第220話・ルルアムの感謝
同時に進めている作品の早期完結のため、一旦、当該作品の更新を休止します。
休止期間は定かではありませんが、遅くとも年明けには再開の見通しです。
皆様には大変、ご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします。
現在、俺の周りには様々な問題の壁が立ちはだかっている。
その内の一つが、『ベアル=王都』間の鉄道建設である。
その中でも特に、『魔石の不足』が、目下の問題となっている状態だ。
機関車を動かすのには、多くの魔石が必要となる。
しかし魔石というのは高価で、作ろうにもその量は、限られたものとなる。
どうにかしなければ、もしレールを敷けても走らせる列車が居ない、何て事にもなりかねない。
だがコレに関しては、既にアタリをつけている。
俺は何も考えなしに、鉄道建設予定ルートを考えて、話を進めていたわけではない。
「ルルアム、おっさん達が言っていた『石神様』って言うのは、どういう神様だっけ?」
「は・・はい! 私は土地の神様であると、聞き及んでおりますが・・・」
「そっか、うんうん。」
ルルアムの返答に満足そうにうなづくカイト。
そう、あの仏像はどうやら、土地に関する神様らしいのだ。
住民たちが口をそろえて言っていることなので、まず間違いは無い。
ならばもしかしたら、問題の『魔石』を作ってくれないか・・・
そんな事を、考えているのだ。
ちなみに本当にそれが、出来るかどうかはわからない。
つまりカイトの言う『アタリづけ』は、偶像もいいところのものである。
やはりカイトの行動は概ね、考えなしのようだ。
そんな事を知る由も無く、ルルアムは彼へ、微笑を浮かべた。
「ん、ルルアム、俺の顔に何かついてる?」
顔を覗きこむように視線を向けてくるルルアムに、戸惑うカイト。
不安から、ペタペタと顔を触る。
そんな彼にさらに笑みを浮かべつつ、かぶりを振る彼女。
「いいえカイト様、私はあなた様に感謝しているのです。」
「え、感謝?」
俺は何か、彼女を喜ばせるような事をしただろうか?
う~~ん、
俺ってばそういうのには、本当に疎いからな。
他人の考えている事って、そうそう分かるものじゃないしね。
「カイト様、私の体を大切にしてくださり、誠にありがとうございました。 私は幸せ者でございます。」
「ああ、そういう事。」
屈託のない笑顔を向けてくるルルアムに、何となく彼女の言わんとしていることを理解したカイト。
一連の『入れ替わり』に責任を感じていたカイトは、せめてもの償いと、彼女の体を丁重に扱ったのだ。
簡単に言えば、傷んでいた髪や肌などの手入れをした。
彼女はそれを、喜んでいるようだ。
やはり彼女は、一人の女性なんだなーと思う。
もちろん、ルルアムの体の手入れを実際にしたのは、アリアやメイドさん達なのだが。
「この服も・・・アリア様のコーデですか?」
「よく分かったね。」
彼女がクルッと一回転すると、大きな黒いスカートがフワッと広がる。
彼女が着ているのは、動きやすく機能的な、それで居て品の高い黒を基調としたドレス。
なかなかいいチョイスだが、彼女は何を狙ってこれを選んだのだろうか?
こうして傍から見るとルルアムに、実によく似合っていると感じる。
ここへ来る前にアリアに、この服へ着替えさせられたのだ。
彼女からルルアムへの、プレゼントと考えて良いだろう。
ルルアムが嬉しそうにしてくれて、こちらも嬉しい限りだ。
「なあルルアム、頼みがあるんだけど・・・」
「は、はい! カイト様のお頼みとあらばこの私、命をも差し出します!!」
ルルアムは佇まいを正し、一転して真剣な表情を向けてくる。
だが言う事が、ちょっと大げさ過ぎる。
俺はルルアムに幸せになってもらいたいと考えている、命なんか全然いらない。
「ははは、頼みって言うのは、そんな大した事じゃないよ。 いつかでいいから、ルルアムにはアリアに、会ってもらいたいんだ。」
「あ、アリア様と・・でございますか? しかし私は・・・」
驚きと共に、困惑の表情を浮かべるルルアム。
彼女がかねてから、アリアに会いたいということは話しているのを何度かは聞いた。
しかし彼女には、懸念事項があったのだ。
『暗殺しようとした従妹に、どう顔向けしたものか』と。
怖がったり心を乱さないか、それが心配のようなのだ。
その不安は、的を得ている。
事実、入れ替わった俺がアリアの前に姿を出した途端、剣を向けられたし。
「アリアがさ、会いたいって言っているんだよ。 もちろんルルアムさえよければ、だけど・・・・」
もちろん、強制ではない。
いや、これは強制してはいけない事だ。
これは、アリアとルルアム二人だけの問題であり、俺は第三者でしかないのだから。
他人が指図して二人が会っても、きっと良い結果は生まれないから・・・
だがルルアムは、俺の予想通りの答えを返してきた。
「・・・許されるとは、考えていません。 出来たわだかりも、心の傷も治せないかもしれません。 ですが許されるならば、アリア様にお会いしたいです! 拒絶されるかもしれませんがお会いして一言、謝罪の言葉だけでも・・・!!」
「・・大丈夫。 俺がなんとかするよ。」
アリアは『会いたい』と俺に言った。
面と向かって、間違いなく。
彼女は自分の言った事は、そうそう曲げない。
きっとルルアムの話は、聞いてくれるだろうと思う。
もし万が一、前のように彼女が取り乱せば、俺が止めに入るし。
だからきっと、大丈夫さ。
アリアは、ルルアムをグレーツクの国王だと、思い込んでいます。
国王は、領地の視察などで、頻繁に動き回る事が考えられます。
他にもアリアにはある、思惑があったようで・・・
だから彼女は、『動きやすい、質素なドレス』というものをチョイスしました。
カイトはそんな事、知る由もありませんが。




