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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第10章・鉄道の前に
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第222話・おかえりなさい

今年も、これで終わりです。

ああ、遠くからゴーンゴーンと除夜の鐘が・・・

まだ、聞こえるわけ無いか。

「カイト殿様、お疲れ様でございます♪」


「・・・・ただいま?」


ルルアムと共に、仏像を洞窟から出来たばかりの『神社』へと運んだ俺。

『神社』に着くと、グレーツクの住民達が総出で出迎えてくれた。

もちろん俺ではなく、仏像をね。

だがそんな中で、ヒカリは笑顔をいっぱいに振りまいて、俺を出迎えてくれた。

そんな遠くへ行ったわけでも無かったが、帰ってきて出迎えてくれるものが居るのは、嬉しい限りだ。

それはさておき。

同じくお留守番をしていたダリアさんまで、笑顔をいっぱいに振りまいて、俺を出迎えてくれた。

何か悪いものでも、食ったのだろうか?

笑顔は作り物ではなく、本当に自然に出来たモノに見えた。

こんな彼女を見るのは、三年付き添って来てこれが初めてかもしれない。

おかしい。

いつもの彼女なら『お疲れ様です。』と、無表情で出迎えるはずだ。

なんだか、怖い。

何か、とんでもなく悪い事が起こる前触れのようにしか見えないのだが。


「・・・えっと、ダリアさん何か、良い事でもあった?」


直球で聞くのは怖いので、それとなくダリアさんに『笑顔の原因』を聞いてみる。

すると一転、彼女の笑顔は霧散し、表情は驚愕きょうがくのモノへと変わる。

俺は何か、ヘンなことでも言っただろうか?


「カイト殿様、まさか何も起こらなかったのですか?」


「特には・・ああそうそう、確定ではないんだけど、列車を動かすために必要な多量の魔石の目星がつきそうなんだ。」


先ほどの話を、簡潔にダリアさんに話すカイト。

仏像・・石神様に、『魔石が欲しい』と言ったら、スンナリOKしてくれたのだ。

魔石製造の当事者となっていたダリアさんにとっても、これは朗報のはずだ。


「・・・それだけですか?」


「いや、まあ、それだけと言われればそれだけだけど・・・」


嬉しくないのだろうか?

あんなに魔石製造を、嫌がっていたクセに。

ゲンキンなヒトだなあ。

あからさまに表情を暗くさせ、意気消沈するダリアさん。

背後には、『がーーーーーん』という大きなテロップが、見えているような気がした。

なにをそこまで、ガッカリしているのだろうか??


