第218話・思い出
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夜もすっかり更けたベアル。
魔力灯のおかげで街はとても明るく、かなりの賑わいを見せている。
ときどき、ポーっというボルタから来た汽車の汽笛が、街に響く。
そこは三年前まで、人口が38人しか居なかった街(村とも言う)とは、とても思えない。
そんな街の中心に立地する領主宅では、連日、様々な議論がなされている。
今日もその例に漏れず。
領主様の体が変わっていようが、体が動かせなかろうが、そこは変わらない。
それを知る者は、屋敷づとめのごく、限られた者のみだが。
「ここはとりあえず、保留といたしましょう。 そうでなくては、話が進みませんわ。」
「そうだな。」
目下の議題は、『国王様からの王都へ鉄道敷け』命令。
珍しく考えもなしに話に乗っかってしまったアリアと、持ち前のバカで窮地に陥ったベアル領主、カイト。
この二人がその敷設ルートを巡り、議論を重ねていた。
さらにカイトが『魔族領の近くに鉄道を通そう』と、問題発言したこともあって、話が延びたのだ。
説得してもキリが無かったため、アリアはこれを、後で彼に諭す事とした。
問題は、他にもあるので。
「カイト様、もしこのルートで鉄道を敷くとなれば、別に許可を取り付けねばなりません。」
「・・どういうこと?」
先にも説明したように、この鉄道敷設計画は、国王様から直々に頼まれたものである。
当然、その際の諸々の許可はとうに、取り付けてあるのだ。
まだルートは、確定したわけではないが。
「違うのです。 もしこのルートで鉄道を敷くとなれば、自治領を通る事になります。 もし通すとなれば、そこの領主様に許可をもらわなければ、ならないのですよ。」
「・・・うそ。」
かぶりを振って説明するアリアに、ただ呆然とするカイト。
そう、問題は山積みなのだ。
その一つが『提示したルートが、自治領を通っている』と言う事。
ベアルもそうだが、自治領すなわち、別の国と同じようなものである。
ここに国王様の直接的な力は、及ばない。
つまり、カイトが個人的に受けた国王命令は、その地にしてみればどこ吹く風だ。
もし通すなら、その地の領主様に『許可』をもらわなければならない。
そうでなければ、ここへ鉄道を敷くことは出来ないのだ。
「ここは気難し屋で有名な、『ラウゲット・シェラリータ』が治める、自治領です。 彼は街のためにならないと判断すれば、その後、全く取り合ってはくれなくなります。 もし許可を取り付けるならば、事前に綿密な・・・」
「待ってアリア! 今、何て言った!??」
サラッとアリアが、何か重要な事なワードを口にした気がした。
幻聴かもしれないので、再度の説明を促すカイト。
「・・ですから、この地の領主様は気難し屋ですので、事前に綿密な資料の作成と、今までの鉄道輸送による実績を提示した上で・・」
「その前! 領主様の名前、何て言った!?」
「『ラウゲット・シェラリータ侯爵』ですが、カイト様は彼をご存知で?」
ご存知じゃないわけが無い。
シェラリータ。
俺がこの世界で、初めて訪れた街の名である。
四年以上前、イロイロあって俺のせいで街が廃れてしまい、その責任を取る形で魔石を掘る事を提案した。
その時会ったのが、他でもないラウゲットさんである。
まさかこの場で、その名を聞くことになろうとは、夢にも思わなかった。
というか地図を改めて見てみると、意外とここから距離が近そうだった。
「カイト、もしかしてシェラリータに行くの!? なら私も連れて行ってよ!!」
横に居るノゾミの食いつきは、思った以上だ。
生まれ故郷だからな。
俺が日本が恋しいのと、同じようなものか。
「お兄ちゃん、『しぇらりーと』って何?」
そうか、ヒカリも気になるかい?
とっても、いいとこだよ。
ヒカリも連れて行ってやるからね。
俺もとっても、ウキウキ気分だ。
あの街は、今でも大好きだ。
行けるならば、すぐに行きたい。
「カイト様、気持ちを新たにして頂けるのは嬉しい事ですが、そのような態度は困ります。 シェラリータへ行くのは、観光目的ではないのですよ??」
「ごめんなさい。」
カイトの高揚した心は、アリアの向ける冷たい視線で、一気に冷めた。
そう、これは観光ではない。
行くのは、あくまで領主様に『鉄道の敷設』の許可を頂くため。
それ以上でも、それ以下でもない。
と言うよりまず、行く事はまだ決定ではないのだから、気持ちが早すぎである。
ここへ鉄道を本当に通すのか、それを決めるのが先だ。
だがアリアも、カイトのペースに、徐々に巻き込まれていく。
「シェラリータを通すルートで通すとして・・・こうなりますと、かなりの量の魔石が必要となりますね・・・カイト様、聞いておられますか?」
「え、ああうん、聞いてる聞いてる!」
次なるアリアの懸念は、『魔石』のよう。
もし鉄道が長くなれば、動力たる魔石が必然的に、多量に必要となってくる。
しかし魔石は、かなり高価な代物だ。
現状でも調達に大変に苦慮しているのに、これ以上どうしようというのか。
分かっている。
分かっているが、思いがけないシェラリータの話に、笑みがとめどなく零れ落ちる。
カイトの締まらない顔は、いつまでも続くのだった・・・・
カイト達の地図は、彼らが魔法などで造ったものなので、地名などが記されていません。
それでアリアの説明があるまで、彼らは気がつかなかったのです。
ようするに、アリアは知っていたのですが。




