第217話・摩訶不思議
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仏像との戦いで、半月ほど前にルルアムと入れ替わったカイト。
その弊害で彼は今、体内魔力が不安定となっており、体を思うように動かせなくなっている。
その介護(?)のため、カイトの周りにはノゾミ、ヒカリ、アリアに緊急時のため控えているメイドさんなど、多くの女性に囲まれていた。
それもかなり、キレイどころの。
この先彼に、暗殺の手が及ばぬかが、実に心配である。
「カイト様、お仕事の時間でございます。」
「え・・・今?」
アリアの突然の言葉に、驚きを隠せないカイト。
俺は今、前述のとおり体をうまく動かせない。
仕事と言われても、出来る事は無いに等しいのだが。
そんな事を考えていると、ベッドから腰を上げただけの状態の彼の前に、アリアは一枚の地図を広げた。
この近辺の地図のようだ。
「今は一刻の猶予もございません。 そのままで結構ですので、ご一緒に考えてはもらえないでしょうか?」
「ああ、そういう事。」
「ん、お兄ちゃん何コレ?」
「面白そう、私も混ぜて!!」
俺達二人の会話に、物珍しそうにノゾミとヒカリが食らいついてくる。
一気にベッドが狭くなり、転げ落ちそうになるのを必死で、踏みとどまるカイト。
アリアはどうやら『王都への鉄道建設』に関する事を、話したいようだった。
これならば、カイトが体を動かせなくても、問題は無い。
敏腕な彼女も、鉄道は専門外だったので、よくカイトにこうして、相談に来るのだ。
立場がどうも、逆なような気がしてならない箇所が多く見受けられるが、今さら気にする事でもなかろう。
「ベアル領と王都の間に鉄道か・・・嬉しいけど難しそうだよね。」
「申し訳ございませんカイト様、あの時、私がもう少し知識を有していれば・・・」
「俺が悪いんだから、アリアは気にする事ないよ。」
アリアが気にしているのは、国王様からの『鉄道を作ってほしい』という言葉に、俺に乗るよう強く推した事。
彼女は事情を何も知らない自分のせいで、このような事態になってしまったのだと、とても気にしているようだった。
たぶん、彼女が推していなくても俺は、独断で二つ返事をしていたろうから、この件はアリアにはそもそもの話、まったく関係が無い。
・・・・と、彼女に言っても何も変わらないのだろうな。
「これはこの領地、全体の問題だよ。 王様たっての願いでもあるんだし、頑張らなくちゃ。」
「・・・そうですわね。」
え・・いま、アリアが笑わなかった?
俺は今、なにかヤバい地雷でも踏んだだろうか?
アリアが笑う場合、それは良い事よりも悪い事によるものがはるかに多い。
主に俺がバカをやったり、ポカをしたり、何度か死んだり。
彼女は怒ると、顔が引きつって微笑みを浮かべたように見えるのだ。
それはまさに、『修羅の微笑』
冷や汗が、全身を流れるカイト。
「お兄ちゃん、顔色悪いよ?」
「大丈夫!? 死なない!??」
「だいじょうぶ大丈夫! ほら元気!!」
ノゾミとヒカリが、俺の顔を覗き込んで来る。
心境に乗じて、顔色が悪くなってしまっていたようだ。
あとで、汗も拭いておこう。
ベッドの上でガッツポーズを取り、己の健康をアピールするド級に失礼なカイト。
当然アリアは、そんなつもりで彼に笑顔を向けたわけではない。
彼の心中を知ったら、彼女は怒るか落ち込むか、する事だろう。
アリアが感づかず、命拾いしたようだ。
お互いに。
「さてアリア、話を続けようか?」
「・・・大丈夫でございますか? お体の調子が優れないのであれば、明日でも・・・」
「大丈夫だよ、ちょっと悪寒が・・ゲフンゲフン! 何でもない。」
「?」
危うく、自爆するところだった。
まさに、危機一髪である。
それとヒカリ、俺は別に風邪をひいたわけでは無いから、タオルを額にのせようとしてくれなくて平気だよ。
ノゾミも悲壮な表情を浮かべないで、俺は死なないから。
「鉄道は山を登れないのでしたね? それですと谷を通すより他に手は・・・」
「ああ、うん。 それなんだけど考えてはみたんだけどさ、どうしてもカーブがきつくなったりして、鉄道が曲がれそうに無いんだ。」
川沿いにのみ鉄道を通そうとすると、どうしてもカーブがきつくなる傾向になりがちだ。
カーブがきついと、鉄道は速度が出せなくなる。
ひどい場合だと、曲がる事すらできない。
そもそも山脈の川沿いは崖のような場所が多く、レールを敷けるようなルートを見出すのは、容易な事ではないだろう。
そもそも大雨などで川が増水した際、そんなところに鉄道を敷いていては、その都度、修復しなければならなくなる恐れがある。
それでは、キリが無い。
そこで俺は考えた。
『何も、バルアを通るルートでなくても良いんじゃなかろうか』と。
「ここ、ベアル領の北の山脈は、比較的だけど傾斜も緩やかそうな場所があるよね。 ここを通したらと思って。」
俺が指差したのは、ビルバス山脈の中ほど。
この地から見て、北に位置する場所だ。
地図を見ると、どうも傾斜が緩やかな部分があるように、見受けられるのだ。
ここならそのまま通しても、たぶん鉄道が登れる。
カイトは、そう踏んだのだった。
だが根本的な問題が、そこにはあった。
「ここは・・・カイト様、この近辺は魔王が支配する、魔族領ですわ。 もし少しでも侵せば・・・」
現在、この世界には魔族とそれ以外が、いがみあって存在している。
少し前の天災で魔族領で甚大な被害があったらしく、今は一方的な『休戦協定』でにわか平和が続いている状態だ。
その中に、『不可侵』の文言もある。
もし鉄道敷設の最中に、少しでも領地を侵せば、この平和の均衡は、すぐにでも崩れ去るだろう。
もしそうなれば、魔族領にほど近いベアル領も、タダではすまない。
アリアは、それを大いに懸念材料とした。
「大丈夫だよアリア。 1ミリだって侵したりはしないよ! 俺とダリアさんの測量技術を、信じなさい!!」
「・・・・・。」
胸を張るカイトに、何も言い返せなくなるアリア。
正直、不安でしかないのだが、ここで代案などを持ち合わせていない自分には、何を言っても説得力が無い。
彼に反論など、出来ようはずが無かった。
こうしてアリアの懸念は、この世界の常識をまるで知らないバカイトによって、払拭されてしまった。
世界の運命は、一人の領主様に委ねられる形となる。
なぜ、鉄道を建設するだけだと言うのに、こんな身の毛もよだつような事になるのか。
実に不思議でならない。
問題だらけです。
なかなか話も進みません・・・
イロイロ起こり過ぎて。




