第216話・ありがとう
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「お兄ちゃん、あーん。」
「あ、あーん・・・」
地球に居た頃、妄想好きの友達が夢見ていたシチュエーション。
カイトは今、まさにそれをされていた。
美女に食事を「あーん」である。
まあ、してくれているのは見た目幼女の、ヒカリだけどね。
あと何十年かすれば、彼女も大きくなるのだろうか?
「お兄ちゃん、おいしい?」
「ああ、うまい。」
ぜいたくカイトは、口をもごもごさせながら笑顔を作る。
それに満足したように、同じく彼へ笑顔を返すヒカリ。
彼が倒れて、約数時間。
魔力不安定で体の制御が利かないという事態に陥ったカイトは、ベッドにルルアムのその体を横たえていた。
体をうまく動かせない彼は、食事を取ることも難しかった。
そこで、冒頭の『あーん』である。
ここまで来るとカイトが、誰かに刺されはしまいか、心配なレベルだ。
「あぅぐ・・・!」
「飲み物が欲しいの? 私が取るよ、はい。」
「ああ、ありがとうヒカリ。」
コップに入った水を、ヒカリに飲ませてもらう。
俺は今、コップ一杯の水を飲むのすら難儀する。
体を動かそうとすると、ビリッと体に電撃が走ったような感じになり、それ以上動かせなくなる。
一連の『入れ替わり』により、こうなってしまったと言うのはダリアさんの弁だ。
そのダリアさんには、今はグレーツクへ行ってもらっている。
俺がこれなら、同じ境遇のルルアムも・・・との懸念から、様子を見に行ってもらったのだ。
・・・杞憂に終ればいいのだが。
「お兄ちゃん気分が悪いの? 気絶させてあげようか??」
「・・・いや、大丈夫だ。 特に気分は悪くないよ。」
心配してくれるのはありがたいが、『気絶』はよろしくない。
ヒカリの言う『気絶をさせるための行為』は、今の体で受けると即死必須である。
ここではやんわり断ることが、大事である。
彼女の優しい心を踏みにじらぬために、何よりこの境遇で、間違えて死なないために。
その時、外から大きな音が聞こえはじめた。
ドッドドドド!!!!
「じ、地震か!??」
突如として揺れ出した屋敷。
地響きのような音は徐々に近づき、揺れも大きくなる。
不安そうな表情を浮かべるヒカリ。
「お兄ちゃん・・・!」
「ヒカリ、危険だこっちに来い!!」
とっさにベッドの中へ、彼女を引きずりいれるカイト。
そうして、やってくるであろう『本震』に、身構えていると・・・・
ドカーーーーーーーーーーーン!!!
「「!!????」」
廊下へとつながる木製の大きな扉が吹き飛び、粉々になる。
それと共に、先ほどまでの地響きや地面の揺れは、鳴りを潜める。
地震では、無かったらしい。
粉々になったドアの向こうは廊下の石材が削れたのだろうか、土煙が舞う。
その向こう側には、はっきりと人影が見えた。
そこに姿を現したのは・・・
「カイトが死んじゃったって本当!? うそでしょ、ねえ???」
「の、ノゾミ!?」
「ノゾミおねえちゃん・・・」
嗚咽混じりに、部屋へ突入してきたのは他でもない、ノゾミだった。
俺が倒れたと誰かに聞いたのを曲解して、俺が死んだとでも思ったのだろう。
いつになく真剣な表情と、大粒の涙を流すその姿が、なんとも切羽詰っている。
・・ま、俺はこうして、生きているわけだが。
彼女もすぐにそれは分かったようで、呆けた表情をこちらへ向けてくる。
「あれ・・・カイトが・・・生きてた・・・・うわああああああああああああああ!!!」
「ま、待てノゾミ! その勢いで来られたら・・ぎゃああああああああああ!!!!」
「おにいちゃ・・」
ドガーーーーーーーーーーーン!!!!!
うれし涙を流しながら目一杯の笑顔混じりに、全力で突っ込んできたノゾミの勢いそのままに、カイトはベッドごと壁へと吹き飛ばされた。
それをかばおうとしたヒカリもしかり・・・
彼らがどうなったかは、予想に難くは無いだろう。
◇◇◇
「ノゾミ、カイト様は今、お疲れなのです。 騒がしくしてはなりません。」
「うん・・カイト、ごめんね? ヒカリちゃんも。」
「・・・・・・いや、大事にならなくて何よりだよ。」
「私も大丈夫だよ?」
突如響いた屋敷を揺らした大きな音に、現場であるカイトの私室へと向かったアリア。
最初に彼女の目に飛び込んできたのは、派手に破壊された部屋の姿だった。
その後すぐ、犯人であるノゾミは、叱責を受けた。
ちなみに当のカイトは、気絶はしたものの、体のほうは無傷だった。
ヒカリがとっさにかばってくれたおかげで、だいぶ衝撃が緩和されたらしい。
もしあのまま、ノゾミの突撃を受けていたら今頃、俺は駄女神さまの下にあっただろう。
カイト、相変わらず悪運は強かった。
「カイトが死んだって聞いて、飛んできたの。 良かった、死んでなくて。」
危なく、死に掛けたけどね。
アリアはため息混じりに、ノゾミへ質問をする。
「・・・それは誰からの情報なんですの?」
「ん、ダリアさん。」
アリアの質問に、あっけからんと答えるノゾミ。
それを聞き、額に手をのせ、大きくため息をつくアリア。
きっと彼女の事だ。
『カイト殿様が、ぶっ倒れました』とだけ、ノゾミに言ったのだろう。
たぶんわざと。
理由は、面白い事になりそうだから。
こういうジョークは、命に関わるので本当に、止めてほしい。
・・言ってどうにかなるとは、到底思えないけど。
「お兄ちゃん、かばえきれなくてゴメンね? 怪我はない??」
「ああ、大丈夫だよ。 それにヒカリは、十分俺をかばってくれてたさ。」
「カイト、私も傍に居ていい!? 体が動かせないんでしょ??」
「お、おう。」
俺の心配をしてくれるヒカリ。
ヒカリだって、そこそこ痛かったろうに。
そんな彼女に張り合うようにノゾミが、ズイッと体をこちらへ寄せてきた。
なんだか微笑ましい光景だ。
「カイト様、あなたをお一人にしてはならないと、よく分かりましたわ。 私もお傍におります。 よろしいですね?」
「お、おう?」
あれ、もしかしてアリアも張り合っている?
いやさすがに、それはないか。
俺が変なことをしないか、監視につくという事だろう。
それでもいい。
なんだか最近、悪い事ばかりだったけど、こうして優しくされると、とても幸せな気持ちになる。
この場を借りて、『ありがとう』と言いたい。
なんだか恥ずかしいので、ここだけの話にはなるけど。
その後、ダリアさんもグレーツクから帰ってきたので、彼女もこの列に加わった。
こちらは探究心で、だけどね。
報告ではルルアムはまだ、大丈夫なようだった。
だが大事をとって、休ませる事になったらしい。
おっさん達の取り計らいだろうな。
心配が杞憂に終ったようで、よかった、よかった。
話の進みが、ヤバイほど遅いです。
溜まってる分を書くだけで、一体どれだけの期間が掛かる事やら・・・