「・・カイト殿様、私、少々気分が優れないので、休んできます・・」


「いいけど、俺はもうベアルに帰るよ?」


特に返答も無く、ダリアさんはグレーツクの街へとその姿を消していった。

それを小首をかしげながら見送る、カイトとヒカリ。

彼女の質問の意図が、全く読めない。


一方単身で、グレーツクの街をさまよい始めたダリアさん。

彼女は心の中で、こんな事を考えていた。

『絶対に何か起こると考えていたのに、まさか何も起こらなかっただなんて・・・』

それはカイトを見送り、ヒカリと共に留守番した時。

彼女は彼の身にきっと、何かが起こると考えていたのだ。

今までが今までだけに、彼女はそれを予想・・いや、熱望していた。

だがそれが自分の身に起きてしまうとも限らない。

それもあって彼女は、大人しく『お留守番』を受けたのである。

自分に、その『何か』が降りかからぬために。

摩訶不思議な、特にカイトが困るような事が大好きなダリアさんは、むしろそれを待ち望んでいた。

俗に言う、『バッチコイ!!』状態だ。

自分ではなく、カイトという他人に対してのモノではあるが。

そこでまさかの、カイトには何も起こらなかったという残念な事実。

期待が大きかっただけに、その残念さもひとしおだ。

ダリアさん、メイドになってもなお、相変わらずだった。

知らぬが仏である。


「じゃあヒカリ、家に帰ろうか?」


「でも・・・・ダリアさんは、良いの?」


ヒカリが心配そうに、ダリアさんが消えていった方向を、指差す。

彼女は大丈夫であろう。

帰るときは転移の魔法を、自分で行使する事が可能だ。

身の危険ったって・・・元々ドラゴンの彼女の身に、何かが起こるとは考えにくい。

危険だとすれば、彼女ではなく『起こした方』の身の方が心配だ。

その時は、自業自得と言う事でよろしく。


「それでは皆さん、俺はこの辺りで帰ります。 また時間を見つけて来ます。」


「なんだ、もう帰るのか?? 忙しいやつだな。」


カイトの言葉に、何人かのおっさん達からブーイングが出る。

何やらこの後、神社の完成祝いを予定していたようだ。

だが俺はまだ、ベアルでしなくてはならないことが山ほどある。

この地に作る鉄鉱石運搬用の鉄道も、その一つだ。

元をたどれば、その件でここを訪れたのが、いつの間にやら神社造りへと、ジョブチェンジしてしまったのだ。

今度こそは、鉄道を造らなければならない。


『小僧、魔石はいいのか?』


「場所を探して、また頼みに来ますので。」


魔石を掘り出してもいいような、そんな場所を探さなければならない。

これも、大事な事だ。

まさかソギクの畑の横に、それを造るわけには行かないし。

場所は、アリアと協議しよう。

そのためにも、今日中にベアルへ帰りたかった。


「カイト様、今回はありがとうございました。 アリア様に『私も話をしたいと言っていた』とお伝え下さい。」


「ああ。」


そうそう、それもあったな。

アリアも会いたそうにしていたので、話はスンナリと行くであろう。

きっと、心配は要らない。

カイトとヒカリは、それだけ言い残し、そのまま転移の光に包まれ、ベアルへと戻っていった。

後に残るグレーツクの住民達はそれを見送ると、これから催される『神社完成式典』の準備へと取り掛かっていった・・・






「ただいまー。」


ガチャっと大きな扉を開け、自分の家の中へ入るカイト。

自然と、全身の体の緊張がほころぶのが分かる。

帰ってくるのは実際には半日ぶりであるが、体が違っていたためそれよりずっと、屋敷が懐かしく思えた。


「おかえりなさいませ、大公様。 ご夕食の用意は既に、整っております。」


玄関でまず、俺とヒカリを出迎えてくれたのはメイドの一人、クレアさんだった。

いつもの光景、いつものやり取り。

俺がどこかへ出かけたとき、彼女はいつも玄関で、こうして俺の帰りを待ってくれている。

彼女が居なければ玄関を開けたとき、出迎えてくれるのは恐らく空気だけだろう。

その心遣いが出来る辺り、さすがはメイドさんだと思う。

彼女は俺たちに、汗拭き用のふんわりとした、暖かい濡れタオルを渡してくれる。

体に溜まった疲れが、溶けていくようだ。


その時、廊下の向こうからパタパタとこちらへ向かってくる足音が、聞こえてくる。

タオルから顔を上げると、向こうからは赤色のドレスを身に纏った女性・・・

アリアが、こちらへ向かって来ているのが見えた。

これもおおむね、いつも繰り広げられる光景。

彼女はどんなに仕事があって疲れていても、俺が帰るとああして迎えに来てくれるのだ。


「アリア、ただい・・・・・おふっ!??」


手を上げて彼女に帰宅の挨拶をするカイト。

アリアはそれに答える事なく、彼の胸元へと飛び込んでいく。

彼女の小さな肩を抱くと、ソレは小刻みに震えているのが分かった。


「カイト様、もうどこにも・・・決してどこへも、行かないでくださいませ。」


「・・・ごめん、心配かけたね、アリア。」


胸へ飛び込んできたアリアを、静かに抱きしめ返すカイト。

傍らに居たクレアさんは気を利かし、その場から離れる。

しばしの静寂の後、アリアは彼から離れた。

その目は、涙などにより赤く、腫れ上がっている。


「カイト様、遅ばせながら、おかえりなさいませ。」


「お兄ちゃん、おかえり。」


深々とお辞儀をするアリアと、笑顔で俺の手をギュッと握るヒカリ。

待ってくれている人が居るのは、幸せだな・・・


「ただいま、皆。」


だから俺は、二人だけではなく全員に、『感謝』を伝えたい。

そしてどうか、この幸せが、いつまでも続きますように・・・




ちなみにこれは後日談なのだが、メイド仕事にいそしむダリアさんが、いつになく元気が無かった。

どうやらダリアさんは、クレアさんに怒られたようである。

俺に付き従わず、勝手にグレーツクに残った事が、クレアさんの逆鱗に触れたようだ。

彼女にしては珍しく、けっこう凹んでいたように思う。

一体彼女は、クレアさんに何をされたのだろうか?

・・・不思議だ。

いや、これは知らないほうが、幸せかもしれないな。

ノゾミも出そうと考えたのですが・・・

あいにく彼女は寝ていて、これには参加できませんでした。

後日、例に漏れず彼に突進を敢行して、アリアと似たような事はしましたが。

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