第215話・カイトが倒れた
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「カイト様、朝から騒ぎなどを起こさないでくださいませ!!」
「ご、ゴメンゴメン!? 急に体の自由が利かなくなったんだよ!!?」
今はようやく、ベアルの街に陽が昇ったという頃。
私の前でルルアム・・ではなくカイト様が、ベッドにその身を横たえております。
つい先ほど朝の支度をしている、私の部屋に屋敷のメイドが飛び込んできました。
彼女は部屋へ入るなり私に、『カイト様が倒れた』と言うのです。
聞いたときは、心臓が飛び上がるかと思いましたよ。
ガラにも無く、屋敷の中を彼の部屋へ向け、走ってしまいました。
そして部屋に入れば、彼はこの調子です。
安堵と共に、彼には怒りを覚えました。
なんて人騒がせな人ですか!
「クレアから話は聞きましたわ。 お仕事で徹夜をなさっていたようですね? あれほどご無理をしてはならないと・・・!」
「お姉ちゃん、落ち着いて!」
「ヒカリは黙っていなさい! 私は今、カイト様にお話があるのです!!」
「あう・・・・」
横から会話に入ろうとしてきたヒカリを、この時ばかりははねつけます。
カイト様がルルアムと入れ替わってしまって半月と少し。
いきなりの過酷な環境に順応できず、ルルアムの体が悲鳴を上げたのでしょう。
ルルアムは、貴族の代表格と言えるほど怠惰で優雅な生活を送っていましたからね。
いくら彼女が別人のようになったとはいえ、この習慣が奴隷時代に治ったとも思えません。
彼女の性格を鑑みれば、なおさら・・
こんな事を急にすれば、こうなる事は予想に難くはありません。
お元気というならば好都合。
このヒトには、みっちりお説教です!!
「カイト様、ルルアムは元々、朝は10時ごろに起きて・・・」
「待って、違うよアリア! これは『疲労』から来るものじゃないんだ!!」
「はい!??」
カイト様が、おかしな事を言ってきました。
ではどうして、彼は倒れたと言うのでしょう。
あなたは、病気にでも掛かったのですか?
一休みをしてこのようにお元気になったくせに。
言い訳にしては苦し過ぎですわよ、カイト様?
私は怒っているのです、彼にはこの上ないほど冷たい視線を送りつけて差し上げます。
「あう、アリア・・・・」
額から汗を流したまま、彼がその動きを止めます。
もう、黙って下さい。
そして私を始めとした者たちが感じた不安を、その身をもって痛感して下さい。
すると彼と私の間に、ダリアが割って入ってきました。
「奥様、僭越ながらこの事態の説明を、私が行ってもよろしいでしょうか?」
「この事態? あなたもこれは、『疲労』とは違う原因があるとでも?」
私の疑問に、ダリアは一度、深くうなづきました。
他の者たちはヒカリ含め、既に聞かされているようで、同じく顔を縦に振っています。
・・・いいでしょう。
その『原因』とやらを聞いてからのお説教でも、遅くはありませんわ。
カイト様、安堵のため息を吐かれるのは、まだ早いですわよ?
「そもそもカイト殿様が入れ替わったのは、魔力が混ざってしまったからでございます。」
「・・・それならば聞き及んでおりますわ。 仏像にかけられた呪いが、ルルアムと同時に掛かってしまったと・・・」
魔力は、命の源とも言われています。
カイト様とルルアムのそれが一時的に混ざる事により、今回のような事が起きたのだと聞きました。
なんという、運の悪さでしょうとしか、もはや言いようがありません。
それと今回の事と、どのような関係があるのでしょうか?
「さすがは奥様でございます。 その魔力の絡まりが、どうやら解けかけているようなのです。 ご心配なさらずとも、死ぬような事にはなりません。」
解ける?
カイト様とルルアムの魔力の絡まりが・・ですよね?
つまり、カイト様の入れ替わりが、元に戻ると言う事でしょうか。
ですが前に聞いた話では、ソレは今から半月ほど先のはずでは・・・
「ご明察のとおりでございます。 呪いが解けるのは、あと半月ほどは待たねばならないでしょう。」
「なら・・・・」
「ですが、魔力のほころびは、少しづつ治っていくものです。 ある日突然に治るようなものではございません。」
「・・・つまり、カイト様は今、魔力が不安定であると?」
私の質問に、首を縦に振るダリア。
なるほど、それならばカイト様がお倒れになったのも、うなずけます。
命の源である魔力が不安定になり、体の制御が利きにくくなっているらしいですね。
分かりにくい話ではありますが、現実で起こってる事態ですので、当事者の一人として、妻として理解して差し上げなければなりません。
・・・それにしても、何て難しい話でしょうか。
後で状況を整理しなければ、混乱してしまいそうです・・・
「分かりましたわ。 カイト様、先ほどはあなた様の状況を省みずに、大変申し訳ございませんでした。」
「・・・・い、いや。 こちらこそ心配かけてごめん。」
ともあれ彼が元気で、良かったですわ。
一時はこの先、どうなってしまうのかと未来が見通せなくなりましたから。
しかしこれはこれで、大変に深刻な事態です。
体の自由が利かないとなれば、それこそ下手をすれば、食事の際のフォークを握る事すらできないと言う事も、あり得るのですから。
「カイト様、それならば仕方がありません。 元の体にお戻りになるまで、ゆっくり静養なさってくださいませ。 お仕事などのほうは、こちらでやっておきます。」
「え・・・・、でも俺には国王様からの鉄道計画のルートを・・・」
「ゆっくり、静養なさってくださいませ。」
「・・・・・・・・・・・ハイ。」
体の自由が利かないということは、歩いている最中に転んでしまう事もあるわけです。
ここで彼に、大怪我などをされてはたまったものではありませんからね。
階段などでそうなっては、もはや目も当てられません。
部屋にいる者たちも同じ事を考えていたようで、彼へ目配せしています。
『理解しろ』と。
目は口以上にモノ申すとは、言ったものですわね。
さすがの彼も、これは堪えたようですわ。
ところでダリアさんは、こうして見ていると、この国の賢者並みの知識を有しているようですが・・・
一体彼女は、何者なのでしょうか?
失礼ながら、とてもカイト様の従姉妹とは思えないのですが。
魔力は、命をつなぐヒモのようなものであるという知識と、命の源であるという知識。
人間の常識と、ドラゴンさんの知識では、若干の違いがあるようです。
ちなみに正しいのは、ドラゴン知識のほうであります。




