応し、クローゼットに入っている寝間着を引っ張り出すカイト。
もちろん、ヒカリの分も一緒に出す。
その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
こんな時間に誰だろうか?
使用人の誰かが、飲み物か何かを持ってきてくれたのかな?
出した寝間着を無造作に、再びクローゼットの中へと押し込み、ノックされた扉へと向かうカイト。
戸を開けると、そこには書類の山を手にした、アリアが立っていた。
「・・・あー・・持とうか?」
「カイト様お帰りになって早々、大変恐縮なのですが、お時間をいただけますか??」
アリアが思ったより、元気そうで何より・・・
書類の山のせいで表情は伺えないが、声からして体調は心配無さそうだ。
人間、健康が一番である。
うん。
「ごめんヒカリ、まだ寝れそうに無いや。」
「お兄ちゃんのうそつきー!」
ブーと、頬を膨らませて抗議の声を上げるヒカリ。
アリアが持ってきた書類の山から察するに、今日は寝れそうには無さそうだ。
カイトとアリアはそのまま、室内の机のほうへと向かって行った・・・
いつであろうが、領主のカイトには仕事がツキモノです。
アリアは寝てすら居ないのですから、カイトも頑張らなくては!!
でも世間はせっかくの正月休みを、どうかご満喫下さい。




